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ANA、3期ぶり通期でも黒字。航空需要の復活で通期売上高は1兆7074億円、コロナ前の約9割へ回復。今後は中国路線回復に期待を寄せる

2023年4月27日 発表

ANAホールディングス株式会社 代表取締役社長 芝田浩二氏

 ANAホールディングスは4月27日、2023年3月期(2022年度通期)の連結業績を発表した。説明を担当したのは、ANAHD 代表取締役社長の芝田浩二氏と上席執行役員 グループCFOの中堀公博氏。

 通期決算の概要と来期予想については芝田氏が説明した。2022年度通期は、売上高1兆7074億円、営業利益1200億円、純利益894億円を計上し、3期ぶりの黒字となった。売上高は前期比6871億円増(67.3%増)となったが、営業費用を同3940億円増(33%増)に抑えたことにより、期初に設定した利益目標の210億円を大幅に上回る結果となった。

 芝田氏は今年度の命題について「コスト構造改革の成果を維持しながら、売上高を大幅に拡大し、利益を着実に向上させることです」とし、2024年3月期は売上高1兆9700億円、営業利益1400億円、純利益800億円を予想している。営業利益の予想については2月時点で1200億円としていたが、足元の状況などを加味して、200億円引き上げた。

 今期に入ってからも順調にスタートしており、ゴールデンウィークの予約については昨年に比べて国内線が1.3倍、国際線が2.7倍で好調であると説明。加えて、成田~ハワイ線も4月20日からエアバス A380型機をデイリー運航に戻しており、ゴールデンウィークのハワイ路線はコロナ前の9割まで回復していると説明した。

 地域別では、北米路線やアジア路線は順調に回復しているが、欧米路線と中国路線はまだまだ弱いとしている。欧米路線はロシア上空を飛べずに迂回が必要なことから便数を増やすのが難しいとし、中国路線はビザ問題や団体旅行客の解禁が遅れている点などを理由に挙げている。それでも中国路線は今後の伸びしろが大いに期待でき、コロナ前の便数に比べればまだ3割程度ではあるが、5月には上海便などを増便する予定だ。

 売上高は2022年度との比較で国際貨物が900億円の減少と見ているが、国際旅客が1835億円、国内旅客が1004億円の増収を予想しており、合計2625億円の増収を見込んでいる。営業費用は、運航規模に連動する費用の増加に加え、人的資本への投資や物価高騰などの影響を考慮して600億円を見込んでいる。

 3月31日に閣議決定された「観光立国推進基本計画」にも触れ、2025年までにコロナ前のインバウンド実績3188万人を超える水準をクリアするためにも国際線を増やしていきたい意向ではあるが、現状は飛行機の離着陸に不可欠なグランドハンドリングや保安検査のスタッフが日本全体でコロナ前に比べて1割から2割減っている状況が課題として残っている。

 ANAグループでは、このなかで減った地域の生産性を戻すとともに、ベースアップや初任給の引き上げなど、従業員の待遇感改善に取り組んでいると説明した。なお、2023年度の当期純利益が2022年度よりも94億円少なく見積もっている件に関しては、2022年度が繰延税金資産の計上により、期初予想よりも増えたためであるとしている。配当については、早期の復配を目指すとしているが、現時点では未定であると発表した。

 最後に芝田氏は「3年前、空港からお客さまの姿がなくなり、駐機場は飛べない飛行機で埋め尽くされていました。こうした状況から、ようやくコロナのトンネルを抜けた転換点まで来ました。これはステークホルダーの皆さまのご支援、社員一人一人の努力と協力があってこそです。改めて深く感謝を申し上げます。今後は新経営ビジョンで掲げる“ワクワクで満たされる世界を”に活かし、中期経営戦略を着実に実行し、成長軌道への回帰を確かなものにしてまいります」と話した。

連結経営成績
通期見通し
ANAホールディングス株式会社 上席執行役員 グループCFO 中堀公博氏

 事業別の収支内訳については中堀氏が説明した。国際線は先行して回復していた北米とアジア間の接続需要を積極的に取り込み、下期に入ってからは日本の水際対策が段階的に緩和されたことにより日本発の業務渡航需要や訪日需要が大幅に増加し、3月には単月の座席利用率が81%まで上昇。旅客数は前年度の約5.1倍である421万人となった。これを受けて旅客収入は4334億円と前期比で517.9%増のプラスになっている。

 国内線においては、年度を通じて行動制限がなかったことに加え、全国旅行支援の後押しや、創立70周年記念セール「国内線どこでも片道7000円」を実施したことなどにより、レジャー需要が増加している。3月は70周年記念セールの対象期間外だったが、単月の座席利用率は74%まで上昇。旅客数は前年度の約1.9倍である3453万人となった。これを受けて旅客収入は5295億円と前期比で89.2%増のプラスになっている。路線ネットワークにおいては、エンジン改修を終えたボーイング 777型機が全面的に運航可能となったこともあり、需要拡大期に大型化や臨時便の設定などを積極的に行なった。

国際線旅客
国内線旅客

 国際線貨物は、旅客需要の回復に伴って旅客機による貨物専用便の運航を減らしたことや自動車関連部品の需要が減退した影響などにより、輸送重量は80万5000 トンと前年度から17.5%下回る結果となった。一方で、大型特殊商材や医薬品関連などの高単価貨物を積極的に取り込むことで単価水準の維持に努めたことから、国際線貨物収入は前期比6.3%減(207億円減)の3080億円を計上した。

 ピーチ(Peach Aviation)のLCC事業は、国内の行動制限や各国の水際対策の緩和に伴い需要が大きく増加したことから運航規模を拡大。国際線については、休止していた路線(関空~ソウル、関空~台北、関空~香港など)を再開し、3月には中部~台北線を新たに就航させた。その結果、旅客数は前期比82.2%増の777万5000人と大幅に増加し、旅客収入は同138.7%増(524億円増)の902億円となった。

貨物
LCC事業

 財務面では借入金の返済を進めたことなどにより、有利子負債残高は前年度より1421億円減少し、1兆6079億円となった。営業キャッシュフローは税引前当期純利益を計上したことに加え、航空券の予約発券数が増加したことなどにより4498億円を確保。設備投資の抑制を続けていることから実質フリーキャッシュフローは前年度より4850億円増加し、3731億円となっている。

連結財政状態
連結キャッシュフロー