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首都高、BIM/CIMデジタル3次元モデルを活用した補修工事など「DXビジョン」を説明。MRゴーグルとの組み合わせで作業時間を短縮

2023年9月27日 実施

首都高速道路株式会社 代表取締役社長 前田信弘氏が定例会見でDX推進化などを説明

 首都高速道路は9月27日、霞が関の本社で定例会見を開き、代表取締役社長の前田信弘氏が首都高におけるDXの推進ならびにトピックスなど、5つの項目に分けて説明した。

 冒頭では、高速大師橋リニューアルに伴い5月27日5時~6月10日5時の2週間、大規模な通行止めを実施して行なった工事が無事に完了したことへの感謝を述べた。

デジタル技術を活用した首都高の取り組み

 最初に現在取り組んでいるDXの推進について説明した。同社ではインフラの高齢化や技術者不足、日々激甚化する自然災害リスクなどの社会環境に対応するため、道路の維持管理を中心とした生産性の向上、高度化などに向けてデジタル技術の活用を推進している。今回はBIM/CIMを活用した補修・補強工事とICT建設機械による舗装切削工事の事例を紹介した。

 BIM/CIMは国土交通省が提言した「Building/Construction Information Modeling, Management」の略で、コンピューター上に現実と同じ建物の3次元モデルを作成して活用するもの。作図されたものは壁や柱などのパーツを集めたオブジェクト集合体であり、構成するパーツには寸法や素材といった情報を埋め込める。それを計画・調査・設計段階から導入し、その後の施工や維持管理にも使い、事業全体にわたる関係者間との情報共有を容易にし、生産性の効率化や高度化を図るものだ。

 首都高においては、複雑な構造物の補修管理、狭隘な作業空間における全体像の把握が課題となっていた。BIM/CIMを取り入れた試行工事は9号深川線 木場付近で行なった。補修における情報管理では、損傷場所にはピンなどで分かりやすく表示させるようにし、属性情報として点検記録などを付与することで、現場管理の確実性および効率性が向上することが確認された。

 作業の効率化については、BIM/CIMモデルとMRデバイスを組み合わせることで、あて板用下地処理範囲の罫書き作業が従来の作業時間と比較して約4割の削減、約3倍の生産性向上につながったとしている。

BIM/CIMの導入背景。国土交通省では3次元モデルの活用を義務項目とし、一定規模以上の工事については原則適用を義務付けている
BIM/CIMモデルを作成し、現場においては作業員がMRゴーグルを装着して工事にあたった

 ICT(情報通信技術)を活用した事例としては、湾岸線(西行)臨海副都心付近における既設舗装の切削を紹介した。

 施工機械の位置をGNSS(衛星測位システム)で測定し、センサーによる路面情報をもとに切削ドラムを自動制御するものだ。結果は切削精度の品質が向上し、作業時間の短縮、オペレーターの作業低減、安全性の向上が図られたと説明した。

ICTを導入した背景
路面掘削機にGNSSで測定した位置データを渡し、センサーで路面状態を計測しながら切削厚を自動で制御する

 DXを推進するにあたり、5つの柱で構成した「首都高DXビジョン」を策定し、2030年代までに実現したいと前田社長は述べ、具体的に取り組む内容についてはアクションプログラムとして今年度に取りまとめる予定だと話した。

配布されたパンフレットには5つの柱で構成したDX化のビジョンが描かれていた

地震と大雨対策をメインとした防災への取り組み

 激甚化する自然災害などに備え、ハード面とソフト面における防災への取り組みも重要な施策になっている。いくつかの災害のなかでも特に力を入れているのが、地震と大雨への対策だ。前田社長が「首都高の使命は24時間以内に緊急車両などが通るルートを確保するということです」と述べたように、迅速な情報収集と道路啓開を行なうことにある。

 ハード面では高架橋の安全性の強化を進めており、落橋・倒壊などの致命的損傷を防ぐ対策は完了しているが、さらなる対策として橋桁を支える支承を地震に強いものに交換する作業などを行なっている。大雨対策としては、排水施設の改良、事前清掃、舗装の改良などを施し、水没が予想される場所においては土嚢の配備も行なっている。

 ソフト面では迅速な対応が行なえるよう、4月の地震訓練、9月の総合防災訓練、10月の停電訓練、11月の雪凍対応訓練といった年4回の訓練を毎年繰り返して行なうことでブラッシュアップし、オペレーションの練度向上を図っている。利用者に対しては、天候状況の情報収集と走行時の対策、地震発生時はゆっくり減速して車線の片側に寄り、クルマを置いて避難時する際は鍵を車内に置いておくことを呼び掛けた。

「八方向作戦」と名付けられている首都直下地震発生時の道路啓開計画
災害に対する利用者へのお願い

大規模更新・新設事業の進捗状況は4つのエリアを紹介

 現在行なっている大規模更新や新設事業については4地点を紹介した。

 2021年4月から行なっている呉服橋・江戸橋出入口撤去工事については、呉服橋出入口の橋桁の撤去が完了し、江戸橋出入口の橋脚撤去を実施している。来年度に向けて、本体3工事(常盤橋地区トンネル工事、シールドトンネル工事、6号向島線接続地区上部・橋脚・基礎工事)の工事契約を結び、着手する運びだ。

 東品川桟橋・鮫洲埋立部更新事業については、更新下り線工事を進めている。冒頭にも上がった高速大師橋更新事業については、事前の告知や利用者の理解や協力により、首都高の全線交通量が約4%減少し、懸念された渋滞状況は避けられたと説明。現在は上流側にスライドした既設橋の解体を実施している。

 新大宮上尾道路(与野~上尾南)新設事業については、国土交通省関東地方整備局と共同で進めており、与野出入口の付替工事を2023年7月に始めたことを説明した。

日本橋区間地下化事業の現状
東品川桟橋・鮫洲埋立部更新事業の現状
高速大師橋更新事業の現状
新大宮上尾道路(与野~上尾南)新設事業の現状

利用客の声を活かした改善への取り組み

 利用者からの問い合わせ件数は1年間に約63万件あり、ほとんどが所要時間や渋滞状況など即時に回答できる内容だが、3475件(0.6%)の意見や要望については丁寧に対応し、具体的な改善につながる可能性を持つものはカルテ化して進捗管理をしている。ピックアップされた137件のうち131件は対応が完了しており、残る6件も年内には対応完了する予定であるとしている。

 事例では、都心環状線(内回り)汐留JCT分岐手前付近、大黒線(下り)大黒ふ頭出口分岐部、横羽線(上り)浅田出口手前の案内標識の改善や新設を紹介した。施設においては、6号向島線(上り)八潮PAの多目的トイレのドアロック形状の変更、11号台場線(上り)芝浦PAのトイレの壁にフックを取り付けたことを紹介した。

要望に対して改善し、サービス品質の向上を目指す
分かりにくい案内標識は改善し、出口渋滞が予想されるポイントでは車線変更を促す案内標識を新設した
設備を改善した事例

最近の通行台数はコロナ前よりも増えつつある

 最近の通行台数についても説明した。通行台数は順調に増えており、2月以降の台数はコロナ前の水準と比較しても同等水準かそれを上回る結果になっている。路線ごとに多少の差はあるが、横浜北西線については「対前年9%増のご利用をいただいておりまして、整備をした方としては非常にありがたいと思っております」と話した。

2021年9月~2022年8月と2022年9月~2023年9月までの通行台数を比較したグラフ