旅レポ

長崎・平戸のしあわせ南蛮菓子4選。出島の前に貿易港として栄えた歴史と一緒にもぐっ!

伝統の南蛮菓子から、現代解釈の復刻菓子まで、絶対食べたい平戸スイーツ4選をお届け!

 長崎といえば出島や中華街にキリスト教と、さまざまな文化が混ざりあった和華蘭文化が今もなお息づく場所。中心地・長崎はもちろんのこと、少し離れたエリアも色濃く文化が残っていて訪れる人たちを新鮮な驚きで迎えてくれます。

 今回訪れた長崎・平戸もその1つ。貿易といえば出島をすぐに思い浮かべる人が多いと思いますが、実は平戸港は出島以前の主要な貿易港。鎖国・キリスト教弾圧により、出島へと海外との交易が集約される前の自由な時代に、海外から多くのものが平戸へともたらされました。今回は美味しい南蛮菓子を巡りつつ、その歴史を紐解いてきました!

お菓子好きのお殿様・平戸藩松浦家に献上された「幻のお菓子」って?

 日本最西端に位置する平戸、1550年にポルトガル船が来航し、以後海外交易の主要港へと発展。宗教や文化をはじめ多くのものがやってきましたが、そのなかでもとりわけ重要だったのが砂糖。とても貴重な砂糖を当時の職人は贅沢に使い当時平戸を治めていた平戸藩のお殿様に献上していました。そして今も伝わるのが「カスドース」です。

頬張るとふわっと卵が香る九州最古の和菓子屋「平戸蔦屋」謹製「カスドース」

 ポルトガル人宣教師により伝わったとされ、平戸で400年以上もの間愛され続ける平戸銘菓は、「平戸蔦屋」にて購入が可能。卵や砂糖をたっぷり使い仕上げられたお菓子は外サクッ中ふわぁな食感。カステラを卵黄に潜らせ糖蜜で浸けるなどして製造には2日間ほどかかるといいます。約200年前に松浦家が編纂した菓子図鑑「百菓之図」には蔦屋の名前とともに「カスドース」の名も記されています。

江戸時代から平戸藩松浦家の御用菓子司であった「平戸蔦屋」。三浦按針の住まいを改装し店舗に
店内は新旧がミックスされた佇まい。「牛蒡餅」や季節の和菓子なども販売中
「カスドース」は小分けされていて、10個入りと2個入りなどを用意

当時のスイーツが100種類も。南蛮菓子ぎっしりの「百菓之図」を復刻中

 今も昔も南蛮菓子の宝庫でもある平戸。スイーツ好きのお殿様だからこそ生まれたのが、今も松浦家で保管される「百菓之図」(1841~1847年)です。なかには日本で初めて砂糖が伝来した平戸だからこその、甘くて美味しい100ほどの当時のお菓子が極彩色で描かれているそう。そこから、当時のお菓子を現代風にアレンジし復刻したのが「平戸百菓繚乱」です。

復刻した第1弾の「平戸百菓繚乱」は全5スイーツ

 お殿様への献上品を思わせる上品な佇まいと味わいは、平戸みやげにぴったり。蔦屋「果の花」(1728円)は「花かすていら」からインスパイア。フィナンシェのようなアーモンド香る生地に夏香のピールやマンゴーがベストマッチ。濃厚&しっとりでリピ確実。

 店主の平戸蔦屋24代目・松尾俊行さんは「お菓子は文化のシンボル。地元に根ざしたストーリー性のあるお菓子を作り続けることに意味があります。『カスドース』も今も昔も作り方は変わっていません。新たに復刻した『果の花』も200年後300年後にクラシックになっていればと。500年前の功績を次につなげるのが私たちの使命だと考えています」とのこと。

平戸百菓繚乱のラインアップの1つ。平戸蔦屋の「果の花」は濃厚しっとり大人味
24代目・松尾俊行さんは「果の花」は「かなりの自信作!」と太鼓判

 平戸菓子「かごぼうる」をカヌレにアレンジしたfirandoの「四季」(3456円)も試食。こちらも外サク中しっとりで、焦しキャラメルがふわりと香る一品。

南蛮菓子がカヌレに! カラメルのほろ苦さと甘さをかみしめ、天保時代に思いをはせます

城下町さんぽで南蛮スイーツ探し。「平戸ケイジャーダ」片手に平戸散策も楽しい

 平戸の街は美しく整備され、お散歩にもぴったり。街角には湧き上がる温泉を活用した「平戸温泉うで湯・あし湯」があり、歩き疲れた足と冷え切った手を癒してくれます。とろっとした成分は、しっとりつややかな肌に導き、ほかほかが続くのも冬の時期には重宝します。

南蛮菓子探しの途中、「平戸温泉うで湯・あし湯」でほっとひと息

 散策中に立ち寄ったのが「菓子工房えしろ」。こちらの名物は「平戸ケイジャーダ」(357円)。個数限定で、見かけたら必ず味わいたい一品。しっかりしたタルトにとろりとしたチーズ&レモンがきいています。

散策中に立ち寄った「菓子工房えしろ」。古民家を改装した趣のある佇まい
数量限定品の名物「平戸ケイジャーダ」。平戸らしい「平戸ひらめサブレ」もお勧め

 13世紀にポルトガルの修道院で作られた伝統菓子は16世紀に日本にもたらされ、「希さちいな」と呼ばれていたそう。なお、同店では平戸百菓繚乱の1つ「陽の恵」を手掛けています。

平戸百菓繚乱の「陽の恵」もチーズたっぷりのお菓子です

お菓子好きのお殿様が住んだ平戸城ってどんなとこ? リニューアルでエンタメ空間にアップデート

 お城見学といえば、天守閣に急な階段、温度が暑かったり寒かったりと当時そのままの風情を感じるものですが、平戸城はちょっと違います。歴史体験アミュージアム(アミューズメント×ミュージアム)をコンセプトに楽しく学べて、「いつのまにか松浦藩と平戸城のこと知ってた!」へ導いてくれるんです。

平戸城は平戸の町のシンボル。どのエリアからも天守閣が見えるほど
ドラマチックシアター「築城物語~2人の鎮信~」は軽快な語り口調でお城の歴史が丸分かり

「築城後自分たちで即燃やす」や「100年かけて再築」などパッションあふれた史実から、歴史に翻弄されつつも柔軟に幕府とやりあえたからこそ、現代に名と城を残したことが理解できる展示が盛りだくさん。特に「石垣パズル」は城に現存する大手御門の石垣そのまま。その超がつく難しさゆえに、思わず本物を見に行ってしまうほど。こちらハマる人続出なんだとか。

難易度MAX「石垣パズル」。入れてはバランスを見てを繰り返し石垣職人や修復時の気持ちに
実際の大手御門の石垣。あの難しさが脳裏に蘇ります
「斬って答える平戸クイズ」は、クイズ形式で平戸城と松浦藩の知識をおさらい
「狭間体験」では先の小さい穴から城目線で敵の様子をチェック可
城の外から自分の城気分で写真が撮れると人気の「拙者の天守閣」

城主気分を味わえる城泊は1泊約60万円

 平戸城のもう1つのトピックは“城泊”ができること。2021年から1泊約60万円(1室2名利用・1名あたり33万5610円~)での宿泊が可能となりました。宿泊できるのは「懐柔櫓」。櫓(やぐら)内へと入ると目に飛び込んでくるのが、九州出身の画家・小松孝英氏が書き下ろした美しい蝶たち。

城泊ができる「懐柔櫓」はより海側に建っています
リビング兼ダイニングエリア
蝶のなかにはナガサキアゲハも静かに舞っています
畳エリアもあるので、どっしり座って語らうことも

 桃山から江戸の美意識を反映した内装は琳派をイメージ。ベッドルームには桜や紅葉など季節を感じるモチーフがあふれ、室内に居ながらにして四季が感じられます。窓からは島や海も眺められ、まさに城の主人になったかのような気分。

ベッドルームは2階に。こちらは紅葉や桜が描かれています
窓からは島や海の様子を眺めることも
バスルームは全面ガラス張り。平戸の景色を独り占め!

平戸城を遠くに眺めながらお茶室で抹茶&お菓子体験も。「松浦史料博物館」へ

 歴史を学んだあとは糖分が欲しいもの。ということで、先ほどのあし湯からすぐの「松浦史料博物館」へ。こちらは城を燃やしたあと再建するまでの間、松浦家が住んでいた場所。美術品からキリシタン迫害の資料まで、平戸の歴史をさらに深掘りできます。

「松浦史料博物館」はもともとは松浦家の私邸として使われていた建物
さりげなく狩野探幽作と伝わる獅子の図が飾られていました
隠れキリシタンに関する弾圧の様子も紹介。日本ではなく海外の記録ゆえにかなり詳細です

 離れのお茶室「閑雲亭」ではお抹茶をいただけます。こちらでは松浦家に伝わる武道の仕草を取り入れた茶道鎮信流で点てられたお茶と「鳥羽玉(うばたま)」を味わいました。

史料館に併設する「閑雲亭」で一服いただきます
器を回したりせず、そのまま飲むのが鎮信流。武道らしい仕草も

 鳥羽玉も百菓之図の復元菓子で、先ほどの平戸蔦屋製。松浦史料博物館の協力で復活させた一品です。ふんわり柔らかな餅米に胡麻を入れたこし餡、和三盆をまぶした上品な味わい。お店では4個入りも購入できます。なお、お手前では、平戸焼きこと三川内焼(みかわちやき)の茶道具を使っています。焼き物の歴史は、次回以降ご紹介しますね。

復刻菓子「鳥羽玉」とお抹茶を味わいつつ、平戸城を遠くに眺めてお殿様気分
店舗では「鳥羽玉(4個入)」も購入できます。パッケージもおしゃれ

「平戸オランダ商館」でお菓子書物を見学。平戸がお菓子と歩んだ歴史を垣間見

 平戸のお菓子と歴史を学ぶ今回の終着点は「平戸オランダ商館」。こちらは東インド会社が東アジアの貿易拠点として建造した倉庫を復元したもの。

東インド会社の拠点を復元した「平戸オランダ商館」
重厚な建物内には、貴重な平戸と交易にまつわる資料を展示

 館内では平戸と貿易の歴史から“Firando(平戸)”と示された当時の地図「新刻世界地図」。そして、平戸藩が幕末に編纂した「万延元年菓子図鑑」(1860年)も展示。カステラやかるかん、どらやきなども記され、平戸で作られていたお菓子の歴史とともに、そのお菓子愛が分かる1冊です。

 ちなみに、平戸百菓繚乱の5種類すべてが一度に購入できるのはここだけ! 各店舗巡る時間はないけど、全部食べたい!というお菓子好きさんはぜひこちらで。

「新刻世界地図」にはFirando(平戸)の文字を発見
カステラページが開かれた「万延元年菓子図鑑」
平戸百菓繚乱の5種類すべてを一気買いするなら併設するショップがお勧めです
相川真由美

ライフスタイル系雑誌の編集アシスタントを経て、IT系週刊誌・月刊誌で10年以上編集者として刊行にたずさわる。現在は、フリーの編集記者として国内外のテーマパークやエンタメ、ならびに観光、ファッション関連を中心に執筆中。