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本町山中有料道路で「ワンストップ型ETC」を体験。低コストに導入可能で、利用可能な分野も拡大

一般有料道路のETC対応も現実的に

2020年3月23日~5月21日 社会実験実施

現金のみで通行料金を徴収している本町山中有料道路で「ワンストップ型ETC」の社会実験がスタート

 神奈川県道路公社は、首都高速道路、首都高ETCメンテナンス、アマノ、日立製作所、三井住友トラストクラブと共同で、有料道路の料金所における新しいキャッシュレス決済の取り組みとして「ワンストップ型ETC」の社会実験を開始した。有料道路では初導入となる本システムを体験するとともに、本システムのメリットや狙いなどを担当者に聞いた。

 本町山中有料道路は神奈川県道路公社が管理・運営する、神奈川県横須賀市汐入町から横須賀市山中町にいたる約2.6kmの有料道路。横須賀市街と横横道路(横浜横須賀道路)を結ぶアクセス道路としての役割を担っている。開通は1992年3月。償還期限は30年間で、2022年3月20日に料金徴収期間が満了となり、その後は無料開放される予定となっている。

本町山中有料道路の料金所。上り/下り各2レーンずつで、有人により通行料金を徴収。昔ながらの赤いボックスに収受員が立っている
1992年3月に開通。2022年3月20日に30年間の料金徴収期間が満了を迎える

 通行料金は3車種区分。有人による料金徴収を行なっている。上り/下り各2レーンずつの料金所に赤いボックスが並び、利用者は一時停止して収受員に料金を支払うことになる。この支払い方法も回数券以外は現金のみの取り扱いとなっており、ETCに対応しないほか、クレジットカードなどのキャッシュレス決済にも対応していない。

 ちなみに、神奈川県道路公社の管理道路のうち、三浦縦貫道路では「Suica」「PASMO」といった交通系ICカードを使った通行料金精算に対応しており、料金収受員にカードを提示してキャッシュレス決済が可能になっている。担当者によると、交通系ICカードの利用率は3割程度とのことで、利用の多い高速道路では9割を超えるほど普及しているETCに比べて利用率の差は大きい。

 また、過去には三浦縦貫道路において料金徴収機を導入して無人化したこともあるが、左ハンドル車や身体障害者割引などへの対応に課題があり、現在は有人対応に戻しているという。

料金の支払いにETCを利用できないことは各所で注意を促している。またクレジットカードなども利用できず、現金のみの取り扱いとなっている

 このように、広く普及し、ハンドル位置に関わらず対応でき、身体障害者割引も事前に登録しておけば自動的に対応できるといったメリットから、有料道路がETC精算に対応することは利便性を大きく向上させるものとなる。

 ただ、管理/運営側からすると、ETCの導入費用は大きな課題となる。高速道路で利用されているETC(便宜上、本稿では従来型ETCと表現する)は、ノンストップでの精算を可能とするために、料金所ごとに設置するサーバーをはじめ、一例では33個の機器から構成される複雑で高価なシステムとなっている。

 地方道路公社が管理する多くの有料道路は、建設のための借入金や維持管理費を通行料金でまかない、借入金などを償還し、一定期間を経ると無料開放となることが前提にあり、許可を受けている事業計画の範囲内で対応するのが原則であることから、高コストな従来型ETCシステムを導入することが難しい。仮に導入したとしても、それを通行料金に反映させて運用する必要があり賛否が起こるだろう。このあたりが、プール制が導入されている高速道路会社とは事情が異なる点だ。

 また、神奈川県道路公社の担当者がもう一つ指摘するのは、従来型ETCを導入できる企業が限られることだ。従来型ETCは個人情報を扱うサーバーを料金所に設置するシステムであることなどから高度な管理が必要であり、さまざまな点で法的制約もある。導入は高速道路会社や地方道路公社、自治体が運営している道路にしか設置できず、例えば観光地に多い民間企業が管理する一般自動車道などへ導入するのが難しい。こうした道路は一般名詞として「ターンパイク」と呼ばれる道路、例えばターンパイク箱根が運営する「アネスト岩田 ターンパイク箱根」や、プリンスホテルが運営する「鬼押ハイウェー」などが挙げられる。

本町山中有料道路における「ネットワーク型ETC」の実例

 こうした課題を解決する一案として期待されているのが「ネットワーク型ETC」と呼ばれるものだ。ETCの多目的利用に向けた取り組みとして実証実験が進められている。今回、本町山中有料道路に導入されたものも、そのシステムを活用したもので、伊丹空港の駐車場料金の支払いにおいても導入例がある(関連記事「伊丹空港の駐車場がETCによる入出場と自動決済に対応」参照)。この社会実験に携わる各社の役割は下記のとおり。

神奈川県道路公社: 社会実験事務局、個人情報等管理
首都高速道路株式会社: ETC通信セキュリティ管理
アマノ株式会社: ETC多目的利用システム機器販売及び決済サービスの提供
株式会社日立製作所: ネットワーク型 ETC技術システム構築支援
首都高ETCメンテナンス株式会社: ETCに関する技術協力及び機器設置
三井住友トラストクラブ株式会社: ダイナースクラブ ETCカードによるクレジット決済の実施

 ネットワーク型ETCを用いたワンストップ型ETCは、料金所では車載器にセットされたETCカード情報を暗号化されたままの状態で送受信し、専用線やインターネット回線などで遠隔地のデータセンターへ転送。データセンターのサーバーで暗号の復号や決済処理などの必要な情報処理を行なうシステムとなる。料金所における機器は7種類ほどで済み、初期導入コストも運用コストも抑えることができる。NEXCO各社が導入しているスマートICに近いが、スマートICは従来型ETCの料金所サーバーに接続していることから、従来型ETCを運用していることが前提となるシステムという点で違いがある。

 担当者によると、本町山中有料道路に従来型ETCを導入しようとした場合、初期導入コストは10億円ほどになる試算が出たというが、今回のネットワーク型ETCの導入であれば4分の1程度で済むという。

 さらに設置スペースを節約できる点もメリットとして挙げられる。実際、本町山中有料道路の料金所に従来型ETCを導入しようとした場合、現在のレーンの長さでは不足する可能性があるという。

 当然ながら、従来型ETCと同じ車載器、ETCカードで利用でき、これは利用者にとってのメリットとなる。

ワンストップ型ETCで利用している「ネットワーク型ETC」概念(画像提供:神奈川県道路公社)
従来型ETCとネットワーク型ETCそれぞれに必要な機器の違い(画像提供:神奈川県道路公社)
本町山中有料道路のワンストップ型ETC対応レーン。左右の白いバーが車両検知器、左側の検知器の脇にレーン制御盤が見える
利用者へ情報を伝える案内板
ETCアンテナ
ワンストップ型ETCの社会実験中であることを示す看板
上下各1レーンがワンストップ型ETCに対応。対応レーンを示す標識を掲示している

 逆にデメリットとなるのは、社会実験の名称にもなっているとおりワンストップ=一時停止が必要なこと。サーバーへの情報送が発生するため、基本的には料金所に設置したシステムで精算を完結している従来型ETCより、どうしても処理に時間がかかる。その所要時間はシステム的には1~2秒ほどという。

 また、本町山中有料道路では完全に自動化をしておらず、トラブルを避けるためにも料金収受員による目視での車種区分確認をしたうえで、ETC精算であることをボタンを押して判定し、処理するようになっている。そのため、実際の通過に10秒ほどの時間を要していた。この背景には、本町山中有料道路での社会実験が50名のモニターによるもので、現金利用者が圧倒的に多いという事情もある。

 社会実験の開始から1週間ほどを経た時期の取材ではあったが、毎日同じ料金収受員が立っているわけではなく、不慣れな対応に戸惑ってしまうことは想像に難くない。この戸惑いを軽減するため、神奈川県道路公社の担当者は「ETC車が近づいたら音などで収受員に知らせる仕組みがあってもよいかも知れない」との私案を示している。

 神奈川県道路公社では、管理するすべての有料道路へのネットワーク型ETC導入を見据えているが、現金利用者への対応も考えて有人対応を継続する方針としている。それでも、ETC利用の車両が多くなれば料金収受員の慣熟も進むことになり、この“人”のボトルネックについては、導入初期、あるいは普及過渡期のみで将来的にはある程度まで短縮していくものと考えられる。

 本町山中有料道路での社会実験におけるもう一つの特徴となっているのは、発進制御機を導入していない点だ。先に、ワンストップ型ETC(ネットワーク型ETC)の料金所は7個の機器で構成できると記したが、実は本町山中有料道路では6個の機器で構成している。

 発進制御機とは、通行可のときに上がり、通行不可なら塞いだままとなるバーのことだ。担当者によれば、「社会実験前の導入テスト時には付けていたが、バーがあることでノンストップで通行できる従来型ETCに対応していると勘違いされる可能性があり、事故防止の観点から撤去を決めた」とのこと。同じように一時停止が必要なスマートICとは異なり、料金所で一時停止してETC精算、というシチュエーションゆえに想定されることであり、将来においては、これもまた導入初期ならではの課題だったという結果になる可能性もある。

本町山中有料道路でワンストップ型ETCを利用する様子
ETC対応レーンに進入
ETC利用のモニターであることを伝える
案内板の表示。レーン進入時は「一旦停止」を指示
精算処理中は「しばらくお待ちください」の表示
通行料金を表示
通行料金の案内後、通行料金の支払いが完了すると「前へお進みください」の表示に。レーンを通過できる

 神奈川県道路公社では、今回の社会実験の期間をまずは5月21日までに区切っているが、将来的には同公社が管理する真鶴道路、三浦縦貫道路、逗葉新道といった有料道路に順次導入したいとしている。

 そのために必要なプロセスとして挙げたのが、クレジットカード対応の拡充だ。今回の社会実験では、ダイナースクラブETCのみの対応となっている。担当者は、利用促進にはクレジットカードの広範な対応は不可欠としており、「対応クレジットカードを増やしつつ、2回、3回と社会実験を重ねたうえでの本導入になる」との考えを示す。

 本導入実現の時期については「数年後」としており、本町山中有料道路が無料開放される2年後に間に合うかはなんともいえないが、同公社はすべての路線に展開する計画なので、本町山中有料道路での実証が活かされることにはなる。

 先述のとおり、各社はネットワーク型ETCを「ETCの多目的活用」に向けた取り組みの一環として実証実験を進めており、駐車場の料金支払いのほか、例えばファーストフード店でのドライブスルーへの導入など、キャッシュレス決済の一つの手段として広く活用することを見込んでいる。

 道路における活用は、その一例ということになるが、キャッシュレス決済に留まらず、ETCカードとの紐付けによって企業私有地への立ち入りを制限している場所への入場可否判定を行なうといった活用例も考えられている。

 今回のような有料道路の通行料金支払いへの導入についても、冒頭で挙げたような課題を解決しつつ、利用者が所有するETC車載器/カードをそのまま利用できることから多くの利用が見込める点で期待がかかる。

 キャッシュレス決済が社会的に広がりを見せるなか、地方道路公社にはまだ10年以上も償還期間(料金徴収期限)が残っている道路も多い。神奈川県道路公社の担当者は、「地方道路公社が償還のために料金を徴収している道路では、許可された計画に沿って事業を進めるために(低コストとはいっても)難しいところもあると思う。それよりも、ターンパイクのようにこれまでETCを導入できなかったところが、ETCを導入できるようになることに意味があるのではないか」と話す。

 ネットワーク型ETCの広範な利用と、この技術を利用した有料道路におけるワンストップ型ETCが普及すれば、クルマ運転中に必要な決済は、現金もカードも取り出す必要のないETCに統一、という将来もあり得そうだ。

本町山中有料道路での「ワンストップ型ETC」社会実験