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メルシャン、「シャトー・メルシャン ハーベスト・フェスティバル 2015」
報道陣向けにツアーで製造設備や自社管理畑を公開
(2015/10/13 19:36)
- 2015年10月10日開催
メルシャンは10月10日~12日の3日間、山梨県甲州市のワイナリー「シャトー・メルシャン」にて、「シャトー・メルシャン ハーベスト・フェスティバル 2015」を開催した。このフェスティバルは、ワインの仕込みが最盛期を迎える季節に毎年行なわれ、日本ワインの魅力を紹介するイベント。チケット制で、ワインのテイスティングやタパス(酒のツマミ)を味わえる。イベントの初日には報道陣向けのツアーが組まれたので、その様子をレポートする。
最寄り駅である「勝沼ぶどう郷駅」は山梨県甲州市勝沼町に位置し、その名の通り、周囲にぶどう畑やぶどう園が立ち並ぶ。駅からワイナリー「シャトー・メルシャン」に移動し、インフォメーションカウンターとしての役割を持つ「ビジターセンター」へと向かった。
ビジターセンターでは、代表取締役社長・CEOの横山清氏から、「昨年のハーベスト・フェスティバルは、台風の影響で悪天候となったが、今年はいい天気に恵まれた。このイベントはメルシャンにとって大切なイベントなのでホッとした」との挨拶があった。続けて、いま日本ワインが注目を浴びており、以前は欧米の伝統国のようなワインを作っていた時期もあったが、現在は、日本の気候や土地などに適したぶどうで、それを元にしたワイン作りをしており、日本人にとっておいしいワインを作っていこうと意識が変わっていると語った。
シャトー・メルシャン ゼネラル・マネージャーの松尾弘則氏は、資料を元に、日本ワインと日本のワイン市場について解説をした。現在は、第7次ワインブームで、消費数量は2年連続過去最高を更新している。その中で、日本で作ったぶどうから日本で作った「日本ワイン」の市場規模は、約2%。まだ伸びしろがあり、今後、市場としては大きくなるとの見込みだ。
日本ワインが注目されている裏付けとして、2015年6月に東京の豊洲公園で行なわれた第1回「日本ワインMATSURI祭」では、想定の3倍になる1万5000人の入場者数を達成。長野県では、ワインバレー構想で行政と一体になった取り組みが展開され、日本固有品種「甲州」と「マスカット・ベーリーA」が「O.I.V.(国際ぶどう・ワイン機構)」に登録されるなど話題が多く、期待感が高まっているのを実感しているとのこと。そのなかで、シャトー・メルシャンは、ワイン業界のリーディングカンパニーであり続けたいという意気込みで、ワイン作りに取り組んでいる。
シャトー・メルシャンのルーツは、1877年、日本最初の民間ワイン会社である「大日本山梨葡萄酒株式会社」。当時まったくワインの知識も技術もなかったため、2人の青年をぶどう栽培とワイン醸造を学ぶためフランスに派遣。横浜港を出港したのがちょうど10月10日で、甲州市では10月10日を「甲州ワインの日」と定めている。
シャトー・メルシャンでは、「はじめにブドウありき」を合い言葉に、いいワイン作りはいいブドウ作りからと、原料であるぶどう栽培に力を入れて取り組んでいる。原料ぶどうとして、産地に合ったぶどう品種を栽培。山梨、長野、福島、秋田の4県で契約栽培、長野県と山梨県に自社管理畑がある。ぶどう栽培地は、東日本の内陸部の盆地を中心に展開。各地で収穫された原料ぶどうは年間で約600トンになり、それらはすべて、このシャトー・メルシャンで加工される。シャトー・メルシャンでは自社管理畑の拡大を開始し、2027年までに約60ヘクタールの植栽の完了を目指している。
また、「フィネス&エレガンス」(調和のとれた上品な味わい)をコンセプトに、とがった味わいや、強い主張ではなく、ワイン中の色々な成分が溶け込んで凝縮された日本のワインの個性を出すことを目指している。「フィネス&エレガンス」実現のため、数々の取り組みがされている。収穫はすべて手作業で、選果も手作業で徹底的に行われる。白ワインの破砕は、炭酸ガスを充填しながら酸化防止をし、産地、畑、区画ごとに仕込み分けができるよう小容量タンクを導入。2010年には製造設備をリニューアルし、温度管理や窒素ガスによる嫌気的処理、重力を利用した移動などを実現している。
一通りの説明が終了し、テイスティングとなった。記者の前にはテイスティンググラスが4つ用意され、柑橘系の香りと心地よい酸味の「シャトー・メルシャン 甲州きいろ香 2014」、グレープフルーツのような柑橘系に加えトロピカルフルーツのような香りも感じる爽やかな味わいの「シャトー・メルシャン マリコ・ヴィンヤード ソーヴィニヨン・ブラン 2014」、奥深く濃厚で甘い香り。しっかりとした酸味がある「シャトー・メルシャン 穂坂マスカット・ベーリーA 2011」、まろやかな旨みの中にしっかりした味わいを感じる「シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原メルロー 2011」をそれぞれ試した。桔梗ヶ原のメルローは、力強く凝縮感の垣根式栽培と、落ち着きのある複雑味の棚式栽培を採用し、バランス良く原酒を組み合わせている。数々の賞を受賞し、生産本数約1300本の人気ワインだ。
テイスティングが終了すると、ハーベスト・フェスティバル会場で振る舞われているタパスが運び込まれ、常務執行役員 生産・SCM本部長の奥田嘉明氏の乾杯で、食事を兼ねた休憩となった。
食事休憩のあとは、ハーベスト・フェスティバルの会場に移動。このイベントは1974年から始まり、今年で40回目となる記念の年(1年だけ開催しない年があった)。「シャトー・メルシャン」シリーズや、「日本の地ワイン」「日本のあわ」シリーズといったワインを、チケット制で楽しめる。チケットは1枚100円で、5枚綴りは500円、サービスワインが付いた10枚綴りが1000円となっている。ワインのテイスティングには、テイスティング用グラスをチケット2枚で購入しなくてはならない。グラスは持ち帰り用にケースをもらうことができる。開始早々完売する人気ワインもあった。
会場では、ワインに合う「鳥もつ煮」「タンドリーチキン」「タコス」といった世界のタパス、ソフトドリンクなども提供。東京・六本木のコンセプトショップ「シャトー・メルシャン トーキョー・ゲスト・バル」が手がける料理(チーズや生ハム)は大人気で、行列が途切れることがなかった。ワインショップやワイン資料館がある広大な芝生スペースを自由に使うことができ、貸し出し用のレジャーシートも用意されていた。
ステージでは、ぶどう踏み体験やライブ、クイズなども企画され、口だけではなく目や耳でも楽しめるイベントになっていた。ぶどう踏み体験は、昔ながらの製法の一部を再現したもので、素足でぶどうを踏むもの。ぶどうは梗に着いたままだと発酵しないため、現在は「除梗・破砕機」を使い梗を取り除くが、昔はぶどうを素足で踏んで潰していた。紀元前からこのような方法でワインが作られていたという。
ぶどう踏み体験で用意されたのは甲州70kg。50本のワインを作れるという。今回のぶどう踏みはイベント用のものでワインにはしない。まず、ワイン娘によるデモンストレーションが行なわれ、その後、希望者による体験となった。足をふくためのタライやタオルは用意されていた。
ハーベスト・フェスティバル会場にある「ワイン資料館」の見学の後、報道陣は製造設備に移動した。ここから先は「ワイナリー見学ツアー」でも入れない場所で特別なもの。まずは選果と破砕、圧搾が行なわれている様子を見学した。「フィネス&エレガンス」のため、徹底してぶどうを厳選。房選り、粒選りの2段階選果を行っている。圧搾はプレス機内でバルーンを膨らませ、適度な圧力をかけてやさしく果汁を搾る。
果汁はステンレスタンクに移し、徹底的な温度管理のもと発酵させる。発酵させたワインはオーク樽に移し、温度・湿度を管理しつつ貯蔵が行われる。見学ツアーでは貯蔵庫の一部を見ることもできるが、今回は非公開のさらに奥まで見ることができた。奥の貯蔵庫も同様に無数の樽が貯蔵されているが、別区画には瓶貯蔵がされていた。近々出荷される瓶もあったが、1950年代や60年代といったヴィンテージワインが貯蔵されている棚もあった。
最後に、シャトー・メルシャンが自社管理している「城の平ヴィンヤード」を見学した。標高550~600mの内陸性盆地で、1984年からカベルネ・ソーヴィニヨンをギュイヨ・サンプル式の垣根仕立てで栽培している。カベルネ・ソーヴィニヨン以外に、カベルネ・フランやメルローなどの栽培、また、実験的な挑戦がされている畑でもある。見学時、メルローなどはすでに収穫され、カベルネ・ソーヴィニヨンが残っているのみだった。
「城の平ヴィンヤード」の一部は土壌改良試験区で、酸性の土壌を牡蠣の殻で中和しているという。よく見ると細かい牡蠣殻が地表に見受けられた。ゼネラル・マネージャーの松尾氏は、ぶどう栽培の苦労などを解説し、ツアーは終了となった。
松尾氏にワイン造りの苦労を尋ねると、「ワイン作りはすべてが苦労だが、その苦労が楽しい。果実は貯蔵ができず、すぐにワインにしなくてはいけない。ぶどうを見て、その時その時で臨機応変に対応しなくてはならない。どう作るか瞬時に悩むのが苦労であり、楽しみでもある」と語った。
「シャトー・メルシャン ハーベスト・フェスティバル」は毎年この時期に開催される。今回紹介したような報道陣向けツアーのような場所には行けないが、チケットを購入し、広場でワインを片手に世界のタパスを楽しむのは、ワイン好きにはたまらないイベントとなるだろう。