井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

路線図だと近そうなのに、実際は遠い駅。まったく別の名前なのに、目の前で向かい合う駅

駅に掲出されている地下鉄路線図の例。路線と路線の接続関係は、これで把握できる。しかし当然ながら、物理的な距離は考慮に入っていない

 鉄道事業者各社は、Webサイトなどで自社の「路線図」を公開している。また、紙の時刻表なら巻頭に「索引地図」が載っている。「索引地図」と呼ぶのは、路線ごとに、その路線の時刻表が載っているページ番号が併記してあるからだ。

路線図や索引地図では略されている情報がある

 ところが、路線図や索引地図は「どこにどういう路線があって」「その路線に何という駅があって」「複数の路線がどこでつながっているか」という情報に特化している。複数の路線が接続せずに交差している場合には、本物と同じ駅間で交差させているのが律儀だ。

 しかし当然ながら、略されて、こぼれてしまう情報も出てくる。例えば、路線と路線の位置関係は正しく描かれているが、実際にどれぐらい離れているかは分からない。路線図では近そうに見えるけれども、実際には意外と離れていた、あるいはその逆、といったことはしばしば起きる。

 また、存在する駅をすべて押し込む必要があったり、見やすさを優先したりした結果として、路線図の線がグネグネしていることもある。実際に線路が走っている方向と、路線図や索引地図に書かれている線路の方向は、必ずしも一致しない。

「A駅からB駅に行くのに、まず○○線でC駅まで行って、そこで△△線に乗り換える」といった情報を調べるだけなら、これで何も問題はない。しかし、地図を引っ張り出して物理的な位置関係を確認する方がよいこともある。

乗り換え可能だが遠いケース

 例えば地下鉄の駅。複数の路線の駅がつながっていて「乗り換え可能」となっているにもかかわらず、実際に乗り換えようとしたら遠かった、という事例がままある。

 昔から有名な組み合わせが、東京メトロの赤坂見附駅(銀座線・丸ノ内線)と永田町駅(半蔵門線・有楽町線・南北線)。特に大変なのが、赤坂見附駅と、有楽町線および南北線の永田町駅。この間の乗り換えでは、半蔵門線永田町駅のホームを端から端まで歩くことになり、これだけで優に3分ぐらいかかる。

 これは路線図だけ見ても分からない。今は駅構内図をWebサイトで公開している事業者が増えたから事情は違うが、紙の時刻表や路線図しかない時代には、現場に行って初めて分かることも少なくなかった。

東京メトロ日比谷線の上野駅で。左が日比谷線の改札で、銀座線は右手の通路を進んだ先にある。その距離は150m、2分はかかる

 冷静に考えれば、こういうことが起きるのもムリはない。車両を何両も連結した列車が発着するのだから、駅施設は当然ながら「点」ではなく細長い「線」になる。すると、駅と駅の位置関係によっては、意外なほど距離が開いてしまうのだ。

 そこで、地図のニーズが発生する。例えばGoogleマップで見ると、地上にある道路や建物だけでなく、地下にある地下鉄や地下街も表示される。これは、地下鉄の駅同士の位置関係を知る参考になる。もちろん、鉄道事業者各社がWebサイトで公開している駅構内図も有用だが、地上の道路や施設との位置関係を知るには難が残る。

異なる路線がご近所同士

 逆に、「路線図の上ではつながっていないけど、実際にはすぐそば(ないし徒歩圏内)」という事例もある。ことに近畿圏では、この手の組み合わせが目につくように思える。その一例が、大阪の南部・大和川の右岸側(北側)にある。

 ここでは西から順番に「南海電鉄南海本線」「阪堺電軌阪堺線」「南海電鉄高野線」「JR阪和線」が、ほぼ並行する形で走っている。そして、両端に位置する南海電鉄南海本線とJR阪和線の直線距離は1.8kmぐらい。もちろん、中間に位置する阪堺線や南海高野線の駅なら、もっと近接する。

 筆者は実際、阪和線の杉本町駅と南海高野線の我孫子前駅の両方に用があって、徒歩で移動したことがある。三国ヶ丘駅まで南下して乗り換えるより早いと踏んだからだ。

阪和線の杉本町駅を通過する283系オーシャンアロー。並行している複数路線のうち東端に位置する
そこから1kmちょっと西に向けて歩くと、南海高野線に行き当たる。奥にあるカーブを曲がった先に我孫子前駅がある。写真は駅近くで撮影した6000系復刻車

 小田急電鉄の小田原線と京王電鉄の京王線も、新宿寄りでは案外と近接している。そこで筆者は雨の日を除き、小田急沿線の自宅から笹塚の職場に通勤するのに、新宿駅まで行かずに代々木上原駅や東北沢駅から歩いていた。この方が早いし、笹塚から東北沢駅に直行すると終電が遅くなるメリットもあった。

 異なる事業者の駅が近接していて、しかも駅名がバラバラ、という事例もある。例えば、東武スカイツリーラインの牛田駅と京成本線の京成関屋駅。路線図では別々の駅のような顔をしているが、実は道1本を隔てて向かい合っている。

 このほか、JR横須賀線の新川崎駅とJR南武線の鹿島田駅、JR京浜東北線の東十条駅とJR埼京線の十条駅、JR千歳線の新札幌駅とJR函館本線の厚別駅など、徒歩連絡できるぐらい近い組み合わせはいろいろある。もっとも、新札幌駅と厚別駅は1.3~1.5kmぐらいあり、冬場には歩きたくないが。

京成関屋駅の改札前から外を見ると、すぐ向こう側に牛田駅が見える
左が牛田駅、右奥が京成関屋駅。この両駅で乗り換える利用者は少なくないようだ
これは京浜東北線の東十条駅
そこから800m前後で、埼京線の十条駅に行ける
これは新川崎駅での撮影。ここから南武線の鹿島田駅までは600m程度

どんな場面で役に立つのか

 ここまで挙げてきたような話は、路線図だけ見ていてもピンとこない。地図を見て初めて分かる種類のものである。特に大都市圏では、探すと似たような事例がいろいろある。

 こういう話が頭に入っていると、徒歩でショートカットすることで、不可能なはずの乗り継ぎを可能にできる場面が出てくるかもしれない。また、ある路線が輸送障害に見舞われて運転見合わせになったときに、徒歩で近所の別路線に移動してリカバリーする使い方もあり得よう。