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AIR DO、国交省、ANA出身の谷寧久氏が新社長に就任

2014年の行政処分に対応し「安全の風土を強固にしていく」

2015年6月29日 発表

AIRDO株式会社の新・代表取締役社長に就任した谷寧久氏(右)と、前・代表取締役社長で顧問に就任する齋藤貞夫氏(左)

 AIR DOは6月29日、札幌市内のホテルで第19回定時株主総会および取締役会を開催し、新たな代表取締役社長として谷 寧久(たに やすひさ)氏を選任。同日より就任した。前代表取締役社長の齋藤貞夫氏は任期満了に伴い退任し、同社顧問に就任した。

前・代表取締役社長の齋藤貞夫氏

 株主総会および取締役会終了後に行なわれた記者会見で、前社長の齋藤氏は「ちょうど2014年度の決算の数字があらあら分かった時点で、おかげさまで就任中5年間、1度も赤字にならず、決算を迎えることがほぼ確実になったのが1つ。

 合わせて、最大の課題であったユニットコストが、間違いなく10円台の前半まで下がるという数字も出たので、そろそろ新しい執行体制で仕事を進めていただくのが適当と思った。

 また、昨年(2014年)に当局から厳しい行政指導、行政処分を受け、安全基盤の再構築がAIR DOにとって最大の懸案。ちょうど決算の数字が揃うころに、新しい安全基盤の再構築についても、おおむね体制が整ったと確信が持てた。主要な株主、社内外の役員と適当な方はいないかと相談した結果、ANAの総合安全推進室にいらした谷さんが最適だという結論に至った。

 今回、無事にバトンタッチできたことを非常にありがたいと思うし、谷さんは航空安全についてはプロ中のプロなので、なお一層、AIR DOが構築した新たな安全基盤に一本強い芯を入れていただいて、多くのお客様に安心して乗っていただけるエアラインを、さらに強く目指していただければ幸いに思う」と経緯を説明。

 AIR DOは、機長初期訓練において不適切な路線訓練を実施したことや、その事実を把握後も社内で十分な検証・評価を行なわないままに機長昇格させていたことが発覚し、2014年12月に国土交通省より「航空輸送の安全の確保に関する事業改善命令」の行政処分を受けた(ニュースリリース、PDF)。これに対応すべく、2015年1月30日には運航乗務員の訓練体制や安全管理体制の抜本的な見直しなどの改善措置を発表している(ニュースリリース、PDF)。

 その安全管理体制が整ったと判断できる状況となったことに加え、経営面でも、2013年12月に発表した2013~2016年度の中期経営戦略において2016年度までの達成目標としていたユニットコスト10円台を、2015年5月29日発表の「2015年3月期決算」(ニュースリリース、PDF)に記されているとおり2年前倒しで達成。任期中の5年連続黒字もあり、“勇退”というスタンスでの社長交代であることを説明した。

 新たに代表取締役社長に就任する谷寧久氏は、齋藤前社長と同じく国交省出身で、ANAを経て、AIR DOの社長に就任する。後任の谷氏が、齋藤氏の1年先輩に当たるという。

AIRDO株式会社 代表取締役社長に就任した谷寧久氏

 谷氏は、「国交省を辞めて7年ぐらいになるが、まさかこういうカメラの前に立つことがあるとは想像もしていなかったので、若干、戸惑いを感じるとともに緊張している。

 いま齋藤前社長からの紹介があったように、元々、運輸省、国交省で航空安全行政を30数年間やっており、その後、ANAでも航空の安全に関する業務をしてきた。とは言っても、航空会社の運航の実態や経営、運営については、まったくの素人同然。勉強しつつ、北海道の翼であるAIR DOをますます発展させていきたいと思っている。

 とりわけ、2014年に安全関係で世の中をお騒がせしたということで、いくつか対策が講じられている。私の役目としては、その対策をさらに社内に浸透、定着させて、AIR DOの安全文化、安全の風土というものを強固にしていくことだろうと認識している」と挨拶。

 併せて、「航空の安全は何かをやったらからすぐに安全になるというものではなく、着実に1つ1つ積み重ねていく結果が安全につながると理解している、本当につまらないことでも1つ1つ、例えばマニュアルに従って常に安全を考えながら仕事をしていくといった社内の体制、雰囲気を作っていくことだと思っている。聞いているところでは、昨年、社内で十分な意思疎通や情報共有がなかった点も、行政指導、行政処分につながったとのことなので、まず社内の、こと安全に関する情報をみんなで共有できるような、コミュニケーションできるような体制を作っていく必要があると考えている」と、就任後の取り組みを展望している。

 外部から同社を見てきた印象については、「立ち上がりのころ、私は国交省の航空局にいた。その前にスカイマークがあったが、新しい航空会社がいくつかできて、当時浜田さん(初代社長の浜田輝男氏)が局内を走り回っていたのを覚えている。ようやく飛行機を飛ばし始めて、しっかりやっているなと思っていたところで急に傾いてしまった。現在はANAの支援を受けながら立ち直ってきたところで、齋藤社長が就任して5年間はずっと黒字が続いているということで、経営基盤はある程度、安定してきているのだろうと思っている」と話した。

新路線は早ければ下期にも

 今後の同社の戦略について谷氏は、「現在の中期計画は、本来なら来年、2016年度末までのものだが、種々の目標を前倒しで達成しているということで、現在の中期計画を今年度末で終わらせ、次の新しい中期計画を設定しようという検討をしていると聞いている」と明かした。

 質疑応答では、中期計画に絡んで新路線や新機材についても質問され、齋藤氏が回答。「(機材については)まったくの白紙。現在ボーイング 767を4機、ボーイング 737-700/-500を9機の13機体制で運航している。懸案のボーイング 767は、残念ながら飛ばし始めてから時間が経過しており、あと数年で寿命を迎える。それまでに代わりの機種を会社として決めなくてはならない。そこまでは決まっている。では、どの機種かというとなにも決まっていない。新機材を入れると約20年間使うので、20年後のマーケットがどうなるかについて、ある程度しっかりした見通し、確信がないと機種を決められない。今は国内の航空マーケットは競争も変化激しく、今の段階でどの機種に絞るかを判断できる環境にないと認識している」と回答。

 新路線については、「十分な安全管理体制を確保して飛ばす。いま社内で十分なパイロットを養成している。その目処がたったら、下期、つまり10月の最初の日曜日から飛ばす。ただ、経験的に2カ月前には決定しないと商品が売れない。そのタイミングまでには飛ばす、飛ばさないが決まる、と考えていただきたい」とし、8月上旬が1つの目安になることを示した。

 一方、同社は2014年11月20日と24日に新千歳(札幌)~桃園(台北)間で国際線チャーター便を初めて運航した。今後の国際線への進出について、谷氏は「元々北海道国際航空という名称で発足した会社なので、当然、国際路線に出るのは究極的な会社の目標だと考えているが、正直言って、国際線の定期路線に進出するのは難しいところがあると思っている。これまで何十年も運航してきて、2014年に初めて台湾へのチャーターが飛んだが、その評価がどうだったかの報告を受けていないので、今の段階ではなんとも申し上げられない。

 機材の面でも国際線の仕様になっていない制約があり、ANAも国際線に進出してからかなりの期間は国際線収支は赤字が続いてたので、エアラインとしてそれなりに体力がないと国際線には進出できないと考えている。その体力を付けることが最優先。ただ、そうは言っても、将来の国際線を志向するからには、2014年のようなチャーター便なり、お客様が集まった段階で運航するといった形態を続けることで、国際線運航の経験を積んでいくことに価値はあると思っている」とした。

 このほか、2016年3月に開業が予定されている北海道新幹線について、齋藤氏は「日本人は初物好きですし、軌道系も好きなので、開業して何年かは間違いなく大勢のお客様が新幹線を利用して函館まで来ることが予想される。ただ、青函トンネルは安全確保の観点から速度制限がかけられ、東京~函館が4時間を切ることは難しいと今のところ言われている。

 新幹線と飛行機の伝統的な競争関係を考えると、4時間を超えると往復ともに新幹線に乗る人は限られるのではないかと思う。例えば、行きは新幹線で函館に来ても、帰りは疲れたから函館市に近い空港から帰りたいというお客様もいる。

 JR北海道にゆるやかに申し入れたのは、片道新幹線、片道飛行機という、そのような企画的な商品を出せないか、1年ほど前に私から提案させていただいた。おそらくJRも検討していると思っているが、こういったことで新幹線開業の影響を最小限に食い止める。そして、いま羽田~函館線は2便飛んでおり、2便とも中型ジェット機のボーイング 767を飛ばしているので、今後のお客様の動向によっては、小さいボーイング 737などを混ぜて飛ばすことも視野に入れ、マーケットの変化に柔軟に対応する必要があると、少なくとも私の時代は考えていた。

 羽田の枠は限られているので、その便数の中でいかにマーケットに合わせたサービスを提供していくかということ。うちの会社も営利企業なので、きっちりと安定した利益をださなければならない。いろんなお客様に望まれるサービスを、JRも含めた他社と提供していければ、北海道の翼としての役割を十分に演じられると認識している」と、JR北海道と協力の道を探ることで、北海道新幹線開業に伴う影響を抑える意向であることを明かした。

 このほか、LCCとの競争について、齋藤氏は「羽田~新千歳線と競合するのは成田からの便だと思うが、成田は便利というお客様も相当数いるが、やっぱり北海道にいくなら羽田がいいねというお客様が何百万人もいる。そこで大手と競争して、どれだけシェアを取れるかということについて、十分に熟慮、配慮、検討したうえで、確実に利益が出る生産体制で臨む」とした。

 一方の谷氏は、「必ずしも路線として競合しているわけではないと言えるが、世界的に見ると欧州やアジアではLCCのシェアが3割や5割と言われている。日本ではまだ10%いかないぐらいだが、いずれLCCがもっとネットワークを拡げてきて、路線が競合してくる可能性は否定できないと考えている。スカイマークについては、これからどうなるかまったく先が見えないが、今までのように熾烈な競争を強いられるのか、ある程度、協調的な関係を結べるのか、関心を持って見守っているところ。いずれにしても、AIR DOにとって厳しい方向に向かうのではないかと思っている。ただ、AIR DOの強みは羽田の発着枠を確保しているところなので、齋藤前社長が話したように、羽田路線で十分に他社と戦えるような戦術、戦略を考えていく必要があるのだろうと思っている」とやや慎重な見方をしている。

 さらに、競合エアラインとの競争に対するビジョンについて問われた谷氏は「創業以来、航空事故や重大インシデントを起こしたことがない安全性を、一番の基盤にする必要がある。昨年、安全管理体制について指摘を受けたが、安全体制そのものが根本的に間違っていた、あるいは弱くなっていたということでは、必ずしもないと思っている。まずは安全体制を盤石なものにし、それがご利用いただくお客様の信頼に繋がると思っている。

 また、ユニットコストがようやく10円台前半まで下がったということで、あとはそれをいかに運賃などに反映させるかということだと思う。ANAやJALのようなフルサービスキャリアではないし、かといってLCCでもない中間的なところで、価格面でもサービス面でも生きる道を探っていくことだろうと思っている」と意気込みを見せた。

編集部:多和田新也