井上孝司の「鉄道旅行のヒント」
鉄道旅行と季節感・季節性
2025年12月17日 06:00
日本で生まれ育ってありがたかったなと思うのは、四季がはっきりあることと、地域によって気候がバラエティに富んでいることだと思っている。同じ場所でも季節が変われば見える風景が変わるし、同じ季節でも場所によって見えるものは異なる。
なお、「この季節ならこの路線」「この路線の○○駅が名所」みたいな話をはじめると際限がないし、それは「旅と鉄道」みたいな専門誌の方が強いので、本稿ではもう少し一般化した視点から書いてみる。
車窓に見る季節感
季節を感じる、というとやはり筆頭は車窓であろう。
もう30年ぐらい前の話になるが、初めて北海道の釧網本線に乗ったときに、釧路から網走に向かう列車を利用した。斜里を過ぎるころには日が暮れていたが、そこで線路が海岸沿いに出て、流氷で埋め尽くされた海が車窓に現われたときに、車内にどよめきが上がったのをよく覚えている。
もっともこれは、流氷で埋め尽くされた海を見てどよめくような乗客ばかりだった、ということの裏返しでもある。ただ、そこに突っ込み始めると、筆者もその一人であったのだから、めんどうな話はなしにしておく。
その釧網本線では近年、流氷を見に行ったのに空振りする場面がままある。可能であれば、流氷の状況を見ながら日程を決めたいところだが、風向き次第で一夜にして状況が変わってしまうのが、流氷の難しいところ。
さすがに車窓で流氷を見られる路線は限られているが、雪原や雪山などの雪景色なら、北日本に行けば普通に見られる。そこで暮らすのは大変だが、「いかにも雪国」と感じさせてくれる車窓風景であるのは確かだ。もっとも、ときには吹雪いたり、走る車両が雪煙を巻き上げたりして、窓の外が真っ白になってしまうこともある。
反対に、夏といえばやはり海であろうか。海岸沿いを走る路線なら、日本全国、あちこちにある。もっとも、海岸といっても多種多様であるから、みんながみんな「夏の季語」というわけでもない。やはり「夏の季語」になりそうな海岸の景色は、四国や九州などの南国に求めるのが無難であろう。
天気予報とともに「紅葉の便り」が取り上げられるぐらいだから、秋といえばやはり紅葉。これも全国で楽しめるが、やはり山間部を走る路線でなければ、というところはある。
個人的に、紅葉の時期を狙って訪れてみたいと思いつつ果たせていないのは、北海道の石勝線。なにしろ「楓」という名前の信号場(かつては旅客駅だった)まで存在するぐらいである(関係ない?)。
紅葉で難しいのは、“美味しい”期間が限られること。紅葉がピークを迎えたときに、そこを通る路線を、しかも日中に走る列車に、しかも晴天の下で乗りたい、という難しい条件がある。いくら紅葉がきれいでも、夜間に乗ったのでは何も見えないし、雨天では見栄えがしない。
すると、列車などの乗り継ぎスケジュールだけ先に作っておいて、紅葉の南下状況を見ながら「いつ発動するか」を決めて手配・実行するのが、無難かつ確実であろう。
駅に見る季節感
車窓だけでなく、駅で季節を感じられる場面もある。
例えば、石川県を走るのと鉄道では、いくつかの駅で、ホームの脇に桜の木が植わっている。当然、桜の季節に訪れれば、満開の桜とローカル気動車という絵面が出現する。ちょうど桜が見頃の時期に同線を訪れたところ、能登鹿島駅のホームに撮影者が鈴なりになっていたので仰天したものである。
ホームの桜というと、阪急嵐山線の嵐山駅、上桂駅、松尾大社駅あたりも有名だ。
変わったところでは、特定の季節にだけオープンする臨時駅というものがある。その1つが常磐線の偕楽園。梅のシーズンに多くの人が訪れることから、そのときだけオープンする駅である。ちなみにこの駅、下りホームしかないことでも知られている。
また、年に数日だけオープンする駅として、四国の予讃線にある津島ノ宮がある。津島ノ宮(津嶋神社)の夏季大祭が行なわれるときだけ営業するのだが、これもある種の季節感といえるかもしれない。
車両に見る季節感
ここまでは車両の外側の話だが、実は車両のなかでも季節感が現われることがある。内地ではあまり顕著でないが、これが分かりやすい形で出るのが北海道。
国鉄時代に作られた車両は大抵、北海道向けだけ「酷寒地仕様」として異なる仕様で作られていた。その分かりやすい現われが二重窓。通常の窓の内側に、もう1枚の窓を追加して、冷え込みを抑えようとするものである。ただ、JR北海道の発足後に作られた車両では、二重窓は採用されていない。
また、すでに廃車になって久しいが、そのJR北海道の711系電車では、側扉を戸袋に引き込むところにブラシが取り付けられていた。扉に付着した雪が戸袋に入り込んで、凍結などのトラブルが起きる事態を防ぐための工夫だ。
あと、出入台のところにマットを追加で敷いている場面がみられるのも、北海道の車両に見られる特徴の1つといえよう。
毎年、12月からスタートする津軽鉄道の「ストーブ列車」も、車両に見られる季節感の典型といえよう。その名のとおり、古い客車の車内に石炭焚きのストーブを設置して車内を暖める仕組み。そのストーブでスルメを焼くのも風物詩である。
ただし、このストーブ列車。ストーブが主役だからといってストーブの前に座ると、熱い思いをして大変なことになる可能性があるらしい。ちょっと離れたところに陣取るぐらいが無難であろうか。車内に設置されている、クラシックな温度計もめずらしくなった。



































