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三菱ふそう、「ローザ」4WDモデルの復活に合わせて富山工場を報道公開

インバウンド需要の高まりで大型観光バス生産が前年比2割増、来年度さらに増産へ

2015年12月16日 実施

「ローザ」の4WDモデルと三菱ふそうバス製造の菅野秀一社長

 三菱ふそうトラック・バスは12月16日、同社のバス生産拠点である三菱ふそうバス製造(富山市)で報道関係者向け説明会を実施した。11月に三菱ふそうバス製造の取締役社長に就任したばかりの菅野秀一氏からの挨拶があった。

三菱ふそうバス製造株式会社 取締役社長 菅野秀一氏

 菅野氏は三菱ふそうバス製造の社長就任前は、ダイムラーグループの、ダイムラー・インディア・コマーシャル・ビークルズで副社長兼開発本部長、さらに以前には国内で大型バスのプロジェクトリーダーや開発、商品企画を担ってきた「単にインドから来た人間ではなく、もともとバス一筋」(同氏)という人物。2007年に大型観光バスが15年ぶりのフルモデルチェンジをした際にはプロジェクトリーダーを務め、「エアロクィーン」に加えて、「エアロエース」をラインアップ。2008年には大型2階建てバス「エアロキング」の復活、2009年には大型路線バス「エアロスター」のノンステップバスの復活、2011年には中型路線バス「エアロミディ」の復活と、次々に“復活”に関与。社長に就任したての先月11月11日には、小型バス「ローザ」の4WDモデルも復活した。

「ダイムラー・トラック・アジアのなかでバス事業をリードしていく所存であり、これが当社の発展、継続に繋がると確信している。三菱ふそうバス製造にはお客様を求めるバスを作り続け、お客様に愛され、親しまれ、信頼される会社になりたいという思いが込もった企業理念があるが、富山で作った日本一のバスでお客様の期待を上まわる価値を提供することで、満足、感動を与えるためにも、この企業理念を頭においている。私は元々はバスに情熱を注いできた男。それがインドを経由して、再びバス事業に戻って来られた。これからの三菱ふそうのバス事業の将来、新たな道を描いていきたい」と意気込みを語った。

左から三菱ふそうバス製造株式会社 取締役 バス工作部長 冨田恵一氏、同取締役 最高財務責任者 日出嶋達郎氏、同取締役社長 菅野秀一氏、三菱ふそうトラック・バス株式会社 バス開発部 マネージャー 横山賢司氏

 また、急激に増加するインバウンド観光客を背景に、バス事業者には、外国人観光客受け入れのための観光バスの新車導入あるいは増車の需要が高まっている。三菱ふそうにおいても大型観光バスの受注が増えており、現在納車までに約10カ月の期間が必要になっているという。また、小型バスのローザについても国外需要が高まっているそうだ。

 同社の生産台数は、大型バスでは2012~2014年はおおむね1100台程度だったが、2015年は約2割増の見込み。中型バスは2012年から製造を再開し、2014年は71台を生産。2015年は1割増の生産を見込む。小型バスは2014年は輸出が5018台、国内は1015台を生産し、2015年は国内外合わせて5%増を見込んでいる。

 菅野社長は「従来、バスの総生産台数はほぼ決まっていた。これまでの流れでは、大型が好調だと小型が落ち込む、小型がよいと大型が落ち込むというサイクルだったが、今年からは大型、中型、小型すべての機種に高い需要があるということで、その対応に苦心しているところ」とし、増産に向けて取り組みを行なっていることを紹介。

 1つは設備の改善で、生産工程でボトルネックとなっていた塗装ラインを、それまで共用していた大型、小型でラインを分離。2013年から工事を開始し、2015年9月からその稼働を開始した。

 2つ目は人員の増員。2016年度新卒採用、中途採用、期間従業員の受け入れなど、具体的な数字や比率はコメントできないとしたものの、大幅な増員対応をしているという。3つ目は残業、休日出勤を行なうことで、工場の稼働時間を延長している。

 これにより、大型/中型について2015年度は2割増の生産、2016年度についてもさらに2割増の増産を目指すとしている。

 また、2020年以降の観光バス需要について菅野社長は「国の方からは2020年に外国人観光客が3000万人という数字も提示され始めており、ますます利便性のよいバス、国全体のシステムも考えてくという声も聞こえる。私としては2020年を超えても、鈍化するかなどは分からないが、それなりの需要は期待できると思っている」とした。

降雪地や凍結路面での走行を想定した「ローザ」の4WDモデル

「ローザ」4WDモデル

 このほか、11月11日に発表した小型バス「ローザ」の4WDモデルについても説明があった。ローザは1997年10月にフルモデルチェックした際に2WDと4WDのモデルをラインアップしたが、2011年に“平成22年排ガス規制”に準拠したモデルを投入する際に2WDのラインアップとなった。この時、菅野社長が商品戦略の本部長を務めており、開発の優先順位の観点で4WDモデルの投入を諦めたという。

 しかしながら顧客からの要望が高く、それに応えて“復活”することになった。年間販売台数は150台程度を見込む。オンロード4WDとしての位置付けであり、降雪地域や寒い地域での凍結路面を想定。もう少し具体的には、北海道、東北、北陸などの自治体や福祉施設、スキー場、乗り合いバスを想定しており、このような地域、顧客からの要望が高かったとしている。

 後輪駆動の2WDモデルをベースに、前輪にも駆動装置を装備。前輪サスペンションは2WDモデルとは異なるものを採用。前後輪のトルク配分は前輪に40%、後輪に60%とし、すべりやすい路面での発進性や直進安定性を高めた。

 2WDモデルで達成した各種機能は継承。エンジンは直列4気筒 3.0リッター直噴ターボディーゼルエンジンの「4P10(T4)」で、効率的な燃料、再生制御式DPFによるPM削減、尿素SCRによるNOxの浄化を行なう「BlueTec」テクノロジにより、平成22年排出ガス(ポスト新長期)規制だけでなく、PM 10%低減の低排出ガス認定も受けている。

 経済性については、燃焼効率の高い4P10エンジンと、デュアルクラッチ式AMTの「DUONIC 2.0」により、量産車モード燃費で9.5km/Lという燃費性能。平成27年度重量車燃費基準+5%を達成した。社内試験では、ローザ4WDの旧モデルのAT車に対して17~19%の改善となったほか、旧モデルのMT車に対しても3~5%の改善であるという。

 安全性については、欧州で定められている2012年乗員保護規制に適合。通常シートをすべて3点式シートベルトとしたほか、補助席についても2点シートベルトを搭載している。

 デュアルクラッチ式AMTのDUONICは、アクセルを踏み込んだ際に急発進を極力抑えるよう、トラックに搭載されているものとは異なるバス独自の制御を行なうことで安全性に配慮した。

 また、ドアの自動開閉については、Pレンジに入っている時のみ稼働するほか、ドアが開いた状態ではシフトレバーをPレンジにロックする仕組みとすることで、ドアが開いた状態=乗降中の誤発進を防いでいる。

【お詫びと訂正】初出時、エンジンの型式を「4P10(T6)」としておりましたが、正しくは「4P10(T4)」を搭載しています。お詫びして訂正いたします。

前方
後方
側面
乗降口のステップ
フロントタイヤ(写真左)とリアタイヤ。サイズは共には205/85R16
フロント部から下部を見たところ
4WDロゴ
BlueTecのロゴ
フロント側にDUONIC 2.0のロゴ
運転席まわり
運転席
シフトレバー
コンソール部
シートは3点式シートベルトを装備
補助席は2点式シートベルト
客室前方より
客室後方より
運転席と助手席

大型から小型までを生産する富山工場

 最後に三菱ふそうバス製造の小型バス生産ラインを見学できたのでフォトレポートをお届けする。小型バスであるローザの生産は2010年から富山で行なっており、先述のとおり2014年度実績で国内外合わせて6000台強を生産。今年度の生産台数は5%増を見込んでおり、輸出好調の波に乗って来年度以降の増産も計画している。

三菱ふそうバス製造の生産ライン。水色の部分が小型バスの生産ラインで、右下の紫色部分が小型~大型で共用しているライン
ルーフやサイドなど6面のパネルを組み立ててボディを作って行く。ロボット溶接機は2009年以前は名古屋で使っていた機器を移管したという
ボディの電着~塗装ライン。電着は共用工程。その先の塗装工程も共用していたが、先述のとおり生産増に向けて小型、中型/大型で分ける工事を実施し9月から稼働を開始した。中央の写真の真ん中にある黄色いシャッターが小型のライン、左の「1」と書かれたシャッターの先が大型/中型のラインとなる
シャシーの製造ライン。燃料タンクやタイヤ、エンジンなどが順々に付けられている
シャシーとボディを結合後、底面の板などを張るなどの作業が行なわれる
この写真の通路を渡るところまではベルトコンベア場の作業。モーターを使って押して通路を越えたあとは、自走して作業が進められていく
シートや窓ガラスの取り付け工程
検査工程。蛍光灯の光を大量に当てているところはボディの傷などをチェックする工程。その先でUターンして各種検査を進めていく
漏水がないかをチェックするシャワーテスト
こちらは倉庫。屋外作業が不要なよう、屋内へトラックを乗り入れて荷物を積み卸しできる

(編集部:多和田新也)