トラベルグッズレビュー

ダイソーの1000円シュラフをプロの登山ガイドが試してみた

ダイソー 封筒型シュラフ(UC10-ES20-180NV):1000円(税別)

ダイソーから発売中の1000円封筒型シュラフ(UC10-ES20-180NV)

 シュラフ(寝袋)といえば、登山用のものなら1万円はかかるのが常識だ。そんななか、100円ショップのダイソーから、4月に衝撃の1000円(税別)でシュラフが発売された。厳しい登山シーンはさておき、限定的な用途で使えるかもしれないと思い衝動買い。先日、キャンプ場で実際にテントに泊まり、ワクワクしながら試してみた。

 結果から言えば、やはり本格的な登山には不向きだが、夏場のファミリーキャンプや車中泊であれば十分使えることが分かった。低コストでアウトドアを楽しみたい人には待望の一品だ。

 6月下旬、奈良県曽爾村の垰(TAWA)キャンプ場で一晩、シュラフを使用してみた。山岳用テントを設営して、銀マット、エアマットを敷く。枕はザック(山岳用リュックサック)を流用。本来の登山ではシュラフの外側に、結露で濡れるのを防ぐためシュラフカバーを被せるのだが、この日はこれを省略。シュラフそのものの快適性と保温性を試した。

奈良県曽爾村の垰(TAWA)キャンプ場で一晩、シュラフを使用してみた
シュラフ以外は、いつもの登山仕様で就寝した

 シュラフのスペックは以下のとおり。

【ダイソー1000円シュラフのスペック】
形状: 封筒型
使用サイズ: 75×180cm(幅×長)
収納サイズ: 17×37cm(φ×長)
使用温度: 15℃~
重量: 900g
材質: 生地・中綿/ポリエステル100%
カラー(2種類): 表地=ネイビー(180NV)/ブラック(180BK)、裏地=グレー

扱いやすい封筒型。常に頭を外に出すタイプ。裏地は薄いグレー
筆者(身長173cm)でも違和感のないサイズ。サラサラした肌触りだ

 ハードな登山用では、マミー型という形状のものを使う。頭まですっぽり中に入り、保温効果を高めるためだ。使用温度別に中綿(ダウンか化繊が一般的)の量を変えて、多くの商品が発売されている。

 今回のシュラフは、頭部が完全に外に出るためアウトドア初心者や子どもにも安全な封筒型だ。使用温度は15℃以上と夏季向け。重量は900gと、夏季向けの商品としては山岳用よりはるかに重く、収納サイズも大きくかさばる。しかし、封筒型としては標準的ともいえる仕様だ。

 比較対象とするには酷だが、モンベル製の夏用商品と並べてみるとサイズの違いは歴然だ。ちなみに、モンベルの商品「アルパインダウンハガー800サーマルシーツ」(2万5850円、重量379g)は、夏の低山でのテント泊に最適な製品で、シュラフとシーツの中間的な特徴を持つ。

モンベル「アルパインダウンハガー800サーマルシーツ」とのサイズ比較

 さて、気になる寝心地と使用感だ。この夜は20℃前後の気温だったと思われる。筆者は、長袖と半袖のTシャツを重ね着し、綿パンを履いた服装。シュラフに入ると、気になるようなニオイも窮屈な感じもない。生地はサラサラして涼しさを感じる。スムーズに眠りにつくことができ、午前4時、野鳥のさえずりで目が覚めるまで快適に眠れた。

 朝方の冷え込みで、テントの内壁にわずかに結露が発生し、シュラフの表地がわずかに湿ったが、筆者の衣服が濡れることはなかった。シュラフの中は暖かく、保温性は合格レベルだ。

 もちろん、あと少しの工夫があれば、なお快適性がアップしたのにと感じたところもある。

 まずはジッパーがシンプル過ぎる点だ。山岳用シュラフの多くは、内側からも開閉できるようジッパーは表裏の両面についているが、このモデルは外側のみという割り切りだ。ジッパータグを付ければ、より扱いやすくなるだろう。縫製はやや甘いが、ジッパーが噛みやすいという印象はなかった。

ジッパーを動かしやすくするため、ダイソーで買ったタグを装着してみた

 もう一点は、フルに引き上げたとき、ジッパーの金属部が顔に当たらないように、その部分をベルクロ(マジックテープ)でカバーするようになっているが、温度調節のためジッパーを中ほどまで開けた際、逆にベルクロのザラザラ面が顔に当たってしまう。これはベルクロ部分をうまく折りたためるようにすれば改善できそうだ。

ジッパーが顔に当たらないように、ベルクロのカバーがつくが……
ベルクロ部分がピラピラして顔に当たってしまうことも

 また、封筒型シュラフは、2枚をジッパーで接続して布団のように使えるものも多いが、このモデルはジッパーが固定式のため接続できない。単体で使用する商品と割り切れば全く問題はない。

ジッパーを全開にしたところ。ジッパーは固定されていて外れない

 いくつか課題点も挙げたが、いずれも細かい点に過ぎず、コストパフォーマンスを考慮すれば十二分に“お得感”がある。基本性能である保温性、快適性については合格点なので、登山用としてではなく、クルマでアクセスできるようなキャンプ場での使用や、ちょっとした車中泊に向いていると思われる。災害時の避難用品としても重宝するかもしれない。ただし、ポリエステルは燃えやすいので、焚火など炎の近くに置かないようにしたい。

岡田敏昭
日本山岳ガイド協会認定登山ガイド/山岳ライター。関西を拠点に国内外の1100峰に登頂。山岳誌「山と溪谷」「岳人」や「JTBパブリッシング」のガイドブックなどで執筆。