旅レポ

はじめての“そうかえん”。「令和元年度富士総合火力演習」の行き方と楽しみ方を解説

2019年8月25日 一般公開

“そうかえん”は一般人が実弾射撃を見学できる貴重な機会

 毎年8月に御殿場市で実施される自衛隊の公開実弾演習「富士総合火力演習」。陸上自衛隊で諸兵科連携の教育訓練を実施する富士教導団が主体となり、航空自衛隊、海上自衛隊の航空機も参加する大規模な演習で、8月の最終日曜日(令和元年度は8月25日)に一般公開される。

 自衛隊人気の高まりにより、近年では「そうかえん(総火演)」として認知されており、また、一般人が実弾射撃を見学できる数少ない機会とあって、駐車券付きの観覧チケットは抽選倍率100倍を超える人気となっている。

 そうかえんの実施は毎年6月に自衛隊のWebサイトで告知され、専用フォームから応募、当選者にのみ「当選はがき」が届く仕組みだ。この「当選はがき」または「観覧チケット」がない人は入場できない。

8月22日実施の「学校予行」「学校予行(夜間)」のチケット裏面。注意事項もしっかり読んでおきたい

 実はこのそうかえん、一般公開日以前にも予行演習が何度も実施されており、そのうち富士教導団が主催する「富士教導団総合予行」、富士学校が主催する「学校予行」、そして本番前日の「総合予行」などは関係者向けにチケットも用意されている。今回、筆者は8月18日に実施された「富士教導団総合予行」を見学する機会を得たので、今年のそうかえんの見どころや会場へのアクセス、現地での過ごし方などを紹介したい。

 なお、筆者はそうかえんに予行を含めてこれまでに30回以上訪れている。持ち物や混雑に関する情報はこうした経験からお伝えするものだが、自衛隊側も観客の動線やシャトルバス乗り場などを少しずつ変更して対処しており、実情と異なる場面があるかもしれないことをご承知おき願いたい。

そうかえんの概要と見どころ

 陸上自衛隊の戦車、装甲車、火砲・火器、航空機などの性能を紹介し、後半はシナリオに基づいた作戦の様子を展示する。航空自衛隊のF-2戦闘機、海上自衛隊のP-3C哨戒機なども参加する。

8月18日実施「富士教導団総合予行」で配布されたプログラム(表・裏)

 そうかえんは雨天決行(射撃目標が見えている限り実施)だが、観客の安全のため荒天時には中止されることもあり、その際は富士学校のWebサイトに5時30分ごろに掲載される。

令和元年度富士総合火力演習

日時: 2019年8月25日(一般公開日)
会場: 東富士演習場 畑岡地区
開場: 6時30分~(混雑状況により変更の可能性あり)
シャトルバス: 御殿場駅6時00分~(詳細は後述)
演習: 10時~12時15分(13時15分~14時15分は装備品展示)

東富士演習場 畑岡地区

 また、早朝に会場に着けば、本番前の「点検射」が行なわれている。これは各車両が射撃目標を確認し、システムに不具合などがないかをチェックするためのもので、これも含めてそうかえんを楽しみにしているファンも多い。

16式機動戦闘車(16MCV)の射撃
10式戦車(10TK)の班集中射撃
点検射を終えて会場を出る水陸両用車(AAV)
点検射のために会場に進入する89式装甲戦闘車(89FV)
高機動車に牽引され会場を離脱する120mm迫撃砲RT
155mmりゅう弾砲FH-70。発射された砲弾の撮影も可能だ
99式自走155mmりゅう弾砲(99HSP)。こちらも砲弾の撮影に成功
一般には初公開となる19式装輪155mm自走りゅう弾砲。19式の名のとおり、本年制式化された最新装備
点検射終了後、会場と射撃目標地点の整地が行なわれる
火力演習開始までの間は音楽隊の演奏も行なわれる

前段演習(10時~10時50分)

 そうかえんは前段演習約50分、後段演習約70分に分けて実施される。

 前段演習は「陸上自衛隊の主要装備の紹介」を行なうもので、りゅう弾砲、迫撃砲、スナイパーによる狙撃、対戦車ミサイル、対戦車ヘリコプター、高射機関砲、戦車、空挺降下などが順番に登場し、ナレーションによりこれら装備品の役割や性能が紹介され、実弾射撃を行なう。

後段演習(11時05分~12時05分)

 後段演習は、前段演習で性能を披露した装備品が、あらかじめ準備されたシナリオに基いた演習を行なうもの。今年のシナリオは「島嶼部における統合作戦」だ。内容は大きく3段階に分かれている。

 第1段階は「島嶼部に配置した部隊による阻止」。これは南西方面の離島をイメージしたもので、占領を企図して上陸してくる敵の艦艇、舟艇、陸上部隊に対しての迎撃の模様を展示する。航空自衛隊F-2戦闘機がレーザー誘導爆弾LJDAMを模擬投下。

 第2段階は「増援部隊による敵部隊の撃破(1)」。自衛隊水陸機動団の水陸両用装甲車が上陸、ドローンによる敵情報の収集を行ない、対戦車ヘリコプターによる援護射撃のもと、輸送ヘリコプターによる車両や人員の展開、空挺部隊による敵陣地後方への降下の模様を展示する。

 第3段階は「増援部隊による敵部隊の撃破(2)」。オートバイ斥候や偵察警戒車による偵察で敵重要拠点を特定し、りゅう弾砲や迫撃砲、戦車などにより攻撃を加え、敵が設置した地雷原を処理。敵の電波妨害に対抗するなど混乱を与え、最後は戦車や装甲車、ヘリコプターにより突撃、敵を殲滅するというそうかえんのクライマックス。後半にかけて次々と車両が進入して火力で圧倒する様子は壮観だ。

前段演習は特科部隊の展示からスタート。99式自走155mmりゅう弾砲が進入する
99HSP、FH-70が射撃を披露。目標が3000mと最小射程に近いため、発砲炎は出ない
名付けて「富士山型曳下射撃」。17発の砲弾が同時に一直線に着弾するように射撃を行なう。砲弾には起爆高度がプリセットでき、その高度を数m単位で調整することでこのような展示が実現する
今年の目玉装備、19式装輪155mm自走りゅう弾砲は射撃こそ行なわなかったものの、射撃姿勢に素早く移行できる性能を披露した
FH-70は補助動力装置で自走可能。射撃陣地へ進入する際などに役立つ能力だ
高機動車と迫撃砲を搭載したCH-47J大型ヘリが着陸、素早く展開する
81mm迫撃砲L16、120mm迫撃砲RTが射撃展示のため進入
120mm迫撃砲RTの発砲の瞬間。火力演習で最も高くまで飛ぶのがこの迫撃砲弾
96式装輪装甲車(96WAPC)の上部ハッチから01式対戦車誘導弾(01ATM)を発射
軽装甲機動車(LAV)からも01ATMを発射。発射後、射手にブラストが当たらないように推進している様子に注目
対戦車ヘリコプターAH-1Sが20mm機関砲を射撃
模擬対空目標に対して射撃する87式自走高射機関砲(87AW)
行進射撃を行なう16式機動戦闘車(16MCV)。この車両は装甲車、自走砲の一種であって戦車ではない
発煙弾を発射し素早く後退する
稜線からの射撃、行進射撃、後退後進射撃を行なう10式戦車(10TK)
行進射撃を行なう90式戦車(90TK)
12式地対艦誘導弾(12SSM)。後段演習の最初にその性能がアナウンスされた
03式中距離地対空誘導弾(中SAM)も同じく紹介された
中距離多目的誘導弾(中多)
AAVが島に上陸し兵員を展開する
続いてUH-60Jが着陸、兵員が展開
CH-47JAからファストロープと呼ばれる方法で兵員が展開
CH-47Jによる高機動車の輸送
AAVが発煙弾を投射、続いて煙幕を張りつつ移動する
87式偵察警戒車(RCV)が敵情を偵察する
オートバイ斥候が進入、敵陣地に迫る
92式地雷原処理車(MBRS)が地雷を誘爆させる爆薬ブロックを発射
89式装甲戦闘車(FV)が35mm機関砲を発射
一瞬で豪雨に見舞われた会場に90TKが進入、行進射を実施
10TK、96WAPC、FVなどの車両が次々に進入
会場前方に並んだ車両が一斉に発煙弾を投射。「状況、終わり」のアナウンスにより全車停止、演習は終了した

そうかえんへの行き方

 そうかえんの行き方は、自衛隊が発行する「駐車券」を持っているか「入場券(当選はがき)」のみかで異なる。

1. 入場券+駐車券あり
指定された駐車場にクルマを停め、駐車場からのシャトルバス(無料)を利用する。会場に近い一部の駐車場はバスがなく、徒歩で会場に向かう。

2. 入場券のみ
御殿場駅からシャトルバス(有料)、またはタクシーを利用する。
※御殿場駅まではクルマではなく公共交通機関を利用。

 そうかえんは非常に人気の高いイベントで、地元御殿場市でも一大イベントとなっている。来場者に比べて市街地の駐車場のキャパシティは小さく、前夜から満車状態が続くため、朝になってから駐車場を探すのはほぼ不可能だ。当選はがきやチケットにも書かれているが、駐車券を持っていない場合は素直に電車で御殿場駅に向かった方が時間も読めて安心できる。

御殿場駅からのシャトルバス(最終日8月25日)

御殿場駅→会場: 6時~10時運行
会場→御殿場駅: 12時~15時運行
料金(往復): 大人1100円、小人550円
乗車時間: 約25分
富士急バスによる案内: PDF

タクシー利用

片道料金: 3000円程度
乗車時間: 約20分
※運転手は会場を知っているので「火力演習」と告げれば伝わる

 チケット、または当選はがきを持っていくのを忘れないように!

御殿場駅~会場を結ぶシャトルバス

スタンド席とシート席

 会場はスタンド席(A~Eスタンド)と前面シート席があり、座れるエリアはチケットに記載されている。見取り図は裏面。当選はがきで入場する場合は、会場入口でチケットと交換してもらい、Eスタンドか前面シート席に座る。Eスタンドはそれなりの収容力はあるが、シート席に比べて見晴らしがよいため、6時30分の開場からほどなくして埋まってしまう。会場までシャトルバスを利用する場合だと、始発でも間に合わない可能性がある。ただし、前夜から会場前に並ぶことは禁止。また、そうかえんは10時スタートだが、そのころには前面シート席を含めてほぼ埋まってしまうため、遅くとも9時には現地に着くように行動したい。

 また、万が一同行者とはぐれてしまった場合の集合場所などを細かく打ち合わせておくことが大切。過去には、会場ではぐれてしまった人が行方不明扱いとなり、危険防止のために夜間演習(見学には専用のチケットが必要)が中止されたこともあった。結局、一人で帰宅していることが確認されたが、このように自衛隊のみならずほかの見学者の迷惑となることもある。

会場「Bスタンド」裏。当選はがきの場合は「Eスタンド」もしくは「前面シート」に着席する
「Fスタンド」から見た観客席と畑岡地区(2018年8月19日撮影)
「Bスタンド」から見た観客席(2018年8月26日撮影)
「前面シート」は車両や航空機が近く、発砲の衝撃波も強く伝わる

そうかえんをできるだけ快適に過ごす

 そうかえんが行なわれるのは、東富士演習場(静岡県御殿場市)の畑岡地区と呼ばれるところ。

 日中の日差しは容赦なく、大勢の観客が密集するため風の通りもよくない。晴天になると人いきれのため非常に蒸し暑くなる。また、標高が800m前後のため雲に巻かれたり雨が降ったりするなど天候も急変しやすく、その際は気温が急激に下がる。夜間や朝夕も気温が低くなる。

 イベントを開催するのに適した場所とは言えないが、ここはあくまでも自衛隊の演習場であって一般人が過ごしやすいように工夫された場所ではないということは忘れないでおきたい。基本的には日差し対策、暑さ対策、雨対策、寒さ対策のすべてが必要だ。以下、無難な服装と持ち物を紹介したい。目安は「登山をするスタイル」。また、会場は混雑するので荷物はなるべくコンパクトにまとめたい。

推奨する服装、持ち物

・長そでシャツ
・長パンツ
・登山靴/トレッキングシューズ
・帽子
※服や荷物は土などで汚れる可能性がある
・タオル、ハンカチ
・日焼け止め
・上下セパレートタイプの雨がっぱ
※防水透湿素材のレインウェアは天候急変時の防寒具としても役立つ
・飲み物(多めに用意)

あると便利なもの

・携帯座布団
・サングラス
・耳栓
※筆者の祖父はそうかえんで耳が遠くなった。戦車の発砲の衝撃波は侮れない
・カメラ
※タブレットは頭上に掲げると後ろの人とトラブルになりがちなので避ける

持込禁止のもの

・椅子
・三脚
・日傘、雨傘
・ドローン
・ペット
・酒類(会場は飲酒禁止)
※クーラーボックスなど大型の荷物も避ける

 なお、トイレは会場裏に仮設のものが用意されているが、時間帯によっては最大10分程度並ぶこともあるようだ。また、Eスタンド側よりもAスタンド側(南側)の方が空いている傾向にある。会場裏には、菓子類やバッグ、キャップといった自衛隊グッズを販売しているテントがあるので、お土産などはこちらを利用する。ドリンク、弁当など飲食物を販売しているテントもあるので、必要な場合は早めに買っておきたい。

そうかえん終了後

 そうかえんの「後段演習」の終了は12時15分ごろ。終了直前から帰宅を急ぐ人が帰り始め、終了直後には御殿場駅や駐車場行きのシャトルバス乗り場には長蛇の列ができる。待ち時間は、筆者の経験では最大2時間程度。タクシーも同様で、バスもタクシーも並ぶ時間に極端な差はない。並んでいる間は買い物などもできないので、あらかじめドリンク類も用意しておくと安心だ。

「後段演習」終了後、会場では音楽隊の演奏があり、演習に登場した戦車やヘリコプターなどが展示され、13時15分ごろからはこれらに近付いてじっくり見学できる。ヘリコプターや一部の戦車などを除いて、触ることなども可能。貴重な機会なので、時間調整がてら見学したり記念写真を撮ることをオススメしたい。

 なお、装備品展示エリアは演習時に戦車などが走行した場所のため、足元は整地されておらず、ぬかるんでいたり小石が転がっていたりもする。土壌は火山岩や砂礫で靴の中に砂粒も入りやすいため、ハイカットのトレッキングシューズなどを履いていくとよい。

演習終了後、しばらくすると車両が退場する。会場をあとはにした観客も多いため、ロープ際まで見に行くことも可能だ(2017年8月24日撮影)
装備品展示のため、会場に着陸するCH-47JA(2018年8月19日撮影)
装備品はこのように並べられ、準備が整えば解放される(2017年8月24日撮影)
装備品展示は約1時間行なわれる(2017年8月20日、2010年8月29日撮影)
近くで詳細に見学できる貴重な機会だ(2018年8月26日撮影)

板倉秀典