週末駅弁

岡山駅「桃太郎の祭ずし」

桃太郎の祭ずし

 JR岡山駅では多くの駅弁が販売されていますが、そのなかから今回は「桃太郎の祭ずし」を紹介します。

 祭ずしは、岡山で「ばらずし」と呼ばれる祝い寿司のことです。江戸時代、備前国藩主の池田斉政公が、庶民は食事を「一汁一菜」にするよう定めた倹約令を発しました。ただ庶民は、お祭りのときぐらいは贅沢なものを食べたいと、「すしに魚や野菜を入れてしまえば、それは”一菜”になる」という理屈を考え、すし飯に酢で締めた魚や煮込んだ野菜など多くの具材を入れた豪華なばらずしを作り楽しんでいたそうです。そういった岡山伝統のばらずしを駅弁にしたのが、桃太郎の祭ずしです。

 この桃太郎の祭ずし、歴史は非常に古く、発売開始は昭和38年(1963年)。今年で発売60周年を迎えた、ロングセラー駅弁です。しかも、現在でも岡山駅で販売される駅弁のなかで人気ナンバーワンを維持しているのですから、まさに岡山駅を代表する駅弁にふさわしい存在と言っていいでしょう。

 桃太郎の祭ずしの大きな特徴が、ピンク色で桃の形をした、とてもかわいい弁当箱です。筆者は香川県出身で、小さい頃に親戚のいる岡山によく遊びに行っていて、この駅弁を手にすることもよくありました。その頃から桃の形をした弁当箱が使われていた印象が残っていますが、今回久しぶりに手にして、とても懐かしく感じました。ちなみにこの弁当箱はプラスチック製なので、持ち帰って再利用できます。このあたりも人気の理由かもしれません。

桃太郎の祭ずしは、ピンク色の桃の形をしたかわいい弁当箱が大きな特徴。プラスチック製で、持ち帰って再利用も可能

 弁当箱のフタを開けると、目にも鮮やかな祭ずしが現われます。酢飯の上に錦糸たまごを敷き詰め、鰆の酢漬け、ママカリの酢漬け、海老の煮物、焼穴子、たこの酢漬け、あさり煮、椎茸煮、焼筍、れんこんの酢漬け、青菜漬け、紅生姜、おぼろと、12種類もの具材がぎっしり並べられています。

 なかでも、岡山で人気の鰆とママカリは、祭ずしで欠かせない具材です。筆者が子供の頃は、酢の風味が強い魚の酢漬けがあまり得意ではなかったのですが、今食べると、いい塩梅の酢加減と、鰆やママカリの風味がよくマッチしていて、魚臭さもなく、とても美味しく感じます。

 そのほかの具材も、酢の風味が強い酢漬けだけでなく、甘いタレと焦げ目の香ばしさがたまらない焼穴子、甘辛くじっくり煮込まれ、頬張ると旨味がじゅわっとしみ出す椎茸煮など、味のバリエーションにも富んでいて、飽きることなく箸が進みます。ばらずしでありながら、味の変化を楽しめるという点も、長年人気を維持する要因でしょう。

弁当箱のフタを取ると、全部で12種類もの具材を敷き詰めた、目にも鮮やかな祭ずしが現われます
祭ずしで欠かせない、ママカリの酢漬け。ほどよい酢の風味と、少しクセのあるママカリの風味がよくマッチした、あとを引く味わいです
こちらは鰆の酢漬け。ママカリの酢漬けよりもやや酢の風味が強いが、それに鰆の味わいが負けていない。強い酢の風味が鰆の旨味を倍増しているかのような美味しさ
香ばしい焼穴子や、甘辛く煮込まれた椎茸煮、甘いおぼろなど、いろいろな味を楽しめる
酢飯自体はシンプルな味わいだが、バラエティーに富んだ具材で、飽きずに食べられるのもうれしい

 近年岡山駅では、華やかな見た目の駅弁が増えていますので、桃太郎の祭ずしはどちらかというと地味な存在かもしれません。しかし、今回久しぶりに手に取ってみて、改めて長年人気を維持し多くの人に愛されていることを強く実感できました。皆さんも、岡山駅に足を運ぶ機会があれば、ぜひ桃太郎の祭ずしを手に取ってもらいたいと思います。

「桃太郎の祭ずし」

価格: 1100円
販売駅: JR岡山駅
購入場所: 岡山駅構内 ミヨシノJR岡山駅構内売店
購入日: 2023年10月1日