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NEXCO 3社と寒地土木研究所、ワイヤロープ式防護柵に大型車を衝突させる実験を公開
事故車が車線を塞いでいる想定の対応訓練も実施
2017年3月10日 18:09
- 2017年3月8日 実施
NEXCO東日本(東日本高速道路)、NEXCO中日本(中日本高速道路)、NEXCO西日本(西日本高速道路)と寒地土木研究所は3月8日、北海道・寒地土木研究所 苫小牧寒地試験道路において、ワイヤロープ衝突実験およびワイヤロープ事故対応訓練を実施し、報道陣に公開した。ワイヤロープ事故対応訓練は、全国で初めて実施する訓練となる。また、今回が初公開となる新型取り外し金具のデモンストレーションも行なわれた。
ワイヤロープに6度の角度で衝突する実験
ワイヤロープ式防護柵は、寒地土木研究所 寒地交通チームが鋼製防護柵協会と共同で開発。ワイヤロープ式防護柵は、高いじん性(粘り強さ)のあるワイヤロープ5本と比較的強度が弱い支柱で構成され、張力で車両の衝突に抵抗し、反対車線への突破を防ぐ。従来のガードレールは、ビーム(波形の鋼板)と支柱で車を支えるため、衝突時にかなりの衝撃が発生するが、ワイヤロープ式防護柵は、車両やドライバーにとって衝撃が少なくなっているという。
現在、暫定2車線区間には直径8.9cmのラバーポールが設置されているが、ワイヤロープ式防護柵もほぼ同じ径の支柱を使用する。ワイヤロープは200mごとに「ターンバックル」という部材で接合され、ネジを緩めてワイヤを外すことで開口部を作ることができる。設置費用は、中央分離帯に設置するガードレールの設置費用、1kmあたり2800万円と同程度だという。
2016年12月に「高速道路の正面衝突事故対策に関する技術検討委員会」が開催され、暫定2車線事故対策について、ワイヤロープ式防護柵を適用することとなった。現在、ワイヤロープ式防護柵は、2012年11月に試行設置された道央自動車道(大沼公園IC:インターチェンジ~森IC間)に1.5kmと、磐越道(安田IC~三川IC間)の390m。暫定2車線区間で試行されたが、4車線用の構造で設置された。現在まで3件の事故が発生しているが、反対車線への逸脱はない。今年4月より全国12路線、約113kmへの試行設置にあたり、NEXCO 3社と寒地土木研究所、鋼製防護柵協会が暫定2車線区間に適した改良および検証を実施する。
現在試行設置されているワイヤロープ式防護柵は4車線用で、支柱ピッチが3m、張力は20kN(ニュートン)。暫定2車線に適する調整として、4車線道路の衝突に対して車両が衝突するエネルギーも角度も小さくなることから、支柱は4mピッチ、張力は10kNとした。張力を弱めることで、車両および乗員への損傷が軽減されると同時に、事故時に開口や再設置する場合も素早く少人数で行なえるメリットがある。
今回の実験に先立ち、張力10kNの衝突実験も行ない、反対車線への逸脱もせず、安全性を確認している。実際の試行設置は10kNを予定しているが、今回公開された実験では半分の5kNに挑戦する。鋼製のワイヤロープは温度によって伸縮し、冬場は張力が上がり、夏場は緩む。張力10kNで設置しても、気温が35℃付近まで上昇すると5kNまで下がるという。この下がった状態でも、車両の逸脱防止性能や誘導性能などを有しているか確認するのが今回の実験の目的となる。
衝突性能を担保する目安(参考値)が、車両のはみだし量150cm。それを超えると中央分離帯のガードレールとして認められない。5kNまで張力が落ちても大丈夫であることが確認できれば、10kNでの設置が可能となると見込んでいる。
今回の衝突実験は、車重20トンに調整された大型車が、時速52km、衝突角度6度で、中央分離帯に見立てたワイヤロープ式防護柵に衝突する。ワイヤロープの張力は5kN、支柱は4mピッチ。本来は運転席側に中央分離帯があるが、今回は人(スタントマン)が運転する実験のため、安全を考慮して助手席側での衝突実験となる。
ワイヤとの接触が想定される部分に色違いの塗料を塗布した大型車にスタントマンが乗り込み、いよいよ実験が開始された。車両はスタート地点からいったん迂回し、大回りで速度を調整しながら衝突カ所を目指す。ワイヤロープ式防護柵へのルートはマーキングされており、そのラインに沿って大型車が防護柵に接触する。ものすごい衝撃音と共に、ワイヤをたるませて衝突。衝突時に大きく膨らんだものの、その後はワイヤに沿って車両の向きが修正され、支柱をなぎ倒しながらも車道へ復帰して停車した。
すぐさまスタッフが現場に駆け付け、車両の損傷やワイヤロープなどを調査。今回の実験の結果として、NEXCO東日本 管理事業本部交通課長の田中潤―氏は、「一番の目的だった“突破しないこと”に関しては性能を満たした。これで、4月以降の試行設置に向けた確認が取れた。はみ出し量は44cmだった。衝突後も、車を誘導して車線に戻す動きも問題はなかったとみている。今回の実験での記録映像や計測結果など、詳細を見ながら改善できるところは改善していきたい」と評価した。
事故後のワイヤロープ撤去と再設置を含めた総合的な訓練
続いて実施されたワイヤロープ事故対応訓練は、暫定2車線のワイヤロープ設置区間で事故車が車線を塞いでいる状況を想定して、けが人の救出・搬送や滞留車への対応のためにワイヤロープの撤去、再設置をするなど、事故への対応と事故通行止め解除を速やかに実施するための実践的な総合訓練。
参加するのは、北海道警察本部交通部高速道路交通警察隊、苫小牧市消防本部、NEXCOサポート北海道、NEXCOメンテナンス北海道。ワイヤロープ設置区間を想定した訓練は全国で初めてで、関係機関相互の連携強化を図ることを目的としている。
暫定2車線区間(片側1車線の対面通行区間)で、普通乗用車1台がワイヤロープに接触し、走行車線と路肩にまたがって停止し、車内には負傷者1名が閉じ込められているという設定。ワイヤロープの張力は、衝突実験と同じ5kN。
事故車両の後方には、後続車が2台滞留している。事故車両があり後続車両の通り抜けができない状況で、工作車および救急車がけが人を救出したあと、高速隊員と交通管理隊員のみでワイヤロープの接続部を外して開口部を作り、救急車を速やかに離脱させることができるかがポイント。本来、事故が発生した場合は上下線がインターチェンジで通行止めになるが、今回は通行止めになっていない(対向車線が動いている状態)を設定している。
まずは、事故の一報を受けたNEXCO交通管理隊が、後方より事故現場に駆け付け、「現場通行止」を行なう。これは、事故現場の直後を走行していた場合以外は目にすることのないもの。訓練では、実際に高速道路で使用している発炎筒が使用された。
続いて、北海道警高速隊が現場に到着。事故車両に閉じ込められた負傷者を確認する。同時に、事故車線の反対車線からも北海道警高速隊が到着し、NEXCO交通管理隊と同様に発炎筒を使用しての現場通行止めを行なう。これで上下線が現場通行止となった。
NEXCO交通管理隊と北海道警高速隊は連携し、ワイヤロープの取り外しを行なう。NEXCO交通管理隊はワイヤ同士をつなぐターンバックルを外し、北海道警高速隊が支柱を分解する連携作業。5本のワイヤが次々に外され、反対車線への開口部が作られた。これで事故車を迂回することが可能となる。
現場に、苫小牧市消防本部が到着。負傷者の救助を行なう。事故車に閉じ込められた負傷者(運転者)を救助するため、運転席側のドアを切断。事故車両から救助し、反対車線で事故車両を迂回して搬送を開始。
滞留車2台も同様に迂回して通過させると、レッカー車が現場に到着。事故車両の搬出を始める。それと同時に、NEXCO維持作業員により、損傷したワイヤロープの仮復旧が始まる。仮復旧が終われば、通行止が解除される。
訓練開始から終了まで約40分。NEXCO東日本の田中氏は訓練を終えて、「一番のポイントは、素早く開口部を作り、復旧すること。2012年に試行設置した際の訓練では、開口部を作るのに早くて17分かかっていた。今回は、ワイヤ1本あたり1分で、合計5分程度。張力を下げたことによる効果があった」とコメントした。
1分でワイヤーを外せる「新型取り外し金具」をデモンストレーション
ワイヤロープは、200mごとにターンバックルで接続されている。ターンバックルは、ロープやワイヤなどの張力を調整するための部材で、両端にネジが切られていて、回転させることで締めたり緩めたりできる。
ターンバックルで張力を高くするためにはかなり締め込まなければならず、相当な労力を必要とする。今回の実験で設定された5kNは、重量キログラムにすると約510kgf。片方が固定されたワイヤのもう片方に510kgのオモリを吊して引っ張っているのと同じことだ。4車線用の20kNに至っては約2039kgf、つまり、約2トンもの力で引っ張っていることとなる。
ターンバックルを使った接続では、事故対応でワイヤの取り外しや復旧に時間がかかってしまう。そこで、もっと短時間で取り外しと取り付けができるようにと開発されたのが、今回デモンストレーションをする新型取り外し金具だ。
寒地土木研究所寒地交通チーム主任研究員 平澤匡介氏によると、完成したのが3月3日の夕方で、3月6日に取り付け、試験は1度しかやっていないという。特徴は、外す作業は1名がハンマー1本ですることができ、復旧時も取り付けできれば張力の再調整が必要ないことだという。
実際のデモンストレーションでは、5本のワイヤロープを外すのに、1名で1分弱。復旧は、4名で5分20秒程度だった。この新型取り外し金具は正式に採用されているわけではないが、実用化に向けて、さらに改良を施していくという。