荒木麻美のパリ生活

パリで弓道! 公共の弓道場も完成してますます盛んに

 以前、ジャパンエキスポで弓道を紹介したお話をしましたが、私は2004年からフランスで弓道をしています。

 もともとは大学時代に日本で始めたのですが、就職と同時に道場に行く時間がなくなり、フランスで再開するまでの約10年間、弓に触ることはまったくありませんでした。その後、2003年に渡仏したのですが、フランスでの生活にも少し慣れた頃、ホームシック解消も兼ねて日本に関わることをしたくなり、「そうだ! パリで弓道はできないかな?」と思い立ちました。

 早速インターネットで調べたところ、パリ市内にいくつかのクラブがあることを発見。そこから自分に一番合っていそうなところでしばらく引いていたのですが、残念なことに、事情があってそのクラブは閉鎖することに。そこで、パリ郊外にあるクラブに所属して今に至ります。

フランスで唯一の公共の弓道場

 今通っているクラブ「AKVM」はパリ郊外にあり、ディズニーランド・パリからほど近いノワジエルというところにあります。パリ市内に住む私には片道1時間ほどかかるのですが、なぜAKVMにしたかというと、パリ市内のほかのクラブは体育館なので練習日が限られているのに対し、AKVMは日本風の弓道場で練習をできるうえに、練習日以外にもほぼ1年中、朝から夜まで道場が開いているからです。

 ちなみにこの道場はフランス弓道連盟の道場でもあるので、フランス弓道連盟に所属している人であれば誰でも来ることができますから、ほかのクラブの人と一緒に引くこともよくあります。

日本のほとんどの道場にもあるであろう「礼記射義」「射法訓」や、弓道の基本的な8つの動きも、フランス語で併記されています

弓道場ができるまで

 AKVMの弓道場ができるまでは長い道のりでした。道場建設の提案が最初にされたのが1999年のこと。その後、資金の調達から土地探しまで、10年以上にわたる長い準備期間を経て、弓道場の建設がようやく始まったのは、2012年の暮れのことでした。

 弓道場の建設にはノワジエル市の全面的な協力のもと、フランス弓道連盟に所属するメンバーも多く携わりました。専門業者に頼んだ部分ももちろんありますが、土地の整備、道場の設計、電気の配線から、庭の整備やペンキ塗りなどの細かい作業まで、多くの作業はボランティアが入れ替わり立ち代わりやってきて作業しました。

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 こうしてできたフランス初の公共の弓道場ですが、道場開きは2014年6月23日に行なわれました。日本からは高円宮妃久子殿下や当時の日本弓道連盟会長、フランスからはノワジエル市長を含めて多くの来賓がいらっしゃり、式典は盛大なものでした。

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道場開きについて伝える地元の新聞(C)K2N

 その後、建物や土地の整備は定期的にメンバーが集まって行なっており、設備はますます充実してきています。

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扉を全部開けなくても引けるように、冬用の小窓が設置され、断熱材も増強、壁に暖房も付けられたので、今年の冬はだいぶ暖かくなりそうです!(C)K2N
春には道場開きの際に植樹された桜がきれいに咲いています(C)K2N

1年に1度の昇段チャンス、欧州講習会

 日本では年に何回も審査がありますが、こちらでは1年に1回しかチャンスがありません。それもヨーロッパのどこかですから、夏なので家族とのバカンス予定と重なってしまったり、遠過ぎたり参加費がなかったりで、行けない年もよくあります。

 今年の講習会はオランダのアムステルダムでした。何せヨーロッパ各国から大勢の参加者が集まってくるので、講習会はレベル毎に、3回に分けて行なわれました。

 私はフランス語の通訳として今年は講習会に参加しました。担当したのは無段と初段のグループだったのですが、日本からいらした先生方を目の前に「YouTubeで見たことのある先生だ!」とはしゃぐ人もあり微笑ましかったです。一方で慣れない講習会の雰囲気がストレスになるのか、些細なことがきっかけとなって参加者同士で険悪になることも。講習会中に会場を飛び出して泣く人を追いかけて慰める場面もありました。

 細かいことはいろいろとありましたが、日本からいらした先生方から直接学べる貴重な機会、参加者はより多くのことを学ぼうと真剣そのもの。今年も実り多い講習会だったのではないかと思います。私も通訳をしながら勉強になることばかりでした。

 こうして3日間の講習会が終わると、4日目が審査となります。私はこの日、通訳の仕事はほとんどなかったので横で見ていたのですが、自分が担当したグループは特に気になってしまい、思わず身を乗り出して見守ることもたびたびありました。

 私の担当したグループのなかでは最高齢の80歳近い、体の不自由なおじいさんが矢を取り落としそうになったときには本当にハラハラしてしまいましたが、最後まで諦めずに引き続ける姿には、恥ずかしながら涙腺が緩むこともありました。

日欧合わせてこれだけの先生方の目の前で引くので、見ている私まで緊張します(C)Sandrine Lugat
審査が終わり、ドキドキの結果発表です
審査が終わるとすぐにあっという間に片づけが進んでいきます。開催地はまだ確定していないのですが、来年は私も参加したいと思っています
今年は国際弓道連盟設立10周年だったので、私は見られなかったのですが、講習会期間中に記念演武会も開催されました。何が書いてあるのか私には分かりませんが、ここにも高円宮妃久子殿下がいらしたことを新聞が伝えているようです

初心者クラスは9月から

 フランスの弓道人口は約600人とのこと。毎年少しずつ増えています。そのうち日本人は私の予想では20人くらいではないでしょうか?

 今年もほとんどのクラブで9月から初心者教室が始まっています。フランス在住の方で、私の記事を見て弓道を始めてみたいと思われたら、ぜひ各クラブに連絡を取ってみてくださいね。まだ始まったばかりなので、きっと受け入れてくれると思います。もしフランス語が苦手でも、英語や日本語をできる人が結構いるので大丈夫です。道具も初心者にはクラブの道具を貸してくれるはずです。

 また、日本で弓道をやられている方で、フランスに立ち寄った際、こちらのクラブを見てみたいという方も大歓迎のはずです。気軽に連絡をしてみてください。

 このほかヨーロッパの各国ならびに世界中にも弓道クラブがあるのですが、詳細は国際弓道連盟のサイトを見ていただければと思います。

 私は以前、夫の仕事の関係でメキシコに半年ほど滞在していたことがあるのですが、このときもメキシコシティにあるクラブに連絡を取って引かせてもらいました。私はスペイン語ができないのですが、弓道を通して身振り手振りでメキシコ人と交流できたのは今でもよい思い出です。

 弓道の道具はほとんどすべて日本で買って持って来ないといけませんし、近年頻発するテロ対策のために、弓や矢の移動に制限がかかることもあります。海外で弓道を続けるのは大変なこともありますが、日仏を通していろいろな助けもあり、こうしてフランスでも弓道を続けられて、本当にありがたいことだと心から感謝しています。

 そして何より、海外で弓道をしているからこその体験、出会いもあり、これは何物にも代えがたいと思っています。弓道から広がる世界、機会があれば一緒に体験してみませんか?

荒木麻美

東京での出版社勤務などを経て、2003年よりパリ在住。フランス人の夫と黒猫と暮らしています。2011年にNaturopathie(自然療法)の専門学校に入学、2015年に卒業。パリでNaturopathe(自然療法士)として働いています。