ハワイ現地発

【ハワイ現地発】古きよきハワイに触れられる老舗行列店

 ハワイの夏の風物詩といえば盆ダンス。日本人移民がハワイに持ち込んだ文化である盆踊りが「盆ダンス」として根付き、毎年6月から9月にかけて毎週末にどこかの寺院で開催される。日系人を中心としたローカルたちは浴衣を着て行き、櫓を囲んで輪になって踊るのだ。

 食文化も同様に、日系人が始めた「おかずや」があったり、料亭があったり、各国からの移民による店や、古来ハワイアンの食文化を継承する店もある。共通しているのはどの店も地元に愛されていること。今回は、ハワイのなかで歴史を紡いできた人気店、行列店を3店舗紹介したい。

 日系人の長い歴史を持つハワイでは、初めて訪れても懐かしい気持ちになり、ホッとする場所があちらこちらにある。

タニオカズ・シーフード&ケータリング

ローカルの「大好き」を選んでみた

 1978年に日系人のタニオカ夫妻が始めた「タニオカズ・シーフード&ケータリング」。ポケをはじめとしてシーフードや日系人好みのハワイらしい惣菜を毎日手作りするこの店は、今や150人余りの従業員が働く大人気店に成長を遂げた。

 オアフ島西部のワイパフエリアに店を構えるが、2019年にはアラモアナセンターにポップアップストアを開店。3か月限定だったが、日常的にワイパフまでは行けないホノルル市民や観光客で行列が絶えなかった。

 ワイキキからワイパフのタニオカズまではクルマで約40分。地元に根差した店の味と雰囲気をたっぷり味わうなら、足を延ばす価値はあると思う。ただし行列覚悟で!

 この日は9時の開店の15分前に到着したが、すでに店前には待っている人がいた。

9時の開店を待つ地元の人たち。開店直前には行列となった

 開店前にはさらに人の数は増えて、店が開くとあっという間に惣菜を注文する列ができた。客も多いが店員も多い。手際よく注文をさばいていた。

お気に入りの惣菜を注文する常連客

 名物はポケなのだが、ここでしか食べられないオススメの一つは、地元の人の好物で「コーン寿司」の愛称を持つ「ベティおばあちゃんのいなり寿司」。大きな油揚げを甘辛く煮てご飯をたっぷり詰めた三角のいなり寿司だ。名前の由来は、創業者のメルの母親ベティおばあちゃん秘伝の味付けだから。それは懐かしくホッとする味わいで、一度食べると恋しくなる。そんな理由からだろう。パック詰めが飛ぶように売れていた。

ベティおばあちゃんのいなり寿司の詰め合わせはどっしりとした重さ
一つずつ買うこともできる。一つ食べればお腹いっぱいに(2.25ドル)

 アロハ弁当やタニオカズ弁当など弁当系も約10ドルから揃うほか、量り売りで注文する惣菜もショーケースに並ぶ。どれも毎日丁寧に手作りして店の味を守っているのだという。

ポケ以外の惣菜も量り売りで販売。少しずついろいろな味を楽しめる
アヒパティやクリスピーアヒロールなどアヒ(マグロ)を使った自家製惣菜も豊富

 このほか、巨大なフライドチキンやモチコチキン、オキナワンスイートポテトなど多種多様な具材が入った天ぷら、ジンジャーネギとしょうゆあんがとろりとかかったグリルド豆腐、タマネギと青ネギとゴマを和えた甘辛豆腐ポケなども人気メニュー。地元の常連客に愛されてきたこれらのメニューは、食材は日本人になじみ深いが、ローカル好みの甘辛い味付けや、一回り(二回り?)大きなサイズから、ハワイの食文化を感じる。

グリルド豆腐(1つ2.25ドル)、焼き豆腐ポケ(7.95ドル/1b)、いなり寿司(1つ2.25ドル)
店内にはTシャツや帽子などのオリジナルグッズも並ぶ。レアなお土産になるはず!

 少しずつ買ってお皿に並べると、ハワイのローカルの味が満載の一皿になる。この店は、ケータリングの御用達店としても知られていて、ローカルたちは家族やコミュニティのイベントでこれらの惣菜を大量に注文する。

 どうしてこの店がここまで愛されるのかといえば、新鮮なハワイ産の魚介とシンプルで甘辛いローカルスタイルのおかずを毎日手作りしているのはもちろん、ものすごく忙しいなかでもスタッフが親切であることも挙げられるだろう。そこには、地元コミュニティへの感謝を大事にしているという気持ちが表われている。

フライドチキン、エビフライ、アヒパテ、卵焼きなどボリューム満点

ワイアホレ・ポイ・ファクトリー

ワイキキからクルマで約40分にあるが行く価値あり!

 コロナ禍でハワイに観光客がほぼいなかったときですら大行列で、何度も断念したこの店についに行ってきた。店の歴史は100年前のポイ工場から始まったという老舗店。ポイとはハワイ伝統の主食で、蒸したタロイモをすりつぶして発酵させたもの。ねっとりした食感でほんのりイモの甘みを感じるが、ハワイの人はこれをご飯のようにおかずと一緒に食べる。この店は、手作りのポイなどのハワイ伝統食をプレートランチとして提供している。

注文のために行列で待つ人たち。裏にお土産店もオープンした
店の奥に設けられたテーブル席で食べることができる

 ワイキキを拠点にするとちょうど山を越えた反対側、クアロアランチの少し手前にあり、渋滞がなければクルマで約40分のところに本店がある。主要道路側の窓口で注文し、その横で受け取る。

 メニューは、豚肉と白身魚をタロの葉で包んで蒸し焼きにしたラウラウ、豚をホロホロになるまでオーブンで蒸し焼きにするカルーアピッグ、太い春雨のようなライスヌードルが入ったチキンロングライス(スープ)、ハワイ式シチューのルアウ(濃い緑色に驚くが美味!)などの丼式の単品(ライス付きで11.25ドル)のほか、プレートランチ(16ドル)、コンボ(19.25ドル)、カナカ・ヌイ(28.50ドル)などのメニューがある。メニューの違いは、選ぶおかずの数。

イラスト付きで分かりやすいメニュー。並んでいるときにこれを見て決めよう。※最近、このメニュー版の価格より値上げされた

 せっかくここまで来たのだから、全部食べたいので、店前にある席で軽くランチとして一品。夕飯用にはおかず全部が入ったカナカ・ヌイを注文した。

上はチキンロングライス。下は深みのあるまろやかな味わいのイカのルアウ(シチュー)。各11.25ドル
手前のチキンロングライスはショウガがきいたあっさりしたスープでハワイの食卓でよく作られている

 単品以外は、ロミサーモンとハウピアカップが含まれている。どちらもハワイの伝統食で、ロミサーモンは、塩漬けサーモン、トマト、玉ねぎ、ネギを合わせたサイドディッシュ、ハウピアはココナツミルクで作るデザート。ポイかご飯を選べるが、もちろんポイをチョイス。ポイは店によって味が違い、発酵が進んだ酸味の強いものからまろやかなものまである。ここははまろやかで食べやすい。おかずにも合わせやすい。カナカ・ヌイは28.50ドルだがたっぷり2人分なのでコスパはかなりいい。

ラウラウ、カルーアピッグ、チキンロングライス、ルアウ、ロミサーモン、ハウピア、ポイのすべてが詰まったカナカ・ヌイ(28.50ドル)

 やや味は濃いめだが、ハワイ独特の伝統の味を堪能できる人気店。カネオヘという街にあるショッピングモール「ウィンドワードモール」内のフードコートに2号店もあり、趣には欠けるがこちらの方が行きやすい。

夏の家

揚げ出しチキン豆腐やサーモン豆腐サラダなどハワイで育まれた日本料理の数々

 続いて、1921年創業の「夏の家」。ダイヤモンドヘッドから真珠湾までを望む高台に建つこの家は、戦前から日系人たちの拠り所となっていた。真珠湾攻撃に際し、ここから様子を伺うのにも活用されていたという話も有名だ。

昭和の日本にタイムスリップしたかのような夏の家の室内
米兵士の墓パンチボウルから真珠湾までを見渡せる

 ハワイと日本の歴史とともにあった夏の家を、3代目のローレンス・フジワラ・ジュニアさんが引き継いだのは1996年。木造2階の建て物を、仲間や地域の皆の協力のもとに、塗り替え、修理したという。

地域コミュニティで塗り替えた夏の家

 3世代にわたって通う家族をはじめとする常連たちの好物は、甘辛い味付けの揚げ出し豆腐に鶏肉を加えた揚げ出しチキン豆腐、クレソンやトマトなど野菜がたっぷり入ったサーモン豆腐サラダなどのハワイならではの日系人の料理。現在は宴会やケータリングのみで、ローカルたちが結婚式や卒業式に親族や親しい人とともに集まる店として定着しているが、個人で訪れるチャンスもある。その場合は寿司バーへ。

寿司バーで注文できる揚げ出し豆腐
豆腐パティ(コロッケ)などが詰まった弁当(19ドル)

 寿司バーは、水曜から土曜まで16時から22時限定で、日本人の大将が握るすしを満喫することができるほか、一品料理として日系人の味も味わえる。好きな飲み物を持ち込めるハワイスタイルBYOB。人気なので予約をすると安心だ。

大澤陽子

ハワイで発行している生活情報誌「ライトハウスハワイ」編集長。日本ではラジオアナウンサー、ライターとエディターとして活動。2012年にハワイへ移住。新聞やハワイのガイド本などの編集に携わる。ハワイのビーチとビールをこよなく愛している。