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熊本県天草市、東京大学、ANA総研の3機関、日本初となる有人ヘリとドローンの連携実験を実施
天草・牛深で消防庁と連携した実証実験の模様をレポート
2016年12月22日 17:50
- 2016年12月19日 実験実施
熊本県天草市、東京大学、ANA総研(ANA総合研究所)の3者間で締結された「ドローンを活用した社会基盤構築に向けた協定」の調印式の模様は前記事「熊本県天草市、東京大学、ANA総研の3機関がドローンの地域活用協定を締結」で、お伝えしたところだが、その実証実験が12月19日に行なわれた。有人ヘリとともに実験を行なうにあたり、熊本防災消防航空隊・天草広域連合消防本部の協力により、飛行中のドローンとの情報共有実験が実現した。本稿では、その実験の模様をお伝えしていく。
実験の舞台となった天草広域連合南消防署
前日となる12月18日の協定調印式は天草市役所で行なわれたが、実験の場所は天草・下島の南部である牛深(うしぶか)エリアにある天草広域連合南消防署。ここでドローンを飛ばしつつ、防災ヘリとの連携という日本では初となる実証実験が行なわれる。
実験開始前には、ANA総研の山田圭一氏より、実験に使用する敷地内での配置などについての説明があり、続いて東京大学大学院 工学系研究科航空宇宙工学専攻 鈴木・土屋研究室(以下、東京大学)の鈴木真二教授と、実際に実験を進行する役として、特任助教の中村裕子氏から実験の流れについてレクチャーがあり、報道陣は指定の撮影場所に移動した。
今回の実験の現場では、特任助教の中村氏を筆頭に同研究室の学生が5名ほど参加。複数台のノートPCが設置されたデスクには、修士1年の松本義彦氏が座り、マップ画面にドローンの位置をモニタリングできる状態のものを確認しつつリアルタイムで指示を出す役を担当していた。
主な実験のテーマは、「有人ヘリコプターとドローンの衝突回避のための情報共有」として、以下の順で実験を進行した。
・岸壁で動けなくなっているけが人発見の一報
↓
・防災ヘリの出動要請
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・防災ヘリが到着するまで、防災ドローンで捜索・場所特定
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・防災ドローンで取得した情報を、現場に急行中の防災ヘリに情報提供
さらに、一般ドローン(防災ヘリコプターが近づいてくることを知らない民間人が操縦中)が周囲で飛んでいる状況を作り出し、都合2台のドローンが飛行や着陸を行なうことも前提に加えた。
出動要請された防災ヘリだが、通信手段は航空波を使用した無線のみとなっており、旅客機同様に電波を発する通信機器の利用はできない。
今回の実験でも、現場で無線通信を担当する隊員の隣に、ドローンの位置情報などを“口頭”で伝言する学生が立ち、逐一、ドローンの状態を無線で伝える形となっていた。ちなみに今回の実験は、防災ヘリの訓練のタイミングでドローンの実証実験が組み合わされているとのこと。
防災ヘリ出動要請からヘリ到着までのドローンの役割
さて、いよいよ実験が開始される時間となり、消防無線機で防災ヘリの救助要請を行なうところから始まる。
熊本県の防災ヘリは、ふだんは熊本空港に駐機しており、県内すべてのエリアをカバーしている。熊本空港は少々県北よりでもあるため、天草・下島の南部までは約30分を要するとのこと。天草や県南部の人吉エリアは、山がちな地形や交通の便により、急病人の搬送にはやはりヘリが有利。そして、天草エリアは曲がりくねった一般道がほとんどで、こちらの署員によると「熊本中心部の総合病院まで3時間も救急車に揺られていくのは現実的ではない」とのこと。
事故発生から30分、救助が到着するまでの初動が重要とは聞くが、それまでの間に救助者の正確な位置情報を事前に防災ヘリに知らせることは、救助までの時間短縮につながることに間違いない。GPSの誤差といった課題はあるが、より確度が高い状態で現場に到着できる。
防災ヘリの出動要請が実験スタートの合図となり、防災ドローンも飛び立つ。今回の操縦は学生によるもので、消防署員も複数名その様子をサポート。防災ドローンが事故現場に向かい、周囲を捜索開始。消防署の敷地をはさんだ芝生には、崖に転落したけが人という想定のダミーの“救助者”が救助を待っている状態だ。
ドローンのカメラが上空から地面を探し回り救助者を発見次第、その様子をモニタリング担当の松本氏が、防災ヘリと通信している署員の隣に立っている伝言役を担当するスタッフに位置などを伝える。ちなみに使用されたドローンはDJI製の「Phantom 4」だった。
実験は無事に想定した内容で終了
実験は、防災ヘリが2度の発着を繰り返して無事終了した。
実験1は、「防災ヘリ出動の要請」から始まり、到着まで防災ドローンによる崖から転落したけが人の位置と状況の確認、ドローンの位置状況・バッテリ交換の状況(帰還して着陸状態時)を防災ヘリに状況報告。
実験2は、防災ヘリが到着している状況で、先に防災ドローンで様子を確認。改めて防災ヘリに救助者の情報を伝達し、ヘリに救助に向かってもらう。
という場面想定がなされていた。両方の実験で一般ドローンが周囲を飛行しており防災ドローン操縦者からは、一般ドローン操縦者の姿は見えないが、防災ヘリが到着するまでには着陸している設定になっていた。
防災ヘリの位置情報も同時にモニタリングしているが、ドローン(ほぼヘリポートの位置だが)に近づくとアラームが鳴るプログラムが組まれており、9km時と5km時に鳴るように設定されていた。さらに、操縦者に対して120秒でドローンを安全に着陸させるように、という想定目標も組まれていた。熟練者は60秒とのこと。ここでいう熟練者は防災ドローンを飛ばしている消防署員のことだ。
実際にヘリを飛ばし、データの蓄積が進む
実験終了後に、今回の実験を主導した東京大学の中村氏に話を聞いたところ、「私たちも、実際にヘリコプターを待つ時間や、目の前でドローンを飛ばしつつ着陸させたり、要請を出したりといった時間の経過を体験できましたので、非常にデータが蓄積できました。ほぼ手順どおりに進んだのもよかったです。ヘリが近づいたときのアラームも、もう少し早めでもよかったかもしれませんね。時速250km/hは速いですね。こうした開けた場所で実験できたことと、ヘリ整備担当の方とお話できたのはよかったですね。ドローンの状況を常に伝えていましたので、お互い安心感のある状況を作り出せたと思います。安全とコストの面のバランスの問題もこれから出てくると思いますので、ANAさんと引き続き協力していければ、と思います」と語った。
今回の実験では、ドローンの飛行高度を30mほどに設定していたが、現状の法規と照らし合わせると150m以下という高さまでを想定しなければならず、実験よりも遥かに高い高度からヘリ隊員が小型のドローンを意識しなければならないが、目視にて発見することは至難の業である。
地上からであれば、空という背景が単調であることから小さなドローンも目視できるが、上空からは建物が細かく並ぶ街並みに紛れてしまう。さらに、ドローンが近接してしまったときにヘリのローターの風圧で落下すれば地上に被害が及ぶ可能性も高い。反対にヘリよりも高く飛行した状態で近づいていけば、吸い寄せられてローターに巻き込んでしまい、ヘリの事故にもつながる。ドローン操縦者の技術向上や、安全意識の啓蒙についても、さらなるルール整備が必要。
上記の問題から、有人ヘリとドローンの距離は、一定の間隔を開けつつ連携を図ることが前提となる。ドローン同士での衝突回避システムも検討されているが、さらに有人ヘリとの情報共有となるとシステムは一気に複雑化するだろう。
今回の実証実験は、無線による口頭で情報を共有して、安全にドローンを着陸させ、防災ヘリに情報を伝達することであったが、将来的にはヘリの機内にて隊員オペレーターがドローンの情報を把握しながら現場に急行、という姿が理想となる。そうした未来への第一歩といった内容だった。