井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

きっぷをなくすと「払い直し」か「3倍払い」? 紛失・盗難はどう回避する

きっぷは目的地の駅で改札を出るまで必要。なくさないようにするには、どうすればよいか

 前回は、ネット予約サービスを利用したときの「紙のきっぷの発券」について取り上げた。きっぷとは「所定の運賃・料金を正しく支払ったことを証明するもの」だから、これをなくすとめんどうなことになる。領収書では代わりにならない。

 そこで今回は、「きっぷをなくさないようにするための工夫」について。

もしもなくすとどうなるか

 紙の時刻表の巻末には、JRグループの営業案内についてまとめたページがある。そこには、きっぷをなくした場合の取り扱いに関する記述もある。旅客営業規則でいうと「第7章 乗車変更等の取扱い」以下の「乗車券類の紛失(第268条~第270条)」が該当する。

 係員が「紛失の事実を認定できた場合」、つまり本物の「うっかり紛失」であると認められた場合には、紛失したきっぷと同内容で「払い直し」となる。これは盗難に遭った場合も同じ取り扱いとなる。だから、紛失だけでなく盗難にも注意する必要があるわけだ。

 そこで、払い直しの際に「再収受証明」を受け取っておくことが肝要。あとで、なくしたと思ったきっぷが発見されたときに、見つかったきっぷと再収受証明を一緒に駅に持っていけば、払い戻しを受けることができるからだ(ただし手数料が差し引かれる)。

 しかし、紛失や盗難を避けられるのであれば、それに越したことはない。そのためにはどうすればよいか。困ったことに、改札の通過や車内での検札など、きっぷを取り出さなければならない場面はいくつもある。だから「しまったままにすればなくさない」とはいかない。

 なお、「係員が紛失の事実を認定できないとき」は、すでに乗車した区間について、所定の運賃に加えて2倍の増運賃、平たく言えば所定額の3倍を収受すると定められている。

第268条: 旅客が、旅行開始後、乗車券類を紛失した場合であって、係員がその事実を認定することができないときは、既に乗車した区間については、第264条・第266条又は前条の規定による旅客運賃・料金及び増運賃・増料金を、前途の乗車区間については、普通旅客運賃・料金を収受し、また、係員がその事実を認定することができるときは、その全乗車区間に対する普通旅客運賃・料金を収受して、増運賃及び増料金は収受しない。

旅客営業規則(乗車券類紛失の場合の取扱方)

車両によっては、チケットホルダーを設置していることがある。ここにきっぷを入れておけば、寝ていても検札してもらえる。ただし、降車の際にきっぷを回収するのを忘れないように

そもそもどうして紛失するのか

 きっぷに限らず、モノが行方不明になる場面が発生するのはなぜか。よくあるのは、「何か必要が生じて取り出したあとで、適当なところにしまい込んだら、しまい込んだ場所を忘れる」パターンではないだろうか。

 きっぷに限らず、鍵、財布、クレジットカード、携帯電話やスマートフォン、そのほかのさまざまな貴重品など、なくすと困ったことになる品物はいろいろある。それらをなくさないための基本は、「定位置を決めておいて厳守すること」ではないか、と筆者は考えている。

 例えば、「自宅とクルマの鍵」「クレジットカードやそのほかの各種カード類」「財布」について、常にどこのポケットに入れるかを決めておく。そして列車を降りるときや宿を発つときなどに、あるべきものがあるべき場所にあることを確認する。

 ただ、女性用の服だとポケットにモノを入れるように作られておらず、何でもバッグに入れて持ち歩かなければならないことが多いようだ。その場合、バッグに何が入っているか、それぞれのモノがどの辺に入るのかを明確にできれば、忘れ物や紛失の防止だけでなく、確認の手順も確立できそうではある。

 また、「頻繁に出し入れするものはサッと取り出せる場所に」という原則もある。サッと出し入れできないと、手近で適当な場所に突っ込むことになり、あとで探し回る原因を作る。

 仕事の関係もあり、筆者は基本的にカメラバッグを持ち歩くことがほとんど。カメラバッグは用途の関係上、小間物を入れるためのスペースが充実している。カメラ機材だけでなく、きっぷを入れるのに好都合のスペースが用意されていることもある。

筆者が愛用している、シンクタンクフォトのバックパック「エアポート・エッセンシャルズ」の内部。最近では不可欠なUSBケーブルとUSB電源アダプタ、レンズ用のクリーニングクロス、トラブル発生に備えた予備のメモリカードは常時搭載
「エアポート・エッセンシャルズ」は、チケットケースがちょうど収まる小物入れを備えているのがありがたい

 ただしそこで注意が必要なのは、開け放しではなく、ちゃんとファスナーか何かを使って閉じられるようになっているかどうか。開け放しでは、何かの拍子に中身が飛び出して行方不明になることがある(経験者談)。

チケットケースやクリアファイルを活用する

 駅の窓口や券売機のところに「チケットケース」と呼ばれる紙袋が用意されているときは、それを有効活用したい。ところが最近、事業者によっては配布を止めてしまったところもあり、再利用が不可欠になっている。だから筆者は手元に何枚か保管してある。

 そのチケットケースに、使用する順番に合わせてきっぷを入れておく。「乗車券と特急券」みたいに、複数枚がワンセットになって効力を発揮することがあるので、順番どおりに入れることが重要になる。

 一般的なサイズのきっぷは、チケットケースがあれば問題なく収まる。ところが、旅行会社のバウチャーなど、サイズが大きくてチケットケースに収まらない場合もある。飛行機に乗るときの航空券や搭乗券の類も、事情は似ている。

チケットケースにきっぷを入れた状態。このサンプルは1枚だけだが、複数枚ある場合には使う順番どおりに入れておくのが肝要
「エアポート・エッセンシャルズ」は、外側に独立したノートPC専用スペースがある。ここにA4サイズのクリアファイルを入れておくと、書類の類をサッと出し入れできる

 鉄道でも今後、飛行機みたいに二次元バーコードを利用する事例が増えそうだ。すると、PDFファイルやHTML形式の電子メールで受け取った二次元バーコードを、印刷して持ち歩く場面も増えると予想される。その場合にも、普通のきっぷよりもサイズが大きい紙を持ち歩かなければならない。スマートフォンの画面で表示すればよいという考え方もあるが、最後に頼りになるのは紙である。紙には圏外や故障や電池切れがない。

 そこで筆者は荷物のなかに、A4サイズのクリアファイルを1つ入れている。サイズが大きいバウチャーやそのほかの紙、旅程の途上で発生する書類や領収書などを、そこに入れて保管しておくのが目的だ。

 これが海外旅行になると、eチケットお客様控え、ネット予約した宿泊施設・レンタカーの予約確認書を、みんな印刷してクリアファイルに入れて持っていく。もちろん、これらは使用する順番どおりに並べて入れる。そうしないと、必要なものを取り出すときに難儀をするからだ。

 過去に海外の鉄道を利用したとき、PDFで送られてきた二次元バーコードを印刷して携行する場面があったが、そのときにもクリアファイルが役に立った。

2019年の8月に、スウェーデンのカールスクローナからリンシェーピンに向かったときに使用したチケット。PDFファイルが送られてきたので、印刷して携行した。駅には改札がなく、乗務員が持っているリーダーで二次元バーコードを読み取る形で検札を行なっている