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ANAのクラウドファンディング「WonderFLY」、ローンチイベント開催

「旅の常識を覆すモノ」を11月15日まで募集

2016年11月3日 開催

 ANA(全日本空輸)は11月3日、独自のクラウドファンディングのプラットフォームである「WonderFLY」のローンチイベントを、東京のベルサール六本木で開催した。

 クラウドファンディングとは製品やサービスの開発などのために、技術やアイディアをアピールし、不特定多数の人(群衆という意味のCrowd)から資金を調達(Funding)すること。

 WonderFLYは、クラウドファンディングによる資金調達を支援するプラットフォームサービスであり、10月3日に第1弾として「旅の常識を覆すモノ」というテーマで募集を開始、12月にアワード受賞者を発表し、ANAがプロトタイプ作製資金を提供。2017年2月中旬からスタートする予定だ。

ANAクラウドファンディング「WonderFLY」第1弾の予定

テーマ発表日:2016年10月3日「旅の常識を覆すモノ」
ローンチイベント開催日:2016年11月3日
エントリー期間:2016年10月3日~11月15日
ANAクリエイティブアワード受賞者発表:2016年12月上旬
クラウドファンディングサービス開始:2017年2月中旬予定
Webサイト:ANAクラウドファンディング「WonderFLY」

全日本空輸株式会社 デジタルデザインラボ チーフディレクター 津田佳明氏

 ローンチイベントでは約250名の参加者が集まり、プロジェクト責任者であるANAのデジタルデザインラボのチーフディレクターである津田佳明氏が挨拶を行なったほか、同じくデジタルデザインラボのKevin Kajitani氏がWonderFLYに取り組む意図などを紹介した。

 津田佳明氏はANAの航空会社コードである「NH」は、前身の社名である「日本ヘリコプター輸送」に由来することに触れつつ、「ANAはいっぱいチャレンジをして、常識を覆して初めてここにたどり着いている」と語った。そのチャレンジの例として「航空事業は従来、国によって事業領域を区分けされていて、JAL(日本航空)が国際線と国内線、ANAは国内線とローカル線だった。

 しかし創業から30年かけて、ANAは国際線の運航にたどり着いた。また1983年にはマリンジャンボを就航している。これはデザインを一般公募し、機体にクジラのペイントを施したもの。現在、特別塗装機は一般的になりつつあるが、ANAはその先駆けになった」と話し、ANAにおける過去の意欲的な取り組みを紹介した。

 その一方、組織が拡大したことで「新しいことに対する感性が鈍ってきた」としたうえで、その課題を解決するために立ち上げられた組織が「デジタルデザインラボ」だとした。このデジタルデザインラボのミッションは「世の中の新しい技術やビジネスモデルをANAのビジネスに取り込むこと」だと話し、その第1号案件がWonderFLYだと説明、最後に「デジタルデザインラボで新しい価値を発信していきたい」と述べた。

全日本空輸株式会社 デジタルデザインラボ Kevin Kajitani氏

 津田佳明氏に続き、ANAのデジタルデザインラボでWonderFLYを担当するKevin Kajitani氏がプレゼンテーションを行なった。Kevin Kajitani氏は「日本人の技術、発想、きめ細やかなデザインで世界中の人々に豊かさを提供してきた。それは今も変わらない」としつつ、「近年の日本は新しいアイディアや取り組みに対して、さまざまなサポートが不足しており、世界の急激な変化とスピードから取り残されている」と指摘。

「この状況を改善すれば、もう1度世界をリードできるイノベーティブな国になれると信じている」と話す。そこで一人一人のアイディアを形にするプラットフォームとしてWonderFLYを作ったと説明した。

株式会社リバネス 執行役員CKO 長谷川和宏氏

 ゲストスピーカーとして登壇したリバネスの執行役員CKOである長谷川和宏氏は、まず「科学技術の発展と地球貢献を実現する」という自社の理念、そして教育事業や産学連携事業、創業支援事業などを手がけていることを紹介した。さらにビジネスの一貫として東京都墨田区の町工場3500社を調査し、そこから「研究者とのマッチングによる町工場の新規ビジネスの創出」と「町工場と教育現場の連携」という2つの施策を始めたと話す。

 こうした取り組みの経験から「新しいものを作りたいというパッションを持っていても、それを世の中に出していくうえでは、たくさんのハードルがある。その部分で、作るということに関しては、モノ作りに携わってきた人たちと一緒にやっていくことが重要。

 僕の周りにはたくさんの町工場のおじさんたちがいて、何十年も日本のモノ作りを支えてきた。そういう人たちとアイディアを持つ人たちが一緒になって、世界中の人たちの役に立つモノが作れたら、日本の町工場の人たちもハッピーになるし、それで世界が幸せになればすごくエキサイティング」だと述べ、WonderFLYによって革新的なアイディアが世に出ることに期待を寄せた。

メディアアーティスト・筑波大学助教 落合陽一氏

 同じくゲストスピーカーとして参加し、プレゼンテーションを行なったのが、メディアアーティストで筑波大学助教の落合陽一氏である。フェムト秒レーザーを使い、人間が触れられる映像を空中に描写する3次元ディスプレイの開発などで知られる落合陽一氏は、まずこれまでの研究成果を説明した。それらを踏まえたうえで、モノ作りにおいては研究段階のリサーチ、検証を行なうプロトタイプ、そしてマーケットへのリリースという3つのステップがあると話した。

 そして、「社会に必要なものをどうやって提供するのか。そのためには、ビジョンにシンパシーを感じて集まってくれる仲間がいないと突破できない」と述べる。小さなアイディアを育てるためにはサポーターが必要であり、クラウドファンディングでたくさんの仲間を作ることが有効だとした。

 さらにモノ作りにおいては「まずビジョンを作り、そのために何をすべきかを考える。そのためのムーブメントを設計してモノを作ることが、一番早く成果が出せるのではないか」と参加者にアドバイスを送った。

 参加者の1人である岡部紀(きの)さんは、ANAの整備センターで働く整備士だが、一般の人たちに混じってこのイベントに駆けつけた。参加した理由について「整備の観点からも、飛行機をよりよくするヒントを得られるんじゃないかと考えて参加しました」と話す。

 子供と一緒に参加した射手充代さんは「何年も前から作りたいアイディアがありましたが、なかなか自分1人ではできない。そんなときに、このイベントのことを知り、来てみようかと思いました」と語った。

参加者の岡部紀(きの)さん。普段はANAの整備士として働いている
子供と一緒に参加した射手充代さん。折りたたみ自転車にもなるスーツケースのアイディアを暖めているとのこと

 囲み取材に応じた津田佳明氏は、クラウドファンディングを始めた理由として「すでにいくつかのクラウドファンディングが立ち上がっているが、ヒットしているのはどちらかというと若い世代。一方、ANAには40歳代から50歳代のお客さまが数多くいらっしゃるので、その人たちを刺激し、海外に比べて少ない日本の個人投資につなげていきたい」と語った。

 また今後の展開として、「WonderFLYはいくつかの段階に分けて考えている。まず第1段階は立ち上げでもあるので、出資するお客さまに分かりやすいようにモノを対象にするが、第2段階以降では地域の活性化など、ストーリーに対するファンディングもやっていきたい。そのためにも、まずは最初のステップを頑張りたい」と述べた。

 イベントの後半では、参加者がいくつかのチームに分かれてアイディアを検討し、その内容を発表する取り組みが行なわれ、審査員による投票などで評価の高かったチームの表彰式も行われた。

 1位はチーム名「チューバッカ」が発表した、「人との出会いをもっと楽しめる旅を作るグッズ」で、VRやコミュニケーションアプリを利用して、機内から旅の間までつながるリアルな出会いを実現するというもの。2位には「大きな荷物が邪魔」という課題を解決する、1着で済ませるトラベル用の洋服を発表した「EXECUTIPPY」チームが選ばれた。