井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

なんでこんなところに作った? 風変わりな駅や構造物を見る

羽越本線の新五十川トンネルは、鉄道と道路が共用しているめずらしいトンネル

 今回と次回はちょっと趣向を変えて、「変わった造りの駅や、変わった造りの構造物がある」という話を取り上げてみたい。鉄道の楽しみは車両だけとは限らない。

鉄道と道路が構造物を共用する事例

 まず、鉄道と道路が同じトンネルを共用している珍事例を紹介したい。それが羽越本線・五十川(いらがわ)駅の鶴岡方にある、新五十川トンネル。駅から見えるぐらいの近さだが、少し大回りしないとトンネルにはたどり着けない。

 このトンネルは、羽越本線の複線化に際して山側に、上り線となる線路を新設した際にできた。北側(海側)の半分は線路、残り半分は道路になっており、五十川駅の山側にあるお寺に通じている。

新五十川トンネルの道路側を、北側から見た様子。道路側がガッチリ囲まれている様子が分かるが、これはおそらく交流2万V電化の関係
反対側から。お寺はこの背後にある

 トンネルの共用があるなら橋梁の共用もありそうなものだが、こちらは「過去には存在した」事例が多い。

 古いところでは、東急田園都市線と国道246号線が同居した二子橋があった。古い写真を見ると、道路の上を大きな電車が走っていてビックリする(しかも単線)。どう見てもボトルネックだが、南側に田園都市線の橋梁を新設して併用を解消した。

 名古屋鉄道犬山線と県道27号春日井各務原線が共用した犬山橋もあった。こちらは道路橋を新設して道路だけが移転、旧橋は鉄道専用として使い続けている。舗装ははがされたが、まだ道路の名残はある。

 比較的最近まであった同種事例としては、長野電鉄長野線と国道406号が共用する村山橋が有名だった。ここは道路橋と鉄道橋を別々に設ける形で全面架け替えとなり、旧橋は現存しない。しかし橋の東側に「村山橋メモリアルパーク」があり、往時をしのぶことはできる。村山駅から歩いてもそんなに遠くない。

名鉄犬山線の犬山橋。現在は鉄道専用だが、以前は左右の空きスペースが道路になっていた(現在は舗装がはがされている)
こちらは共用時代の村山橋。写っているクルマに時代を感じるが、なにしろ30年ぐらい前の撮影だ

現在の鉄道・道路共用橋

 では、現時点で存在する事例はどうか。

 道路と線路が共用する橋梁で、かつ両者が並んでいるのはレインボーブリッジ。中央を「ゆりかもめ」が通るが、左右の道路とは厳重に仕切られている。そのレインボーブリッジは、下層が「ゆりかもめ」と一般道、上層が首都高速11号台場線と、三者共用になっている。

レインボーブリッジに台場側からアプローチ。左右から道路が上がってきて同レベルになる。さらに右手からは首都高速が合流して頭上に覆い被さる
橋の中途で。確かに共用しているのだが、「ゆりかもめ」の部分がガッチリ囲まれているため、あまり共用している感じがない

 このほか、瀬戸大橋はご存じのとおり、高速道路と鉄道が共用している橋梁だ。ただし上下に分かれているため、どちらを通っても「共用している感」は乏しい。

 北陸新幹線の九頭竜川橋梁(芦原温泉~福井間)は、中央が新幹線、その両側に道路という構造だが、共用しているのは橋脚だけ。その上に載っている橋桁は新幹線と道路でそれぞれ別構造なので、「新幹線と道路が同じ橋」というには、いささか苦しい。新幹線と道路で設計条件が大きく違ったため、桁を別々にして設計を最適化したのだそうだ。

 ここは道路の方が位置が低いので、新幹線の車窓からでは防音壁しか見えず、やはり「共用している感」に乏しい。逆に道路から見ても、新幹線は防音壁の向こう側になってしまう。新幹線が通れば分かると思うが。

ホームがトンネル内にあるモグラ駅

 単に「トンネルのなかにある駅」だけなら、地下鉄の駅がある。しかし、地下鉄の駅はトンネル内にあって当然。「高架駅なのに『地下鉄』の看板を掲げている駅」の方が、まだしもネタになりそうだが、これとてそんなに希少な存在ではない。

 よって、モグラ駅の定義は「駅が丸ごと山岳トンネル内にある」となる。ホームを延長したらトンネルに突っ込んでしまった事例は少なくないが、最初から山岳トンネル内に駅を設けた事例は少ない。

 昔から有名なのが、北陸本線(現在はえちごトキめき鉄道・日本海ひすいライン)の筒石駅。北陸本線の複線化に際して、自然災害による被害を避けるために線路を山間部に移設して、トンネルで抜く形とした。その結果として、移設後の筒石駅はトンネル内に配された。

 ところが、モグラ駅は筒石駅だけではない。首都圏から手近なところで、野岩鉄道・会津鬼怒川線の湯西川温泉駅がある。ここは、駅を訪れたついでに温泉に浸かって、食事もとれる。

筒石駅のホーム。これは三セク転換前の撮影
こちらは湯西川温泉駅のホーム。筒石駅と比べると、ホームの幅員に余裕がある
湯西川温泉駅の駅舎は地上にあり、隣接して温泉施設「湯の郷 湯西川観光センター」(写真)がある
駅舎と観光センターの前を通る道路の下を線路が直角に通っており、足元から電車が飛び出してダム湖に架かる橋梁を渡る

列車が発着するとき以外はホームに立ち入れない美佐島駅

 そして、モグラ駅のなかでもラスボス級といえるのが、北越急行ほくほく線の美佐島(みさしま)駅。ホームと駅施設の境界に強固な防風扉(しかも自動ドア)が設けられており、これはほかのモグラ駅にはない特徴となっている。

 しかも、ホームに隣接して待機スペースがあり、ホームとの境界だけでなく、地上に出る通路との境界にも防風扉がある。そして、これらの扉は同時に開かない設定になっている。風が地上まで吹き抜けないようにするためだという。

 かつて、ほくほく線では特急「はくたか」が最高速度160km/hで疾駆しており、特急が通過する際にはトンネル内を暴風が吹き抜けた。その風によるとばっちりを防ぐため、こんな構造になった。速度だけなら新幹線の方がずっと速いが、トンネル断面が小さい分だけ影響が大きかったのだ。

 現在は全列車が各駅停車だが、列車が発着するときしかホームに出られないオペレーションは以前と変わらない。

美佐島駅のホーム。奥の、柵が建っているところの右側に出口がある
美佐島駅の駅舎。これだけ見ると普通の駅だが、線路とホームは地下にある
駅舎のなかに畳敷きの待合室があるのがめずらしい。雪国だから暖房の用意もある
その待合室の前から階段を降りていくと、突き当たりに頑丈そうな自動ドア
自動ドアを入ったところ。左が地上に出る通路の扉で、右がホームに通じる扉
普段はこの表示で、ホームに通じる扉はロックされていて開かない
列車が到着すると表示が変わり、ホームに通じる扉が開閉可能になる
また、扉の上にあるランプが点灯する。掲示に「青ランプ」とあるが、あまり青い色には見えない

 この物々しい設備、維持管理にはそれなりに費用がかかりそうだが、一方で1日平均の乗降人員は一桁だ。ほくほく線はそれなりに運転本数があるので、うまく工夫すれば、時間を持てあますことなく訪問して、平均乗降人員を増やせる。

 なお、これら以外に上越線の湯檜曽駅と土合駅もあるが、どちらもすでに有名過ぎるぐらい有名。次回に別の切り口から取り上げてみる。