荒木麻美のパリ生活

フランス・サヴォワ地方、初冬のメリベルへ

スキーはもちろん、温泉にスパ、娯楽施設も充実

 突然ですが、パリでは石を投げれば映画関係者に当たると思えるくらい、映画業界で働く人が多いです。私の夫も映画業界で働いているのですが、撮影地はパリとは限りません。

 というわけで、今回はある映画の撮影のため、11月上旬から約5週間、夫がMribél(メリベル)というところに行くことになり、私も雪山生活を満喫してきました!

 メリベルという地名、私にはぴんと来なかったのですが、フランス人に話すと「ああ、メリベルね!」という反応なので、有名なところのようです(私はあとで元F1レーサーのミハエル・シューマッハが悲劇的なスキー事故を起こしたところと聞いて、やっと地名を思い出しました)。

 場所はフランスの東部、イタリアとの国境近くで、サヴォア地方にあるTrois Vallées(トロワ・ヴァレー)の1つです。トロワ・ヴァレーとは「3つの谷」の意味なのですが、メリベルはその3つの谷の1つにある街です。

 トロワ・ヴァレーは世界最大級のスキーエリアで、とにかく広大。スキー場がオープンする前だったため、私は今回スキーをしなかったのですが、メリベルはトロワ・ヴァレーの真ん中に位置しているので、どのスキーエリアに行くのにも便利なのだそうです。

 メリベルがスキー場となったのは、あるスコットランド人が1936年にこの地を訪ねたことに始まります。そのためメリベルを訪れるイギリス人が今でもとても多いです。1992年にはアルベールビル冬季オリンピックの会場の1つとなりました。女子アルペンスキーとホッケー競技がメリベルで行なわれたそうです。

パリから約4時間30分、雪の降りしきるメリベルへ

 パリからメリベルに行くには、リヨン駅から高速鉄道TGVに乗ってChambéry(シャンベリ)駅まで約3時間。そこからレンタカーを借りて1時間30分ぐらい運転するとメリベルに到着です。夏と冬の観光シーズンだと公共のバスが出るので、シャンベリ駅で電車を乗り換えてMoutiers(ムティエ)という駅まで行くと(パリから5時間くらいかかりますが)、そこからメリベルまでのバスが出ているそうです。ムティエからメリベルまでは30分くらいです。

 標高約1500mにあるメリベルを目指して上に登るにつれ、紅葉から雪景色へとどんどん変わっていきました。私たちがメリベルに着いたのは11月7日だったのですが、到着した日から数日にわたって雪がよく降っていました。このまま降り続けたら外に出るのも大変になるなぁと心配していたのですが、その後はずっと晴天続きに。途中から街中の雪はほとんど溶けてしまいました。

このような美しい紅葉の景色が……
メリベルの街に着くとこのような雪景色に!
メリベルに着いてから数日間は、断続的に雪がよく降っていました

 こうして到着したメリベルで私たちが滞在したホテルは「Hotel L'Eterlou」。普通のホテルと、キッチン付きアパートホテルが入っています。私は自炊したかったのでアパートホテルの方にしてもらったのですが、室内は山小屋風の至ってシンプルな感じで、メゾネット付き、定員6名のお部屋だったので、快適に過ごすことができました。

Hotel L'Eterlou

所在地:Route Albert Gacon, 73550 Les Allues
TEL:+33(0)4 79 08 89 00
Webサイト:Hotel L'Eterlou(仏語・英語)

ホテルは本来ならシーズンオフで閉館中だったのですが、撮影スタッフのために特別に営業してくれました
ホテルには屋外に温水プールと、その横にはサウナがありますが、シーズンオフのため、残念ながら使用不可でした。シーズン中はスパも営業しているそう
ホテルの目の前がリフト乗り場です。周辺はスキー場だらけ

 滞在したホテルもそうでしたが、メリベルにあるすべての建物は、三角屋根に木と石のみを用いた山小屋形式が義務付けられているせいで、童話の世界のような街並みとなっています。

日が暮れるとこんな感じに。街はずれにある小さな教会もライトアップされ、すでにクリスマスムードでした

 メリベルのスキー場オープンは12月10日だったのですが、今頃はどうなっているのでしょうね? シーズン中、特にクリスマス頃からはどのホテルも満員で、どこも大混雑になるとのことですが、私たちが滞在していたのは12月9日まででしたので、街は静かというか閑散としていました。

 ほとんどすべてのお店が閉まっていて、開いていたのは郵便局(しかも午前中のみ)、観光案内所、そしてレストランが数軒のみ。お土産屋さんやファッション関連のお店はもちろん、映画館などのすべての娯楽施設、スーパー、薬屋、パン屋さんなど、日常に必要なお店も含めてほとんどすべてが閉まっており、外に出ても会うのは撮影スタッフか営業再開に向けて来ている人ばかりでした。

 メリベルでの撮影中は毎日ケータリングサービスが来て、仮設テントの中ではありますが、撮影スタッフには前菜、メイン、デザートと、きっちりとした温かい食事が提供されます。一方、「おまけ」の私はホテル内のキッチンでほぼ3食自炊です。といっても私は外食が続くと体調がわるくなるので自炊の方がよいのですが、食材をどうするかだけが心配でした。

私の知る限り、フランス映画の撮影現場の食事はこんな感じが多いです。私が毎日こんなご飯を食べたら体調を崩すこと間違いなしです

 でもムティエまで行けば大きなスーパーはもちろん、大好きなBiocoopもあったので、週に1度、1週間分の食材を買い込み、パリとほぼ変わりのない食生活を送ることができました。

 メリベルのスーパーも12月に入ると開店しましたが、その値段にビックリ! すべての商品ではありませんが、物価が高いと言われるパリよりもさらに1.5倍くらい高い感じなのです。それもそのはず、トロワ・ヴァレーは高級リゾート地なのだそう。

 トロワ・ヴァレーのなかでも一番の高級リゾート地であるCourchevel(クールシュベル)には、自家用飛行機で乗り付けて来るお金持ちも多数いるとか。メリベルの不動産屋さんのウィンドウを見てみたら、これまたパリと同じか少し高いくらいだったので、クールシュベルになると一体……?

平日は一人静かにトレッキング三昧

 私のように映画の撮影に無関係の人間が、パートナーについて撮影地に来るということはまずありません。せっかく来ても撮影は昼・夜問わずにありますから、パートナーと過ごせる時間はわずか。私も平日のほとんどの時間を1人で過ごしていました。

 撮影スタッフから「毎日1人で何をしているの?」と、ときどき聞かれましたが、私がメリベルで主にしていたことは軽いトレッキングです。観光案内所で地図をもらったのですが、その際に勧められたコースを制覇していきました。

冬のトレッキングコース案内図(メリベル観光協会のWebサイトより

 メリベルは谷間にある街のため、14時くらいには日が落ち始めるのですが、それまでにホテルに戻って来られるコースを選び、お天気のよい日はほぼ毎日、数時間歩いていました。標高1500mとはいえ高度に敏感な私は、最初の1週間は体が慣れなくてきつく感じましたし、目的地が遠過ぎて最後まで行けなかったり、雪がすごくて諦めたりしたこともありましたが、たくさんあるコースに飽きることはありませんでした。

 そのうえシーズンオフの平日なので、私の前を歩いた人はしばらくいなかったと思われる道が多く、足跡の付いていない雪道を歩くワクワク感ときたら! ほかの人とすれ違うこともほぼありませんでした。そんな静けさのなか、途中でかわいらしい小さな街を横切ったり、乗馬クラブでのんびりしている馬やポニーを見かけたりしては、幸せな気分に浸っていました。

 スキーはできませんでしたけど、仲よくなったケータリングサービスの人にもらった丈夫なゴミ袋(大きめがお勧め!)を持参し、トレッキング中によさそうなところを見つけてはゴミ袋をお尻に敷いて雪の斜面を滑ったりもしました。

 コースのなかでも一番好きだったのがTuéda自然保護区。気に入ったので何度も通いました。

 Tuéda自然保護区コース最終地点にある山小屋まで行くと、絶景が広がっていました! 高度は2000mくらい。山小屋は3月から9月くらいまでは開いているようです。

保護区入り口にある湖もすっかり凍っていて、ホッケーをする人もいました

週末はメリベル周辺のスパで温泉にも

 平日はこんな感じでしたが、週末は夫とトレッキング以外のこともしていました。

 ホテルの目の前に「Parc olympique de Méribel(メリベル・オリンピックパーク)」という施設があるのですが、ここでオリンピックのアイスホッケー競技が行なわれたそう。中にはスケート場のほか、温水プール、スポーツジム、スパ、スケート場、ボーリング場、ディスコなども入っています。

オリンピックパークの横には聖火台跡が
オリンピックパーク内には室内プールやボルダリングをできる場所も

 残念ながらここもシーズンオフということで閉鎖されていましたが、撮影スタッフのために、スケート場とボーリング場のみ週末に特別営業してくれました。スケートもボーリングも最後にやったのは10年以上前だと思うのですが、すっかりはしゃいでしまいました。

Parc olympique de Méribel

TEL:+33(0)4 79 00 58 21
Webサイト:Parc olympique de Méribel(仏語・英語)

 そのほか、メリベルから車で30分くらいのところにある、La Léchère(ラ・レシェール)という街にも行きました。メリベルおよび周辺のスパ施設も軒並み閉鎖されているなか、ここの「Õ des LAUZES」では温泉と食事がセットになったプランがあると聞いて行ってきたのです。

Radianaホテル内にあるスパです

 スパ内・外に各種温泉があり、サウナ・スチームサウナもありました。ただ、源泉は60℃以上あるらしいのですが、スパ内の温泉の温度は38℃前後で私には寒いくらい。フランス人は熱いお湯を苦手な多い人が多いからでしょうか? でもサウナに入ったあとなら適温だったので、長湯をするにはいい温度かもしれませんね。

 お湯がちょっとぬるいのは物足りなかったですが、大好きなサウナにも入れましたし、スパの入っているホテルのレストランで提供された食事もわるくなかったので、これで35ユーロ(約4400円強、1ユーロ=約125円換算)というのはなかなかお得だと思います。

Õ des LAUZES

所在地:La Léchère les bains, 73260 La Léchère
TEL:+33(0)4 79 22 61 61
Webサイト:Õ des LAUZES(仏語)

スパ内には、無料でハーブティーを飲めるコーナーも
スパで体を温めたあとはホテル内にあるレストランでランチ

 こうしてシーズンオフのためにどこも閉まっていて人けがなく、スキーリゾート地だというのにスキーもせず、地味と言えば地味に過ぎたメリベル滞在5週間でしたが、私は同じところに長期滞在するのが好きですし、静かに自然を満喫できて大満足でした!

 なお、メリベルに滞在中、Annecy(アヌシー)にも1泊で行きました。アヌシーはフランス人にも人気の観光地で、皆がよいところだというので行ってみたかったのです。これについてはメリベル旅行おまけ編として別にご紹介したいと思います。

荒木麻美

東京での出版社勤務などを経て、2003年よりパリ在住。フランス人の夫と黒猫と暮らしています。2011年にNaturopathie(自然療法)の専門学校に入学、2015年に卒業。パリでNaturopathe(自然療法士)として働いています。