【イベントレポート】パリ航空ショー2015

IHI、複合材製ファン部品やブレード補修などジェットエンジン技術をアピール

2015年6月15日~6月21日(現地時間) 開催

IHIのブースに展示された「PW1100G-JM」の1/3スケールモデル

 IHIは、パリ郊外のル・ブルジェ空港で開催中のパリ航空ショーに出展し、同社のジェットエンジン関連技術を中心に展示を行なった。

 IHIは、エアバスが開発中の「A320neo」型機に搭載されるプラット・アンド・ホイットニー製「PW1100G-JM」エンジンの国際共同開発に参加している。同社が開発、設計、製造を担当しているCFRP(炭素繊維複合材)製ファンケースと、ファン出口案内翼の実物が展示された。3

 ファンケースは、万が一ファンブレードが破断した場合にもブレードが外に飛び出して機体に損傷を与えないよう、突き破られない性質(「コンテインメント性」という)が求められる。同時に、非常に大きな部品であるため、軽量なCFRP製とする意義は大きい。

 一般的に、CFRPのような複合材は衝撃力に弱いが、PW1100G-JMでは、耐衝撃性の高い「D2樹脂」という変形エポキシ樹脂を用いることで必要な耐衝撃性を得た。ファンケースは、周方向へは非常に高い強度を求められるが、前後方向にはそれほど強度を求められないため、PW1100G-JMのファンケースでは“一方向炭素繊維”を巻き付けていく「フィラメントワインディング成形」という積層方法が採られている。積層を自動化することにより、製造工程の低コスト化が図られている。

PW1100G-JMのCFRP製ファンケース。IHIが開発・設計・製造を担当している
PW1100G-JMのファン出口案内翼。熱可塑性樹脂を用いたCFRP製は画期的。IHIが開発・設計・製造を担当している

 併せて展示されていたファン出口案内翼(Fan Outlet Guide Vane)は、ファンブレードから出てきた旋回成分を持つ空気の流れを真っ直ぐに整える役割があると同時に、ファンケースを支持する構造部材としての役割がある。そのため、構造案内翼(Structure Guide Vane)と呼ばれることもある。

 PW1100G-JMのファン出口案内翼は、熱可塑性樹脂を用いたCFRPとなっている。多くのCFRPでは、炭素繊維と熱硬化性樹脂を用い、オートクレーブと呼ばれる窯で加熱して硬化させる製法が採られるが、この方法は高い強度が得られる一方で製造に時間がかかる欠点がある。

 熱可塑性樹脂は、高温下で型にはめて硬化させるため、製造時間を大幅に低減できる。さらにロボットによるプリプレグ(繊維に樹脂を染み込ませたもの)の自動積層技術により、コストを大幅に低減した。熱可塑性樹脂は比較的高い靭性(じんせい:大きな力を受けてたときに変形してエネルギーを逃し、割れない性質)があるので、ファンブレード破断時の耐衝撃性も高い。

 ファン出口案内翼を出た後の空気は主にバイパスダクトを通り排出されるが、バイパスダクト内の一部には補機類が設置されている。それらの補機類には、積極的に空気を流して冷却したいものと、その必要はないものがあるため、ファン出口案内翼は5種類の形状があり、下流にある補機類への風の当たり方が最適となるよう組み合わされている。展示された2枚の出口案内翼も、よく見るとわずかに形状が異なっている。

 また、ファンブレードなどの補修技術の展示も行なわれた。ボンバルディアの「CRJ」シリーズやエンブラエルの「E-Jet」シリーズなどの小型機に搭載されている「CF34」エンジンのファンブレードの、損傷を受けた箇所を切り取り、同種の金属を溶接。元の形状と同じになるよう機械加工し、熱処理をして仕上げるという一連の工程が示された。ファンブレードは高価な部品であるため、この修理技術によるコスト削減効果は大きい。修理後の部品は、新品と同様の強度と寿命が得られるとのこと。

 メーカーであるGEを含めても、CF34のファンブレードを修理できるメーカーはIHIのみで、世界中からの修理を引き受けているという。

「CF34-8」エンジンのファンブレード補修技術の展示。左から、損傷を受けたブレード、損傷部の切り取り、補修部分の溶接、仕上げ加工の順に並んでいる
「CF34-10」エンジンのファンブレード補修

外江 彩