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スマホが電子パスポート・陰性証明になる「IATAトラベルパス」。ANAがホノルル・NY線で実証実験開始

コモンパスと並行して早期実現を目指す

2021年5月24日 開始

IATAが開発したデジタル証明書「IATAトラベルパス」。渡航先の入国要件を満たしているかどうかをチェックし、信頼性の向上と審査時間の短縮が期待されている

 ANA(全日本空輸)は5月24日から6月6日まで、IATA(国際航空運送協会)が開発したデジタル証明書アプリ「IATAトラベルパス」の実証実験を行なう。

 実験を行なう路線は、羽田発ニューヨーク行き(NH110便)、羽田発ホノルル行き(NH186便)、ニューヨーク発羽田行き(NH109便)、ホノルル発羽田行き(NH185便)で、要件を満たして賛同した乗客が参加する。

ANAでは羽田~ニューヨーク、羽田~ホノルルの2路線でIATAトラベルパスの実証実験を行なう

 ANAは今回の実証実験に先立って、3月にコモンズ・プロジェクト(The Commons Project)が開発を進めている「コモンパス」を羽田~ニューヨーク(NH110・NH109便)の路線でテストしている(関連記事「スマホ画面で陰性を提示。ANA、新型コロナのデジタル証明書「コモンパス」をNY便で実証実験」)。

 コモンズ・プロジェクトはロックフェラー財団の支援を受けて設立され、世界経済フォーラムとの連携のもと運営されている非営利組織で、今回のIATAは世界の航空会社などが参加している業界団体だ。

 出国や入国、新型コロナウイルス感染症の陰性証明に関する紙の部分をデジタル化するという基本は同じだが、コモンパスは空港以外の美術館やスタジアムでも使える汎用性の高さがあり、IATAトラベルパスは各国の最新の渡航情報が登録されているデータベースと直接連携できるという、エアラインに特化した点に違いがある。

IATAトラベルパスの基本画面
渡航要件を満たしていれば「OK TO TRAVEL」と表示される
パスポート番号も確認できる
新型コロナウイルスの陰性証明

 導入に向けた実証実験を行なうANAは、IATAトラベルパスについて「渡航要件のチェック」「非接触旅行の実現」「個人情報の保護」「偽造リスク軽減」「オペレーション効率化」を強みとして挙げている。

 渡航要件のチェックでは、IATAが運営する各国の最新渡航要件を集めたデータベース「Timatic」に即座に照会できるので、渡航者および航空会社が瞬時に可否を確認することができる。

 非接触旅行の実現は、デジタルパスポートを作成し、航空会社、空港、政府機関と共有することで、将来的に非接触で旅行を実現できるというものだ。個人情報の保護については、個人情報をデータベースなどで集中管理しないことで漏洩リスクを軽減。

 偽造リスク軽減は、信頼性のあるデータベースから検査結果やワクチン記録をアプリ経由で直接渡航者に送付することで、紙の陰性証明書に比べて偽造リスクを減らせるメリットがある。オペレーション効率化では、エアラインのシステムと連携し、仕様の統一、QRコードの導入などで、将来的に検疫などのチェックがスムーズに行なえるとしている。

 現在、IATAトラベルパスの実証実験には、ANA、JAL(日本航空)をはじめ、シンガポール航空、大韓航空、カンタス航空、ブリティッシュ・エアウェイズ、エミレーツ航空など、32社が参画している。

チェックインカウンターでIATAトラベルパスを提示しているところ。今回は実証実験なので、紙の書類も併用されている

 今回の実証実験では、オペレーションにおいてIATAトラベルパスに関連する一連のフローが問題なく機能するかの検証、大規模展開に向けた商業面や技術面での課題の洗い出し、実証実験に参加した搭乗客の意見抽出と反映を行なう。現在のところは30名が参加を表明し、往復を含めて50件ほどのテストデータが得られる予定だ。初日のNH110便では1名、NH186便では6名が参加する。

 搭乗客は事前にIATAトラベルパスのアプリをスマートフォンにダウンロードし、情報を入力してデジタルパスポートを作成する。その後、信頼のおける検査機関として登録されている医療機関で新型コロナウイルスの検査を行なうと、検査機関に結果が登録される。

 アプリは搭乗便情報から渡航に必要な要件を照合し、問題がなければ「OK TO TRAVEL」を表示するので、チェックインカウンターや出国審査で必要に応じてスタッフに確認してもらう、という流れになる。アプリにはパスポート情報のほか、検査結果やワクチン情報なども保存されている。

 NH110便で参加した現地に駐在している男性会社員は、「前日には結果も出ており、それを係員に見せるだけなので簡単でした」と感想を述べ、このようなツールが出てきたことについては「便利になるかと思います」と話していた。

全日本空輸株式会社 国際提携部 部長 松下正氏

 ANA 国際提携部 部長の松下氏はIATAトラベルパスについて、デジタルなので偽造しにくい点が優れているとし、出入国審査についても、現在は渡航書類に新型コロナウイルスの陰性証明書も加わって確認に非常に手間がかかっており、空港によっては長い待機列で利用客にかかっている負担が解消されることに期待できるという。

 また、感染状況によって目まぐるしく変わる各国の渡航要件についても、Timaticと直接連携しているので、リアルタイムに最新情報と照合できる点は大きな強みであると説明した。現在は国土交通省の航空局をはじめ、各省庁とも緊密に連携し、早期の実現に取り組んでいるとし、「IATAトラベルパス、コモンパス、この両方に対応できるよう準備を進めており、皆さまに安心してご利用していただけるように引き続き努力していきます」と話した。

ニューヨーク行きのNH110便(ボーイング 777-300ER)。今回の乗客は37人