旅レポ
タイで初めての王朝が開かれた古都・スコータイの旅(その3)
歴史公園だけでなく地域の文化・生活にも触れられるシーサッチャナライ
2016年7月6日 00:00
北部の新たな観光地候補「スコータイ」を紹介するため、タイ国政府観光庁が実施した視察ツアーの3回目のレポート。今回はシーサッチャナライのアクティビティを中心に紹介する。
これまでにも紹介してきたとおり、世界遺産に登録されている「スコータイの歴史上の町と関連の歴史上の町」は、スコータイ、シーサッチャナライ、カンペーンペットの街を一つのエリアとしてまとめて認定したものだ。スコータイの中心部から北へクルマで1時間ほど走るとシーサッチャナライにたどり着く。
シーサッチャナライ近辺の見どころとしては、まず世界遺産である「シーサッチャナライ歴史公園」が挙がるが、それだけではない面白い場所がある。それが、ゾウ保護センターや「バン・ナトンチャン」といったコミュニティベース・ツーリズム(地域密着型ツーリズム)を楽しめるスポットだ。
ゾウ乗りや、ホームステイしてのゾウ使い講習を受けられるゾウ保護センター
シーサッチャナライ近郊にある「シーサッチャナライ・ゾウ保護センター(Sri Satchanalai Elephant Conservation Center)」。ここでは現在、6頭のゾウを飼育している。元々この地域では、伐採した木材を運ぶためにゾウを使役していたが、政府により森林の伐採が禁止されたために当時80頭いたゾウやゾウ使いの人々が“失業”してしまったという。毎日200kgのエサが必要となるゾウを飼育し、ゾウ使いの人々の生活も守るために作られたのがゾウ保護センター。この施設によってゾウとゾウ使いの人たちの生活を支えることで、使役に供するゾウの飼育やゾウ使いの技術といった伝統も後世につなげている。
ゾウ保護センターでは、日帰りでのゾウ乗り体験のほか、1泊2日または2泊3日でホームステイをしてゾウ使いの講習などを受けられる。ゾウと共存する人たちとひとときを過ごし、ゾウに向き合う姿勢などを間近で感じることができるだろう。単なるアクティビティとしてのゾウ乗り体験にとどまらない体験が興味にかき立てられるスポットだ。
地元伝統のグルメや工芸を見て・体験できる「バン・ナトンチャン」
続いて訪れたのは「バン・ナトンチャン(Ban Na Ton Chan)」と呼ばれる地だ。“バン”はタイ語で村を意味する単語で、すなわち「ナトンチャン村」と訳することができる。ここはタイ国政府観光庁が推すコミュニティベース・ツーリズムの典型のようなところで、地元に古くから伝わる工芸、手芸、グルメを楽しめ、ホームステイもできる観光スポットとして整備されている。
この伝統を伝えるコミュニティを開発するにあたっては日本も力を貸している。また、2004年には千葉県の富浦町(現南房総市)を訪れ、ホームステイの運営方法などを見学。そこで得た知識を運営に活かしているという。
ここで体験、見学できるのは、機織りや染め物、伝統的な工芸品や“おもちゃ”など。綿花に恵まれたという土地ゆえに布製品が多く目に留まる。季節によってはくだもの狩りや、パチンコを使って種を植えるユニークな農業などもあるそうだ。そしてグルメも楽しめる。これらは、例えば機織りや染め物などであれば職業訓練も兼ねていたり、農業であれば村内での食料品の生産も兼ねていたりと、生活に直結したものというのが特徴になっている。
生活に直結したものとはいえ、あくまで観光地として、訪れた人にどう見てもらい、どう楽しんでもらうかを、上記の日本訪問や、これまでの取り組みから得た経験をベースにして工夫を凝らしているという。ホームステイの参加費用は1泊350バーツ(約1090円、1バーツ=約3.1円換算)。この売り上げは、200バーツをホスト家族、残りを地域運営の管理費や活動費用に充てている。
釜ゆでによる染め物や、足で漕いで動かす機織りなど、いかにも伝統的なアイテムが目に留まるが、そこで使われている移動手段も面白い。フレームなどは一部自作しているのではないかと思うようないすゞのエンジンを積んだトラック(“いすゞのトラック”と表現するのはあえて避けた)や、クボタの汎用エンジンを使ったトラクター、スズキなどの古い小型バイクなど、日本製品が活躍している。
見学時には、日本では法令上禁止されているトラックの荷台に乗って各ポイントを巡れたのも楽しかった。自転車より遅いぐらいの速度で走るトラックの荷台に乗って走る田舎道……そんな経験はない記者だが、なんとなく子供に帰ったような気分になる。
地元の人たちに英語を話せる人が少ないのは気になったのだが、言葉が通じないにも関わらず、子供たちやその家族がいろいろコミュニケーションをとろうと声をかけてくれたり、酸っぱい木の実を渡してくれたりして楽しい。そのときは、ほぼボディランゲージと顔芸だけのやりとりになってしまったのだが、こちらが多少なりともタイ語を覚えていくと、それだけできっと彼らは喜んでくれるだろうし、その結果、より楽しい時間を過ごせるのではないかと思う。
そのほかにも伝統を感じられるスポットが
このほかにもスコータイやシーサッチャナライの伝統文化を感じられるスポットを2カ所紹介しておきたい。
一つは「ゴールド・テキスタイル・ミュージアム(Gold Textile Museum)」。この地域で古くから副業として営まれてきたという織物や、織物を作るのに使われた器具を展示している博物館だ。
先のバン・ナトンチャンで見たような色鮮やかに染め上げられた糸や、金の糸を使った織物が多数あるほか、近隣の王国との親交を表わす品として交換された織物なども展示されている。アンティークな雰囲気で統一され、織物に関する器具以外だけでなく展示に使われている木製の棚なども見応えがあって、深い趣があった。入場無料という気軽さもうれしいスポットだ。
もう一つはスコータイ近郊のスポットとなる「ステープ・サンカローク」と「ガネーシャ・ギャラリー」。スコータイ近郊のサンカロークという土地で作られた陶磁器が「サンカローク焼き」と呼ばれていることは、第2回目のレポート「タイで初めての王朝が開かれた古都・スコータイの旅(その2) 13世紀の遺跡を花火が彩る! スコータイ歴史公園の散策」でもお伝えしたとおり。そのサンカロークの焼きの工房が「ステープ・サンカローク」。そして、ゾウの神様「ガネーシャ」の陶磁器が展示、販売されている「ガネーシャ・ギャラリー」が隣接している。焼き工房でもガネーシャの焼き物が多く作られていた。
ここでは、サンカローク焼きのコーヒーカップへの絵付け体験を楽しめる。絵付けしたものは、この工房で焼いて完成させたのちに日本へ発送もしてくれる(送料が必要)。絵付けにあたっては先生が魚の絵の描き順を丁寧に説明してくれるのだが、絵心が問われるアクティビティを大の苦手とする記者にとって重い時間が流れたことは否定できないが、ただ絵付けをするだけだと考えれば、絵心がないとそれなりの見た目になるだけで、それはこの世に一つだけのちゃんとしたコーヒーカップができあがる。サンカローク焼きというこの地域ならではの物を、カタチとして思い出に残せるスポットとして面白い場所ではないだろうか。
神気に満ちた林のなかの遺跡群「シーサッチャナライ歴史公園」
最後になってしまったが、シーサッチャナライで忘れてはいけない観光スポットである「シーサッチャナライ歴史公園(Si Satchanalai Historical Park)」も紹介しておきたい。言うまでもなく世界遺産「スコータイの歴史上の町と関連の歴史上の町」を構成する重要なスポットだ。
第2回目の記事で紹介したスコータイ歴史公園は遺跡のお寺が“密集”しているといってもよい場所であるのに対して、シーサッチャナライ歴史公園は広大の林に遺跡が点在している。トラムやレンタサイクルで巡るのは同じだが、遺跡から遺跡まで移動する途中に、ポツンと石垣が残っていたりする。
シーサッチャナライはスコータイ王朝時代に、スコータイに続く第2の都市として栄えた街。全盛期には賑わいを見せていたのであろう城壁のなかも、いまでは草が生え、木が生え、残された遺跡だけが当時の面影を残す状態だ。なにか寂しさを感じるとともに、その静けさがなにかを語ろうとしているようにも思える不思議な空気に満ちたスポットだった。
このようにスコータイ歴史公園近郊とは、また違った魅力を持ったシーサッチャナライ。特に地域密着型の体験ができる施設は、じっくりと時間をかけて堪能したい場所だ。第2回目の結びに、チェンマイ旅行の一環としてバスで訪れるだけではもったいない、という主旨のコメントを記したが、その理由がまさにこれ。
ゾウ保護センターにしても、バン・ナトンチャンにしても、今回の数時間の訪問では、その表面しか見られていないような気がしてならない。もっと長く、せめて1泊でもして、地域の文化や地元の人々の生活の一端にでも触れたいと思った。特に海外旅行で地元の文化に触れることを楽しみにしている人は、好奇心を強くかき立てられるのではないかと思う。
さて、スコータイ、シーサッチャナライとスコータイ王朝時代に繁栄した都市のいまを見てきた本レポート。実際に訪問するにあたってはやっぱり気になるスコータイエリアのホテルも、いくつか視察させてもらった。バンガロータイプから、リゾート地を感じさせるホテルまでバリエーション豊富なそれらのホテルを次回紹介したい。