旅レポ

オペレッタにワイン…クラシックだけじゃない! 富士山のふもとでオーストリアを満喫

「オーストリアといえば、音楽の都ウィーン。けれども“地方にも素晴らしい観光地があり、クラシック以外にもたくさんの魅力があることを知ってほしい”」と企画されたオーストリア政府観光局主催の日帰りツアーに参加しました。河口湖ステラシアターで上演された「メルビッシュ湖上音楽祭」や、映画の舞台になったザルツブルクやインスブルックの紹介、貴重なオートリアワインの試飲など、今回はその一部始終をお伝えします。

初のオペレッタ観劇へ

「オーストリア」と聞いて、何を連想しますか? 筆者は、モーツァルトにシューベルト、ハイドンとクラシックの有名人が浮かびます。音楽が好きな人には楽しい街ですが、それ以外に何かあったっけ? となかなか思い出せないのです。

 そんな折、オーストリア政府観光局のスタッフの方から「本場のオペレッタが河口湖に来るので、見に行きましょう」とお誘いが。クラシックだけではなくオペレッタもオーストリアの魅力なのだそうです。悲しい結末の多いオペラは観劇したことがあるけれど、喜劇が中心のオペレッタは始めて。今回はオペレッタのなかでも人気のある「こうもり」が上演されるとのこと。これは行くしかありません!

 当日の朝、新宿から用意されたバスに乗り込むと、車内はすでにオーストリア! 懐かしのミュージカル映画「サウンド・オブ・ミュージック」が上映されています。そういえば、この映画の舞台もオーストリアでした。

 画面に映る美しいザルツブルクのアルプスに見とれていると、窓の外には見慣れた富士山が見えました。そろそろ本日のプレゼン会場である西湖いやしの里根場が近づいてきたようです。

バスの中で上映された「サウンド・オブ・ミュージック」。1965年、世界的に大ヒットしたジュリー・アンドリュース主演の映画だ。名曲「ドレミの歌」「エーデルワイス」が流れると、思わず口ずさむ人も
曇りがちの日ではあったが、雲のなかから、ひょっこり顔を出す富士山に歓声が上がる。富士急ハイランドの横を通って、西湖いやしの里根場へ向かう

萱葺きが並ぶ西湖いやしの里根場

 萱葺きが並ぶ「西湖いやしの里根場」は、昭和41年(1966年)の台風災害で被害を受けた萱葺き集落を再生させた体験型の観光地です。ここでは、草木染めやまゆ玉を使った小物作りなど昔懐かしい日本の伝統文化に触れることができます。

西湖いやしの里根場に到着。萱葺きが並ぶ懐かしい日本の風景だ。ほうとう作りやウチワ作りなどの体験のほか、地元の工芸品の購入もできる

 筆者は「陶と香のかやぬま」での匂袋作りにチャレンジすることに。さまざまな布袋から好きな柄を選び、10種類の香りの元となる原料を調合しながら布袋にギュッギュッと詰めていきます。スタッフの女性に丁寧に教えてもらいながら、30分ほどで匂袋が完成しました。

匂袋作りを体験できる「陶と香のかやぬま」。スタッフが白檀や安息香など、香りの原料を説明してくれる。種類や量を変え、自分だけの香りを作れる
10種類の原料を袋に半分ほど詰めた後、好きな香りを3つ選んで上半分に詰めていく。香水よりも優しい香りに心が落ち着く

なぜか、山梨名物ほうとう作り

ほうとうを体験できる「くつろぎ屋」。自分で作っておいしく食べられるので、外国人客にも人気があるそうだ
今日はスーツではなくエプロンで! 観光局局長ミヒャエル・タウシュマン氏の見事な手さばきに驚く参加者

 さあ、次にゲート近くの「くつろぎ屋」で、山梨名物ほうとう作りにチャレンジです。オーストリアな1日と思っていたのに、こんなに日本文化に親しんでいいのか? と同行の人たちと笑いながら古民家に靴を脱いであがると……すでにエプロンをつけたオーストリア政府観光局の局長さんの姿が!

「ウエルカム! さあさあ、ほうとうを作りましょう」と張り切っています。ナイスバディの女性の絵が描かれたエプロンはオーストリア製だそうで、ずいぶんとユーモラスなデザインです。慣れた手つきで粉をこねているのですが、聞けば、1度、練習に来ているそうです。

 生地がよく混ざったら、今度は、平らに伸ばしていきます。ほうとう作りのプロの方の手つきを真似て、私もおっかなびっくりチャレンジしてみましたが、プロから「もっと均一に!」と指導が入り、なかなかOKが出ません。

お手本を見せるほうとう作りのプロ。まるでマジックのようにきれいに伸びていく。これは簡単そう?
筆者もチャレンジしてみたが…伸ばせば伸ばすほどいびつな形に。普段、料理をしていないのがすぐばれる

 伸ばせるだけ伸ばしたら、次に慎重に生地を折り重ねて、包丁で切っていきます。長さがバラバラなのはご愛嬌。

なぜかみな、猫背になるほうとう作り。生地を重ねてから切る。姿形はともかく、おいしいはず?

 作った麺を味噌味の鍋に入れ、ひと煮立ちさせると、カボチャ入りのほうとうが完成しました。何度も食べたことはありましたが、作ったのは初めてです。熱々のほうとうを、おかわりをしながら、みなさんとおいしくいただきました。

山梨名物ほうとう。カボチャやキノコなど秋の恵みがたっぷり。味噌や醤油をベースにしているが、どんな調味料や出汁を使っているかは「企業秘密」とのこと

萱葺きが一日だけオーストリア仕様に?

 お腹がいっぱいになったあとは、オーストリア観光のプレゼンを聞くため、大きな広間のある「ごろ寝館」に移動します。いくつもの萱葺きを抜け、坂道を上がって行くと、1軒だけ紅白の垂れ幕がかかっているど派手な萱葺きを発見。よく見たら、オーストリアの国旗でした!

 ぐるりと玄関にまわると、こちらにも国旗。シンプルな色の萱葺きが今日は華やかです。

渋い萱葺きが今日は華やかに。座布団に座って行なわれる観光局のプレゼンは初めてだ

オーストリア造幣局の意外過ぎる誕生秘話

 ここからは、しばしオーストリア観光のプレゼンテーションの時間。座布団に座って待っていると、長い伝統を誇るオーストリア造幣局の駐日事務所代表 北野美子さんが登場しました。

 筆者には金貨に縁がないので、知らなかったのですが、オーストリアの造幣局といえば、世界有数の貴金属加工の技術を持っているのだそうです。それにしても、オーストリアの造幣局は、いったいどのようにして誕生したのでしょう。

「1192年、獅子心王と呼ばれたイングランド王リチャード1世が、オーストリア公爵レオポルド5世を侮辱しました。しかし第3次十字軍遠征からイギリスに帰る途中、オーストリアの地を通らねばならず、捕らえられてしまったんです。その後、リチャード1世の釈放と引き換えにイギリスから1万1600kgもの銀を身代金として受け取ったレオポルド5世が、この銀を元手に1194年から貨幣鋳造をはじめました。これが今の造幣局に繋がったのです」

 身代金の銀が造幣局のはじまりとは! リチャード1世には気の毒ですが、なんともユニークな話です。オーストリア造幣局が作る美しい地金型金貨「ウィーン金貨ハーモニー」は世界中にコレクターがいるそうです。金貨の表面には、「ウィーン・フィル・ハーモニー管弦楽団」の本拠地にある「楽友協会・黄金の間」のパイプオルガン、裏には管弦楽団を象徴する6種類の管弦楽器がデザインされています。

オーストリア造幣局の駐日事務所代表・北野美子さん。後ろに輝いているのが、美しいデザインの「ウィーン金貨ハーモニー」
オーストリア造幣局の始まりを紹介するビデオを上映。身代金が造幣局のスタートとは、世界でも珍しいのでは?

「ウィーン・フィルの重厚さや雰囲気がよく表現されています。この金貨が発売されたときには、フィルのメンバーがみんな買ってくれたそうです」

 毎分750枚も製造される金貨。造幣局本部は、首都ウィーンの中でも最も歴史のある建築物の1つとしても有名だそう。金貨は手軽に買えないのですが、ウィーンを訪れたときにはぜひ寄ってみたいと思いました。

チロル州の州都インスブルックってどんなところ?

 続いて、ウィーン以外にもたくさんの見所があることを知ってほしいと、オーストリアの民族衣装に身を包んだモラス彩子さんがマイクを握ります。

 最初に紹介するのは、アルプスの美しい山々に囲まれたオーストリアの西に位置するインスブルック。

「夏はハイキング、冬はスキーをはじめとしたウィンタースポーツの拠点となります。宮廷用閲覧席として建てられた『黄金の小屋根』と呼ばれるテラスやホーフブルク王宮などの歴史的建造物のほか、オリンピックで多くの観客を魅了したベルクイーゼル・ジャンプ台など見所が点在。自然いっぱいのアルプスとハプスブルク家の豪華さの2つを同時に体験できる街なのです」

長年、オーストリアの紹介をしてきたモラス彩子さん(右)。民族衣装でプレゼンを盛り上げる
「アルプスのハート」と呼ばれる山に囲まれたインスブルック。夏はハイキング、冬はスキーを楽しめる

 そして、もう1つの特徴は、東西南北の主要地を結ぶ交通の要であること。パスタを食べたいときは、「イタリアに行こうか」と30分くらいで国境を越えることができるほどイタリアが近いそう。

「もうすぐインスブルックは、クリスマス・マーケットが始まります。11月中旬くらいから、チロルの手工芸品やキャンドル、クリスマスのお菓子を売る屋台が並びますが、ホットワインを楽しむこともできますよ。素晴らしいイルミネーションや、巨大なクリスタルの塔や15メートルの高さのスワロフスキーのクリスマスツリーは見事です。街全体がロマンチックですよ」

映画の舞台ザルツブルクを訪れる

「サウンド・オブ・ミュージック」の舞台となったザルツブルク。映画の舞台を訪ねる旅も魅力的だ

 次に、ウィーンに負けず劣らず音楽の都として名高いザルツブルクを紹介。モーツァルトの生誕の地として知られており、ザルツブルク国際モーツアァルテウム財団主催の「モーツァルト週間2016」が来年(2016年)1月に開催が予定され、コンサートや独奏会など40以上のイベントが行なわれるのだとか。

 また、3月にはザルツブルク復活祭音楽祭、5月には「ザルツブルク聖霊降臨祭音楽祭2016」、夏には「ザルツブルク音楽祭2016」など、音楽が好きな人には目が離せない音楽祭が盛りだくさんです。

 音楽の都、ザルツブルクを、さらに有名にしたのは、バスのなかで懐かしく見ていた名作映画「サウンド・オブ・ミュージック」。今年、公開から50周年を迎え、さまざまなイベントが開催されたそうですが、舞台となったミラベル庭園やレジデンツ広場、ノンベルク尼僧院など、今でも多くの人が訪れるそうです。

 ちなみに、ザルツブルクのザルツは塩、ブルクは城……つまり、塩の城という意味だそう。

「ここには岩塩坑があって、昔は、塩を採っていたんです。今でも、見学することができるんですよ。昔、塩は『白い金』と呼ばれるほど珍重され、この地に富をもたらしました。塩があれば、肉などの保存がききますよね」

 音楽に映画、塩の街でもあるザルツブルク。ここだけでも1週間は楽しめそうです。

オペレッタを見る前に一杯?

湖畔にある河口湖ステラシアター。屋根はついているが、自然の風が通り抜ける気持ちのいい空間だ

 オーストリアについて勉強をしたあとは、いよいよ本日のハイライト、世界最大のオペレッタ・フェスティバル「メルビッシュ湖上音楽祭」の日本公演を見に、一路、河口湖へ。

 悲しい結末が多いオペラとは一味違う、ユーモア溢れるオペレッタもオーストリアの十八番なのです。特にオーストリアの東、アイゼンシュタットの近くにあるノイジィードラーゼー湖で開催される「メルビッシュ湖上音楽祭」は、世界のオペレッタ・ファンにとっては夢のような場所なのだとか。この世界最大のオペレッタ・フェスティバルは、1957年に始まり、今では、約20万人の観客が集まるそうです。

 50年間、門外不出の祭典とされていたのですが、引越し公演を決意。その最初の上演先に選ばれたのは、日本の河口湖ステラシアター。メルビッシュと雰囲気が似ているのでしょうか?

 会場となる河口湖ステラシアターには、入り口に向かう人々で混み合っています。さあ、我々も並んで……と思ったら、ここは本場と同じように、舞台前にはゆっくりとワインを楽しみましょうと、オーストリアワインを販売しているブースへと誘導されました。

 ブースを出していたのは、兵庫県西宮市の有限会社エイ・ダヴリュー・エイのみなさん。まだ準備中なのか、せっせとワインを並べていますが、私たちに気がつくと、「さあさあ、乾杯しましょう!」とワイングラスにスパークリングから注いでくれました。グラスが空くと次はフルーティで飽きのこない白、芳醇な赤。

 これらはすべて、ブルゲンランド州の州都、アイゼンシュタットの郊外にブドウ畑があるエスターハージー家のワインとのこと。17世紀からブドウ栽培とワイン醸造を手がけ、女帝マリア・テレジアや詩人のゲーテも絶賛したワインです。

 オーストリアワインは、あまり日本では見かけないのですが、これだけおいしいのですから、すぐに人気が出そうです。

エスターハージー家のスパークリングワイン。日本でワインといえば、フランスやイタリア、スペインが多いが、オーストリアのワインも絶品
まだ準備中だけど…「さあ乾杯しましょう」と待ちきれない局長。ノンアルコールのぶどうジュースも濃厚で美味

本日のハイライト「こうもり」を観に

 ほろ酔い気分でリラックスしたら、さあ、いよいよ会場へ。今回、メルビッシュ祝祭管弦楽団・合唱団・バレエ団が来日して上演されるヨハン・シュトラウス2世作曲の「こうもり」は、笑いあり、涙ありのユーモラスな復讐劇です。

 アイゼンシュタイン家の夫婦の駆け引き、夜会での騙し合い、あっと驚く結末など、どの場面も演奏や歌が素晴らしく、特にソプラノ歌手のアレクサンドラ・ラインプレヒトの美しい歌声にすっかり魅了されました。

仮面をつけた貴婦人を妻とは知らずに口説いてしまうアイゼンシュタイン。オペレッタは楽しい場面の連続だ。
ロザリンテ役のアレクサンドラ・ラインプレヒトとアイゼンシュタイン役のティルマン・ウンガーのやりとりが絶妙。観客からは大きな拍手が

 途中、地元のバレエ団に通う子供たちも可憐な踊りを披露。世界的なバレエ団との共演は一生の思い出でしょうね。そして最後は、出演者全員でご挨拶。素晴らしい舞台に惜しみない拍手が送られました。

 日本で見られることはうれしいのですが、来年こそ、本物の「メルビッシュ湖上音楽祭」に行きたくなりました。きっと会場にいた人の誰もがそう思ったのではないでしょうか?

 “クラシックだけ”と思っていたオーストリアですが、オペレッタにウィンタースポーツ、クリスマス・マーケットにハイキングなど、どの世代でも楽しめそう。ロマンチックな冬か、賑やかな夏か……どちらの季節にオーストリアに行こうか悩む日々が続きそうです。

白石あづさ

フリーライター。主に旅行やグルメ雑誌などで執筆。北朝鮮から南極まで世界約100カ国を旅し、著書に「世界のへんなおじさん」(小学館)がある。好きなものは日本酒、山、市場。