ニュース

JALと日本IBM、航空整備士のワークスタイル変革を目指すモバイル・アプリを共同開発

シングルサインインで複数システムを利用、外販も展開

2016年12月14日 発表

左から日本アイ・ビー・エム株式会社 モバイル事業統括部 事業部長 藤森慶太氏、株式会社JALエンジニアリング 運航整備部 神山雄一氏、株式会社JALエンジニアリング IT企画部長 西山一郎氏

 JAL(日本航空)と日本IBM(日本アイ・ビー・エム)は、羽田空港のJALメインテナンスセンターで記者会見を開催し、航空業界で航空機の整備作業に関わる整備士のワークスタイル変革を目指すモバイル・アプリを共同開発、2017年4月に本格的に導入していくことを発表した。

 日本IBMが、AppleのiOSデバイス向けに提供しているソリューションスイートとなるIBM MobileFirst for iOSを元に開発されたモバイル・アプリは、整備士が航空機の整備を行なう際に必要な整備情報、運航情報、工具管理システム、マニュアル、作業記録など多岐にわたる情報に、シングルサインイン(一度の認証で複数のサービスを使える仕組み)でアクセスすることができるようになる。

 これにより、従来はオフィスに戻らなければできなかった、基幹システムへのアクセスなどが整備士の手元のiPhoneやiPadなどからも可能になり、整備業務の効率化を期待することができる。

 JALと日本IBMによれば、同システムは2017年の4月から、全世界で1500人いるライン整備(ゲートなどで行なう整備のこと)担当の整備士に順次配備していく計画で、JALと共同開発したモバイル・アプリは日本IBMが外販を行ない、すでにJALと同じワンワールドに加盟しているフィンエアーが導入を決めているという。

JALと日本IBMが共同開発したモバイルシステム、ほかの航空会社に対して外販も

 JALエンジニアリング IT企画部長 西山一郎氏は「今回のシステムは、スマート・シンプル・スタンダードの3つをキーワードに開発している。“スマート”という観点では、従来オフィスという場所に縛られていた情報の閲覧を、場所にこだわらなくてもできるようにした。“シンプル”では、時間との勝負でもある整備で、使いにくいシステムでは意味がなく、IBMとAppleと協力してシンプルな仕組みにした。“スタンダード”では、JALだけでなく世界中のエアラインでも、同じように使えるものを目指した」と説明する。

株式会社JALエンジニアリング IT企画部長 西山一郎氏
JALと日本IBMが開発したモバイル・アプリのイメージ

 西山氏によれば「これまで運航整備を大きく変えるのは難しかったが、今回はそうしたなかでの新しい取り組みでまさに試金石。人口減少などで高度な整備士を確保するのも難しくなっていくだけに、より効率化が求められている。そうしたことにも対処できる取り組み」と話し、ITシステムを上手に活用することで、人材配置の効率化をさらに進めて、省力化できることは省力化し、それが結果的に安全性の向上などに寄与すると説明した。

 日本IBM モバイル事業統括部 事業部長 藤森慶太氏は「今回のシステムの開発にはIBM MobileFirst for iOSをベースにアプリケーションの開発を行なっている。我々はIBM MobileFirst for iOSのアプリを開発するときにパートナーとなるお客さまと共同開発をしているが、航空会社ではそれがJALさんになる。フロント部分をJALさんと協力して、ユーザー目線で開発した。機能をてんこ盛りするのではなく、業務の導線をよく調べて、それに沿ったアプリケーションを開発した」と説明する。

日本アイ・ビー・エム株式会社 モバイル事業統括部 事業部長 藤森慶太氏

 藤森氏によればJALと日本IBMは単にJAL向けの業務システムを作るということではなく、業界標準を作るという目線で作っている。すでにフィンエアーでの採用が決まったことからも、業界標準への第一歩を踏み出している。

 藤森氏は「JALさんとのシステムは、フロントエンドの開発に数カ月、その後、バックエンドとのすり合わせなどを入れても1年ぐらいかけてやってきた。フィンエアーの場合はそれよりも短い時間でできるようになるだろう」と述べ、JALとの共同開発で航空業界のひな形ができているので、それを元に開発すれば、より短い期間で導入することが可能になると説明した。

ライン整備の整備士のワークスタイルを変革する新しいモバイル・アプリ

 次いで、JALエンジニアリング 運航整備部 神山雄一氏が実際に動作について説明した。神山氏によれば「このシステム以前には、整備基幹システム、飛行機メーカーのボーイングが提供するシステム、フライト情報、マニュアルシステムなどそれぞれバラバラにアクセスしなければならなかった。しかし、このシステムを導入することで、1回のサインオンですべての情報に透過的にアクセスすることができるようになる」と説明する。

株式会社JALエンジニアリング 運航整備部 神山雄一氏
従来のシステムではこのようにITシステムが複数に分離したりしていた
それが1つのアプリケーションで統合されている

 どこの会社のITシステムもそうだが、部門ごとに導入されれば、それぞれにサインインのためのIDが必要になり、使い勝手がよくないことが多い。そこで、今回JALが採用したIBM MobileFirst for iOSでは、ミドルウェアがログインなどを一括的に扱うようになっており、1度システムにサインインすると複数のシステムに透過的にアクセスできるようになっている。かつ、整備士が必要とすると、作業に応じてグラフィカルにメニューが表示されるなど、ITに詳しくない整備士であっても簡単に利用することができるとした。

 整備士は、出勤すると、iPhoneないしはiPadなどのiOSを利用してシステムにサインインすると、整備に必要な情報にアクセスすることができる。なお、回線は一般的な4G/LTEが利用され、データに関しては暗号化を行なうことで、高いセキュリティ性が確保されているとのこと。

サインイン画面。1つのサインインで複数のITシステムへのサインインが完了する
フライト情報をなどを見ることもできる
フリートの上をグラフィカルに確認することができる
3Dタッチの機能を利用しても操作ができる
報告書もモバイル・アプリから直接作ることができる
ほかの担当者が誰なのかを確認できる
ほかの担当者にFaceTimeの機能を利用して音声や動画でコミュニケーションできる
報告書は文字だけでなく動画や静止画も
手書きのメモを添えることもできる
整備の完了を報告することもできる

 神山氏によれば「以前はオフィスにいなければアクセスできなかった情報、例えば過去の整備状況などにアクセスすることができるようになる。例えば、天候がわるそうだから搭載燃料を増やそうとかの指示は、以前であれば無線などを通じて音声でやりとりしていたが、このシステムでは端末にその指示を送って受け取ることができる。また、従来はオフィスに戻ってからペーパーワークでしかできなかった報告の作成も、写真や動画を使ってその場ですぐに作成できる」とのことで、フィールドワークをより効率よくこなすことができそうだ。

JALの格納庫で整備中の機体と新しいモバイル・アプリ。実際にこのアプリはハンガーではなくライン整備で利用される
実際のアプリの画面
このようにピンチズームで拡大縮小もできる
3Dタッチを利用して子画面を呼び出しているところ
3Dタッチを利用したアプリの操作の様子

 なお、このシステムを利用した端末が配布されるのは、いわゆるライン整備と呼ばれる整備を担当する整備士になる。ライン整備とは、飛行機が空港のゲートにいる間に行なわれる整備のことで、給油や各種チェックなどを担当する。定時運航の実現のためにも、まさに1分1秒を争いながら、かつ確実な安全を実現するという整備だ。

 JALエンジニアリングの西山氏によれば、支店も含めると全世界で1500人の整備士がライン整備に関わっているとのこと。2017年の4月からそうした整備士がいるオフィスなどにiPhone、iPadを順次配備していき、さらなる安全性、定時運航性などの向上を目指していきたいということだった。