旅レポ
長崎・平戸のしあわせ南蛮菓子4選。出島の前に貿易港として栄えた歴史と一緒にもぐっ!
2023年2月22日 12:00
長崎といえば出島や中華街にキリスト教と、さまざまな文化が混ざりあった和華蘭文化が今もなお息づく場所。中心地・長崎はもちろんのこと、少し離れたエリアも色濃く文化が残っていて訪れる人たちを新鮮な驚きで迎えてくれます。
今回訪れた長崎・平戸もその1つ。貿易といえば出島をすぐに思い浮かべる人が多いと思いますが、実は平戸港は出島以前の主要な貿易港。鎖国・キリスト教弾圧により、出島へと海外との交易が集約される前の自由な時代に、海外から多くのものが平戸へともたらされました。今回は美味しい南蛮菓子を巡りつつ、その歴史を紐解いてきました!
お菓子好きのお殿様・平戸藩松浦家に献上された「幻のお菓子」って?
日本最西端に位置する平戸、1550年にポルトガル船が来航し、以後海外交易の主要港へと発展。宗教や文化をはじめ多くのものがやってきましたが、そのなかでもとりわけ重要だったのが砂糖。とても貴重な砂糖を当時の職人は贅沢に使い当時平戸を治めていた平戸藩のお殿様に献上していました。そして今も伝わるのが「カスドース」です。
ポルトガル人宣教師により伝わったとされ、平戸で400年以上もの間愛され続ける平戸銘菓は、「平戸蔦屋」にて購入が可能。卵や砂糖をたっぷり使い仕上げられたお菓子は外サクッ中ふわぁな食感。カステラを卵黄に潜らせ糖蜜で浸けるなどして製造には2日間ほどかかるといいます。約200年前に松浦家が編纂した菓子図鑑「百菓之図」には蔦屋の名前とともに「カスドース」の名も記されています。
当時のスイーツが100種類も。南蛮菓子ぎっしりの「百菓之図」を復刻中
今も昔も南蛮菓子の宝庫でもある平戸。スイーツ好きのお殿様だからこそ生まれたのが、今も松浦家で保管される「百菓之図」(1841~1847年)です。なかには日本で初めて砂糖が伝来した平戸だからこその、甘くて美味しい100ほどの当時のお菓子が極彩色で描かれているそう。そこから、当時のお菓子を現代風にアレンジし復刻したのが「平戸百菓繚乱」です。
お殿様への献上品を思わせる上品な佇まいと味わいは、平戸みやげにぴったり。蔦屋「果の花」(1728円)は「花かすていら」からインスパイア。フィナンシェのようなアーモンド香る生地に夏香のピールやマンゴーがベストマッチ。濃厚&しっとりでリピ確実。
店主の平戸蔦屋24代目・松尾俊行さんは「お菓子は文化のシンボル。地元に根ざしたストーリー性のあるお菓子を作り続けることに意味があります。『カスドース』も今も昔も作り方は変わっていません。新たに復刻した『果の花』も200年後300年後にクラシックになっていればと。500年前の功績を次につなげるのが私たちの使命だと考えています」とのこと。
平戸菓子「かごぼうる」をカヌレにアレンジしたfirandoの「四季」(3456円)も試食。こちらも外サク中しっとりで、焦しキャラメルがふわりと香る一品。
城下町さんぽで南蛮スイーツ探し。「平戸ケイジャーダ」片手に平戸散策も楽しい
平戸の街は美しく整備され、お散歩にもぴったり。街角には湧き上がる温泉を活用した「平戸温泉うで湯・あし湯」があり、歩き疲れた足と冷え切った手を癒してくれます。とろっとした成分は、しっとりつややかな肌に導き、ほかほかが続くのも冬の時期には重宝します。
散策中に立ち寄ったのが「菓子工房えしろ」。こちらの名物は「平戸ケイジャーダ」(357円)。個数限定で、見かけたら必ず味わいたい一品。しっかりしたタルトにとろりとしたチーズ&レモンがきいています。
13世紀にポルトガルの修道院で作られた伝統菓子は16世紀に日本にもたらされ、「希さちいな」と呼ばれていたそう。なお、同店では平戸百菓繚乱の1つ「陽の恵」を手掛けています。
お菓子好きのお殿様が住んだ平戸城ってどんなとこ? リニューアルでエンタメ空間にアップデート
お城見学といえば、天守閣に急な階段、温度が暑かったり寒かったりと当時そのままの風情を感じるものですが、平戸城はちょっと違います。歴史体験アミュージアム(アミューズメント×ミュージアム)をコンセプトに楽しく学べて、「いつのまにか松浦藩と平戸城のこと知ってた!」へ導いてくれるんです。
「築城後自分たちで即燃やす」や「100年かけて再築」などパッションあふれた史実から、歴史に翻弄されつつも柔軟に幕府とやりあえたからこそ、現代に名と城を残したことが理解できる展示が盛りだくさん。特に「石垣パズル」は城に現存する大手御門の石垣そのまま。その超がつく難しさゆえに、思わず本物を見に行ってしまうほど。こちらハマる人続出なんだとか。
城主気分を味わえる城泊は1泊約60万円
平戸城のもう1つのトピックは“城泊”ができること。2021年から1泊約60万円(1室2名利用・1名あたり33万5610円~)での宿泊が可能となりました。宿泊できるのは「懐柔櫓」。櫓(やぐら)内へと入ると目に飛び込んでくるのが、九州出身の画家・小松孝英氏が書き下ろした美しい蝶たち。
桃山から江戸の美意識を反映した内装は琳派をイメージ。ベッドルームには桜や紅葉など季節を感じるモチーフがあふれ、室内に居ながらにして四季が感じられます。窓からは島や海も眺められ、まさに城の主人になったかのような気分。
平戸城を遠くに眺めながらお茶室で抹茶&お菓子体験も。「松浦史料博物館」へ
歴史を学んだあとは糖分が欲しいもの。ということで、先ほどのあし湯からすぐの「松浦史料博物館」へ。こちらは城を燃やしたあと再建するまでの間、松浦家が住んでいた場所。美術品からキリシタン迫害の資料まで、平戸の歴史をさらに深掘りできます。
離れのお茶室「閑雲亭」ではお抹茶をいただけます。こちらでは松浦家に伝わる武道の仕草を取り入れた茶道鎮信流で点てられたお茶と「鳥羽玉(うばたま)」を味わいました。
鳥羽玉も百菓之図の復元菓子で、先ほどの平戸蔦屋製。松浦史料博物館の協力で復活させた一品です。ふんわり柔らかな餅米に胡麻を入れたこし餡、和三盆をまぶした上品な味わい。お店では4個入りも購入できます。なお、お手前では、平戸焼きこと三川内焼(みかわちやき)の茶道具を使っています。焼き物の歴史は、次回以降ご紹介しますね。
「平戸オランダ商館」でお菓子書物を見学。平戸がお菓子と歩んだ歴史を垣間見
平戸のお菓子と歴史を学ぶ今回の終着点は「平戸オランダ商館」。こちらは東インド会社が東アジアの貿易拠点として建造した倉庫を復元したもの。
館内では平戸と貿易の歴史から“Firando(平戸)”と示された当時の地図「新刻世界地図」。そして、平戸藩が幕末に編纂した「万延元年菓子図鑑」(1860年)も展示。カステラやかるかん、どらやきなども記され、平戸で作られていたお菓子の歴史とともに、そのお菓子愛が分かる1冊です。
ちなみに、平戸百菓繚乱の5種類すべてが一度に購入できるのはここだけ! 各店舗巡る時間はないけど、全部食べたい!というお菓子好きさんはぜひこちらで。