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紅葉写真を100倍ステキに仕上げよう! 旅先の観光写真がもっと映える撮影と画像処理のコツ

Adobe Lightroomを駆使した紅葉写真の仕上げ方法をプロが指南!

 深まる秋。今年こそはと紅葉の時期に合わせて旅行を計画している人も多いのではないだろうか。鮮やかな紅葉は写真に撮って残しておきたいと誰もが思うことだろう。本記事では、これからベストシーズンを迎える京都の紅葉をテーマに、一眼レフやミラーレスカメラをお持ちの方はもちろん、スマートフォンで撮影したい方にも役立つ撮影と写真の仕上げ方について紹介する。

風景写真家が勧める京都の紅葉スポット

 ここでは京都在住の風景写真家である星野佑佳さんに紅葉の時期に巡りたい京都のお寺などの建築物を紹介してもらった。

星野佑佳
京都人、時々、旅人。全国の風景と京都の歳時記や風景を撮影。もともと趣味で海外を放浪したり自然風景を撮っていたりしたが、地元京都を撮った写真が雑誌等に掲載されたのをきっかけに写真家に。撮影先での温泉巡りが楽しみのひとつ。京都に居る間は、遠征先の神社からもらってきた猫の福ちゃんに癒される

 ただ建築物と風景という組み合わせは、写真家であっても上手く撮るのが難しいテーマ。例えば屋内と窓からの風景を1枚の写真に収めようとすると、屋内が真っ暗になったり、逆に窓からの風景が真っ白になったりする。そんなときはPCでもスマホでも使える画像処理ソフトのAdobe®︎ Lightroom®︎(以下Lightroom)の出番だ。星野さんも、撮影の現場では対処しきれない明るさや色の処理などをメインにLightroomで画像調整を行ない見事な写真に仕立てている。

 そんな星野さんお勧めの建築物とその風景、およびLightroomによる写真の仕上げ方をご覧いただきたい。

全国各地に撮影に出かけることも多い星野さん。その土地ならではの季節の風景を追い求め、1か月ほど車中泊を繰り返すこともあるのだとか。LightroomがインストールされたノートPCを使い、出先で写真を仕上げることもある
※楊谷寺での取材撮影は特別な許可のもとで行なっています

紅葉写真の撮影とLightroomでの仕上げ

 美しい紅葉写真を撮るには、同じ場所であっても明るさを変えて撮ったり、構図や撮る角度を変えて撮ったり、ズームレンズであれば広角側や望遠側の両方で撮ったりしておくといい。あとから見返すと撮影時には気付かなかったよさを発見することもあるからだ。

 撮影したあとはLightroomの出番だ。よく撮れた写真なら「お化粧」程度に画像調整を行なうと、見る人の印象に残る鮮やかな写真になる。また、構図はいいのに明るさで失敗したような写真もLightroomで「修正」すれば、撮影したときの感動的な風景が蘇る。

 以下、星野さんの作品を題材に、お寺の様子や撮影時の状況、そしてLightroomによる仕上げを解説してもらう。写真家が何に注目し、どのような撮影を行ない、どう仕上げるか、その術を垣間見ることができる。撮影や仕上げのヒントにしてほしい。

楊谷寺 ~花手水発祥のお寺で撮る、手水に浮かぶ散り紅葉~

Before
After

カメラ: Nikon Z7 II
レンズ: NIKKOR Z 24-70 f/2.8 S
シャッタースピード: 1/25秒
絞り値: f5.6
露出モード: 絞り優先オート
露出補正: -1.0段
ISO: 800
ホワイトバランス: 晴天

<星野さんコメント>
撮影状況:
楊谷寺は「花手水」で知られたお寺です。花手水という名称を使ったのもこちらのお寺が最初だとか。境内のあちこちにある花手水が参拝客の目を楽しませてくれます。この写真は手水に浮かぶ「散り紅葉」がテーマ。雨の日のしっとりとした雰囲気を狙ったのですが、その雨のためにテカリが出るのを抑えるためと紅葉の色を出すためにPLフィルターを使いました。それなりに暗い環境でさらにPLフィルターも使ったため、手ぶれが心配でした。そこで明るさはLightroomで仕上げることとし、撮影時は暗めに(シャッタースピードが速くなる)撮っています。なお、拝観は境内に示された順路通りに進みます。はじめは寺院内を見学し、後半では空に広がる紅葉も楽しめます。

※「PLフィルター」とはカメラのレンズに取り付ける黒っぽいフィルターのこと。被写体表面の反射を抑える効果があり、被写体のリアルな色や質感を表現したり、水面に対して利用すれば水のなかの様子がくっきりと写るようになる。ただし、フィルター自体が黒いのでシャッタースピードが遅くなるなどのデメリットもある。

Lightroomでの仕上げ:
中央の散り紅葉を撮影した状態より浮き上がらせるようにしたいと思いました。全体的に不足気味な彩度は「プロファイル」を「ビビッド」にすることで補い、そのうえで散り紅葉に注目して適度な明るさに。最後に、周辺を暗くして散り紅葉が浮かび上がる効果を出しています。

STEP1 発色のベースを「ビビッド」に変更して色鮮やかに

Before
After

 Lightroomの初期設定では、発色の基礎となる「プロファイル」は「Adobe カラー」となっている。万能なプロファイルではあるが、紅葉写真などの色彩をもっと引き出したいときは別のプロファイルを利用してもいいだろう。風景写真に合うのは「風景」や「ビビッド」などのプロファイルだ。

Lightroomの初期設定では発色のベースは「Adobeカラー」というもの。ただ、紅葉写真を色鮮やかに見せるには少し印象が弱い。そこで「プロファイル」を「ビビッド」に変更する。色鮮やかになると同時に写真全体のメリハリ感も増す

STEP2 暗く撮影したぶんを明るくする

Before
After

 撮影時の状況によってあえて暗く撮ることもある。手ぶれが心配だったので、わざと暗めに設定することで速いシャッタースピードにし、手ぶれを回避した。手ぶれした写真はLightroomでも直せないが、多少の暗い写真であればLightroomで十分な調整ができる。Lightroomでの調整を見越せば、このような撮影法も可能だ。

散り紅葉の明るさの様子を見ながら「ライト」パネルの「露光量」をプラス調整した。その結果、散り紅葉や柄杓の置かれた苔などの濡れそぼった様子がうまく表現されている

STEP3 周囲を暗くして散り紅葉を引き立たせる

Before
After

 写真の見せたい部分に視線を誘導する。実は多くの写真家が使う手法だ。特によく使われるのが写真の周辺部を少し暗くするというもの。写真や絵画を見る際、人は自然と明るい部分に視線が向くという特性があり、それを利用したものだ。

 この作品は画面中央に特に見せたい散り紅葉があり、周辺部を暗くすることでより効果的に散り紅葉に視線を向かせることができると考えた。

最後に「効果」パネルの「周辺光量補正」を使って写真の周辺部を少しだけ暗くした。こうすると暗い周辺部よりも明るい中心部に視線が向き、そこにある散り紅葉を引き立たせることができる

正寿院 ~猪目窓と160枚の天井画を同時に写し込む~

Before
After

カメラ: Nikon Z7
レンズ: NIKKOR Z 14-30 f/4 S
シャッタースピード: 1/30秒
絞り値: f11
露出モード: 絞り優先オート
露出補正: -3.0段
ISO: 400
ホワイトバランス: 晴天

<星野さんコメント>
撮影状況:
ハート型の窓は「猪目窓」といいます。ハートというと西洋文化を想起しますが、「猪目」はれっきとした日本の伝統的な紋様です。この猪目窓と可愛い天井画が人気で、並んで順番に写真を撮ります。私も参拝客の一人として撮ったのですが、急かされているようでちょっと焦りながら連写をしました。横位置で撮ると縁側の外がたくさん入り白飛び部分が多くなりそうでした。そこで縦位置にして天井画の割合を増やしています。露出は外の風景に合わせているので、屋内が暗く写っていますが、その明るさはLightroomで十分に回復できるので安心して撮っています。正寿院の拝観ですが、本堂でお菓子をいただいてから、猪目窓のある客殿の見学となります。

Lightroomでの仕上げ:
屋内に露出を合わせると外の景色が白く飛んでしまうため、撮影時はわざと暗く撮っています。この暗く写った屋内に対しては「自動補正」を適用し、その後、微調整を行ないました。さらに明るくしたい天井画部分は「線形グラデーション」を使って明るくしています。

STEP1 「ビビッド」と「自動設定」の適用

Before
After

 調整前の写真を見ると紅葉の鮮やかさが不足しているように感じた。また、紅葉に露出を合わせているため、建物の内部が暗く写ってしまった。それぞれ調整したい。「プロファイル」をビビッド系に変更すれば、紅葉の鮮やかさは復活する。明るさの調整が難しそうだが、そんなときはいったん「自動設定」を適用すると、調整の方向性を示してくれるのでありがたい。

色彩の印象を強めるため、画作りの基礎となるプロファイルを変更する。「プロファイル」で「ビビッド v2」を選ぶ。写真が暗く分かりにくいかもしれないが、外の景色などは色のりがよくなっているのが分かる
「自動」ボタンを押すだけで、AIが分析して明るさや色(彩度)を調整してくれる

STEP2 明るさや彩度の調整を追い込む

Before
After

 前のSTEPの「自動設定」でいい感じにはなったが、まだ屋内が暗い印象だ。そこで手動で明るさの調整を行なう。調整しすぎると屋内だけでなく屋外の紅葉にも影響が出る。最終的に天井部分は次のSTEPで調整することとし、全体的な明るさの印象を整えた。

屋内部分がまだだいぶ暗い。天井部分は次のSTEPで調整することとし、ここでは猪目窓や障子などが適度な明るさになるように「ライト」パネルの「露光量」や「シャドウ」「黒レベル」を中心にプラス側に調整して明るくしている。また図にはないが「カラー」パネルの「彩度」を強めて色をはっきりと出した

STEP3 天井部分を適度な明るさにする

Before
After

 最後に天井を明るくし、そこに描かれた天井画もきちんと見せたい。部分補正機能を使って明るすることで、猪目窓とそこに映る紅葉、そして可愛らしい天井画という、とても贅沢な空間をきちんと見せることができた。

この写真の天井のような特定の範囲を調整するには「マスク」機能を用いる。ここでは、その一機能である「線形グラデーション」を使った。図のようにドラッグし「露光量」や「シャドウ」をプラスに調整すると、その範囲が明るくなる。写真全体のバランスを見ながら、自然な明るさになるように仕上げている

嵐山 祐斎亭 ~丸窓から見るライトアップされた紅葉とリフレクション~

Before
After

カメラ: Nikon Z7 II
レンズ: NIKKOR Z 14-30 f/4 S
シャッタースピード: 8秒
絞り値: f11
露出モード: マニュアル
露出補正: -2.7段
ISO: 200
ホワイトバランス: 晴天

<星野さんコメント>
撮影状況:
丸窓に見えるライトアップされた紅葉は目を見張ります。それをさらに引き立たせるのが、ピカピカに磨かれた机に映るそのリフレクション(反射)。このシーンを撮ろうと机の横一列に観光客が並び、そしてうしろには順番待ちの二重三重の列がありました。この「丸窓の部屋」以外にも嵐山の自然が映り込む「水鏡」や金魚の水槽が置かれたトイレなど凝った演出が人気の建物です。丸窓の撮影では、机に傷を付けないようにハンカチを敷き、その上にカメラを置いてスローシャッター(レリーズ使用)で撮っています。紅葉の色を出すためと、また丸窓の実像と机に映り込んだ虚像との露出差を減らすためにPLフィルターも使っています。

Lightroomでの仕上げ:
この写真のポイントは丸窓から見える鮮やかな紅葉と机に映るリフレクション。紅葉に露出を合わせ、Lightroomの仕上げで屋内がぼんやりと分かるくらいに明るくしました。紅葉の鮮やかさを強調するために彩度も強めています。最後にリフレクションの範囲だけ明るさを強め、より印象的な写真に仕上げました。

STEP1 紅葉の鮮やかさを強調する

Before
After

 鮮やかな紅葉というのは、その印象が強いほど記憶のなかで美化される。あとから写真を見て「もっと色鮮やかだったはず」などと感じるのは、そのような理由もあるのだろう。色彩が弱く感じられるような場合は「プロファイル」を変えると、写真が見違えるほど鮮やかになることがある。試してみてほしい。

肉眼で見ても目を見張るような紅葉だったが、撮ったままの写真ではその色彩が弱く感じられた。「プロファイル」で「カメラマッチング」の「ビビッド」に変更し、さらに「カラー」パネルの「自然な彩度」をプラス調整して色彩を強めている。図にはないが「効果」パネルの「明瞭度」も上げて輪郭をはっきりさせた

STEP2 全体の明るさを調整する

Before
After

 屋内が真っ暗なままだと、あまりにシルエット感が強すぎるので、障子や天井の様子がぼんやりと分かるくらいに明るくする。明るくしすぎると丸窓から見える紅葉の印象が弱くなるので、屋内の様子が分かりつつも、あまり明るくしすぎないのがポイント。

明るさは「基本補正」パネルの「シャドウ」と「黒レベル」で調整して明るくした。これらは写真の暗い部分を重点的に調整してくれるため、明るい紅葉に対してはほとんど影響を与えない。使い勝手のいい機能だ

STEP3 リフレクションしている机だけ を明るくする

Before
After

 ここまででいい感じに仕上がったが、もう少しだけ机のリフレクションの存在感を強めたいと感じた。そこで「線形グラデーション」を使って机の部分だけ明るくし、反射によって描かれる相似形をはっきりと見せるようにしている。

「マスク」から「線形グラデーション」を選び、机の範囲を明るくする。このような部分補正や範囲補正が行なえると、写真の完成度を高めることができる

善峯寺 ~雨霧のかすんだ景色に映える鮮やかな紅葉~

Before
After

カメラ: Nikon Z7 II
レンズ: NIKKOR Z 24-70 f/2.8 S
シャッタースピード: 1/50秒
絞り値: f/8
露出モード: 絞り優先オート
露出補正: -1.7段
ISO: 400
ホワイトバランス: 晴天

<星野さんコメント>
撮影状況:
国指定の重要文化財である「多宝塔」や「大元帥明王軸」、国指定天然記念物の「遊龍の松」などがある西山 善峯寺。広い境内からは京都の街並みも見渡せますし、自然風景的な写真も撮ることができます。ここではお堂の屋根を挟んで手前と遠景に紅葉を配し奥行き感を出しました。この日は雨。雨霧が立ち込めるお堂と紅葉の幻想的な美しさを写真に表現したいと思い、ずぶ濡れになりながらの撮影でした。しかし、いざ撮ってみると手前と遠景の露出差が大きいために手前の赤い紅葉がくすんでしまい、また肉眼では美しかった雨霧も白々として、そのままでは作品として成り立たないなと。それでもデータはしっかりしているので(RAWで撮っているので)、Lightroomで調整したところ撮影時のイメージをしっかりと再現することができました。

Lightroomでの仕上げ:
雨や霧の遠景は、思ったような写真にならないことが多いです。雨や霧などでかすんだ様子とはっきりと見せたい紅葉など、表現として相反する要素が混在するからですね。この作品は、撮影した時点ではがっかりするようなレベルだったのですが、Lightroomで調整したところ撮影時のイメージを見事に再現してくれました。

STEP1 「自動設定」を利用して適度な明るさにする

Before
After

 雨霧の雰囲気を残しながら、適度な明るさに調整したい。「自動設定」を試したところ、思い描くイメージにかなり近い感じに仕上がったので、それを微調整。また、もう少し遠景をはっきり見せるために「かすみの除去」も使っている。

「自動」ボタンをクリックして「自動設定」を適用後、「露光量」のみをマイナスに微調整した。また図にはないが、雨霧の雰囲気を損なわない程度に「かすみの除去」をプラスに調整して遠景もきちんと見えるようにしている

STEP2 雨霧のかすんだ雰囲気を補う

Before
After

 STEP1での調整とのバランスをとりながら、かすんだ雰囲気を醸したい。調整の方法はいくつかあるが、ここでは「トーンカーブ」のシャドウ端を持ち上げ、ハイライト端を引き下げることでその雰囲気を表現した。

「ライト」パネルの「ポイントカーブ」でシャドウ端を持ち上げて写真の暗部が目立たないようにし、またハイライト端を引き下げて写真の明部も抑えるようにした。コントラストが低くなるが、それが雨霧のかすみの雰囲気を引き出してくれる

STEP3 手前の紅葉をより鮮やかに見せる

Before
After

 最後に物足りないと感じる手前の紅葉をより鮮やかにした。かすんだ雨の情景のなかにあって、ひときわ鮮やかな紅葉、というイメージ。この調整により、手前の紅葉と遠景の山肌の紅葉との遠近感も出てきて写真に奥行きが生まれる。

特定の色を調整するには「カラー」パネルの「カラーミキサー」を使う。この紅葉の色を構成する「レッド」「オレンジ」「マゼンタ」の各色について「彩度」と「輝度」の両方でプラス調整し、しっとりとしながらも鮮やかな紅葉の色を追求した

勝林寺 ~雅を感じさせるライトアップされた紅葉と和傘~

Before
After

カメラ: Nikon Z7 II
レンズ: NIKKOR Z 24-70 f/4 S
シャッタースピード: 1/13秒
絞り値: f/5.6
露出モード: 絞り優先オート
露出補正: -2.0段
ISO: 800
ホワイトバランス: オート

<星野さんコメント>
撮影状況:
花手水などでも人気のあるお寺。訪れたのは寺院内の楓が色づく「秋の拝観」の期間中。境内に和傘や狐面などと紅葉のコラボがあちこちにあります。この日は、夕方のまだ明るいころから撮影を始め、やがて目当てのライトアップが始まりました。まだ空の青色が残っている宵の時間帯は明暗差が少なく、外の景色とライトアップが映える和傘の両方を写し込めます。カメラのホワイトバランス設定を「太陽光」から暖かみを残す「オート」に変え、空の青が白飛びしないようにマイナスの露出補正をして手持ちで撮影しています。

Lightroomでの仕上げ:
ライトアップされた和傘が白く飛ばないように、かなり暗く写しています。通常なら、これは失敗写真とされるかもしれませんが、RAWで撮影しLightroomを駆使することで、立派な作品に仕上げることができます。Lightroomでの仕上げまでを見越して撮影すると、写真の撮り方も少し変わってくると思います。

STEP1 ほどよい明るさにしてくれる「自動設定」

Before
After

 白く飛んでしまうとLightroomの調整でも直すことができないので、このようなシーンでは白く飛ばさないように撮影することが多い。特にこの写真の大事なテーマの1つである和傘が白く飛んでしまったら作品が台無しだ。そのため、かなり暗く写しているが、Lightroomは期待通りの明るさに調整してくれた。

「自動」ボタンをクリックすると、極端な白飛びや黒つぶれを避けながら、ほどよい明るさと鮮やかな色に調整してくれる。必要なら多少の微調整をすればよい。ここでは「シャドウ」や「ハイライト」をわずかに調整し直した

STEP2 和傘の明るすぎる部分を暗くする

Before
After

 写真の全体的な調整はよしとして、気になる部分を調整していく。まずは向かって左の白い和傘が明るすぎること。背面からのライトによって蝶の模様が見えにくい部分がある。それを「マスク」機能の「ブラシ」で部分調整をする。

和傘を拡大表示しておく。「マスク」から「ブラシ」を選び「露光量」をマイナスに設定。適度な「サイズ」にして明るすぎる部分をドラッグしてなぞり、明るさを抑える。図の黄色の円のあたりを少し暗くしている

STEP3 ライトアップされた紅葉を鮮やかにする

Before
After

 和傘の艶やかさ、鮮やかさに比べると紅葉のライトアップが少し寂しげだ。そのため、紅葉の存在感が少し薄らいで見えてしまう。色鮮やかな紅葉にして「紅葉と和傘」という2つの主役をきちんと引き立てることにしよう。これも「マスク」の「ブラシ」を使った。

「+」ボタンで「ブラシ」を追加し、「露光量」をマイナス調整し「色温度」の値を高め、また「彩色」で紅葉を彩るための色(マゼンタよりの赤)をチョイスし、赤い葉の部分でクリックを繰り返す

厭離庵 ~紅葉の時期に一般公開される庭園の美しい寺院~

Before
After

カメラ: Nikon Z9
レンズ: NIKKOR Z 14-24 f/2.8 S
シャッタースピード: 1/6秒
絞り値: f/8
露出モード: 絞り優先オート
露出補正: -1.0段
ISO: 800
ホワイトバランス: 自然光オート

<星野さんコメント>
撮影状況:
嵐山にある厭離庵は普段は立ち入ることができず、秋の紅葉のシーズンだけ庭園や茶室、本堂が一般公開され見学することができます。竹垣に囲われた細い路地を進むと現れる小さな門は隠れ家的な雰囲気も醸しています。一面の苔が美しい庭園ですが、晩秋ともなると散り紅葉が苔を覆い、この時期ならでは彩りを見ることができます。晴れた日のカラリとした紅葉もきれいですが、雨の日は濡れた散り紅葉がしっとりとした佇まいを放ち、また別の美しさを奏でています。撮影は広角レンズを使い庭園の広がり感を出しています。ただ、暗く手持ちでの撮影だったためPLフィルターを使っていません。その分、紅葉のテカリが出ましたが、Lightroomで調整できる範囲と判断して撮影を続けました。

Lightroomでの仕上げ:
地面を敷き詰める濡れた真っ赤な散り紅葉が美しくシャッターを切った1枚です。テカリを抑えることができるPLフィルターを使わずに撮ったので、散り紅葉にテカリが目立ってしまいました。そのテカリを抑えるために赤色系に対して彩度を上げたり、逆に芝の緑を落ち着かせたりするなどして仕上げています。

STEP1 暗い部分を明るく、明るい部分を少し暗くする

Before
After

 調整前の雰囲気も味わい深いが、ここでは少し明るめに仕上げることにした。明るさに関しては「基本補正」パネルにある調整項目で大概の調整が行なえる。全体を明るくしたが、それに応じて画面奥が明るくなりすぎたので、その分は逆の調整を行なった。

「ライト」パネルの「露光量」や「シャドウ」をプラスに調整すると暗いイメージを取り除くことができる。逆に明るくなりすぎた分は「ハイライト」をマイナスに調整して落ち着かせた

STEP2 紅葉を赤の濃度を増し、笹のテカリは抑える

Before
After

 散り紅葉のテカリを目立たなくしたい。LightroomといえどもPLフィルターの代わりはできないが、色の調整を行なうことで目立たなくすることはできる。ここでは赤色系に対して色相を調整し、さらに目立つ笹の葉のテカリを抑えるために緑色系の輝度を抑えた。

「カラー」パネルの「カラーミキサー」では、それぞれの「色」に対して調整が行なえる。「色相」では色をずらすことができる。ここでは紅葉がよりしっとりとするように赤色系の色相を調整した。また、テカリが悪目立ちする笹の葉に対しては「輝度」の調整で緑色系が明るくなりすぎないようにしている

STEP3 右上の紅葉の明るさのバランスをとる

Before
After

 最後に気になったのが右上の紅葉の明るさだ。写真全体を見渡したとき、右上の紅葉がほかよりも明るいため、そこに視線が向きやすくバランスが悪い。右上の紅葉の明るさを少し抑えることで、落ち着きのある庭園の紅葉写真に仕上げた。

右上の紅葉の部分を拡大表示しておく。「マスク」から「ブラシ」を選んで「露光量」の値をマイナスに設定。「自動マスク」にチェックを入れて、明るい紅葉の葉の各所に対してクリックを繰り返した。「自動マスク」を利用すると、ここで対象としている赤色以外に影響が及ばないので、効率よく部分補正が行なえる

紅葉写真は撮って終わりにせずに、写真編集で映える写真に仕上げよう

 星野さんの作品を例に、それぞれの写真の撮影内容とLightroomによる画像調整を見ていただいた。作品によってはBefore/Afterで劇的に変化するものもある。

 ここで取り上げた星野さんの作品は(あえて)暗めに撮られた写真があるが、暗い写真であってもLightroomでの調整によって見事な紅葉写真へと昇華する。撮っただけではなくLightroomでひと手間加えることで、写真としての完成度が高まる。見る人を唸らせるような魅力的な写真にするには、こうしたひと手間が大事だ。

 今シーズンの紅葉狩り旅行で撮るであろう、たくさんの写真。あとで見返して「あれ、もっと真っ赤な紅葉だったのに……」などと感じるのは、思い出が色褪せるようで少しさびしい。鮮やかな写真を見れば、思い出もきっと鮮やかに蘇るはずだ。写真の魅力はそんなところにもある。

 もちろんきれいな写真に仕上がったら「作品」としてSNSなどに発表するのも楽しいし、プリントして自宅やオフィスに飾ればその空間が潤うだろう。写真を美しくするだけでなく写真の楽しみ方も広げてくれる。Lightroomがたくさんの人に使われているのは、そんなことも理由なのかもしれない。