荒木麻美のパリ生活

現役会員と行く、パリのフリーメイソン博物館

フリーメイソン博物館の入っているフランス大東方会の建物

 前から気になっていた、パリ9区にある「フリーメイソン博物館」に行ってきました! せっかくの機会なのでガイド付きツアーに参加して、じっくりと博物館、そして博物館の入っている建物を見学してきました。

フリーメイソン博物館の入場券
ロビーには各国語で作られた指紋のような模様が。カタカナもあるのですが、私には意味が分かりません

 予約した時間に行くと、ガイドとして現われたのは20代の女性でした。彼女もフリーメイソンの会員です。父親がフリーメイソンだったことから会員になったそうですが、現役会員らしく、フランスのフリーメイソンについての話を分かりやすくしてくれて、参加者からのどんな質問にも「それは言えません」といった返事はまったくなく、はきはきと答えていました。

フランスのフリーメイソンの歴史

 フランスのフリーメイソンの起源については所説あり、たとえば古代エジプトのピラミッドを建てた石工職人である、ソロモン神殿を建てた石工職人である、中世の石工職人たちである、テンプル騎士団であるといった説です。いずれにしても近代的に組織化されたのは1717年、イギリスでのことです。

 その後、フランスに最初のロッジ(会所)ができたのは1725年ごろです。1738年にはフランスで一番古いフリーメイソンの組織「フランス・グランド・ロッジ」(Grande Loge de France)ができます。そして今回訪れた「フランス大東方会」(Grand Orient de France)ができたのは1773年。フランスで最大のフリーメイソンの組織です。

 フランス大東方会は、1877年には宗教的な義務を廃止します。これに関し、フランス大東方会は国家と教会を分離するという1905年の政教分離法(ライシテ法)を支持しましたが、これ以外にも社会保障、有給休暇、避妊・中絶、同性婚など、フランス社会の変化に影響を与えてきました。

 順調に会員数を増やしていたフランス大東方会ですが、第二次世界大戦中はナチス・ドイツから活動を禁止されてしまいます。大戦が終わったときには、会員数は7000人に減ってしまいましたが、現在は約1400のロッジに5万2000人以上の会員がいるそうです。

ツアー一番の見どころタンプルへ

 フランスのフリーメイソンとフランス大東方会の概要説明が終わると、建物内にあるタンプル(神殿)といわれている部屋のいくつかをガイドさんが見せてくれました。現代風なタンプルから重厚な作りのタンプルまで、各タンプルまったく違った雰囲気なので驚きです!

 タンプルはガイド付きツアーでないと見られないので、せっかく行くならガイド付きツアーを心からお勧めします。

建物のなかにこれだけのタンプルがあります
このタンプルに限らず、どのタンプルにも「Liberte, Egalite, Fraternite(自由・平等・友愛)」が掲げられています

 ソロモン神殿を表わすというタンプルには基本的には窓がなく(あるタンプルもありました)、東を向いています。入り口のドアは西にあり、2本の柱に囲まれています。柱には「B」(Boas、ボアズ)、「J」(Jahkin、ヤキン)という名が付いています。

タンプル入口の2本の柱

 正面向かって左側が北となり、新しく入った人たちが座るのはこちら。シンボルは月と自然の状態の石です。南側にはマスターたちが座ります。こちらには太陽とカットされた石があります。石は自然な状態から磨かれた精神になったことを表わすシンボルです。太陽と月は光と影、一方が他方なしでは成り立たないという補完性を表わします。東側はグランドマスターや、会議を進行する人たちが座る場所となります。

北側には月と自然の状態の石、南側には太陽とカットされた石

 タンプルにはそのほかたくさんのシンボルがあり、以下のとおりとなっています。

コンパスと直角定規: コンパスは真理を、直角定規は道徳、これらが合わさることで、ダビデの星となる。
プロビデンスの目: 人間の行動が「宇宙の偉大な創造主」に観察されていることを示す。
アルファベットのG: ギルド(Guild)、神(God)、幾何学(Geometry)、栄光(Glory)、寛容(Grandeur)、黄金(Gold)、霊知(Gnosis)。
下げ振り: 内観の象徴。
寺院を取り囲むロープ: 結合の連鎖。
床の市松模様: 善と悪。

コンパスと直角定規
アルファベットのG
下げ振り
寺院を取り囲むロープ
床の市松模様
フランス各地にあるタンプルを紹介したガイドブックは博物館で販売しています

 タンプル見学が終わると、博物館の見学です。

 ユダヤ教とフリーメイソンの関係を連想させる図、フランス革命のきっかけになった出来事の絵、フランス人権宣言の起草に力をつくしたラファイエットの剣、正装時の衣装など、小さい博物館ですが、見どころがたくさんです。

フランス大東方会をアカシアの木を使って表現した図
ユダヤ教の神秘主義思想カバラとフリーメイソンの関係を表わす図
ルイ15世の長男、ルイ・フェルディナン・ド・フランス王子のフリーメイソンの印が入った箱
正装時に着用する石工の作業着がもとになっているエプロン
18世紀フランスを代表する啓蒙思想家、文学者であるヴォルテールのエプロン
正装時につけるコルドンなど
正装時につける手袋。これは第二次世界大戦後に活躍した政治家アンリ・カイヤヴェのもの
1723年に制定されたフリーメイソン憲章
1789年の「球戯場の誓い」というフランス革命のきっかけになった出来事の絵
1789年のフランス人権宣言の起草に力をつくしたラファイエットの剣
フランス共和国のシンボルであり、パリのフリーメイソンのシンボルでもあるマリアンヌ
マリアンヌはロビーやタンプル内にもありました

フランス大東方会の会員になるには

 フランス大東方会の会員になるたには、18歳以上であり、知り合いのフリーメイソンを介して、または手紙やWebサイトから申し込むだけです。その際、志望動機と自分の経歴を書いた手紙が必要となります。

 その後、会員3人との面談があります。動機や政治的、倫理的、哲学的、社会的な考え方、そして自由で開かれた心を持ち、ライシテであることを確認されます。犯罪歴がある人は会員になれません。

 無事に面談が終わると、入会予定のロッジに行き、目隠しをした状態で、いくつかの質問に答えます。それが終わると、会員による投票があります。入会が認められるとセレモニーがあります。そのなかから新人がするという儀式の一部をガイドさんが見せてくれましたが、目隠しをした状態で胸を叩いたり床を鳴らしたり、モダンダンスのようなものでした。なお、もし入会を認められなくても、しばらくしてから再び応募することができます。

セレモニーはこういう雰囲気なのでしょうか?

 さて、晴れて入会を認められても、新人が発言することは許されません。月に2回あるというミーティングでは、ただ聞くことになります。でも1~2年後には自分のロッジ以外でも発言が許されるようになり、活躍の場を徐々に広げていきます。

 なんらかの理由でフランス大東方会を辞めるのは簡単です。依頼の手紙を出すだけですが、言動などによっては追放されることもあります。

 フランス大東方会の現在の平均年齢は50歳くらい、会費はパリの場合、年400ユーロくらいだそうです。

 女性会員は現在5000人くらい。ほかのフリーメイソンの組織では古くから女性が活躍しているところもありますが、フランス大東方会の場合は、女性の入会が正式に認められたのは2010年のことです。女性の入会が認められてまだ10年くらいですが、女性会員数は着実に伸びているとのことでした。

これはフランス大東方会ではありませんが、女性も古くから会員として活動していたことを示す像や写真

 ロッジで話し合われたことを外で話してはいけませんし、「私は・あの人はフリーメイソンです」と公言しないため、秘密の組織、というイメージをもたれやすいのかもしれませんが、フランス大東方会は謎の秘密結社などではなく、とてもオープンな組織ですよ、とガイドさんが言っていました。

 実際、フランス大東方会については、博物館、出版物、YouTubeチャンネルでの公開会議などによって多くのことが一般に公開されています。それでもガイドさんに「今回のコロナ騒動もお前たちの企みか!」と攻撃的に言ってくる人が最近いたそうで、そのことをガイドさんは笑いながら話してくれました。

 フランスにはフランス大東方会以外にもフリーメイソンの組織がいくつかあります。もしかするとすべての組織が同じ考えではないかもしれないですし、フリーメイソンのあり方自体が、昔と現代ではまた違うところもあるでしょう。会員でもない私にフリーメイソンの本当の姿が分かるわけがありません。いわゆる陰謀論的なところはたくさんの本や映画のテーマにもなっていますし、その辺はエンタテイメント的にこれからも楽しみたいと思っています。

荒木麻美

東京での出版社勤務などを経て、2003年よりパリ在住。2011年にNaturopathie(自然療法)の専門学校に入学、2015年に卒業。パリでNaturopathe(自然療法士)として働いています。Webサイトはhttp://mami.naturo.free.fr/