旅レポ
JR四国の観光列車「伊予灘ものがたり」で愛媛の旨い・絶景・おもてなしに感動!
2024年6月5日 12:00
迫力満点! 来島海峡の急流体験
今回のツアーでまず最初に訪れたのが、今治沖の大島です。大島は、愛媛県今治市と広島県尾道市を結ぶ「瀬戸内しまなみ海道」が通る島の1つです。そして、この大島の大きな見どころは、なんといっても「来島海峡」です。
来島海峡は、鳴門海峡、関門海峡と並んで「日本三大急潮流」の1つとして知られています。大潮の時期などには潮流が時速10ノットにまで達するそうです。時速10ノットは時速約19キロで、いわゆるママチャリを全力で漕いでいる速度に近いほど。
来島海峡を往来する船にとってもこの潮流はかなり厳しく、海難事故も多く発生している、日本でも有数の海の難所となっています。そのため来島海峡では、潮流の流れによって航路が変わる「順中逆西」という、来島海峡だけの特殊な航法が定められているほどです。
この来島海峡の急潮流を観光船で間近に体験できるのが、「しまなみ来島海峡遊覧船」です。
大島の船着き場を出発してしばらくは、瀬戸内海特有の穏やかな水面のなか、来島群島をはじめとする瀬戸内海の多島美や、総延長4.1kmの雄大な来島海峡大橋を楽しめます。特に、3本の吊り橋で構成される来島海峡大橋を船でくぐりながら真下から楽しめるのは、遊覧船ならではの魅力です。クルマで吊り橋を渡ったり、たもとの展望台から見る姿とはまた違った迫力が感じられますし、よくもこんな大きい建造物を作ったものだと感心してしまいました。
それら景色を楽しんでいるうちに、急潮流スポット、中渡島(なかとじま)周辺に到着です。中渡島付近は潮流がぶつかって白波が立ち、渦を巻いているところや、まるで下の方から水が湧き上がって水面が持ち上がっているかのように見えたりと、それだけでもとても迫力があります。しかも船は、急潮流のなかに突入し、急潮流のなかでエンジンを止めて流れに身を任せる、といった演出も行ないます。
最初はちょっと恐かったのですが、揺れは思ったほど大きくありません。とはいえ、急潮流によって船がぐるぐる回ったり、かなりのスピードで流されたりと、急潮流自体を体感できるのは、とても迫力があります。
続いて、今治市の海岸沿いにずらっと並ぶ造船所群周辺、波止浜湾へと進んでいきます。世界にもその名が轟く造船業者がひしめくこの地域では、建造中のものや整備のために寄港している大型船を海から見学できます。この規模の造船所が多数並ぶ地域はほかにはありませんから、こちらもとても興味深い景色と感じました。
その後、来島海峡の名前の由来となった来島、日露戦争が勃発した明治時代に建設された軍事要塞や28cm榴弾砲の砲台などの戦時遺産が残る小島などを巡り、遊覧は終了となりました。
この遊覧船ですが、船の上から急潮流のほか、地域の景色や歴史的な建造物、遺産などの見どころを楽しめるのはもちろんですが、もう1つの魅力が、ガイドさんの軽妙なトークです。来島海峡大橋や周辺の島々、村上海賊、来島周辺の造船場などの見どころ、地域の特徴、魅力や歴史などを、時にジョークを交えながら詳しく解説してくれます。もちろん、景色や急潮流などを見たり体験するだけでも飽きることはないのですが、軽妙なトークと合わせて、遊覧の約45分間はあっという間に過ぎてしまいました。
しまなみ来島海峡遊覧船へは、今治からバスでアクセスできます。また、しまなみ海道をサイクリングで渡る途中に立ち寄るのもいいでしょう。展望台からとはまた違った迫力を体感できますので、興味のある人はぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
道の駅 よしうみいきいき館で、海鮮バーベキューを楽しむ
しまなみ来島海峡遊覧船を楽しみ、ちょうどお昼時だったので、そのまますぐ近くの「道の駅 よしうみいきいき館」でランチとなりました。
道の駅 よしうみいきいき館は、文化庁が認定する「食文化ミュージアム」に認定されています。食文化ミュージアムは、地域に根差した食文化または特定分野の食文化を体系的に発信したり、食文化への学びや体験を提供する施設に対して認定しているもので、よしうみいきいき館は道の駅部門で認定されています。
ということで、よしうみいきいき館の最大の魅力となるのが、食です。ここでは、地域の海産物を中心とした、七輪海鮮バーベキューが楽しめるのです。今回は、ハマグリやサザエ、イカ、海老などが含まれるセットメニューを楽しみましたが、館内にはバーベキュー用の海産物が生け簀などに用意され、自由に食材を選ぶことが可能となっています。用意される海産物は季節によって変わるそうなので、行くたびに違った味が楽しめるのも魅力です。また、魚介類だけではなくてお肉類も用意されていますので、魚介が苦手という人も安心です。
そしてなにより、自分で七輪の上で魚介類を焼いて食べる、その豪快さも大きな魅力でしょう。あらかじめ焼かれてテーブルに運ばれるのと違って、体験しながら食べる魚介類の味わいは格別に感じます。
また、今回のセットには、ご飯として松山風の鯛飯も付いてきました。炊きたてではありませんでしたが、鯛と一緒に炊き込んだ松山風の鯛飯は、鯛の風味がご飯1粒1粒に染みわたって絶品の味わいで、一気にかき込む感じで食べ尽くしてしまいました。
魚介類、鯛飯ともに期待以上の美味しさで、セットメニューでも満足度はとても高いと感じました。もちろん、生け簀から好きな海産物を選べば、楽しさや満足度もさらに高まることでしょう。
よしうみいきいき館には、海鮮バーベキュー以外にも、レストランや軽食コーナー、お土産コーナーがあります。そのうち軽食コーナーでは、鯛カツバーガーやじゃこカツバーガーといった愛媛ならではのバーガー類をはじめ、島レモンソフトクリーム、みかんソフトクリームなどの、こちらも愛媛らしいソフトクリームなどをラインアップ。そこまでおなかが空いていなくても、バーガー類やソフトクリームで愛媛らしさを満喫できるはずです。
そして、しまなみ海道といえば、サイクルツーリズム。よしうみいきいき館にもサイクリスト向けの駐輪場が完備されていますので、サイクリングの途中に立ち寄るにも最適です。実際、ツアー当日も多くのサイクリストがランチを食べたり休憩していましたので、定番のスポットになっているのでしょう。また、わざわざ立ち寄る魅力が十分にある施設と感じました。
初日のハイライト、「伊予灘ものがたり」に乗車
よしうみいきいき館での昼食後、一路、八幡浜へ移動しました。八幡浜は、愛媛の西端に位置する細長い岬、佐田岬の根本に位置する街です。八幡浜からは九州の別府や臼杵につながるフェリーが発着していることもあって、“四国の西の玄関口”とも呼ばれています。また、四国一の水揚げ高を誇る漁港の街でもあります。
八幡浜に移動した理由、それは、人気の観光列車「伊予灘ものがたり」に乗車するためです。
伊予灘ものがたりは、2014年7月に運行を開始した、言わずと知れたJR四国の看板観光列車で、松山駅から伊予大洲駅に向かう「大洲編」、伊予大洲駅から松山駅に向かう「双海編」、松山駅から八幡浜駅に向かう「八幡浜編」、八幡浜駅から松山駅に向かう「道後編」の4ルートがあります。
現在は、2022年4月にデビューした新車両「2代目伊予灘ものがたり」で運行しています。2024年7月には運行開始10周年を迎えますが、2022年には観光列車ランキングでランキング1位に輝き、5月18日には乗車20万人を達成するなど、その人気の高さは衰えることを知りません。
人気の理由は、レトロモダン車両で地元食材をふんだんに使った美味しい食事が楽しめる点や、伊予灘の絶景といった点もあります。しかし、長期間人気を維持する最大の理由は、なによりもアテンダントの心のこもったサービスや、地域住民の皆さんのおもてなしにある、と言われています。
実は筆者は、現在四国・香川在住ですが、これまで伊予灘ものがたりに乗車する機会がありませんでした。ですので、今回のツアーで最も楽しみにしていたのが、伊予灘ものがたりの乗車でした。乗車前からとにかくわくわくが止まりません。
八幡浜駅に到着すると、すでに伊予灘ものがたりが入線していました。車両の入り口には専用のマットが敷かれ、アテンダントがその横で乗客をお出迎え。今回乗車したのは、八幡浜駅から松山駅へと向かう「道後編」です。
まずはじめに、伊予灘ものがたりの車両を見て行きましょう。
2代目伊予灘ものがたりは、コンセプトが異なる3両の車両で構成されています。
1号車「茜の章」は、伊予灘の夕焼け空を思わせる茜色の車両で、海側に向かって座るカウンター席や最大4人掛けのボックスシート、山側に2人掛けのボックスシートが並びます。
2号車「黄金の章」は、沿線に降りそそぐ太陽や、愛媛の名産である柑橘をイメージした車両。海側の列は全席が海に向かって座るカウンター席で、一部は2人掛けのペアシートとなっています。山側には2人掛けのボックスシートが並びます。
そして、道後編では先頭車両となる3号車「陽華の章」は、気品あふれるインテリアと、陽の光や桜小紋のデザインを散りばめた個室車両となっています。しかも陽華の章では、ほかの車両とは異なるランチョンマットや器やカップなどが使われるそうで、1ランク上のおもてなしが受けられます。陽華の章の個室は2~8名での利用が可能なので、家族やグループでの利用に最適でしょう。
ちなみに、今回のツアーで乗車したのは2号車の黄金の章です。
春の雰囲気満載のアフタヌーンティーセットに舌つづみ
定刻の16時14分に、伊予灘ものがたり 道後編がゆっくりと動き出しました。するとまず、アテンダントがドリンクの注文に来てくれました。
ドリンクには、愛媛の地ビールやオリジナルカクテル、地酒の飲み比べセットなどを用意していますが、筆者はアルコールが苦手なのでソフトドリンクから選ぶことに。アテンダントに人気のソフトドリンクを教えてもらったところ、「懐かしのくりーむそーだ」が人気とのことで、そのなかからさくらシロップ使った「ゆうなみ」を注文。さくらシロップの深みのある紅色は、夕日で紅く染まる空、白いアイスクリームが空に浮かぶ雲を想像させる、見た目にも印象的なドリンクです。味わいは優しい甘みのなかにほのかなさくらの香りが漂って、これなら大人にも人気があるのも納得です。
そして、お楽しみの食事。道後編で提供されるメニューは、松山のフランス料理店「Petit Paris ~パンのある暮らし~」が手がけたアフタヌーンティーセットです。
アフタヌーンティーセットは、愛媛の陶磁器として有名な砥部焼の器で提供されます。砥部焼は、白磁に藍色の模様がおなじみですが、アフタヌーンティーセットの器は藍色以外にも青や緑、橙などのカラフルな色を使ったかわいい絵柄をデザインしていて、気分が上がります。
盛り付けられるメニューは季節によって変わるそうです。1段目には、スコーンやキッシュ、コロネーションチキンサンドイッチなど、アフタヌーンティーセットで定番のメニューが盛り付けられています。そして2段目には、今回は乗車が4月末ということもあって、苺のクランブルタルトや木イチゴのマカロン、櫻のムースなど、春の雰囲気満載の、季節感あふれるメニューがふんだんに盛り付けられていました。
アフタヌーンティーセットを手がけるPetit Parisは、特にパンとお菓子に力を入れているとのことですが、どのメニューも絶品の味わいでした。なかでも、特に印象に残ったのが櫻のムースです。甘みを抑えつつ、とてもなめらかな口当たりと、口いっぱいに広がるサクラの香りは、まさしく大人のスイーツといった美味しさでした。
アテンダントや地域の皆さんのおもてなしに感動!
伊予灘ものがたりの最大の魅力は、アテンダントや地域の皆さんのおもてなしにある、ということは事前に聞いていました。しかし、実際におもてなしに触れてみて、それが想像以上だったことを強く実感しました。
観光列車が通過する駅や観光名所などで、地域の人たちが手を振ったり、歓迎の横断幕やパネルを掲げたりしておもてなしする、というのはよくある光景かもしれません。しかし伊予灘ものがたりの場合は、それが尋常ではありませんでした。
通過駅でのお見送りは、それこそほとんどの通過駅で行なわれているのかと錯覚するほど多くの駅で見られましたし、大洲城のように、遠くからも見えるようにたくさんの幟を振って見送ってくれたりと、お見送りする側の歓迎の心がひしひしと伝わってきます。
そればかりか、沿線の家や道路などでも地域の人たちが力強く手を振ってお出迎えしてくれます。愛犬と一緒に家のベランダから見送ってくれたり、グラウンドで野球の練習をしていた少年たちが全員で手を振ってくれたりする姿には、驚きを通り越して感動してしまいました。しかも、ほとんどの人たちが、頼まれることなくお見送りしているのだそうです。これは、伊予灘ものがたりが地域の人たちにもしっかり愛されている証拠だと、強く印象に残りました。
もちろん、車内のアテンダントの皆さんのおもてなしも、とても心がこもっていました。こちらからお願いするまでもなく気さくに声をかけてくれて、料理の特徴や景色の見どころなどを解説してくれたり、写真を撮ってくれたりと、なにかと気を遣っておもてなししてくれて、列車のなかにいるのを忘れてしまうほどに居心地がよかったです。
そして、このような地域の人たちやアテンダントの皆さんのおもてなしがあるからこそ、伊予灘ものがたりが高い人気を誇っている大きな理由なんだな、と心の底から実感できました。
美味しい食事に、絶景の車窓、心のこもったおもてなしのおかげで、2時間15分ほどの乗車時間もあっという間に過ぎてしまいました。同時に、伊予灘ものがたりの体験は、自分自身にとっても非常に貴重なものとなりましたし、次はぜひプライベートで乗車したいと強く思いました。