荒木麻美のパリ生活

パリにオープンしたばかりの「繊維屋さん」でお直し教室に参加

「繊維」をコンセプトに新しい試みを展開中

 4年前に今住んでいるエリアに引っ越してきた当初は、「食料品店以外に入りたいお店がない!」と思ったものですが、お気に入りのお店が少しずつですが増えてきました。

 今回ご紹介する「La Textilerie(テキスティルリー)」も今年オープンしたばかり。「Textilerie」というのはフランス語の辞書には載っていないので造語だと思うのですが、パン屋さんの「Boulangerie」や肉屋さんの「Boucherie」のようなもので、「繊維屋さん」になるのでしょうか? 「Textile(繊維)」をコンセプトにしたお店で、創立者の一人であるエルザさんいわく「パリで初の試み」だとか。

 La Textilerieは会社組織とはなっておらず、アソシエーションとして登録しています。その理由は会社を設立するよりもアソシエーションのほうが設立しやすかったということ、お店のコンセプトからして、アソシエーションであるほうが、ほかのアソシエーションとのコラボレーションを組みやすいからとのことでした。

La Textilerie

所在地:22 rue du Château Landon, 75010 Paris
TEL:+33 (0) 1 40 35 77 14
Webサイト:La Textilerie(仏語)

 お店の広さは約130平米と広いです。エルザさんはこの広さを確保するためにパリ中を探し回ったそう。エルザさんにどうしてLa Textilerieを開こうと思ったのか聞いてみました。

「前職は服とはまったく関係ないのだけど、とにかく洋服やバック、アクセサリーが好きだったの。でもこれらが増え続けるのを見ていて、ただ捨てるのでもそのままリサイクルするのでもない、それ以上にもっと何かできないかと思ったのがきっかけね」

オーナーの一人のエルザさん。社員は4人ですが、ほぼ毎日いるのはこのエルザさんです。この日は風邪を引いていて、とても体調が悪そうなので気の毒でした

 La Textilerieでは服だけに限らず、カバンや靴、シーツやテーブルクロスなども引き取ります。布類は自宅で洗濯をして乾いていればOK。色がかすれていたり、破れたりしていても大丈夫です。そのまま使えるものはリサイクルコーナーに、破れたり落ちない汚れが付いていたりする布でも、きれいなところを切り取ってストックし、アトリエでのレッスン時などに使います。

 私も後日、何かに使おうと思って取っておいた布をごっそり持って行きました。これまで衣類や日用品は主にEmmaüsに出していましたが、La Textilerieは端切れさえも大歓迎とのことなので助かります。

持ち込んだものはここで重さを量ってから渡します

 リサイクルコーナーには、洋服のほかにアクセサリー類や、クリエイターによる一点物の洋服やバックなどの雑貨も並んでいます。リサイクル品は基本的に全て20ユーロ以下で販売しています。

 その向かいは生地コーナー。ここにはオーナーたちのお眼鏡にかなった布が置いてあり、必要なだけを計り売りしています。このなかでも「WHOLE」というアトリエで作られた生地は、染料が100%ナチュラルのオーガニック生地なのでお勧めです。

WHOLE

所在地:86 rue Jean Pierre Timbaud, 75011 Paris
TEL:+33 (0) 9 83 72 47 22
Webサイト:WHOLE(仏語)、WHOLE(アトリエの紹介ページのみ英語)

 お店の奥がアトリエコーナーになります。ミシンが整然と並ぶ広々としたアトリエでは、日々さまざまなアトリエが開催されています。内容は頻繁にアップデートされてWebサイトに上がっていますが、初心者から上級者までいろいろなアトリエがあり、例えば以下のような内容です(1ユーロ=130円換算)。

レベル0:ミシンに親しむ(55ユーロ、約7150円)
レベル1:スカートまたはトートバックを作る(48ユーロ、約6240円)
レベル2:「キモノ」ベストを作る(50ユーロ、約6500円)
レベル2:ショートパンツを作る(50ユーロ、約6500円)
ジャージー生地で縫う(参加費:38ユーロ、約4940円)
既存の服からパターンを取る(75ユーロ、約9750円)
編み物の基本(25ユーロ、約3250円)
インディゴ染め(45ユーロ、約5850円)
軽く一杯飲みながらの刺繍(30ユーロ、約3900円)
子供向け・ミニオブジェを作る(25ユーロ、約3250円)
オーガニックのベビー服を作る(80ユーロ、約1万400円)

 アトリエに参加せず、単にミシンを使いたいという人は、1時間7ユーロ(約910円)でミシンを使うこともできます。

 私が取材に行った日は「無料お直しアトリエ」の日でした。超お気に入りだったショールをうちの猫たち(関連記事「パリで猫の里親になる」)にかじられ、穴を開けられてしまい、これをどうにかできないものかしらと持ち込んでみました。ついでに裁縫をまったくできない夫に、せめてボタン付けくらいできるようになってほしいと、夫もボタンの取れたシャツを持って参加しました。

 アトリエの先生はジャミラさん。アルジェリアからの移民です。フランスに移住したいという4人の子供たちについて、6年前に来たそう。移住当初は仕事が見つからなくて困ったようですが、今ではフランス政府などが支援するアソシエーション「MODE ESTIME」で、母国ではお針子さんだった経験を活かして働いています。

MODE ESTIME

Webサイト:MODE ESTIME(仏語)

 この日は同じアソシエーション同士ということで、La Textilerieにボランティアで教えに来ていました。作業をしながら世間話をしていたのですが、アソシエーション同士での連携が認められているため、アトリエでの作業自体はボランティアなのですが、ジャミラさんが働いている作業所の作業時間として換算されているそうです。「作業所で働くのも大好きだけど、ここで教えるのもとても楽しいわ」と優しい笑顔で話す、面倒見のよい肝っ玉母さんでした。

 さて、夫のボタン付けレッスンはあっという間に終了。よくボタンを取る人なので、これからは私が長期間不在中でも、自分で付けられますね。

私がショールの補修に苦戦中に、夫はショールの切れ端を使ってボタン付けを自主練した模様

 私の方はなかなか大変でした。破れた部分を切り取ってフリンジを作り直し、穴は切り取った布でふさぎました。とても全てを時間内で終わらせることはできなかったので自宅で完成させました。出来栄えは私の腕のせいでお出かけ用には微妙なところですが、近所に出かけるくらいならまだまだ使えそうです。

 この日はもう一人、アトリエに来ている男性がいたのですが、壊れたズボンを直していました。自宅にミシンがないから来たそうで、完成後「これでかなり節約できた!」と喜んでいて微笑ましかったです。この男性、「編み物もやりたいんだよね」とも言っていました。La Textilerieでは編み物のコースもありますから、そのうちに参加するかもしれませんね。

奥にいるのがズボンを補修中の男性。黙々と作業をしていました

 エルザさんいわく、「ここに来るのはブティック周辺の人だけじゃないわ。年齢層は今のところ30歳から40歳前後が多いみたい。男性も多いわよ」とのこと。

 まだスタートしたばかりのブティックですが、活発な活動ぶりを見ていると、今後の展開が楽しみです。店内にはカフェコーナーもあるので、布を囲んでのおしゃべりにも花が咲きそうですね。

荒木麻美

東京での出版社勤務などを経て、2003年よりパリ在住。2011年にNaturopathie(自然療法)の専門学校に入学、2015年に卒業。パリでNaturopathe(自然療法士)として働いています。Webサイトはhttp://mami.naturo.free.fr/