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京都府舞鶴市、シベリア抑留の引き揚げ資料がユネスコ記憶遺産に登録

「引き揚げと海軍ゆかりのまち舞鶴 in 東京」を12月25日~27日に開催

2015年10月9日開催

ユネスコ記憶遺産の登録可否がまだ発表されていない段階で、都内にて説明会が開催された

 京都府舞鶴市は10月9日、報道陣向けに「ユネスコ記憶遺産」の登録への取り組みの報告と、首都圏における観光プロモーション展開に関する説明会を開催した。舞鶴市が東京で報道関係に説明会を開催するのは、今回が3回目。なお、舞鶴市が申請した舞鶴引揚記念館が所蔵する資料「舞鶴への生還 1945~1956シベリア抑留等日本人の本国への引き揚げの記録」は、10月10日にユネスコ記憶遺産として登録が決定した。

左から、京都府 舞鶴市 副市長の堤茂氏、同 文化振興課長 石原雅章氏、同 観光商業課長の櫻井晃人氏

 ユネスコ記憶遺産の登録については、10月4日~10月6日までアラブ首長国連邦のアブダビで開催されているユネスコの国際諮問委員会で可否が決定し、10月8日~9日には発表される見込みで、報道陣向け説明会には舞鶴市市長、舞鶴引揚記念館館長が出席予定だったが、説明会開催時点で登録可否の正式発表はされておらず、市長、館長の代わりに、副市長と文化振興課課長が出席することとなった。

引き揚げから70年の今年を一つの区切りとして、後世に語り継いでいきたいと副市長の堤氏

 まずは、舞鶴市副市長の堤茂氏が登壇し、舞鶴市の概要や、ユネスコ世界記憶遺産の登録に向けた取り組みについて説明した。

 舞鶴市は京都府の日本海側の港町で東西に街が分かれており、西地区は戦国時代の有名な武将「細川幽斉」の田辺城の城下町、東地区は連合艦隊を率いた東郷平八郎が初代司令長官となった舞鶴鎮守府として発展してきた。現在、海上自衛隊の舞鶴地方総監部があり、休日には護衛艦などが停泊する桟橋や、旧海軍の歴史資料が展示されている海軍記念館など、多くの見学者で賑わっている。

 第二次世界大戦後、海外に残された日本人の引き揚げ港に指定され、1945年~1958年まで13年間に渡り、約66万人を迎え入れた。旧ソ連のナホトカ港からは、46万人のシベリア抑留を体験した人々を迎え入れた。引き揚げ者にとって、舞鶴は人生と生活の第一歩を踏み出した再出発の地となっているという。

 1988年、体験者の労苦を継承する拠点として、舞鶴引揚記念館を開館。マイナス40℃を耐えた防寒服や手記、没収を免れた抑留時の資料など、全国から寄贈された資料1万2000点を所蔵している。

 舞鶴市は、2012年に引き揚げ関連資料のユネスコ記憶遺産登録を目指すことを表明。2014年6月12日に日本ユネスコ国内委員会における国内選定で日本代表に選ばれ、今年10月4日から開催されているユネスコ国際諮問委員会で審査された。2012年から3年あまり、街ぐるみで登録を目指す取り組みがされ、市民団体「舞鶴引揚記念館資料のユネスコ世界記憶遺産登録を応援する会」をはじめ、全国から5万人を超える署名が集まった。

「登録の可否に関わらず、市をあげて引き揚げに携わってきた舞鶴の責務として、引き揚げの特別巡回展を企画。9月28日にリニューアルオープンした舞鶴引揚記念館と共に、引き揚げから70年の今年を一つの区切りとして、後世に語り継いでいきたいと考えている」と副市長の堤氏は締めくくった。

複合キャンペーン「来て―な舞鶴2015キャンペーン」を説明する観光商業課長の櫻井晃人氏

 ユネスコ記憶遺産の登録、戦後70年という区切りと同時に、7月に京都縦貫自動車道が全線開通し周辺地域からのアクセスが向上したことを機会に「来てーな舞鶴2015」キャンペーンを展開。キャンペーン詳細は、舞鶴市の観光プロモーション事業を担当している、舞鶴市観光商業課長の櫻井晃人氏から説明があった。

「来てーな舞鶴2015キャンペーン」は、戦争を知らない若い世代にシベリア抑留や引き揚げに関する史実を継承し、平和の尊さを広く発信する「引揚の史実の継承事業」と、“引き揚げのまち““海軍ゆかりのまち"をキャッチフレーズに舞鶴の魅力を訴求する「観光誘客キャンペーン」の2つを併せた複合キャンペーン。首都圏と地元・舞鶴で展開する。「観光誘客キャンペーン」は昨年度に続いて2回目となるが、首都圏で「引揚の史実の継承事業」を展開するのは初めての試み。

 キャンペーンで、首都圏で展開するのは、下記の3つのプログラムとなる。

初開催となるシティPRイベント「引き揚げと海軍ゆかりのまち舞鶴 in 東京」

「心を繋ぐはがきと手紙」をイベントテーマに、会場を「海軍ゆかりのまち・舞鶴」と「引き揚げのまち・舞鶴」の2つのゾーンに分けて展開。観光PRとしては、海軍グルメを代表する「カレー」のレトルト商品や菓子類の販売や「舞鶴クイズラリー」などを実施。引き揚げに関する展示としては、「岸壁の母」のモデルとなった端野いせさんが、息子が引き揚げてきた際の連絡用に書いたはがきを中心に、舞鶴引揚記念館が所蔵する約1万2000点の中から、「はがきや手紙」「郵便ポスト」などにまつわる資料や情報を紹介する。

 引揚港に指定された都市での特別巡回展開催を予定しており、その皮切りとなる。丸の内にあるKITTE地下1階東京シティアイパフォーマンスゾーンで、12月25日~ 27日の3日間開催され、入場は無料。

一般参加型公開講座「海の京都 舞鶴学講座2015」

 昨年に続いて2回目の開催となる。ユネスコ世界記憶遺産に登録申請した「舞鶴への生還 1945~ 1956シベリア抑留等日本人の本国への引き揚げの記録」や、「引き揚げと復員」について、一般向けにわかりやすく解説する講座を行う予定。観光歴史文化論の現地調査のために舞鶴を訪れた東洋大学国際地域学部国際観光学科の須賀ゼミ生による「成果報告」も併せて開催する。

 11月14日に、東京都文京区にある東洋大学白山キャンパス内で開催。先着80名で、参加料は一般が500円、学生が無料となっている。

「おいしい舞鶴!いただきますフェア」

 都内飲食店や大学の学生食堂の協力を得て、舞鶴にゆかりのある料理や舞鶴食材を使った料理などを、期間限定で提供する。東洋大学8号館 伝説の三丁目食堂では、11月9日~13日まで、1日50食の肉じゃが丼を提供。肉じゃがは舞鶴発祥ともいわれ、海軍の「海軍厨業管理教科書」にレシピが載っている。一般的な肉じゃがと違い、肉に濃いめの味を付けて炒め、味が付いた肉と少ない水分で、ホクホクした食感が特徴だという。

 東京都新宿区の神楽坂にある「和風居酒屋 神楽坂 吉(きち)」「厳選産地のこだわりお肉料理 わらっとこ 神楽坂店」では、じゃこだしと舞鶴かまぼこなどの水産加工品を生かした「舞鶴おでん」や、「万願寺焼き」などの提供を予定している。

 舞鶴で展開するキャンペーンとしては、10月24日~12月28日まで、市内の郵便ポストに貼ったQRコードを利用したプレゼントキャンペーン「“まいづる”まち歩き2015キャンペーン」などが開催される。

シベリア抑留をスケッチで記録した安田清一氏が登場

特別ゲストとして、シベリア抑留・引き揚げ体験者の安田清一氏が登場

 キャンペーンの説明が一通り終わると、特別ゲストとして、シベリア抑留・引き揚げ体験者の安田清一氏が登場。複製古文書の作成に取り組んでいる富士ゼロックス京都から寄贈されたスケッチブックのレプリカも披露された。安田氏が抑留中、1947年5月にイルクーツクで開催されるメーデーの様子を描くようソ連側から指示があり、スケッチブック2冊と絵の具セットを渡された。このスケッチブックは、任務終了後、余ったスケッチブックと絵の具をソ連側から貰い受け、収容所や炭鉱での労働の様子、収容所周辺の町の様子などを描いたもの。度重なる所持品検査を免れ、奇跡的に持ち帰ったもので、ユネスコ記憶遺産の登録資料のひとつでもある。

 スケッチブックを手に、安田氏はスケッチブックに絵が描かれた抑留中の生活を語った。重労働と粗食で暗くなりがちな抑留生活において、数少ない娯楽として音楽隊や演劇隊などの芸術活動が許されていた。安田氏は文化部担当として、絵で記録をしたという。安田氏は「戦後の話を取り上げる際、抑留の話題が少ない。ユネスコ記憶遺産に、このスケッチブックが登録されてうれしいが、これを機会にシベリア抑留・引き揚げについて、もっと知ってもらいたい」と語った。

安田氏から、抑留中の生活やスケッチブックについての話が披露された
安田氏は、スケッチブックを手にスケッチブックに描かれた内容を解説
スケッチブック(レプリカ)の表紙
ロシア語と漢字で、安田氏の名前が書かれている
1946年、炭鉱開発の作業場での様子
1949年当時の収容所全景
カラフルな色彩で描かれているが、実際の看板も看板製作業だった安田氏が作成したという

(政木 桂)