旅レポ

神戸市街からひと足のばして有馬温泉へ。芸妓遊びや名産いちじく狩り、里山ステイを楽しみました

有馬芸妓の皆さんに、日本最古の温泉地・有馬の文化と楽しみ方を教わりました

 神戸市が主催する里山巡りのプレスツアーに参加してきました。神戸といえば、港エリアが観光のメイン。ですが、神戸市中心部からクルマをちょっと走らせるだけで自然豊かな里山が広がります。前回に引き続き、神戸の山側エリアの魅力をたっぷりお届けします。

有馬温泉街をぶらり。世界レベルのジェラートを発見!?

 年間約170万人が訪問するという日本最古の温泉・有馬温泉。神戸北区に位置する温泉街は、古き良き部分を残しながらより幅広い層が訪れやすい街へと進化中。ファミリーだけではなく、一人旅や1泊2日の短期滞在でも楽しめるコンテンツが増加しています。

有馬温泉の入り口の「有馬川親水公園」はフォトスポットの1つ
有馬温泉を愛した豊臣秀吉の像も公園に鎮座しています

 代表的な泉質は2つ。鉄分と塩分を多く含む赤茶色の「金泉」と無色透明で炭酸とラドン泉を含む「銀泉」。2度入ることで、より肌がツヤツヤになるといわれています。日帰り利用もOKな外湯「金の湯」「銀の湯」があるので、ハシゴしたり、朝夕で分けてその違いを肌で感じてみるのもお勧めです。

「金泉」の赤茶色のお湯が楽しめる「金の湯」
「銀の湯」はかなり坂を登った上にあるので行くときは覚悟を
足湯もあります。熱めの赤茶色の湯で足元からぽっかぽかに

 ちなみに「金の湯」は足湯も開放されているので、街歩きのひと休みにお勧め。「金泉」が湧き上がる天神泉源などあちこちに泉源がありますが、今回同行してくれた「陶泉 御所坊」の若女将・金井ラミアさんによると、地殻変動の影響で2つの湯が混ざることもあるそう。

有馬天神社の外からも源泉の勢いが分かるほど
街歩きには「陶泉 御所坊」若女将でモロッコ出身の金井ラミアさんも同行してくれました
98℃の「金泉」が湧く天神泉源は有馬天神社境内にあります

 細い路地がまるで迷路のような有馬温泉街には小さい商店が並び、食べ歩きにもってこい。名物の「炭酸煎餅」(1箱500円)や「ありまサイダー てっぽう水」(250円)のほか、人気パン店Pao De Beauの「金泉塩パン」(250円〜)もお勧めです。

細い路地にはさまざまな有馬の美味しいが隠れています
三津森本舗の「炭酸煎餅」は炭酸泉を活用。手焼きでさっくさく
自販機や観光案内所で手に入る「ありまサイダー てっぽう水」
金泉の塩を使った金泉塩パンは「Pao De Beau」で購入できます

 今、有馬温泉街で話題なのが「アリマジェラテリア スタジオーネ」。片山圭介さんが作るジェラートは、甘酒や六甲山のふもとの牧場産ミルクを使用。日本のエッセンスをプラスしたフレッシュなジェラートはまさに絶品の極みです。

 なかでも「塩マスカルポーネ きんかん香る甘酒仕立て」マストで味わいたいフレーバー。片山さんは「コース料理のデザートを意識しています。五味を大切にし、質感と口にした時の滑らかさにこだわっています」と話してくれました。

「塩マスカルポーネ きんかん香る甘酒仕立て」と「シチリア産ピスタチオ」
アリマジェラテリア スタジオーネの片山圭介さん

 もちろん神戸牛も欠かせません。老舗旅館「中の坊 瑞苑」にあるレストラン「旬彩 猪名野」ではランチタイムに「神戸牛 すき鍋膳」(3520円)を提供中。霜降り神戸牛の美味しさとともに甘めの割り下と旨赤卵、そしてくつくつ煮たうどんを堪能できます。

旬彩 猪名野の「神戸牛 すき鍋膳」
甘めの割り下と、煮てもへたらないうどん入りなのが特徴

有馬芸妓に会えるカフェで、抹茶とお座敷遊びに挑戦

 温泉といえば、昔ながらの“湯治”をはじめ癒やしとエンタメが融合するもの。温泉街散歩の途中で有馬芸妓が運営する芸妓カフェ「一糸」へと向かいました。

 有馬芸妓の歴史は古く、湯治客の世話などをする“湯女(ゆな)”がルーツ。兵庫県唯一の芸妓文化の残る有馬でその文化を伝える「一糸」では、抹茶と季節の和菓子をいただきながら、踊りやお座敷遊びなどの体験ができます。

お茶やお酒が楽しめる芸妓カフェ「一糸」
「お抹茶と和菓子のセット」(2300円)

 約60分間の「有馬おどり鑑賞プラン」(1〜5名5万円〜※人数により価格変動、要予約)は、お抹茶と和菓子付きで有馬芸妓の伝統芸能が楽しめるというもの。髪型や扇子の優雅な開き方、美しさの秘密など、芸妓の装いについてレクチャーを受け、お座敷遊びや女子トークなど初めて尽くしを楽しみました。

伝統芸能の有馬おどりを鑑賞できます
芸妓を目指す際にまず最初に購入するのはかつら。構造も見せてくれました
「金毘羅船船」を体験。リズム感と瞬発力が必要です。これは盛り上がります
優雅な扇子の開き方についてもレクチャー

 お囃子を奏でる楽器の試し弾きをはじめ、直接現役の芸妓さんに指導してもらえるのは貴重な機会! 鑑賞だけでなく「芸妓体験」(3万3000円)ではメイクレッスンと着物の着付けもできるので、ぜひ有馬温泉訪問の記念に訪れてみてはいかがでしょう。

お囃子で使う楽器の試し弾きも。太鼓から三味線までいろいろ
芸妓さんとの記念撮影も叶います

文豪たちに愛された有馬温泉。目的別ステイができるのも魅力

 ファミリーやカップル、女子旅と、幅広い利用客に人気の温泉宿ですが、コロナ禍を経てマイクロツーリズムや密を避ける一人旅など、そのスタイルも変化しつつあります。コロナ前のインバウンド需要の影響もあり、気軽に宿泊できる施設が有馬温泉にも増えています。

スイス風ホテル「ホテル モルゲンロート」にステイ
海外旅行に来たような趣のある雰囲気です
「山小屋にようこそ」の看板もかわいい

 今回宿泊したのは、スイス風ホテル「ホテル モルゲンロート」。六甲山登山者が有馬温泉へ向かう際に必ずとおる道沿いにあり、登山者のギアが購入できる「モンベル有馬店」も併設。山小屋風のフォルムが愛らしく、初めてなのに懐かしい雰囲気です。

「のんびりツイン」は簡単な自炊設備にIHヒーター、レンジにシャワーと長期ステイもOKな仕様。ほどよい広さの室内は自宅のような心地よさ。「銀の湯」も目の前で、宿泊者には温泉利用券が付属するのでとってもお得です。

「のんびりツイン」は自室のように落ち着けます
簡単なキッチンもあるので自炊もできますよ

 文豪たちが通った有馬温泉ならではの趣を感じたいなら老舗宿「陶泉 御所坊」へ。伊藤博文や吉川英治らが宿泊したという客室は、和と洋が融合するモダンでノスタルジックな雰囲気です。谷崎潤一郎の「猫と庄造と二人の女」が執筆された部屋前には直筆原稿も展示。物語の世界へと誘います。

「陶泉 御所坊」の創業は1191年。温泉街で最も歴史が古い宿です
エントランスは重厚感ある雰囲気。館内は迷路のようになっています
川沿いのラウンジからは与謝野晶子が詠んだ桜の木もチラリ
「猫と庄造と二人の女」を執筆した客室。小説内にも登場
谷崎潤一郎の自筆原稿と書籍を展示

神戸はいちじくの一大産地! 採れたてフルーツ&野菜に舌鼓

 ぷちぷちっとした独特の食感で、ドライフルーツとしても人気のいちじく。そんな魅力的なフルーツを生で味わえるのが一大産地である神戸なんです。「すまいるふぁーむ藤本」では、ミネラルと繊維たっぷり、ジューシーでやわらかな旬のいちじくを購入することができます。

「すまいるふぁーむ藤本」の神戸アグリマイスター・藤本喜郎さん
ビニールハウスでは直植えではなく、根域制限栽培(鉢植え)を採用

「神戸アグリマイスター」の資格を持つ藤本喜郎さんが手掛けるいちじくは都市部に近い立地を活かし完熟で出荷。「次の日にパンにジャムのように塗って味わうのもお勧め」といいます。今回は特別に収穫を体験。色ややわらかさ、垂れている状態を確認してくるり。そしてそのまま採れたてをパクッ。採れたての実は想像以上に瑞々しく、ふわっとした甘い香りがたまりませんでした。

熟れているいちじくの見分け方をレクチャー
垂れている状態かもチェック
くるりと回して収穫。採れたてはジュージーでふわっとした口あたり
敷地内の「大沢ファーマーズマーケット」にて販売しています

 地元野菜や神戸フルーツを手軽に購入するなら「道の駅 神戸フルーツ・フラワーパーク大沢」「FARM CIRCUS」も訪れてみてください。パーク内は遊園地にイベントスペース・フルーツ狩りに学習施設まで盛りだくさん。施設内の温室では神戸市内の生産農家配布用にいちじくの苗「桝井ドーフィン」と品種改良版「サマーレッドドーフィン」の2種を育成中でした。

「道の駅 神戸フルーツ・フラワーパーク大沢」は市民憩いの道の駅です
温室では生産者向けにいちじくの苗を育成中

「ファームサーカス・マーケット」では生産者が直接持ってきてくれる野菜を販売。併設のカフェには地産地消を意識した地元食材を使ったメニューも揃っています。神戸の美味しいをリーズナブルに手に入れたいならば、迷わずこちらへ。

おしゃれでカジュアルな雰囲気の「FARM CIRCUS」
「FARM CIRCUS」のマーケットでは採れたて野菜&フルーツを販売中
人気のスイーツは「いちじくチーズケーキ」(380円)など
「ファームサーカス・カフェ」では食べ応え満点の「神戸いちごのソフトクリーム」(450円)を

お試し移住できる古民家で農業体験。地元で話題のふわもちベーグルも

 旅のラストは古民家をリノベーションし、神戸の里山移住を叶えた夫婦が営む施設を訪問。まずは「道の駅 神戸フルーツ・フラワーパーク大沢」から徒歩10分ほどの「一十土(いっとうち)」へ。

うっそうと茂る緑の向こうには古民家「一十土」が微かに見えます
リノベーションで土足で入れる土間を広めにし、おしゃれ空間に
ベッドルームは懐かしい雰囲気。デッキからは里山の絶景が楽しめます
のんびり里山暮らし体験ができます

 Airbnbでの一棟貸し以外にもワーキングスペースやイベントスペースとしても貸出。移住相談も受け付けます。また、宿泊者は農業体験やサイクリングツアーにも参加OK。移住についてオーナーの吉田彰さんは「都会でできないことを今ここで全部やっています。ここは僕のアソビ場。自慢のウッドデッキからの眺めも滞在でぜひ楽しんで」とその充実ぶりを教えてくれました。

オーナーの吉田さん夫婦とキュートなワンちゃん
周辺は田んぼが広がる環境。背の高い山田錦がたわわに実っていました
サイクリングではファミリー向けにキッズキャリーも用意

 続いてはふわもちベーグルと米粉蒸しパンで話題の「はなとね」へ。こちらは築260年以上の神戸市指定有形文化財である茅葺き屋根の「前田家住宅」を活用したパン店。2014年に淡河町に移住したパン職人の村上敦隆さんは「移住で忙しくなるのは珍しいですよね」と笑います。そして「ただパンを作るだけでなく、アレルギーを持つ方々が安心して食べられるパンで地域貢献がしたかったんです」と話してくれました。

築260年以上の「前田家住宅」でお店を構える「はなとね」
ちょうど翌日の仕込み作業の真っ最中でした

 卵とミルクを使わず、ほどよくやわらかくて食べやすい。しかもフレーバーも豊富な優しいベーグルはすぐに話題に。完売する日も多いそうなので、確実に手に入れるなら公式Webサイトで事前予約をしてから訪れましょう。

くるみ ラムレーズン、プレーンに抹茶あんことフレーバーも豊富
もっちもちふわふわ、ほどよいやわらかさが絶妙です
併設のカフェでそのままパクッと頬張ることも

 神戸の里山をメインに旅した今回。日本最古の温泉に有馬芸妓、六甲山訪問にいちじく狩りと、山の魅力をたっぷり味わいました。港街はもちろん、ぜひ里山エリアにも足をのばしてみてはいかがでしょうか。

相川真由美

ライフスタイル系雑誌の編集アシスタントを経て、IT系週刊誌・月刊誌で10年以上編集者として刊行にたずさわる。現在は、フリーの編集記者として国内外のテーマパークやエンタメ、ならびに観光、ファッション関連を中心に執筆中。