荒木麻美のパリ生活

映画の都パリ、ちょっと個性的な映画館と閉鎖の危機に瀕する一番古いシネマテークへ

「もうすぐこの通りで撮影がありますよ」という張り紙。道を歩いているとよく見ます

 1895年、リュミエール兄弟によって世界で初めての有料映画上映会が開催されたのはパリでした。そんなパリと映画の関係は今でもとても密接です。映画業界で働く人があちこちにいますし、撮影に遭遇することもよくあります。多数の映画館、映画に関する施設も充実しています。

 そのなかから今回は、特に印象に残っている映画館2か所と、パリで一番古いシネマテークをご紹介したいと思います。

 まずは10区にある映画館、「ル・ルクソール」(Le Louxor)。映画館のあるバルベス・ロシュシュアール駅周辺はアラブ・アフリカ系の移民が多く、なかなかカオスな雰囲気のエリアですが、「ネオ・エジプトとアールデコ」というコンセプトの建物はかなり目を引きます。

 ル・ルクソールは1921年に作られたので、開館から今年でちょうど100年となります。途中、1983年からは閉鎖されていたのですが、パリ市が2500万ユーロと3年間をかけて改修したのちに再オープンしました。建物内にはいくつかの部屋があるのですが、なんといっても注目はエジプトの映画監督の名を冠した大ホール「Youssef Chahine」。3階まであってコンサートホールのようです。

 最上階にはミニテラス付きのバーもあります。一般料金は9.90ユーロと、シネコン系に比べてお得。

 凱旋門に近い、8区にある映画館「Club 13 Paris」は重厚で落ち着ける空間です。65人入れる部屋には、ゆったりとした革張りのふかふかのシートが並んでおり、とても快適。

隣にはレストランも併設されています

 Club 13 Parisはプライベート上映会の会場としてレンタルできる映画館なのですが、私は試写会で入りました。オーナーは「男と女」などの作品で有名なクロード・ルルーシュ監督。監督は同じ敷地内に住んでいるそうで、この日も一緒に映画を見ていました。83歳だそうですが、今年も新作を撮っており、まだまだ現役ですね。

クロード・ルルーシュ監督

 パリには多くの映画館のほか、映画専門の図書館「フランソワ・トリュフォー映画図書館」や、重要な映画作品を収集・保存している「シネマテーク・フランセーズ」といった、映画好きにはたまらないところがあります。

シネマテーク・フランセーズ

 このなかで私がおもしろいところだなと思ったのが「シネマテーク・ロベール・リネン」。シネマテーク・フランセーズの比ではない小さな施設ですが、1926年にできた、パリでもっとも古いシネマテークです。一般公開はされておらず、私はパリ市民カードを使ったツアーで入りました。

 このシネマテークの名前になっているロベール・リネンは、子役として有名だった俳優です。ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の「にんじん」(1932年)でデビューし、1942年までに13本の映画に出演しました。その後、第二次世界大戦中、ナチス・ドイツ占領下のフランスでレジスタンスとして活動中に逮捕。その後ナチスにより1944年に処刑されました。享年23歳という若さでした。

ロベール・リネン

 シネマテーク・ロベール・リネンは子供たちに映画ならびに映像制作の素晴らしさを伝える活動を中心にしているので、ロベール・リネンの名を冠したのはピッタリですよね。

 建物内にはスライド映写機の原型である幻灯機から映写機までの貴重な機材や、映像技師によって上映される作品を見ることができます。私が見たのは、1927年当時のニューヨークを紹介する無声映画や、1920年代のエキゾチックなダンスを踊るダンサーのショートフィルムなどです。

 シネマテーク・ロベール・リネンはここ数年、建物の老朽化を理由とする閉鎖の話がパリ市から来ています。関係者は建物を大規模に修繕するか、貴重な資料とともにほかの建物に引っ越すことをパリ市に提案しているものの、話し合いは平行線です。現在はごく少人数の子供たちを受け入れて小さなアトリエを開催するなどしているようですが、この歴史あるシネマテークが存続することを願って止みません。

荒木麻美

東京での出版社勤務などを経て、2003年よりパリ在住。2011年にNaturopathie(自然療法)の専門学校に入学、2015年に卒業。パリでNaturopathe(自然療法士)として働いています。Webサイトはhttp://mami.naturo.free.fr/