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日立製作所、鉄道ビジネス売上収益1兆円達成に向けM&Aに積極的に取り組む
「設計、サービス、メンテナンスのフルラインアップが強み」とドーマーCEO
2018年6月13日 13:28
- 2018年6月8日 開催
日立製作所は、鉄道ビジネスユニットにおける事業戦略を発表。日立製作所 執行役専務 鉄道ビジネスユニット CEOのアリステア・ドーマー氏は、「2020年代前半に売上収益1兆円を目指す。そのためにはM&Aにも積極的に取り組んでいく」などとした。
同社が、2018年6月8日に開催したアナリストや報道関係者を対象にした事業戦略説明会「Hitachi IR Day 2018」で、改めて1兆円の目標達成に強い意思を示した格好だ。
現在、日立の鉄道事業は、世界27カ国で展開しており、3大陸に11カ所の製造拠点を設置。鉄道ビジネスユッニトだけで、1万2400人の社員が従事している。車両製造だけでなく、信号およびシステム、サービス/メンテナンスのほか、ターンキー(工事込み設備一括請負契約)も展開。鉄道ソリューション全体として提供できる体制を整えているのが特徴だ。
2014年度以降、年平均成長率49.8%増という高い成長率を維持しているのが特徴であり、IEP(Intercity Express Programme:英国都市間高速鉄道計画)などの大型契約の獲得が貢献している。
また、海外事業比率が高いのも特徴で、2017年度の鉄道事業の売上収益5627億円のうち、83%を海外事業が占める。マネジメントチームは、英国人3人、イタリア人3人、日本人3人の構成となっており、社員構成比も日本人がマイノリティという日立グループとしても、ユニークな体制となっている。
ドーマー氏は、「過去4年間にわたって、完全に統合したフルラインの製品、サービスを提供することに注力し、ビジネスの体制を変革してきた。そして、いまはデジタル革命の時代に合わせたスマートに接続されたプロダクトやサービスを提供することに力を注いでいる」と前置きし、「課題は、これまでの成長を持続し、収益性をさらに高めることである」と述べ、継続的な成長戦略に意欲をみせた。
同社にとって重要なプロジェクトの1つであるIEPは、英国鉄道史上において、過去30年間で最大規模のプロジェクトであり、日立製作所は、Great Western Main Line(GWML)向けに57編成、East Cost Main Line(ECML)向けに65編成を納入。27年半にわたる保守事業および関連保守基地の管理を行なうことになる。
2017年6月には、エリザベス2世女王がIEP車両に乗車。2017年10月からGWML向けIEP車両が営業運転を開始。2018年12月にはスコットランドにおいて、ECML向けIEP車両の試験走行を開始している。
一方で、日本においては、2018年2月に相模鉄道向けに納入した新型車両が営業運転を開始。さらに、JR東海(東海旅客鉄道)からは次世代新幹線であるN700Sの試験車両を受注しているほか、2017年度中に、JR東日本(東日本旅客鉄道)の東京圏輸送管理システムや新幹線E7系、阪急電鉄向け通勤車両の1000系および1300系の受注実績があった。
また、米国では、ホノルル、マイアミ、ボルチモアなどでのメトロ案件を受注し、米国メトロ市場でのシェアを拡大。アジアでは、台湾、ベトナムでターンキープロジェクトが進行中だという。
鉄道事業における2017年度実績は、売上収益が前年比13%増の5627億円、調整後営業利益は21%増の251億円、調整後営業利益率は4.5%、フリーキャッシュフローは799億円、受注高は19%増の5622億円となった。「スウェーデンとベトナムにおける民事訴訟が業績に影響しているが、これは一過性のものである。また、従来は、フリーキャッシュフローはあまりよい状況ではなかったが、英国のIEPの契約に関する影響を受けていたためで、この状況も変化し、きわめて良好な状況となった」と説明。
2018年度見通しは、売上収益が6300億円、調整後営業利益は438億円、調整後営業利益率は7.0%、フリーキャッシュフローは328億円としている。「売上収益のうち、89%が受注残として反映されており、達成には自信を持っている。また、工場や技術に大きな投資を振り分けており、特にデジタル分野に力を入れている。研究開発分野への投資は2018年度も拡大する予定であり、技術面におけるリーダーとして努力を続けていく」とした。
2017年度の売上収益に占める研究開発費率は2.8%だったが、2018年度にはこれを3.1%にまで引き上げる。
今後の成長戦略についてドーマー氏は、「鉄道市場全体の成長が見込まれているものの、市場環境の変化が激しい」と前置きし、世界人口が増加傾向にあり、都市圏への人口集中が加速しており、都市部や都市部間の移動において、鉄道に対する需要が高まっていること、その際には、乗客1人あたりの移動で排出される二酸化炭素量が、自動車や飛行機に比べて大幅に低い鉄道が注目されていることを挙げる一方で、2017年9月に、業界2位の独シーメンスと、3位の仏アルストムが鉄道事業を統合。アジアの競合各社がグローバルに事業を拡大していること、デジタルやIoTが重要な要素になっていることなどに言及。
「日立は、設計からサービスまでのフルラインアップの強みを持つとともに、メンテナンスに力を注いでおり、長期的な収益確保という点では有利である。また、各社は、デジタルに関する事業買収などを進めているが、日立はもとからそれを有している。Hitachi PentahoやHitachi Vantara、日立コンサルティングなどとの緊密な連携により、設計から生産においてもデジタルデータを活用する一方、ロボット工学にも投資をしている。バーチャル認証による安全性の確保により、ガバナンスを確保。これをサービスの段階まで利用している。最新車両には数百個のセンサーを搭載し、ギガバイト級のデータを収集。これをフィードバックし、車両のパフォーマンスを常に把握し、迅速に設計の改善につなげたり、保守性を高め、保守コストの削減にもつなげたりできる」とした。
最新車両では、モーターにセンサーを取り付けてデータを収集しており、もともと200℃までの対応を可能とした設計にしていたモーターは、実際には60℃までの環境でしか使用されておらず、この結果をもとに、もっと小型のモーターに置き換えるといった設計変更につなげ、小型化とともに、生産コスト削減や保守サイクルの改善にもつなげることができているとした。
地域別の戦略についても明らかにした。日立の鉄道事業において、最大規模を誇るのが、欧州を中心としたEMEA(欧州、中東、アフリカ)である。ここでは、英国に加えて、二階建て車両の包括契約を結んだイタリアでのビジネスが成長。さらに、日立のIoTプラットフォーム「Lumada」を活用した予兆保全ソリューションの提案を軸に、サービス、メンテナンス事業の拡大に乗り出しているという。
懸念材料の1つが、鉄道事業にとって主要市場である英国のEU離脱の動きである。「2019年3月に予定されているEU離脱の影響については十分に精査できていない。だが、生産計画に対しては影響がない。ロンドンの地下鉄や高速鉄道のHS2など、すでにいくつかの入札が進んでおり、適切な規模の工場を英国国内に有している」などと述べた。EMEAにおける2018年度の売上収益は前年比10.4%増の3889億円を見込んでいる。
日本・アジアパシフィック(APAC)では、「日本はホーム市場であり、技術的高度化を牽引する市場でもある。JR各社をはじめとする主要顧客と緊密な関係を構築しており、新たな協創に取り組んでいる」と説明。2018年度の売上収益は前年比18.4%増の1765億円を見込んでいる。
米州は、「これまでは限定的なビジネスであったが、米交通当局では地下鉄の安全性を高めたいと考えており、マイアミやボルチモアなどでのメトロ案件の獲得によって、米国市場でのシェアを拡大。交通管制や信号システムの導入も進んでいる。カナダでは、PPP(Public Private Partnership)を活用した資金調達の動きもあり、ここでも日立は強力なポジションで入札できると考えている」とした。米州における2018年度の売上収益見通しは前年比5.0%増の646億円としている。
ドーマー氏は、「過去4年半にわたって、日立の鉄道事業は大きく成長し、変革をしてきた。この間、年平均成長率は50%増近いものを達成してきた。グローバルの既存顧客に加えて、新規の契約を獲得し、将来に向けた投資も行なってきた。デジタル革命に向けた準備も進めてきた。この実績をベースに、2018年度は、調整後営業利益率は7.0%を目指している。グローバルでの成長を継続するにはさまざまな組み合わせが必要になってくるだろう」と語った。
また、日立製作所 執行役社長兼CEOの東原敏昭氏が打ち出している「2020年代前半に売上収益1兆円」の目標については、「東原社長兼CEOは、野心的であり、志が高い。私にも強いプッシュをかけている。この意欲的な目標を達成するには、M&Aにも積極的に取り組んでいく考えであり、市場を横断する形で、広く検討している。M&Aをしなくても1兆円は達成できるが、それでは2020年代前半という時期よりも長くかかってしまうだろう。重要なのはオポチュニティを活かすことである。理にかなったものであれば投資をする。1兆円の目標達成に向けて、M&Aを検討していくことになる」とした。
日立製作所全体では、2018年度に営業利益率8%超を計画。2021年度に向けては10%以上を目標にすることになるが、鉄道事業の利益率はそれに到達していない。売上収益の大幅な成長戦略に加えて、収益性の改善が課題になってくるだろう。
ドーマー氏は、「今後、収益性を改善していくことになる。日立全体のターゲットに貢献できることに自信がある」と述べた。