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ANAHD、福岡市玄海島から海鮮料理店にドローンで新鮮な海産物を運ぶ実証実験

2019年8月1日 実施

実証実験で使用されたドローン

 ANAHD(ANAホールディングス)は8月1日、LINE Fukuoka、自律制御システム研究所(ACSL)、NTTドコモ、ウェザーニューズ、福岡市とともに行なっている、玄界島産の海産物をドローンで対岸に運搬する実証実験の模様を報道関係者向けに公開した。

 実証実験では、LINEで注文・決済した玄界島産のアワビやサザエを玄界島ヘリポートから、対岸にある海鮮料理店「釣船茶屋 ざうお本店」(福岡県福岡市西区大字小田79−6)や、能古島キャンプ村横の砂浜にドローンを使って運搬する。

 ドローンの飛行に際しては、ドコモがドローン向けの運航支援基盤「docomo sky」とLTEネットワークを提供し、上空の電波状況を考慮した運航計画の策定支援を行なうほか、ウェザーニューズがドローンが飛行する上空60mの風向きや風速といった気象情報と周辺を飛ぶヘリコプターの飛行情報を提供する。

飛行ルート
LINEでの注文・決済のイメージ
発着地点
ACSL製PF-1(ANA仕様)

ドローンを飛ばすことだけでなく、ユースケースを想定

ANAHD デジタル・デザイン・ラボ チーフディレクターの津田佳明氏

 実証実験の公開を前に、ANAHD デジタル・デザイン・ラボ チーフディレクターの津田佳明氏が、概要をレクチャーした。

 津田氏は、ANAとしてなぜドローン事業に取り組む背景について、「2016年12月にドローンプロジェクトが立ち上がりました。プロジェクトオーナーはホールディングス社長の片野坂です。現在、ANAは旅客機や貨物機を使ってエアポートからエアポートの輸送を行なっていますが、これからドローン、あるいはエアモビリティで人を運ぶような世界になっていくと、街のなかのシティポートでも空を使ったビジネスのチャンスがあるのではないかということで、将来的にはそこを目指して取り組んでいます」と語る。

 そのうえで同氏は「現状のドローンは、官民協議会の中で決まったロードマップでは今レベル3という段階で、無人地帯での目視外飛行、補助者なし、これをあまり人がいないところでやっています。ここでいかに経験を積んだかによって次のレベル4、有人地帯での目視外、補助者なしに繋がっていきます。レベル4に行かないと、なかなかビジネスとしてもスケールしていかないので、今すごく重要な時期だと思っています。ここでいかにいい実験が行なえるかで、この後の展開が決まってきます」と今回の実証実験の位置づけを説明する。

 同氏によれば、今回の実証実験には、大きく3つの特徴があるという。

 1つめは、複数機を同時にオペレーションするということ。玄界島とざうお本店、玄界島と能古島の2つのルートで、2つの機体を同時に運航し、支障なくオペレーションできるかどうかを検証する。

 2つめは、運航距離が10kmを超えること。玄界島~ざうお本店間は約6.4km、玄界島~能古島は約10.3kmの距離を飛行することになり、「目視外の補助者なしで10kmを超えたのはこれが初めて」(津田氏)だという。

 3つめは、実際のユースケース想定しているところ。単に輸送や飛行にフォーカスするだけでなく、ざうお本店やLINE Fukuokaの協力のもと、ビジネスとしてマネタイズしていくことをイメージした実験内容となっている。

LINE Fukuoka Smart City戦略室 室長の南方尚喜氏
自律制御システム研究所 事業推進ユニット カスタマーリレーションディレクターの井上翔介氏
NTTドコモ 法人ビジネス本部 第一法人営業部 第三営業 主査の田中淳氏
ウェザーニューズ 航空気象コンテンツサービス グループリーダーの高森美枝氏
福岡市 総務企画局 企画調整部 企画係長の執行謙一氏

新鮮なアワビとサザエが空を飛んでバーベキュー場に

 その後公開されたデモでは、ざうお本店の屋外バーベキュー場から女性客がスマートフォンのLINEアプリでアワビやサザエを注文。デモでは、LINEのトークルームを使って注文し、LINE Payで決済する流れになっていたが、女性客のうちの1人が代表して注文、決済する形となっていた。今後は、複数のユーザーがそれぞれ注文し、最後にLINE Payで割り勘する、といったLINEらしい使い方にも期待したい。

スマートフォンのLINEアプリ上から注文し、決済する

 その後、玄界島ヘリポートからドローンが飛び立ち、10分ほどでバーベキュー場そばのドローン用ポートに到着。スタッフがドローンが抱えてきた箱を取り外し、バーベキュー場に届けられた。

 ドローンはGPSにより正確な飛行ルートを飛んでくるが、それでも数mの誤差が生じるため、地表にマーカーを設置し、ドローン側のカメラでそれを読み取ることで誤差を数十cmほどに抑える工夫がなされている。将来的に街中でドローンを飛ばすことを想定すると、さまざまな工夫でさらに精度を高めていく必要があるだろう。

海の向こうからドローンが飛んでくる
砂浜のマーカーに着地
スタッフが箱を取り外し、バーベキュー場へ
バーベキュー場に届けられたアワビとサザエ。重さはあわせて900g以内
さっそくほかの食材とともに焼かれた

 ざうお本店2階に設置されたオペレーションセンターも公開され、2機のドローンを運航する模様が確認できた。オペレーションセンターでは、ウェザーニューズから提供される風向きや風速、周辺のヘリコプターの飛行状況といったデータを確認しながら、各地点のスタッフと連絡を取りながらドローンを飛ばしていた。

PCやモニターが並ぶオペレーションセンター
風向きや風速を可視化
ドローンの位置と周辺のヘリコプターの飛行状況が分かるモニター
安全を確認して、遠隔でドローンに飛行指示を送る

 実用化に向けて超えなければいけないハードルはまだまだたくさんあるが、津田氏は「実証実験を通じて課題を見つけていきたい。今のところは大きなトラブルが起きていないが、場数を踏んでいかに想定外のことを見つけることが大事」と語り、一歩ずつ前進させていく姿勢を示した。