旅レポ

「ユーレイルパス」で欧州を鉄道で巡る旅(その1)

イタリアの「死にゆく町」チヴィタ・ディ・バーニョレージョ

チヴィタ・ディ・バーニョレージョ

 欧州を巡る旅で欠かせないのが、各国を結んでいる鉄道路線。さまざまな国・地域が地続きになっている欧州では、鉄道路線が国境にまたがって網羅されている。EU諸国のうちシェンゲン協定に加盟している国を行き来する場合はパスポートの提示が不要ということもあって、鉄道で国境を越える際の手間も一切かからない。

ユーレイルパスのカバー

 しかし、国が違えば鉄道を管理・運営する組織も国ごとに異なるのが通常だ。路線がつながっているとはいえ、国ごとにチケットの手配をしなければならないとなると、煩雑で利用しにくいものになってしまう。そこで各国の鉄道会社などが出資してユーレイル(Eurail)という組織が作られ、1つのチケットで加盟路線が乗り放題になる「ユーレイルパス」を発行している。「特急にも乗れるリッチな青春18きっぷ欧州版」のようなイメージだ。

 ユーレイルパスには利用条件によりいくつかの種類があり、大きく分類すると、ヨーロッパ28カ国の鉄道やフェリー、バスなどに自由に乗れる「ユーレイル グローバルパス」、隣接する2~4カ国を選んで周遊できる「ユーレイル セレクトパス」、1つの国の中でのみ有効な「ユーレイル ワンカントリーパス」がある。

 日本国内の旅行代理店、もしくはユーレイルのWebサイトなどで購入可能。価格は有効期間と使用期間、1等・2等のクラス違いのほか、販売元や時期によっても異なるが、2016年5月時点のユーレイルのWebサイトでの販売価格は、大人(26歳以上)1名、使用期間5日間のグローバルパスが459ユーロ(約5万6457円、1ユーロ=123円換算)となっている。25歳まではユース割引があり、11歳以下の子供は無料だ。なお、ユーレイルに加盟していない鉄道会社の路線、あるいは指定席券が必要になる高速列車、夜行列車などは別途料金が必要となる。

 ユーレイルパスは持っていればいいというわけではなく、初めて使用する前に必ず駅窓口でバリデーション(有効化)を行なったうえ、乗車前には乗車日と出発駅・到着駅を自筆で記入しておかなければならない。乗車後は車掌による検札がたびたびあり、必要事項を記入していなかった場合は罰金を請求されることがあるため注意したい。

有効化済みのユーレイル グローバルパス、フレキシータイプ10日間。乗車前には日付を必ず書く
さらに出発駅と到着駅、時刻も書かなければならない

 乗車駅ごとにチケットを購入する手間が省け、航空路線よりも低コストで欧州各国を周遊できるのがユーレイルパスのメリットだが、やはり最大の魅力は、車窓の風景を眺めながら各地の雰囲気を肌で感じ取りつつ、のんびり鉄道旅行を楽しめることだろう。

谷間にそびえ立つ、美しくもはかない町

 そんなユーレイルパスを使って欧州を縦断するプレスツアーが開催された。10日間でイタリア、スロベニア、オーストリア、ハンガリー、チェコ、ドイツ、オランダの7カ国を移動しつつ、JATA(日本旅行業協会)が選定した「ヨーロッパの美しい村30選」のうち6カ所を巡るというもの(JATAが決めた独自の基準により選定したもので、行政区分上の「村」ではない場合もある)。

 スタート地点となる最初の「美しい村」は、イタリア・ローマの北、チヴィタ・ディ・バーニョレージョ。谷間にぽつんと取り残されたようにそびえ立つ台地の上に、寄り添うように古い家屋が建ち並ぶ。住民は季節によって増減し、冬は十数人、観光のハイシーズンとなる夏で100人程度とされている。浸食により足元の台地が崩落の危機にさらされており、住民の少なさもあって「死にゆく町(the dying city)」とも呼ばれている。

谷側から見上げたチヴィタ・ディ・バーニョレージョ。左側の橋を渡って街に入る
日没後のチヴィタ・ディ・バーニョレージョ
周りは自然豊かな谷に囲まれている
台地の上に寄り集まっている建物

 チヴィタへは、最寄りのオルビエト駅から路線バスで約1時間かけて手前の街まで行き、そこからは谷をまたぐ数百メートルの長さの狭い橋を歩いて渡る。通行には1.5ユーロ(約185円)の料金が必要だ。チヴィタへ至るかつての連絡道は石や木材でできており、数世紀前から何度も崩落と修復を繰り返してきたが、1965年には現在の新しいコンクリート製の橋に作り変えられた。これによりチヴィタは「死にゆく町」ではなく「生きるべき町」になった、という。

 思いのほか急坂の橋を“登り”、トンネルのような入口をくぐって街の中に入ると、石壁の建物と石畳の路面に囲まれた空間が現れる。全体的な色彩としては茶色の印象が強い。古いヨーロッパの街並みそのものだが、丁寧にメンテナンスされているのか大きく損傷している部分は少なく、ひっそりとした雰囲気のなか美しい景観を保っている。近年は観光スポットとしての知名度も上がってきたためか、多くの観光客が行き交い、レストラン、カフェ、土産物店なども数軒存在する。

チヴィタへの唯一の連絡路である橋を渡る。かなりの急坂だ
チヴィタから大きな荷物を背負ってやってきた男性。人口は少ないが生活している人もいる
入口をくぐって街の中へ
入ってすぐの風景
定期的に鐘の鳴る教会とその前の広場
古い街並みだが壁が大きく崩れているようなところはほとんどない
町の外の雄大な景色を臨めるポイントも何カ所かある
オリジナルグッズやワインなどを取り扱う土産物店
イタリアンレストランにて

 周りを谷に囲まれながら、しかし山の上にさらされ孤立した集落は、ともすると古城のようなたたずまい。季節とタイミングによっては、雲海に浮かぶ「天空の城」を思わせる姿を見せることもあるという。駅からの距離はあるが、ローマからフィレンツェ方面へユーレイルパスで移動する際にはぜひ立ち寄りを検討したいスポットだ。

2500年~3000年ほど前のエルトリア時代に作られたとされている洞穴。オリーブオイルを搾り出す器具や貯蔵施設がある

 次回はオリビエトから列車に乗ってフィレンツェ、ベネチアを経由しトリエステへ。そこからスロベニアの美しい村「ピラン」に向かう。

日沼諭史