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ATR、ボルトリCEOが2年ぶり来日。日本市場で100機の導入目指す。次世代型機「ATR EVO」の概要も

2022年6月8日 実施

ATRのCEO ステファノ・ボルトリ氏(中央)が2年ぶりに来日。日本市場への期待を語った

 ATRは6月8日、CEOであるステファノ・ボルトリ氏が2年ぶりに来日し、都内で記者会見を行なった。列島で構成されている日本において、航空輸送は国内旅行や物流に必要不可欠な存在であるとし、近い将来、日本国内において100機のATR機が運航されると同社は見込んでいる。

 冒頭ではCEOのステファノ・ボルトリ氏が現状と今後について説明した。リージョナル航空機(地域間輸送用旅客機)最大手であるATRは現在までに100か国で1600機を納入しており、販売数も1800機を数える。日本市場には2016年に参入し、これまでに15機を納入。天草エアライン、JAC(日本エアコミューター)、HAC(北海道エアシステム)の3社で運航されている。これに加え、長崎を拠点とするORC(オリエンタルエアブリッジ)、新潟を拠点として2022年中の就航開始を目指しているTOKI AIR(トキエア)にも納入する予定だ。

ATR CEO ステファノ・ボルトリ氏
JACをはじめ、日本においてはすでに15機が運航されている実績を紹介

 氏は2021年の実績についても紹介した。同社は5大陸において新たに31機を納入し、記念すべき1600機目はニュージーランド航空に納入。同社の機体を使った新規路線は131ルートが開設された。技術分野においても絶えず投資を行なっているとし、持続可能な航空燃料(SAF)についても100%使用した試験飛行を行なうなど、2025年までの認証取得を目指している。

 このほか、プラット・アンド・ホイットニーの新型エンジン「PW127XT」の採用、2024年に年間50機納入を目標とする増産体制の確立について説明した。同サイズのリージョナルジェット機と比較し、燃料消費量と二酸化炭素(CO2)排出量を40%削減できるとし、「2030年までにCO2排出量を46%削減するという日本政府の目標にも貢献できる機体をATRは提供できます」と、同社の機体の優位性をアピールした。

2021年の実績
新型エンジンPW127XT

 続いて、コマーシャル担当でシニア・バイスプレジデントのファブリス・ヴォーティエ氏が戦略について説明した。現在はeコマースの活況により輸送機へのニーズは以前よりはるかに増えており、140機のATR貨物機が運航中で、2021年には17機の旅客機が貨物機にコンバートされた。貨物専用機としてATR 72-600F型機もラインアップしており、すでに6機が運航されている。

 また、従来導入された機体の更新時期に差し掛かっており、世界で1200機以上の更新が見込まれ、日本にもそれは当てはまるとしている。主力であるATR 42-600型機(30~50座席)、ATR 72-600型機(44~78座席)に加え、開発が完了して現在テスト中であるSTOL(短距離離着陸機)仕様のATR 42-600S型機は必要な滑走路長が800mと短く、滑走路長が1000m以下の小さな空港でも導入が可能であるとし、日本国内には10か所ほど該当空港があるので、需要が見込まれると話した。

 実際、佐渡空港への就航を目指しているトキエアもこの新型機の導入を予定しており、機体は2025年以降に納入するとしている。

ATR シニア・バイスプレジデント ファブリス・ヴォーティエ氏
eコマースの活況により貨物機の需要は増加傾向を示している
フェデックスで運航している貨物専用のATR 72-600F型機
機材更新の流れのなか、日本市場でも需要が見込まれる
STOL仕様のATR 42-600S型機

 同社の日本代表を務める好田二朗氏も同社の機体が日本に向いていることを説明した。同社が掲げる「into life」には人の生活に根差した想いが込められており、生活基盤に欠かせない乗り物としてあることを目指している。

 好田氏は「旅を楽しむ」「地域生活を豊かに」「復興の架け橋」についてプレゼンを行なった。旅については、飛行高度は大体6000m以下であり、翼が上に付いていることから視界が広く、絶景に会えることで旅の概念が変わると力説。地域生活の発展については、地方創生の投資に加え、人が移動することで豊かになることに対して貢献できる旨を説明した。復興については、自然災害の多い日本特有の事情において、陸路が遮断された際に被害を受けない空路なら即座に到達できるとし、日本全国に存在する97空港の有効活用につながることを説明した。

ATR 日本代表 好田二朗氏
ATRの機体が日本の空に合うことを紹介

 プレゼンの最後には再びステファノ・ボルトリ氏が登壇し、現在開発中の次世代飛行機「ATR EVO」を紹介した。

 EVOはEvolution(進化)の頭文字を取ったもので、今後に向けた課題を解決するソリューションとして提案できる機体になるとしている。具体的には「サステナブル」「多用途に使える」「安価に導入できる」といった航空業界が抱える課題を解決するものであり、SAFの100%使用、全体的に20%の燃費向上、CO2も20%の削減を目指す。さらには、整備費20%の削減をはじめ、運用コストも2桁カットすることで運用面におけるいくつかの課題も解決できるとしている。

 現在はシステムプロバイダや航空会社と協力し、2023年までに本格的な意思決定を下す予定であり、2030年までには市場に導入する考えだ。「この次世代の航空機は責任のある航空輸送、そして脱炭素化に向けた将来の航空輸送を実現してくれるものだと思っています」とATR EVOのコンセプトを説明した。

次世代航空機である「ATR EVO」。登場は2030年の予定