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NEXCO中日本、橋脚の高さ日本一を更新する東海北陸道 鷲見橋の工事現場公開
4車線化で冬季のスキー渋滞解消を図る
2016年11月28日 06:00
- 2016年11月25日 公開
NEXCO中日本(中日本高速道路)は11月25日、東海北陸自動車道4車線化の工事現場を報道関係者に公開した。東海北陸道は一宮JCT(ジャンクション、愛知県一宮市)を起点に、小矢部砺波JCT(富山県小矢部市)に至る全長約185kmの高速自動車国道。1980年に着工してから28年、一部区間を暫定2車線として2008年に全線開通。愛知、岐阜、富山の3県をつなぎ、名神高速道路、北陸自動車道、東海環状自動車道、中部縦貫自動車道とともに広域的なネットワークを形成する道路となっている。
暫定2車線区間のうち白鳥IC(インターチェンジ、岐阜県郡上市)~飛騨清見IC(岐阜県高山市)間については、2012年から4車線化工事に着手。2018年度内の完成を目指して工事が進められている。
この背景には、8月の観光シーズンはもちろん、周囲にスキー場が点在することから冬季にも慢性的な渋滞が発生していることが大きな要因として挙げられている。
2015年におけるこの区間の1日の交通量は、白鳥IC~高鷲IC間が1万3000台、高鷲IC~荘川IC間が1万2000台、荘川IC~飛騨清見IC間が1万1000台で、通過台数に対して極端に道路容量が足りないというほどではない。
しかし、SA(サービスエリア)やIC周辺の車線数が変化する場所は渋滞のポイントとなっており、年間100回を超える渋滞が発生しているそうだ。なかでも高鷲トンネル(1642m)は交通量の多い区間にあることに加え、一宮方向(下り)からはゆるい上り坂&コーナーという地理的要因が重なることでボトルネックとなりやすく、冬季の渋滞原因はほぼここが先頭といった状況にある。
こうした渋滞は4車線化が完了することにより、ほぼ解消すると見込まれている。このほか上下線が分離構造になることによる事故や通行止めの減少、物流の効率化、観光の活性化、救急医療の支援、災害対策など、多くの効果が期待されている。
工事区間の全長は40.9kmだが、ICやSA前後は4車線化済みのため、実際の工事距離は33.3kmとなる。その内訳は土工部が17.1㎞、橋梁が27橋で6.5㎞、トンネルが11本で9.7㎞。白鳥IC~松の木峠PA(パーキングエリア)間は下り側、松の木峠PA~飛騨清見IC間は上り側が拡幅される。
2016年10月末の時点での進捗状況は、橋梁27橋のうち17橋の下部工が完了、24橋は上部工にも着手している。橋台、橋脚は全135基のうち117基が完了、13基が施工中。トンネルは11本中10本に着手しており、9本が貫通済み。全長約9.5kmのうち約8.9kmが掘削済みとなっており、うち約4.5㎞は覆工まで済んだ状態だという。
今回、工事現場が公開されたのは高鷲IC~ひるがの高原SA間にある「鷲見橋」(岐阜県郡上市)。現在供用中の「I期線」の橋脚が高さ118mで日本一となっているが、建設中の「II期線」ではそれを上回る125mの橋脚が誕生する。ただ、実際の道路上の高さはI期線、II期線で大きな違いはなく、II期線が長いのは谷側に位置するため下部が長くなったことによるもの。
鷲見橋
形式:PRC4径間連続ラーメン波形鋼板ウエブ箱桁橋
橋長:459m(107+139+134+79m)
全幅員:10.95m
橋脚:3基(P1/67.5m、P2/125.0m、P3/67.5m)
基礎工:大口径深礎杭、直径11.0m、3本(20.0m、14.5m、11.0m)
鷲見橋ではNEXCO中日本 名古屋支社 岐阜工事事務所 高鷲荘川工事長 今塩屋勝氏による説明が行なわれた。今塩屋氏によると、鷲見橋では工事期間の短縮を目指し、「SPER(スパー、Sumitomo Mitsui's Precast form for resisting Earthquake and Rapid Constraction)工法」「RapCon(ラップコン、Rapid Constraction)工法」「竹割型土留工法」と、3種類の特徴的な工法が用いられているという。
それぞれを簡単に説明すると、SPER工法は橋脚の施工で用いられる。橋脚の外壁となるコの字型のハーフプレキャスト部材を工場で製作、現地で組み立ておよびコンクリート打設を行なうというもの。現場での作業を大幅に簡略化できることから、通常より60日ほど工期を短縮できるそうだ。この工法が可能になったのは上部工の側壁をコンクリートから波形鋼板に変更することなどにより、大幅な軽量化を実現したため。I期線の橋脚は重量に対応するため裾広がりの形状だったが、II期線ではその必要がなくなったため、同じ形状の部材を積み上げるこの工法が利用できたわけだ。
RapCon工法は、上部工と呼ばれる橋の上部構造の張出施工で用いられる。従来工法では1ブロックごとに側面の波形鋼板を架設、次いで上下床版の打設、床版の完成を待って次のブロックへ、というサイクルで作業を実施していく。だが、RapCon工法では波形鋼板を架設材としても利用することで、波形鋼板の架設、上床版および下床版の打設を3カ所で同時に進行することが可能。これにより工期は通常より50日ほど短縮可能となった。
竹割型土留工法は橋脚の深礎工事で用いられるもので、通常は橋脚の周囲を広く掘削するのに対し、こちらは竹を割ったような円筒形に土留を行なうことで地形の改変範囲を小さくすることができる。
また、橋脚上部で使用するコンクリートはパイプにより下部から圧送しようとすると比重によって中身が分離してしまうため、コンクルット(コンクリートバケット)をクレーンで持ち上げて利用しているという。これにより質の高いコンクリート打設が可能になったものの、コンクルットの容量は生コン車1台分にあたる4m3しかなく、スパー工法の1回の打設(高さ6m分)に必要な90m3分を運搬するのに苦労した、といった高い場所での作業故の裏話も聞かせてくれた。
鷲見橋の工事は標高700mほどの高地で県内有数の豪雪地帯ということもあり、間もなく12月15日から翌年3月25日までは冬期休止となる。とはいえ、冬期も工事が続けられる場所もある。この冬、スキーなどで現場を通過する際は、ちょっぴり気にしつつも十分に注意して走行してほしい。