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エアバスとJAL、MRデバイス「Microsoft HoloLens」のコクピット訓練アプリを実演
いつでもどこでも訓練可能。エアバス提供の3Dデータを使い12週間で作成
2017年11月16日 00:00
- 2017年11月14日 発表
エアバスとJAL(日本航空)は11月14日、都内で会見を開き、MicrosoftのMR(Mixed Reality:複合現実)デバイス「HoloLens(ホロレンズ)」を使った訓練アプリケーションのプロトタイプを公開した。
MRとはCGなどで構築した仮想世界に現実の情報を重ね合わせる技術のことで、乗務員や整備士はバイザー形のHoloLensを頭部に装着して、眼前に表示される仮想航空機を操作する。公開した訓練アプリは2種類で、エアバス A350 XWBシリーズの「コクピットでのエンジン始動」と「左前方ドアの開閉」を実施するためのもの。なお、JALはA350 XWBシリーズを31機(A350-900型機を18機、A350-1000型機を13機)発注済みで、2019年に初号機を受領する予定。
関連記事「JAL、『Microsoft HoloLens』でボーイング 737-800型機のコックピットと787型機のエンジンを再現」でも取り上げているが、JALは以前にもHoloLensを介して仮想化したコクピットやエンジンに触れるという訓練アプリケーションを公開している。このときは航空機メーカーの協力を得ずに行なったため、実機の写真を数千枚撮影してCG化するという工程が必要だった。
今回はエアバスが主導的に開発を行なったため、同社が持つ実機どおりの精密なCGモデル、3Dアセットを使い12週間で作成できた。最終評価にはJALとJALエンジニアリングのパイロットや整備士が加わっており、A350 XWBシリーズの未経験者でもこの訓練を通じて短時間で操作を習得できることを確認したという。これまでは運航の終わった深夜や整備の合間を縫って訓練を行なわなければならなかったが、MR技術を利用することで、いつでもどこでも訓練を実施できることにメリットを見出しているとのこと。
会見ではエアバス・ジャパン 代表取締役社長のステファン・ジヌー氏から、2013年にJALがA350 XWBシリーズを発注したことや、それがエアバスとの初めての取引であること、今回の訓練アプリケーションはJALとJALエンジニアリングの協力によって開発できたことなどが述べられ、「エアバスの航空機を運用するお客さまにコスト効率の高い、効率的な訓練および運用ソリューションを提供できると確信している。HoloLensを活用したこの技術は、私たちのビジネス全域に新しい価値をもたらす」とした。
続いて、JAL 整備本部 部長 兼 JALエンジニアリング 人財開発部 部長の海老名巌氏からは、近年の航空機が新しい構造材の利用やデジタル制御などの導入で、整備士に高度な知識を求める存在になったこと、新技術によって航空機の信頼性が高まり、故障・修理の回数が減少、メンテナンスの間隔も延びていることなどが語られた。航空機の品質向上や経済性という点では大きく進歩した半面、「実機に触れる機会が失われることで、整備士の養成という観点では不都合がある」と現状を説明。
この日公開したものはプロトタイプだが、「訓練アプリケーションの完成度は高く、実用化されれば、実機がなくてもいつでもどこでも何度でも、安全に繰り返し、しかも低コストに訓練を実施できるツールになる」と将来性の高さに期待を寄せた。
また、エアバス本社から来日したアレクサンドル・ゴダン氏とマチュー・ブティノー氏によって、同社がMicrosoftの「複合現実パートナープログラム」のメンバーに加わっていることや、訓練内容は座学では5%程度しか身に付かず、実習と見学によって血肉になることなどが説明された。
最後に、エアバス本社のフレデリック・シェーファー氏がデモンストレーションを行なった。操作は「指示される箇所を注視する」「クリッカーを使う」「ハンドジェスチャー」などで実行する。HoloLens使用者の視野内にはマウスカーソルのようなものが表示されており、特定箇所を見詰め続けることで「選択」したり、「メニューを展開」できたりする。クリッカーは指に装着する小型の入力デバイスで、マウスボタンに相当する。ジェスチャーは、バイザーの前で指をL字に開いてから閉じることで、やはりマウスクリックのような動作が行なえる。
訓練アプリケーションは、エンジンの始動やドアの開閉に必要な手順に沿って画面上に矢印が表示されるので、順を追ってボタンを押す、数値を確認するなどの操作を実施すればよい。会見のあとに記者も体験することができたが、繰り返し訓練を行なえば、確かにA350 XWBシリーズに触れたことがなくてもドアの開閉くらいならできそうな気になれた。また、仮想航空機の3Dデータが(当然ながら)大変リアルで、レバーやボタン、つまみなどに厚みや奥行きがあるため、テクスチャの荒さはあるが顔を近付けると現実感もある。
なお、以下に掲載する写真ではシェーファー氏の背後にMR映像が投射されているが、これはあくまで報道陣に氏が見ている内容を説明するためのもので、実際の訓練はHoloLens内で完結する。また、今回公開したアプリケーションはプロトタイプであり、この先のロードマップやJAL以外の航空会社への展開などはすべて未定だという。