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JALとヤマハ、東京五輪は日本の技術力で“おもてなし”。インバウンド向けリアルタイムアナウンス翻訳システム「おもてなしガイド」の実証実験を公開
(2015/7/16 18:40)
JAL(日本航空)とヤマハは、空港の搭乗口で行なわれる搭乗時刻案内などのアナウンスを多言語へ翻訳し、スマートフォンに表示できるシステム「おもてなしガイド」の実用化を目指し、新バージョンを7月16日に報道陣向けに公開した。新バージョンでは、リアルタイムの肉声アナウンスを自動的に翻訳し、スマートフォンの画面にアナウンスの内容を表示できる。
「おもてなしガイド」は、ヤマハと情報通信研究機構が共同開発したシステムで、空港内などで行なわれる建物内のスピーカーから流れるアナウンスを音声認識し、テキスト情報化したものを、さらに人間の可聴領域外である18~20kHzの音に変換してスピーカーから流すことで、スマートフォンのマイクからその音をキャッチしてそのテキスト情報を表示させる仕組み。
これにより、インバウンドの旅行者は、スマートフォンに「おもてなしガイド」のアプリさえ入れておけば、日本語しかアナウンスが流れない場合でも、自国の言語でアナウンス情報を受け取れる。これは旅行者が言葉の壁を気にせず的確な情報を受け取れるというメリットがあるのはもちろん、アナウンスを行なう事業者もアナウンスを多言語化する手間やコストを省略できる。さらに、自動放送として用意されていないイレギュラーな事態が発生したときのアナウンスも音声認識と翻訳により、多言語で届けることができる。また、自動放送による多言語でのアナウンスは、1つのアナウンス内容を放送する時間が長くなり、アナウンスを聞き逃した場合に次の繰り返しのアナウンスまで待たされるというケースがあるが、本システムを使えば、多言語を流す必要がないため、繰り返しの間隔を短縮できる。インバウンドの旅行者以外の日本人でも老齢などで聴覚障害のある人に対して情報を正確に伝達できるというのもメリットとして大きい。「おもてなしガイド」の特徴をまとめると下記の通り。
「おもてなしガイド」の特徴
・スマートフォンの利用者が設定している言語へ自動的にアナウンスが翻訳されてテキスト情報として表示される。
・自動放送として用意されていないイレギュラーな事態が発生したときのアナウンスも音声認識と翻訳により、多言語で届けることができる
・アナウンスの途中でも1秒前後音声を受信できれば、アナウンス内容をスマートフォンに表示できる
・スマートフォン側の受信はインターネット環境が不要。日本のインターネットサービスを契約していない旅行者でもアプリさえインストールしておけば使用できる
・音声認識は既存の定型文やデータベースと照会して文面の自動修正が可能
・Bluetoothによるビーコンなど電波を使用しないため、バッテリー消費に与える影響がほぼ皆無
・情報が受信できる範囲は、人の耳がアナウンスを聞ける範囲とほぼ同じとなっており、情報の発信を特定の領域だけに限定できる
・既存のアナウンスの放送設備を活用してシステムの導入ができるため、導入コストが安い
・自動放送と肉声アナウンスの両方に対応できる
JALとヤマハは、搭乗口のアナウンスで「おもてなしガイド」を実用的に導入することを目指しており、実証実験を6月22日~9月30日の期間で取り組んでいる。実証実験のうち、6月22日~7月17日には羽田空港第1ターミナルの関西国際空港行き便(JAL221便/JAL229便)のアナウンスで実際に「おもてなしガイド」による、日本語、英語、中国語の配信が行なわれた。今回の実証実験では、実用化の前段階として、iPad Miniに「おもてなしガイド」の配信用アプリを入れ、空港係員のアナウンス時にその内容に合わせて定型内容を配信した。
7月16日に公開されたデモンストレーションでは、リアルタイムの肉声によるアナウンスから自動的に音声識別をし、その内容を運行する便名や定型メッセージと照らし合わせて自動的に補正しつつ、「おもてなしガイド」のデータとして配信するシステムが公開された。
音声認識技術は精度が向上しているが、まだ完全に意図した内容を識別することはできない。例えば数字の「1(いち)」と「7(しち)」などは普通に人間が聞いても聞き間違えることがあるため、音声認識においても同様だ。これに対して本システムでは運航便の便名と照らし合わせて正確なものに補正するため、音声認識の精度が低い場合も結果的には正しい内容のアナウンスが配信された。
ヤマハの担当者は「どんな環境でも現場で使えるシステムを目指している」と語っており、音をユニバーサルデザイン化する「Sound UDプロジェクト」として、2015年度は引き続き実証実験を行ない、2016年度は実用化に向けて開発を進めていくという。既に羽田空港以外にもイオンモールや東急バス、渋谷センター街などでも実証実験を進めている。
また、JALの担当者も2020年のオリンピックに向けてインバウンドの訪日旅行者が増えるため、旅行者に対する日本の“おもてなし”として実用化を目指していきたいと意欲を見せていた。