ニュース

Visaのタッチ決済で南海フェリーに乗ってみた。南海電鉄乗り継ぎで自動割引も!

2022年3月25日 開始

和歌山港と徳島港を結ぶフェリーを運航している南海フェリーは、3月25日よりVisaのタッチ決済で乗船できる実証実験を開始

 南海電鉄(南海電気鉄道)、南海フェリー、三井住友カード、QUADRAC、ビザ・ワールドワイド・ジャパンは、和歌山港と徳島港でVisaのタッチ決済による実証実験を3月25日より開始した。航路においてVisaのタッチ決済で運賃を支払い乗船できるのは、これが国内初だ。

 Visaのタッチ決済を利用した乗船の流れは次のとおり。南海フェリーの和歌山港と徳島港の徒歩乗船用改札口に、Visaのタッチ決済用リーダーを設置。乗客は、乗船時にVisaのタッチ決済に対応するクレジットカードを改札口のリーダーにタッチするだけで、運賃が決済されて乗船できる。クレジットカードをタッチするのは乗船時のみで、下船時にはタッチは不要。

 利用できるクレジットカードは、現時点ではVisaのタッチ決済対応カードのみ。クレジットカードを登録し、Visaのタッチ決済が利用できるようになっているApple PayまたはGoogle Pay搭載スマートフォンも利用可能だ。

 また、今回の実証実験に合わせて、和歌山港の南海フェリー乗り場と直結している南海電鉄 和歌山港駅にもVisaのタッチ決済に対応した自動改札機を設置。そして、南海電鉄と南海フェリーの双方をVisaのタッチ決済で乗り継ぐと、自動的に割引きっぷが適用になる運賃連動の仕組みも導入した。Visaのタッチ決済で複数の交通事業社を乗り継いだ場合の運賃連動の仕組み(今回の場合は割引きっぷの自動適用)が導入されるのは、これが世界初とのこと。

 なお、Visaのタッチ決済で乗船できるのは徒歩乗船客のみとなっており、自動車や二輪車での乗客には対応していない。これは自動車や二輪車での乗船では運賃が複雑に設定されているためとのことで、今回は実証実験ということもあり、まずは徒歩乗船客から開始になったそうだ。

 実証実験は12月11日まで実施予定。合わせて、南海電鉄の実証実験も当初2021年12月12日までの予定だったが、期間を約1年延長して12月11日まで継続することになっている。

乗船口にカードリーダーを設置し、Visaのタッチ決済で乗船できるようになった
和歌山港の南海フェリー乗り場に直結している南海電鉄 和歌山港駅にも、南海フェリーの実証実験開始に合わせてVisaのタッチ決済対応自動改札機を設置
設置された自動改札機は、難波駅などに設置されているものと同じだ

既存システムの組み合わせで導入までは約3か月

 これまで南海フェリーでは、有人窓口でのクレジットカード決済には対応していたものの、導入コストや運用コストなどの問題から、交通系ICカードへの対応が実現できていなかった。また、南海フェリーの乗り場は南海電鉄の和歌山港駅に直結しており、和歌山港駅から連絡通路を通ってそのまま乗船できるものの、連絡通路には現金のみ対応の券売機しか設置されていない。そのため、どうしてもキャッシュレスできっぷを購入したいとなると、連絡通路から離れた有人窓口へ行くしかなかった。同様に、徳島港でも基本的に有人窓口できっぷを購入する必要があった。

 ただ有人窓口は混雑することが多く、きっぷ購入までに長く待たされることも少なくないそうだ。そのため、以前から交通系ICカードなどを利用した乗船への要望が多く寄せられていたそうで、大きな課題になっていたという。

 そういったなか、南海電鉄が2021年4月3日からVisaのタッチ決済とQRコードを利用した改札機の入退場の実証実験を開始。そして、グループ会社である南海フェリーに対して、実証実験に参加しないかとの打診があったそうだ。南海フェリーとしても、キャッシュレス対応を模索していたことや、交通系ICカードと比べて導入コストが圧倒的に安く、南海電鉄でも実証実験が行なわれており、一貫性のある仕組みであるということで前向きに検討を進め、2021年12月に実証実験の実施を決定し、導入に向けた作業を開始することになったそうだ。

 今回の実証実験で利用されている決済システムはQUADRACが開発した「Q-move」で、南海電鉄の実証実験で利用されている決済システムとまったく同じものだ。南海フェリーでは海のそばで風雨の影響も考慮し、カードリーダーにカバーを装着するなどの工夫は行なっているというが、システム自体は南海電鉄が利用しているものからほとんど変更していない。また、Q-moveはクラウドでの集中管理となっているため、利用時にはインターネット接続が不可欠となるが、南海フェリーの改札口ではインターネット接続の整備が行なわれていなかったため、LTE通信網を利用してクラウドの決済システムに接続しているという。

 このように、既存の決済システムを活用し、インターネット接続もLTE通信網を利用することで、大規模なシステム改修や設備改修を行なうことなく、安価かつ約3か月という短期間での導入が実現できたそうだ。

南海フェリーの和歌山港乗り場は、南海電鉄 和歌山港駅と連絡通路で直結しているが、交通系ICカードでの乗船には対応していない
有人窓口ではクレジットカード決済に対応していたが、徒歩乗船の乗客へのキャッシュレス対応が課題となっていた
南海電鉄の実証実験と同じ、QUADRACの決済システム「Q-move」を利用し、Visaのタッチ決済による乗船に対応
徳島港の乗船口にもカードリーダーを設置。クラウドとの通信にはLTE通信網を利用している
海のそばで雨風の影響も考え、カードリーダーにはカバーを装着するなどの工夫を行なっている

南海電鉄との乗り継ぎで自動割引する「スマート好きっぷ」

 Q-move側で新たに対応しているのが、世界初対応となる乗り継ぎ時の運賃連動。今回の南海フェリーでの実証実験では、南海電鉄と共同で乗り継ぎの割引きっぷ「スマート好きっぷ」を用意し、乗り継ぎ時にこの割引きっぷを自動適用する。

 スマート好きっぷは、紙の割引きっぷとして用意している「好きっぷ」と同じ内容の割引きっぷだ。通常の乗り継ぎでは、南海電鉄の運賃に加えて、南海フェリーの運賃2200円が必要になるが、同一クレジットカードのVisaのタッチ決済を利用して南海電鉄と南海フェリーを乗り継ぐとスマート好きっぷが自動適用となり、全区間の運賃が2200円になる。つまり、南海電鉄の運賃分が割引きになるわけだ。

 これは、南海電鉄の和歌山港駅でのVisaのタッチ決済を利用した入出場と、南海フェリーでのVisaのタッチ決済を利用した乗船をクラウド側でチェックし、双方が同日中に行なわれた場合にスマート好きっぷが自動適用になるというもの。

 もちろん、双方で同一のクレジットカードのVisaのタッチ決済を利用する必要はあるが、事前にきっぷを購入したり手続きなどを行なうことなく自動適用になるという点は非常に便利と感じる。

 そして、この運賃連動についても、特に大きなシステム改修を行なうことなく実現できているそうで、南海電鉄と南海フェリー双方がクラウドベースの決済システムであるQ-moveを採用しているからこその利点になっている。

日本発の航路でのVisaのタッチ決済対応に加え、南海電鉄と南海フェリーを乗り継ぐことで割引きっぷ「スマート好きっぷ」が自動適用になるという運賃連動の仕組みも導入
同一クレジットカードのVisaのタッチ決済で南海電鉄と南海フェリーを乗り継ぐと、このように南海電鉄の運賃が自動的に割り引かれる

 今回、Visaのタッチ決済を利用した乗船の仕組みを導入した南海フェリーだが、まずは実証実験ということで、乗船客の利便性を高めることにつながるのか、またシステムが問題なく稼働するのか、といったところをじっくり検証したいとのこと。

 特に、これまで紙のきっぷで改札を行なってたところにVisaのタッチ決済での乗船が加わったことで、スムーズに乗客を誘導できるか、といったところには注視したいという。実際に3月25日の早朝便でVisaのタッチ決済で乗船する乗客の様子を見ていると、紙のきっぷで乗船する乗客よりも対応が数秒遅くなっていたそうだ。

 Q-moveのシステムでは、Visaのタッチ決済の読み取り速度が500ms以下となっているため、タッチで時間がかかるというよりは、タッチするときにカードを取り出したりする場面などトータルで時間がかかっていたことが原因だという。実際にタッチで乗船してみたが、読み取り速度は十分に高速だった。

 合わせて、実証実験では乗船時のみのタッチとなっているが、そちらも乗客を誘導するスピードを考慮してのものとのことで、今後実証実験の結果を見つつ、繁忙期などの混雑時でもスピーディに乗客を誘導できるように対応を考えていきたいとのことだった。