ハワイ現地発
【ハワイ現地発】今、“おまかせ”がホットなハワイで2月2日にオープンする注目の寿司店
2024年1月30日 12:00
パンデミック後のハワイは、続々と新たな飲食店がオープンしていることは何度もご紹介しているが、なかでも主流となっているスタイルの一つが「おまかせ」。これぞその店のセンスが試されるわけで、ここに抜群の個性が光るとファンができる。この2月2日に新たな寿司屋「すし魚神(ぎょしん)」がオープンすると聞き、少し前にお邪魔することができた。
場所はアラモアナセンターの向かいでピイコイ通り沿いにある。カウンター7席のみ。実は偶然この寿司職人である辻大志(ひろし)さんを3年前にインタビューをしたことがある。当時ハワイの人気和食店で働いていた彼は石川県出身で、地元を中心に日本で20年余り腕を振るっていた料理人。夢は「ハワイで自分の店を持つこと」と語ってくれたが、このたびついに夢がかなったことになる。
「魚神」という店名の意味を尋ねると、石川県ではかつてノドグロのことを「魚神」と呼んでいたのだそう。このあとにノドグロを味わうことができたが、それ以外にも楽しい食体験が待っていた。
メニューは、前菜、焼き物、寿司、汁物からなる16品で150ドルのおまかせコースのみ。多くを彼の地元石川県をはじめ、日本から取り寄せるほか、ハワイ島コナ、カリフォルニア、ワシントンから空輸するなど、日本の技術と日米の新鮮な食材を織り交ぜた味を堪能できる。
それでは食の旅へ……。
一品目は「もずく酢」。石川県の岩もずくにミル貝と鮮やかな緑色のオクラ、生姜をトッピング。この日一緒に訪れたローカルたちは「もずくって何?」と興味津々。このもずくは食感がシャキシャキしていて、まろやかな酸味と出汁をきかせた味付けに、全員が笑顔に。2品目は「魚神スタイル最中」。お寿司屋さんで「モナカ?」という我々全員をノックアウトしたのがコレ。香ばしく焼いた最中に、しそをまぶしたトロたく、ウニ、キャビアをトッピング。サクッと、まったりとろ~り、コリコリという食感と、芳しい香り、磯の甘みと旨みと深みが押し寄せる逸品だった。
ここからは握りが登場。ササニシキとななつぼしをブレンドしたシャリは、赤酢など3種の酢で酢飯にしているという。新鮮なヒラメの上に塩漬けにした桜の花びら、そして梅・貝・カツオと酒で作ったジュレを乗せた握りは「春をイメージした」といい、まるで桜もちのような春らしい香りと味を楽しめた。続いて中トロの握りに、煮切りしょうゆをさっと塗って寿司下駄の上に。そうそう、この寿司屋にはカウンターにしょうゆとワサビが置かれていない。すべて絶妙のバランスで味付けをしたうえで出されるのでそのまま頬張るだけ。
中トロに続いて登場したのは大トロ。サッと炙った大トロを漬けにして、さらにウニを丁寧に乗せて……。炙って漬けにすることで香りがたった大トロはウニと一緒に口のなかでとろけた。続く6品目は白子。肉厚で新鮮な生わかめになめらかな白子、もみじおろしとゆず皮をほんの少しすりおろして乗せ、まろやかなポン酢でいただいた。
8品目で登場したのは店名でもある「ノドグロ」。炙って脂が十分に引き出されたノドグロの上に煮切りしょうゆをサッと塗った握りで、魚の旨みが喉をするりと通っていった。次は、牡蠣。出汁で柔らかく煮た牡蠣を丁寧に半分に切って、シャリの上に重ね、佃煮風にしょうゆで煮た有明のりをトッピング。こんな味わいで牡蠣を堪能できるなんて新鮮だった。
全員が釘付けになったのが大皿に美しく盛られたカニ。旬を迎えた石川県のズワイガニだ。丼をイメージしたといい、丸く握られたシャリにカニ味噌、カニの身、その上からこぼれんばかりのいくらを目の前でポロポロと乗せて、贅沢過ぎる丼が完成した。
11品目はブリと大根というなじみ深い組み合わせだが、ブリとシャリをほんのり甘くしょうゆで味付けした薄切り大根で包み、3滴ほどゆず味噌を垂らした特製握り。続くは、ハワイ島コナ産アワビをスチームして肝ソースと一緒に。シンプルだからこそ新鮮な食材を丁寧に……を感じさせてくれた。
シマアジの握りはそっとシソを敷いて、しょうゆをサッと。静岡の本わさびが気品高くきいて、「アジってこんな美味しかった?」と思わずロコたちと顔を見合わせた。
この辺りで心もお腹もかなり満たされてきたタイミングで登場したのがお吸い物。キンキ、ノドグロ、ズワイガニ、ミル貝で出汁をとったといい、100%旨みだけの汁もので、ゆずがそっと香っていた。
続いて、個人的に大好物のアナゴの手巻き寿司が登場。有明のりにご飯、かつらむき後に細切りにしたキュウリ、アナゴ、甘辛だれとともに。ほどよくふっくらほどよく身が締まった穴子とシャキッとキュウリ。その相性が絶妙だった。クライマックスで登場したのは、平貝の握りにシソガーリックバターを乗せ、バーナーで炙ってバターを溶かした一品。そして有終の美を飾ったのは、チーズスフレ卵焼き。品よくチーズを感じデザートのように楽しめて、見事な締めくくりだった。
故郷を想う気持ちから、陶器の皿やガラスの箸置きは金沢から取り寄せたものを使用して、20年余りにわたる和食の匠の技術とアイデアを、楽しそうに披露してくれた辻さん。食感と味わいの計算し尽くされたバランスのなかで、素材の味を繊細に味わうことができるおまかせコースはあっぱれだった。夢をかなえ、才能を思う存分、寿司に込めていることが伝わり、なんとも温かく最高に美味しい体験に、全員が笑顔になっていた。