ニュース

ジェットスター、国内線で活用しているiPhoneやiPadを使ったITシステムを解説

搭乗手続きや機内販売などの業務を効率化

 ジェットスター・ジャパンは、2016年1月6日に国内LCCとして初めて、国内線を対象としてスマートフォンを利用するモバイル搭乗券の運用を開始。そして3月29日にはスマートフォンアプリを利用したモバイル搭乗券の運用も開始するなど、ITを活用した搭乗手続きや業務の効率化に取り組んでいる。それらジェットスターが活用しているITシステムを取材する機会を得たので紹介する。

モバイルでの利便性を高めるために「モバイル搭乗券」を導入

 現在ジェットスターでは、PCのブラウザを利用してアクセスするPC向けWebサイト、スマートフォンのブラウザでアクセスするモバイル向けWebサイト、スマートフォンで利用する専用アプリ「ジェットスターアプリ」、そしてコンビニエンスストア店頭の端末を利用して予約する方法など、さまざまな予約手段を用意している。そして、これらのうち、モバイル向けWebサイトとスマートフォンアプリ双方を合わせた利用率が、大きく伸びているという。

 2015年末までは、PCサイトの利用率とモバイルサイトおよびジェットスターアプリを合算したモバイルでの利用率(予約率ではなく、純粋な利用率)が、ほぼ半々の割合だったものの、2016年にはモバイル利用率が半数を超え、6割に近付いているという。加えて、もともと日本は高いスマートフォンの普及率を背景に、モバイル利用率が高い傾向にあるが、ワールドワイドのジェットスターグループ全体で見ても、モバイルサイトやモバイルアプリの利用は全言語中35%と最大の比率を占めている。ジェットスターでもそのような傾向をもとに、モバイルでの利便性を高める施策を強化している。

2015年までは、PCサイトの利用率と、モバイルサイトとジェットスターアプリを合算した利用率はほぼ半々だった
2016年にはモバイル利用率が高まり6割に迫る勢いに。またジェットスターグループ全言語中でも日本が35%と、日本での高いモバイルの比率を背景に、モバイルの利便性を高める施策を強化している

 そういったなか、2016年1月6日から運用開始となったのが、国内LCC初となる「モバイル搭乗券」。国内線運航便を対象として、スマートフォンにモバイル搭乗券を保存し、スマートフォンの画面に表示して利用できる、ペーパーレスの搭乗券だ。

 当初は、PCサイトでの「ウェブ・チェックイン」、またはモバイルサイトでのモバイルチェックイン時にスマートフォンのメールアドレスを入力することで、スマートフォンにモバイル搭乗券が送られ、そのモバイル搭乗券をiOSスマートフォンのPassbook/Wallet、またはAndroidスマートフォンのWalletアプリに保存して利用するというものだった。ただ、メールでモバイル搭乗券を受け取り、さらにPassbookやWalletアプリに登録して利用するという点がやや面倒だった。

 そこで、3月29日から、ジェットスターアプリでのモバイル搭乗券の運用を可能とした。これにより、ジェットスターアプリのみでモバイルチェックインからモバイル搭乗券の利用まで一元的に行なえるようになるとともに、モバイル搭乗券のメール受信や別アプリへの登録も不要となり、大きく利便性が高められた。

iOSとAndroidで提供している「ジェットスターアプリ」(画像提供:ジェットスター・ジャパン)
2016年3月29日からジェットスターアプリでのモバイル搭乗券の運用が開始となり利便性が高まった(画像提供:ジェットスター・ジャパン)

 このモバイル搭乗券の利用者は、運用開始以降着実に伸びているという。特に、モバイルアプリでモバイル搭乗券が利用開始になった直後のわずか1週間では、ウェブ・チェックインとモバイルチェックインを合わせた利用率が17%も伸びたそうだ。また、チェックインカウンターに立ち寄ることなく直接ゲートへ向かっている乗客の割合は前年度比で3ポイント増と、待ち時間の低減にもつながっているという。

 また、モバイルアプリでのモバイル搭乗券対応だけに留まらず、今後もモバイルアプリの機能を充実させていく計画。例えば、搭乗便の出発ゲートが変更となった場合に新しい出発ゲートをプッシュ通知で知らせる機能や、PCサイトで提供している、運賃が設定した希望額を下まわったらメールで知らせる「プライス・ウォッチ」機能などを、順次モバイルアプリに追加していく予定とのことだ。

iPhone 5を活用した搭乗手続きシステム「J-Board」

 ジェットスターでは、利用者の利便性を高めるために、さまざまなITシステムを活用している。その一つが、出発ゲートでの搭乗手続きに使用されている「J-Board」というシステムだ。2015年10月から利用している。

 J-Boardを活用するまでは、「Qikboard」という大型の搭乗券スキャナーを利用し、搭乗券の2次元バーコードを読み込んで搭乗手続きを行なっていた。ただ、Quickboardは大きく重いため、搭乗手続きのたびにゲートまで運ぶのが面倒だったり、高コストといった欠点があったという。それを改善するために導入されたのがJ-Boardだ。

 J-Boardは、2次元バーコードリーダーを備えるグリップ型ケースにiPhone 5を装着したもので、搭乗券に印刷されている2次元バーコードや、スマートフォンの画面に表示したモバイル搭乗券の2次元バーコードを読み取ることで、乗客の搭乗手続きが行なえるようになっている。乗客から見た場合、印刷した搭乗券またはモバイル搭乗券を提示すると、出発ゲートの係員がJ-Boardを使って搭乗券またはモバイル搭乗券の2次元バーコードを読み取り、読み取りが完了すると同時に係員が身に着けているプリンタから便名や座席番号などが記載されたシートが印刷されて手渡される、という流れで搭乗手続きが行なわれることになる。

 J-Boardで利用されているiPhone 5にはSIMカードが装着されており、J-Boardでスキャンした搭乗者のデータは、モバイル回線を経由してジェットスターのデータベースに転送され登録する。データ通信にモバイル回線を利用しているため、通信障害などの懸念もあるが、そういった場合を想定し、J-Boardに搭乗者名簿を一時的に蓄積し、スタンドアロンでも問題なく手続きが行なえるように考慮されているという。

 そして、その搭乗者情報リストを航空機のコックピットにあるプリンタに転送し、搭乗者名簿が印刷される。最終的な確認は行なうが、従来のように係員が航空機まで搭乗者名簿を届ける必要がなくなったことで、搭乗時の作業の効率化が高められたという。また、現在は乗客にプリンタで印刷したシートを手渡しているが、それも将来は廃止する方向で検討しているとのこと。

出発ゲートでの搭乗手続きに利用されている「J-Board」
iPhone 5にグリップを取り付けて利用
グリップのトリガーを引いて搭乗券の2次元バーコードを読み取る
前方に2次元バーコードスキャナーを搭載
iPhoneの裏面カメラを使った2次元バーコードの読み取りにも対応
モバイル搭乗券の2次元バーコードも、このようにJ-Boardで読み取れる
2次元バーコードを読み取ると、J-Boardにはこのような画面が表示される
搭乗券を読み取ると、プリンタから座席番号などが書かれたシートがプリントされ、搭乗客に渡される。このプリントは将来廃止する方向で検討中
J-Boardは、モバイル通信を活用して搭乗者情報をデータベースに転送するとともに、コックピットのプリンタに情報を転送し、搭乗者名簿をプリントアウトできるようになっており、係員の省力化を高めている

機内販売の決済などに利用する「Max POS」

 J-Boardと同様に、コンシューマ向け機器を活用したシステムがもう一つある。それがiPadを活用した「Max POS」というものだ。iPad miniに2次元バーコードスキャナーとクレジットカードリーダーが装着されており、機内販売や機内での免税品販売の決済処理などに利用しているという。2015年7月にジェットスター国内線で利用を開始した。

 Max POSはジェットスターの航空機に2台ずつ搭載され、乗務員が社員番号を入力すると、乗務するフライトで販売する商品などの情報を瞬時に表示。画面には、販売する商品の商品名だけでなく写真も同時に表示されるため、乗客が購入する商品をスピーディに探し出し処理が行なえるようになっている。

 また、購入メニューを選択するだけで、フードメニューとドリンクメニュー同時購入時の割り引きや、最終フライトでの割り引き(フードメニューが半額になる)などの処理も自動的に行なわれるため、乗務員の大幅な省力化を実現。

 また、完全ペーパーレス仕様となっている点も特徴の一つ。商品購入のレシートが必要な場合には、商品購入時に乗客にメールアドレスを入力してもらい、目的地着陸後にメールで送付する(どうしても機内でレシートがほしいという乗客には手書きのレシートを渡す)という。これによって、レシート用の紙を交換するという手間も省いている。

 こちらも、J-Board同様にSIMカードが装着されており、乗客の購入データやクレジットカード情報などは目的地到着後にモバイル回線を利用して送付される。クレジットカードの認証もこの時点で行なうことになるため、機内での購入金額には上限が設けられている(国際線は5万円、国内線は2万2000円まで)ものの、トラブルが発生したことはないという。

 加えて、バッテリの持ち時間が長いという点も、大きなメリットになっている。以前使っていた機器は駆動時間が短く、1日に数回バッテリを交換する必要があるとともに、バッテリが切れて使えなくなると手作業での手続きを余儀なくされていたそうだ。それに対しMax POSは、3日ほどバッテリが持つそうで、交換の手間を省きながらバッテリ切れの心配なく使え、非常に役立っているとのことだ。

 そして、同じくiPadを利用した「Max Airport」という機器も2015年4月から活用を始めている。機材はMax POSと同じで、iPadに2次元バーコードスキャナーやクレジットカードリーダーを装着したものとなっており、チェックインカウンターや出発ゲートでの、搭乗者情報の確認や荷物の追加といった手続きに活用しているという。

 最大のメリットは、可動式のMax Airportを利用することで、チェックインカウンターでの業務をどこでも行なえるということだそうだが、現在は主に出発ゲートでの重量超過手荷物に対する料金徴収などの業務で活用している。

iPadを活用し、機内販売の決済などに利用している「Max POS」
裏にグリップがあり、しっかり手に持って扱える
2次元バーコードスキャナーやクレジットカードリーダーが搭載され、機内販売の決済が行なえる
画面には機内販売のメニューが、カテゴリーごとに写真付きで表示されるので、スピーディに決済作業が行なえるという(写真提供:ジェットスター・ジャパン)
レシートは、Max POSにメールアドレスを入力することで、到着後にメールで送付される(写真提供:ジェットスター・ジャパン)
機内には2台のMax POSが搭載され、乗務員が利用する(写真提供:ジェットスター・ジャパン)
こちらは「Max Airport」。機材はMax POSと同じだが、チェックインカウンターでの業務や、出発ゲートでの重量超過手荷物の手続きなどが行なえるようになっている

 低価格な運賃を実現するLCCでは、さまざまな面でのコスト削減が重要となるが、こういった地上係員や乗務員の省力化につながるITシステムを活用することは、確実にコスト削減につながることになる。それだけでなく、機内販売などはスピーディな処理が行なえることで機会損失も減らせる。

 もちろん乗客にとっては、カウンター手続きや機内販売購入時の待ち時間低減につながるため、顧客満足度も高められる。そして、専用システムに対して圧倒的に安価な、コンシューマ向け機器を活用して実現しているという部分も、ジェットスターらしい特徴といえそうだ。