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日本旅行業協会、「中国旅行復活緊急フォーラム」開催

中国旅行の新たな可能性を議論

 3月22日、JATA(日本旅行業協会)は「中国旅行新時代に向けた観光素材、商品の開発」をテーマに「中国旅行復活緊急フォーラム」を開催した。そのプログラムの1つとして、「中国旅行新時代に向けて ~中国商品100万人リカバリー~」と題したパネルディスカッションが行なわれた。参加したのはワールド航空サービス 代表取締役会長である菊間潤吾氏、そして中国国家観光局 駐日本代表処 主席代表の羅玉泉氏など。

株式会社ワールド航空サービス 代表取締役会長の菊間潤吾氏

 尖閣諸島問題などで日中間の関係が悪化したことから、ここ数年の日本から中国への渡航者は減少傾向にある。具体的な数字で見ると、日本から中国に渡航した人数は2012年は350万人を超えていたが、2015年には250万人を割り込んだ。こうした状況を踏まえ、菊間氏は「私から見ると、空白の3年間だった。マーケットが著しく落ち込み、ほとんどツアーが出なくなった」と話した。ただし、2015年5月に3000人が参加して行なわれた、日中観光交流イベントの後から徐々に雰囲気が変わってきたといい、「読売旅行さんがいち早く中国のツアーを再開し、相当いい成績を残しておられる。直近の1月、2月の状況を見ても、香港やマカオは2桁の伸び」として状況が好転しつつある現状を示した。

中国国家観光局 駐日本代表処 主席代表の羅玉泉氏

 羅玉泉氏は「中国国内は観光地区、高速道路、高速鉄道、ホテルなど、インフラ整備が進んでいる。以前は交通が不便でホテルも今ひとつという印象が強かったかもしれないが、そこから大きく変わった。来年は国交正常化45周年なので、我々も頑張って行きたい」と意気込みを語った。

チャイナエンタープライズ株式会社 代表取締役の常永波氏

 チャイナエンタープライズ代表取締役社長の常永波氏は「中日間の飛行機の座席供給数は2012年から130万席増えたが、その一番の理由は中国からの訪日観光客」だとした上で、日本から中国へ向かう飛行機において料金や席の調整などで航空会社でも努力していると現状を話した。その上で「現状はインバウンドが中心で、日本から中国へ向かうアウトバウンドは少ない。このアンバランスを解消していきたい」とした。

株式会社キャラバントラベル 代表取締役社長の王昕氏

 これからは若い人たちに中国に来てもらうことが重要だと話したのは、キャラバントラベル代表取締役社長の王昕氏。「日本から中国に向かうこれまでの団体旅行客は、お金と時間に余裕がある高齢層がこれまでの中心だった。しかし、これが若い人たちに受け継がれていない。そのため、若い人たちに中国に来てもらうことが重要だ。中国には遺跡や世界遺産が数多くあり、たくさんの景勝地が残されている。光が見えてきているので、(中国への旅行者は)必ず回復していくだろう」と述べた。

中青旅日本株式会社 営業部部長の江川光太郎氏

 中青旅日本 営業部部長の江川光太郎氏は、「長く苦しいトンネルは完全に出た」とした上で、「トンネルを出たらまったく違う世界になったという実感がある」と説明する。その理由として挙げられたのがインフラ整備で「高速鉄道が整備されたことで、1泊2日で移動していた路線が3時間で行けるようになり、また5つ星ホテルも大幅に増加し、世界に名だたるホテルが中国に数多く展開している。数年前とはインフラが大きく変わっている」と説明した。

 これを受けて菊間氏は「これまで中国のツアーは、歴史や文化、自然を追いかけるコースの設定が多かった。このようにホテルがたくさん出てくると、リゾート的な商品を作り出すことも可能ではないか」と話した。

東武トップツアーズ株式会社 海外旅行部長の徳野浩司氏

 東武トップツアーズ 海外旅行部長の徳野浩司氏は、ここ数年の中国旅行の動向について説明した。徳野氏によれば、大手各社実績において、2011年の中国渡航人員を100とした場合、2015年は30にまで落ち込んでいるという。ただ「東武トップツアーズの団体旅行においては、2011年を100とした場合に2014年で40、2015も41と踏ん張り、堅調に推移している」と話し、「今後は団体旅行が起爆剤になるのではないか」と説明した。

 この後、中国による観光資源整備の現状や、新たなモデルコースの説明などが行なわれた。観光資源については、国家旅遊局が観光地区の格付けを行なっていると説明、最高ランクとなる5Aは2014年時点で186箇所で、さらに2012年から2015年にかけて80箇所が登録されているといった状況を羅玉泉氏が説明した。

5Aの格付けを獲得した観光地の1つとして紹介された、四川省南充市の●中古城。三国時代、張飛が拠点としていた街(●=門構えに良)

 新たなモデルコースとして紹介されたのは「新シルクロード・絶景紀行 西寧・門源・張掖・嘉峪関・敦煌 8日間」で、江川氏は幅10km、長さ50kmにわたる門源の菜の花畑や、インフラ整備が進む敦煌などを見どころとして紹介した。

新たなモデルコースとして紹介された、新シルクロード・絶景紀行で巡る観光地の1つとして紹介された、西寧郊外観光
門源の菜の花畑は、淡路島と同等の面積を誇る。また天気が良ければガンシカ雪山も見られるという
張掖では、マーブル柄の地層が広がる景色や数々の奇岩など、スケールの大きな自然が楽しめる

 「国際都市上海と水郷古鎮リゾートに宿泊する4日間」として紹介されたのは、北京や上海へ向かうビジネス客向けのモデルコースだ。「ビジネス目的で中国へ渡航する人は相変わらず多いが、ビジネスだけで終わっているケースが多い」と江川氏は話し、そうした人向けの観光コースだと説明した。

モデルコース「国際都市上海と水郷古鎮リゾート」では、最高時速430kmのリニアモーターカーで上海市内へ向かう
上海市内観光。ビジネスマン向けとのことで、日系デパートや小売店の見学などもツアーに組み込まれている
アジアのベニスとも呼ばれる鳥鎮の観光。運河を遊覧し、旧市街の風情ある街並みを堪能できる

 最後に菊間氏は「マーケットが着実に動き出しつつある状況であり、旅行会社が積極的に動けば大きく変化するのではないか。待っているお客さまはたくさんいる。3年前の引き出しから商品を作るのではなく、定番のものでもすべて見直して新しいトレンドを作る必要性がある。緊急フォーラムをきっかけに、自社の中国戦略を見直し、新しい切り口を探し出してやっていけば、爆発的に回復するのでは」と期待の言葉を述べ、パネルディスカッションを締めくくった。

(川添貴生)