旅レポ

韓国の西南部・全羅南道(チョルラナムド)の旅。民主化運動の聖地・光州広域にも行ってきた!

光州でランチに食べたヤンニョムカルビ

 韓国観光公社主催の視察ツアーで、韓国西南部をまわってきました。今回訪れた光州(クァンジュ)、羅州(ナジュ)、木浦(モクポ)、海南(ヘナム)の見どころを全2回で紹介します。まずはソウルからKTXで1時間50分の光州広域市から!

5・18民主化運動の歴史的現場「全日ビル245」

「全日ビル245」屋上より。青い屋根の尚武館は、光州事件で犠牲となった市民の遺体を安置していた場所で、小説「少年が来る」にも登場しています

 ソウルから南に約300kmに位置する光州広域市は、韓国西南部の中心都市です。光州といえば「光州事件」を連想する人も多いはず。1980年5月、軍事独裁政権に対して民主化を求める光州市の学生や市民が抗議に立ち上がり韓国戒厳軍と衝突。軍によって武力鎮圧されて多くの死傷者を出した5・18民主化運動です。

広場を挟んで旧全羅道庁の向かいに建つ「全日ビル245」

 この光州事件については、「ソウルの春」(2023年)や「タクシー運転手 約束は海を越えて」(2017年)、「光州5・18」(2007年)などの韓国映画で描かれているので、作品を通して知ったという人も多いのでは? 4月には「1980 僕たちの光州事件」が公開予定です。

ビルの外壁にはヘリコプターからの砲撃による弾痕。ビル名の245は、のちに245個の弾痕が発見されたことから

 また昨年アジア人女性として初めてノーベル文学賞の受賞者となったハン・ガンさんは、光州広域市出身の作家で、代表作「少年が来る」は光州事件を題材にした作品です。

全日ビル245の1階には、ノーベル文学賞作家ハン・ガンさんの作品を紹介するコーナーとカフェも

 まずは、その光州事件での民主化運動と戒厳軍による武力制圧の中心地となった場所に建つ「全日ビル245」を訪れました。ここは1980年当時このエリアで一番高い建物で、全南日報(当時)などの新聞社や放送局が入っていたことなどから戒厳軍の標的となり、ヘリコプターでの射撃を受けた韓国民主化運動の象徴的ともいえる建物なのです。

想像しただけでゾッとする弾丸軌道を視覚的に展示
放射線状の先の弾着点は全日ビル245

 2020年5月に複合施設としてリニューアルしたという全日ビル245。9階と10階が5・18記念空間として開放されていて、その生々しい射撃弾痕などを見ることができます。

 韓国民主化の歴史に興味があるという人はぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。2階の南道観光センターには日本語の案内ガイドも常駐しているようです。

床や壁、窓ガラスに残る245個の弾痕
写真や映像、アニメ、ジオラマなどで光州事件を分かりやすく説明。ヘリコプターからの射撃はARで体験可能
1980年当時の一般家庭を再現したコーナー。壁の暦が1980年5月になっていました
45年前に軍によって多くの市民が殺された場所とは思えないほど、今は平和な街

2年ごとに開催される光州ビエンナーレの会場、国立アジア文化殿堂

民主化の精神を隠してはいけないと、高い建物ではなく、地上公園化した建築様式になっている国立アジア文化殿堂

 続いて向かったのは、全日ビル245から歩いてすぐの場所にある「国立アジア文化殿堂(ACC)」です。光州事件の人権と平和の意味を芸術に昇華させることを趣旨に2015年に開館しました。アジアの文化芸術をリードする複合文化施設で、光州一帯で美術をテーマに2年に一度開催される「光州ビエンナーレ」の会場でもあります。

メディアアーティスト、キム・アヨンさんの「デリバリーダンサーのアーク:インバース」を鑑賞
3月30日までは「グ・ボンチャン:事物の肖像」を複合3・4館にて開催中

 芸術劇場や文化創造院、子供文化館など大きく5つの建物で構成されている国立アジア文化殿堂は、アジア最大の複合文化施設というだけあって広~い施設。図書館にはアジアに関する本を7万冊所蔵するのだとか。ゆっくりじっくり堪能したければ数時間はみておくといいかも。

ここは映画「破墓/パミョ」でファリムとボンギルが訪ねたLAの病院のシーンを撮影した場所だそう
広々としたグッズショップも充実していました

 お昼ごはんは、国立アジア文化殿堂の向かいにある「マハンジ」で国産豚カルビ焼き定食をいただきました。釜飯やスープ、キムチ各種などがセットで1万8500ウォンなので、1人前2000円弱。お腹いっぱいになる特製ランチ、お勧めです!

甘いつけダレの絶品カルビでした。光州は食の都なんですって

 続いては伝統家屋と西洋風近代建築の調和が見られるエリア、楊林洞(ヤンニムドン)へ。静かで趣きのある路地の先には、近代的でスタイリッシュなカフェがあったり、レンガ造りの西洋風建物があったりと、落ち着いた散策をするのによい場所でした。

楊林洞(ヤンニムドン)エリアへ
1970年代~1980年代にタイムスリップしたかのような雰囲気のペンギン村は、廃品をアート作品にしたジャンクアート村
「近代歴史文化村」とも呼ばれる楊林洞一帯はお散歩にお勧め
アメリカ人宣教師ウィルソンにより1920年代に建てられたというウィルソン宣教師私宅
「イイナムスタジオ」は、おしゃれなカフェ兼アートミュージアム

 光州スポットの最後に紹介するのは、140年以上の歴史がある韓屋を修理・改修して再生したという「五街軒(オガホン)」です。現在は結婚式や宴会、レセプションやウェディング撮影などの場として提供し、予約制で運営しているそうです。

高層ビルとの対比がいいですね

 現地取材ではゲストハウスとしての貸し切り利用も可能と聞いて、同行の記者さんたち(特に女性)と「素敵~! 泊まりたい!」を連呼していたのですが、公式予約サイトなどは見当たらないため、宿泊の受け入れを積極的にしている感じではなさそうです。

修理・改修に約3年かけて生まれ変わらせたとか
ダイニングで素敵なお茶の時間を。オーナーさんは普段ソウル在住とのことでした

ゆったりとした時間が流れる歴史の街、羅州

羅州では電動自転車タクシーに乗って文化遺跡巡り

 光州の南約30kmに位置する羅州(ナジュ)は、小さいながらも朝鮮時代の羅州邑城など歴史遺跡が多く残される街。韓国有数のお米の生産地でもあるのですが、生産量の減少で使われなくなった穀物倉庫が多くみられます。

古い精米所をリノベしたカフェからツアースタート

 それらの倉庫をカフェやアートスポットにリノベーションして新たな価値を生み出しています。そんな羅州では電動自転車タクシーに乗って歴史スポットを巡ってきました。

風を感じながら街を巡ることができるこの乗り物、最高ですわ~
錦城館はその昔、羅州に置かれた羅州牧の客舎だった建物
琴鶴軒は朝鮮時代に羅州を治めていた管理官が住んでいた場所。今はゲストハウスになっています
この羅州郷校は日本の寺子屋みたいなところ。2010年の韓流ドラマ「トキメキ☆成均館スキャンダル」のロケ地だそうです

 お昼ごはんに立ち寄ったのは、錦城館の向かい側に店を構えるコムタンで有名なお店「ハヤンチプ」です。コムタンは牛のお肉と骨をじっくり煮込んだスープ料理のことで、ここ羅州はコムタン発祥の地なんですって。

100年の歴史があるというコムタンの名店「ハヤンチプ」
お店の入口では厨房の様子を見ることができます

 長時間煮込まれた牛のスープのなかには削ぎ切りしたたっぷりの牛肉とごはんが浸っています。胃に優しくて寒い時期にぴったりの極上の一杯でした。

思っていた以上に牛肉が入っていました。もちろんキムチやカクトゥギは食べ放題

 羅州で最後に向かった「3917マジュン」は、広い敷地にカフェやゲストハウス、庭園などが集まる複合文化施設です。10年前は、木や草が生い茂って7軒の古い家屋が放置された寂しい風景だったとは想像がつかないほど素敵なところ。公式インスタを見ると、青々とした芝生に色とりどりの花が咲く春夏シーズン、銀杏が黄金色に色づいて金木犀が香る秋もよさそうです。

自然に囲まれた場所にある「3917マジュン」。ヨガプログラムやミニコンサート、ケータリング、各種セミナーなどに幅広く使われています。

 プライベートな韓屋宿泊体験ができるヒストリックハウスは日本統治時代の1939年築。西洋式、韓屋式、日本式と、それぞれのいいところをミックスして造られていて、当時は地元のお金持ちが住んでいたのだそう。文化財としても価値のある建物がゲストハウスとして利用できるって素晴らしいですよね。

贅を尽くして造られた韓屋は全羅南道の優れた建築資産第1号の指定を受けました。ソン・ガンとハン・ソヒの韓国ドラマ「わかっていても」で登場

 オーナーのナム・ウジンさんは、国に頼らず民間主導で地元の文化財を守り、地域経済の活性化や雇用創出を可能にするビジネスモデルが重要だと熱く語っていらっしゃいました。

カフェもおしゃれ。羅州は梨の産地としても有名なので、梨を使ったスイーツや梨ドリンクを堪能できます

 光州と羅州で訪れたスポットを紹介しました。光州には、キムチの文化や歴史を学びつつ体験ができる複合テーマパーク「光州キムチタウン」があったり、毎年秋には「光州キムチ祭り」が開催されるとか。キムチ大好きな私としては、いつか再訪したい街になりました。そして羅州では「3917マジュン」のゲストハウスでワーケーションしたい!

 後編では、韓国の最西南端に位置する港町・木浦と海南で巡ったスポットを紹介します。

韓国のホテルでは環境保護の観点から歯ブラシやカミソリ、シャワーキャップなど使い捨てアメニティは有料なので持参を。シャンプーやボディソープはあります
空室・料金チェック
ゆきぴゅー

長野生まれの長野育ち。2001年に上京し、デジカメライター兼カメラマンのお弟子さんとして怒涛の日々を送るかたわら、絵日記でポンチ絵を描き始める。独立後はイラストレーターとライターを足して2で割った“イラストライター”として、雑誌やWeb連載のほか、企業広告などのイメージキャラクター制作なども手がける。