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スマホ画面で陰性を提示。ANA、新型コロナのデジタル証明書「コモンパス」をNY便で実証実験

2021年3月29日 実施

コモンズ・プロジェクトが開発したデジタル証明書「コモンパス」。新型コロナウイルスの検査結果をスマートフォンの画面に表示できるもので、紙に印刷した証明書の代わりになるものとして期待されている

 ANA(全日本空輸)とThe Commons Project(コモンズ・プロジェクト)は3月29日、羽田発ニューヨーク行き(NH110便)において、新型コロナウイルスの検査結果を示すデジタル証明書「コモンパス」の実証実験を実施した。なお、4月3日(現地発)のニューヨーク発羽田行き(NH109便)においても実施する。

 コモンズ・プロジェクトはロックフェラー財団の支援を受けて設立され、世界経済フォーラムとの連携のもと、テクノロジとデータを活用して地球規模の課題を解決することをミッションとしている非営利組織だ。

 現在は新型コロナウイルスの流行を受け、国境往来時に検査結果(将来的にはワクチン接種履歴)を示す世界共通のデジタル証明書「コモンパス」(CommonPass)を発行する取り組みを推進している。日本では2020年7月に国際文化会館内に事務局が設置されている。

 現在、チェックインカウンターでの搭乗手続きや、到着した空港においての入国審査では紙に印刷された検査証明書を提示しているが、それをスマートフォンのアプリ画面でデジタルデータとして提示するのがコモンパスだ。

 検査結果はパスポート番号とともにデジタル証明書として保存されているので、スムーズに手続きを進めることができる。コモンパスの特徴については、世界経済フォーラム 第四次産業革命日本センター プロジェクト長である藤田卓仙氏が次のように説明している。

・検査・ワクチン接種が認可された機関の登記データベース
・国際的な互換性を担保した、検査結果・ワクチン接種の情報コードと医療情報連携規格の採択
・プライバシーを保護しつつ、検査結果・ワクチン接種履歴を本人のID(例:パスポート番号)と紐づける仕組み
・各国の出入国基準をリアルタイムで把握するデータベース
・出入国基準を満たしていることを検証するソフトウェア
・各国の関連アプリとAPI連携するための仕組み

 特に各国の出入国基準は日々目まぐるしく更新されているので、ここをしっかりと作り込むことがキーポイントであると語っている。

 今回のコモンパスの実証実験は日本では初めてだが、アメリカでは2020年10月に開始しており、デジタルデータを証明書としてすでに使っていることもこの路線が選ばれた理由だ。

 日本ではANAのほか、JAL(日本航空)もコモンパスの実証実験に参画しており、海外のエアラインでは、カンタス航空、キャセイパシフィック航空、ジェットブルー航空、ハワイアン航空、ルフトハンザ ドイツ航空、ユナイテッド航空が参加している。今後、実用化に向けては「各国の政府の承認状況によりますが、なるべく早く使えるようになればよいと思っています」と現時点では期待を述べるにとどめた。

 今回の実証実験については、コロナ禍で大打撃を受けているANAも大きな期待を寄せており、デジタル変革室 旅客システムソリューション部 部長の後藤洋氏も次のように述べている。

「国際的な陰性証明、あるいはワクチン接種証明が正当であると提示できれば、各国が課している入国制限や措置の緩和につながると考えています。それにより人の往来が増えてくれば、経済や交流などいろいろな面においてコロナからの立ち直りを促進できるのではないかと非常に大きな期待を持っています」と、海外渡航のハードルが下がるよう、ANAも実用化に向けてさまざまな協力をしていく。

コモンパスについて説明をする、全日本空輸株式会社 デジタル変革室 旅客システムソリューション部 部長 後藤洋氏(左)、世界経済フォーラム 第四次産業革命日本センター プロジェクト長・慶應義塾大学医学部特任講師 藤田卓仙氏(右)

 今回の実証実験ではアメリカへの渡航者として2名が参加し、搭乗手続きや入国審査でコモンパスがスムーズに使えるかどうかを検証する。

 現在のコモンパスは、各国の出入国基準をもとに検証する機能はまだ実装されていないので、日本での検査機関によるPCR検査の結果と氏名やパスポート番号などをアプリ画面に表示し、内容をQRコードで読み取れるようなものになっている。

 搭乗手続きを終えた2名に出発前に聞いたところ、画面を見せるだけなのでとてもスムーズに手続きを終えることができたと話した。ニューヨーク到着後、入国審査において検査結果の提示を求められた場合は、コモンパスを提示して了承を求める流れだが、念のために紙に印刷された検査結果も持参するとしている。帰国する際のNH109便では、ニューヨークでの搭乗手続きと日本への入国審査時に使用する予定だ。

今回の実証実験に参加した、一般ボランティアの大里郁子氏(左)、コモンズ・プロジェクト日本事務局の藤﨑香里氏(右)
チェックインカウンターにおける搭乗手続きの際に確認する新型コロナの陰性証明は、コモンパスを使ってスムーズに行なわれた
コモンパスのデモ用画面。実際には本人のパスポート番号なども表示される

 現状では新型コロナが依然猛威をふるっているので海外渡航については厳しい状況であるが、藤田氏が語るように、今後に向けての仕組み作りという点では非常に意義のある実証実験であることは間違いない。

 また、国際的な標準化がポイントになるが、現在のところコモンパスは、日本、アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツなどのG7諸国のみならず、中国、インド、ブラジル、南アフリカなども含め、50を超える国のステークホルダーが参加している点は心強い。また、コモンパスはフレームワーク(仕組み)なので、各国が開発したアプリとの連携が行なえる点も実用化に向けた大きなポイントになるだろう。新型コロナが収束したあと、早々に利用できることを期待したい。

ニューヨーク行きのNH110便(ボーイング 777-300ER型機)。今回の乗客は34名だった