井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

車内のノートPC利用、列車ごとの設備や配慮のあれこれ

JR東海のHC85系普通車で。この車両はN700Sの普通車と同様、肘掛けの先端に電源コンセントが組み込まれているので、ケーブルのハンドリングが楽

 ノートPCが出現してから久しいが、携行できるコンピュータがあるなら移動の車中でも使えるではないか、となるのは当然の展開。もっとも近年では、スマートフォンやタブレットの方が圧倒的に多くなっているが。

のぞき見に注意

 ただし、列車の車中はレッキとした「公共空間」であるから、誰が何を見ているか分からない。よく、新幹線の車中で仕事の資料を見ていたり、社内業務システムにアクセスしたりしている人を見かけるが、さすがにそれはコンプライアンスや保全の観点からいってどうなんだ、と思わざるを得ない。

 かくいう筆者も車内で原稿書きをすることはよくあるが、それと社内業務システムでは深刻さの度合いが違う。公刊資料を確認するなど、外部の第三者の目に触れてもたいした影響がない内容にとどめたいものである。

 どうしてもということであれば、東海道・山陽新幹線の「S Work Pシート」みたいな設備を利用するのも手だ。3人掛けシートのA席・C席の間にパーティションを設けているので、覗き見は難しくなる。

「S Work Pシート」では、中間B席をつぶしてパーティションを設置している。「車内でお仕事」を標榜するが故の配慮である

 また、これだけで完全に問題解決というわけではないが、画面にのぞき見防止用のフィルターを取り付ける手もある。ただしこれは、見える範囲を制約するだけで、他人がまったく見ることができない状況を作り出すものではない点に留意したい。

ポインティングデバイスの代わりにキー操作で

 デスクトップPCなら、ポインティングデバイスとしてマウスやトラックボールを使うのが常道だが、ノートPCをオフィスの外に持ち出すとなると事情が違う。

 列車の車内(飛行機のなかでも同じだが)では幅方向のスペースが限られるから、ノートPCの横にマウスを置いて操作するだけの空きスペースはない。右側の隣席が空いていれば、そちらのテーブルを拝借する手もあるが、あまりお行儀がよろしい方法とはいえない。

N700系の普通車で12インチ級のノートPCをテーブルに置くと、こうなる。これだと隣にテザリング用の携帯電話を置く余裕があるが、マウスを操作するのはムリ。一般的には14~15インチ級を使用することが多いだろうから、さらに余裕がなくなる

 もちろん、そのためにノートPCにはタッチパッドというものが付いているわけだが、マウスと比較した場合にはどうだろう。もちろん個人差、個人の好みの違いという要素はあるのだが、タッチパッド操作を諸手を挙げて歓迎できる、といえるレベルかどうか。

 となると、可能な限りキー操作でなんとかしたいという話になる。Webベースだとなかなか難しいが、WordやExcelなら、ポインティングデバイスに頼らず、キー操作で済ませることができる場面は案外と多い。かつて、Excelのショートカットキーをまとめた本を書いたことがある筆者がいうのだから本当だ。

 また、メニュー操作についても[Alt]キーと文字キー、それと方向キーを組み合わせた操作により、かなりの操作ができる。問題は、ある日いきなり、アップデートで仕様の変更がかかり、せっかく覚えたアクセスキーがガラッと変えられてしまう場面があることだが。

Microsoft Excel 2021で、[Alt]キーを押すと現われるアクセスキー表示の一例。[Alt]キーに続けておのおのの文字キーを押すことで、リボンのアイテム操作が可能である。覚えてしまえばポインティングデバイスを使うより速い

 なお、列車の車中に限らず、自宅やオフィスであっても、キー操作の方が迅速に操作できる場面が少なくないのは同じである。すると、仕事効率化の観点からいってキー操作を覚えた方がいい、という話には一定の説得力があるはずだ。

電源の話

 電源コンセントの話は本連載の第4回でも取り上げたことがあったが、話の流れ上、なるべく重複しないようにしながら改めて取り上げてみる。

 車内に設置されている電源コンセントは、もちろんAC100V。周波数は車両によって50Hzだったり60Hzだったりするが、ノートPCやスマートフォンの電源として使用する分には、周波数の違いは問題にならない。

 注意したいのは容量で、1口あたり2アンペア、つまり200Wが上限である。ノートPCやスマートフォンを1台だけ接続する分には気にする必要はないが、もしもテーブルタップなどで分岐させて複数の機器を接続する場合には、容量オーバーの心配もしたいところ。

N700系の普通車では、前後端の席を除いて、側壁の下方に電源コンセントがある。横の標記でお分かりのとおり、容量は2アンペアが上限だ
東武鉄道の500系リバティ。電源コンセントは肘掛の下、袖体の内側に付いているので、そこに電源ケーブルや充電器を接続すると、内側にはみ出してくる難点はある。別途、プラグが折れ曲がるタイプのACケーブルを用意すれば解決できる
続いて登場したN100系「スペーシアX」のスタンダードシートでは、電源コンセントは背ずりの背面にある。これなら使いやすい
変わっているのが京成スカイライナーで、なんと脚台に電源コンセントが付いている

腰掛の設計に配慮がなされているケースも

 日本の鉄道車両で、最初から「車内でのPC利用のために」と銘打って電源コンセントを設置した最初の車両は、JR西日本が山陽新幹線に投入した700系7000番台、いわゆる「レールスター」である。今では「こだま」用の車両と化しているが。

 この700系7000番台では指定席車の前後端の席に限定して電源コンセントを設置するとともに、ほかよりも大型のテーブルを設置した。このテーブルは奥行きがあるので、ノートPCの向こう側に飲み物や電源アダプタを置いておくぐらいのこともできる。

 実はそれだけでなく、この前後端の席だけ、ほかの席よりも背ずりが少し「立った」状態になっている。これはテーブルが遠くなり過ぎないように、という配慮からだ。テーブルは壁に取り付けられているから、どうしても遠くなってしまい、腕を伸ばさないとアクセスしづらくなる。それを少しでも楽にしようという設計である。

車端の席にだけ大型テーブルと電源コンセントを設けるスタイルはかなり広まっているが、その嚆矢がJR西日本の「ひかりレールスター」こと700系7000番台
よくよく見ると、前後端の席だけ背ずりが少し立っているのが分かる。仕切壁に取り付けられたテーブルにリーチしやすくするための配慮だ。テーブルが大きいこともあってお仕事向きだが、車端部だと揺れやすい難点はある

「さくら」「みずほ」用のN700系7000番台・同8000番台の普通車指定席でも、前後端の席だけ背ずりが少し立っているように見えるが、実測はしていない。グリーン車は、特にそういう仕掛けはしていないようだ。