荒木麻美のパリ生活

「映画の父」リュミエール兄弟と旧造船所の足跡を訪ねる。フランス南東「ラ・シオタ」訪問記(後編)

映画発祥の地や造船業などラ・シオタの歴史的な魅力を紹介します

 前回(関連記事「世界で最も美しい湾や、石灰岩の断崖絶壁が続く海岸線・カランク国立公園も。フランス南東の街『ラ・シオタ』訪問記(前編)」)に引き続き、ラ・シオタを紹介したいと思います。現在ではビーチリゾート地としての顔が強いラ・シオタですが、その歴史的背景は非常に興味深いです。

 まずは造船業。巨大タンカーなどを造っていたそうです。1860年代に始まった造船業は、最盛期で関連産業も合わせると1万人ほどが働いていたとか。

 旧港にはラ・シオタの造船所のかつての様子を紹介する施設「ラ・メゾン・ドゥ・ラ・コンストラクション・ナヴァル(La Maison de La Construction Navale、造船の家)」があります。中は写真撮影禁止ですが、写真やビデオなどで当時の様子を知ることができます。

ラ・メゾン・ドゥ・ラ・コンストラクション・ナヴァル(La Maison de La Construction Navale、造船の家)
La Maison de La Construction Navale

所在地: 46 quai Francois Mitterrand, 13600 La Ciotat
TEL: +33 (0)4 86 33 06 20

 どのような船を造っていたかは、模型のコレクションがラ・シオタ博物館(Musée ciotaden)に収められているので合わせて見てくださいね。

完成した船の進水式で、押された海水が堤防を超えてしまう様子
造船所で働いていた人々
Musée ciotaden

所在地: 1 quai Ganteaume, 13600 La Ciotat
TEL: +33 (0)4 42 71 40 99
Webサイト: Musée ciotaden(仏語)

 施設内には当時造船所で働いていたお年寄りたちが常駐しています。頼めば当時のラ・シオタの様子や、どのような船をどのように造っていたのかといったことを解説してくれます。

 完成した船の進水式では、港に土嚢を積むなどして備えていても、海水が堤防を超えてしまうことがよくあったそうです。港沿いに建つブティックのショーウインドーを壊すようなこともあり、「謝りに行ったもんだよ」と一人のおじいさんが笑いながら話していました。

 ラ・シオタの造船業は価格競争の波に負け、1987年に出航した船を最後に、その歴史に幕を閉じました。解説をしてくれたおじいさんたちもその場にいたそうですが「それはもう何とも言えない寂しい気持ちだったね」とのことでした。

 現在では船のメンテナンス業務に関わる従業員が600人ほど働いているそうです。新しい船はもう造っていませんが、大型ヨットや豪華客船のメンテナンス所として、旧造船所は今も使われています。

 現在の造船所内には、月に1回程度見学に入ることができます。私は残念ながら日程が合わなかったのですが、興味のある方は、ラ・メゾン・ドゥ・ラ・コンストラクション・ナヴァルで事前に申し込んだ上で訪ねてみてくださいね。

旧造船所内の建物の一部は現在、市役所や劇場、駐車場となっています
この辺は放置されている建物。でもこれから再生工事が入るそうです
ここから先は月に1回の訪問日以外は入れません
柵越しにヨットのメンテナンスをしている様子が見えました

 ラ・シオタは映画発祥の地の一つとしても知られています。「映画の父」リュミエール兄弟が1895年に初めて、シネマトグラフ(撮影と映写の機能を持つ複合映写機)を使って撮影した地だからですね。リュミエール家はラ・シオタにも家を持っていたのです。

有名な「ラ・シオタ駅への列車の到着」が撮影されたラ・シオタ駅

 撮影された作品たちは、1895年、ラ・シオタにある劇場・エデン座で限定公開され、1899年からは有料で一般公開されるようになりました。エデン座は1995年にいったん閉館しましたが、2013年にリニューアルオープンして現在に至ります。

現存する世界で最古の映画館・エデン座
エデン座の前の道路にはフィルム模様が
Eden Théâtre

所在地: 25 boulevard Georges Clemenceau, 13600 La Ciotat
TEL: +33 (0)4 88 42 17 60
Webサイト: Eden Théâtre(仏語)

 今回の私の滞在中、エデン座では科学や環境に関する映画祭が開催されていました。今年で4回目のこの映画祭では、趣旨に関連する映画の上映のほか、地元の学生たちが作ったショートフィルムの上映、付近の教会や船での展示会も行なっていました。

科学や環境に関する映画祭が開催されていました
エデン座向かいの港では、海洋汚染についてパネルなどで解説していました
エデン座隣の教会では、映画祭に関連するテーマの展示会を開催

 私もいくつかの作品を見にエデン座に入りましたが、中にはシネマトグラフや古い映写機のコレクションがあり、まだ現役のものもあったりして、これらを合わせて見られてよかったです。

 ラ・シオタにはもう一つの映画館「リュミエール」があり、建物にはリュミエール兄弟の肖像画が描いてあります。

Le Lumière

所在地: Place Evariste Gras, 13600 La Ciotat
Webサイト: Le Lumière(仏語)

 リュミエール兄弟についてもっと知りたい場合は、ラ・シオタ博物館にリュミエール兄弟のコーナーがありますので、こちらも合わせてどうぞ。リュミエール兄弟の撮ったフィルムもここで見られます。

 ラ・シオタでもう一つ忘れてはならないのはペタンクという鉄球を使った球技発祥の地であるということ。日本ではあまり知られていない競技ですが、フランスでは至るところに競技場があり、老若男女問わず楽しんでいる、超メジャー競技なのです。

 ラ・シオタで初のペタンク公式戦が行なわれたのは1910年のこと。そもそもはプロヴァンサルという助走をつけて投球するゲームがありました。しかしリウマチで体が利かなくなったかつてのプロヴァンサルの名手を見た友人たちが、両足を地面に着けたままで球を投げることにし、これがペタンクとなったのだそうです。なお、ペタンクという言葉はプロヴァンスの言葉で「pèd-tanca」(合わせた両足の意)」から来ています。

Boulodrome Jules Lenoir

所在地: Traverse des Pieds Tanques, 13600 La Ciotat

初のペタンク公式戦が行なわれた競技場
この競技場はペタンク通りとピエ・タンケ(フランス語でそろえて地面に付けた両足の意)通りに面しています
ロータリーにもペタンクの人形が

 今回お土産に買ったのはサヴォニエール・カランク(Savonnier calanques)の石けん。この地方の石けんといえばマルセイユ石けんが有名ですが、サヴォニエール・カランクの石けんも、1688年にフランス国王ルイ14世の財務総監・コルベールが課したマルセイユ石けんの製造基準に沿っています。

 また、石けんは釜炊き製法(ホットプロセス)ではなく、店舗に併設するアトリエで、冷製法(コールドプロセス)で手間をかけて作っているそうです。

石けんにはラ・シオタの刻印が入っています(写真右)
Le Savonnier des Calanques

所在地: 8 avenue Victor Giraud, 13600 La Ciotat
TEL: +33 (0)6 69 16 20 08
Webサイト: Le Savonnier des Calanques(英語)

 時間があれば、オー・ポワーヴル・ダーヌ(Au poivre d'Ane、セイボリーというハーブの意)という本屋も覗いて見てください。真っ白な看板猫・ディケンズ君とともに、とても感じのよい女店主が迎えてくれます。フランス語が読めなくても、かわいい雑貨も少しですが置いてありますよ。

お店はラ・メゾン・ドゥ・ラ・コンストラクション・ナヴァルと同じ並びです
店内には切り株爪とぎも完備
閉店後。ディケンズ君は店に泊まり込みで働いているのです!
Au poivre d'Ane

所在地: 46 quai François Mitterrand, 13600 La Ciotat
TEL: +33 (0)4 42 71 96 93

 2回に分けてご紹介したラ・シオタはいかがだったでしょうか? 私の滞在中、1日はミストラルという強い風が吹き荒れ、1日は暴風雨でした。でも地元の人いわく、ミストラルは時々来るけど雨は少なく、ラ・シオタは年間を通して晴天の日が多いそうです。

暴風雨の日は終日ホテルから出られませんでした

 私はラ・シオタでのんびりしていたので、ラ・シオタの外には出ませんでしたが、隣にはこれまた美しい港町のカシや、セザンヌゆかりの地であるエクス=アン=プロヴァンスもあります。こちらを合わせて観光してもいいと思いますよ!

荒木麻美

東京での出版社勤務などを経て、2003年よりパリ在住。2011年にNaturopathie(自然療法)の専門学校に入学、2015年に卒業。パリでNaturopathe(自然療法士)として働いています。Webサイトはhttp://mami.naturo.free.fr/