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奇跡の「3年連続昇格」決定! ピッチが近過ぎる栃木シティのスタジアムに行ってみた。唯一の弱点とは?

 Jリーグクラブ「栃木シティFC」が、ついに「J2昇格」を決めた。

 かつてはスタンドもガラガラ、話題にものぼらなかった栃木シティFCは、「栃木ウーヴァFC」から改名した2023年に関東リーグからJFLへ、2024年にはJ3へ。そして2025年11月23日、AC長野パルセイロ戦を3対0で制し、自動昇格に必要な「J3上位1位・2位」を確定。3年連続で昇格し、2026年からはJ2で戦うことになる。

 栃木シティといえば、X JAPAN「Rusty Nail」のメロディで歌われる「♪戦え オレらのトチシティ 誇りを胸に立ち上がれ」というチャントが抜群に格好いい。かつ、2021年に供用開始したばかりの本拠地「CITY FOOTBALL STATION」は収容人数約5000人ながら、「J3でもここまでおもしろいサッカーを見ることができるんだ!」と驚くような観戦環境が整っているのだ。ただ、スタジアムやチーム以外の要因で、弱点はあるにせよ……。

 来期はJ2に昇格することで、より多くの観客が訪れることだろう。J1~J3の60クラブの本拠地のうち、49か所の本拠地を渡り歩き、スタグル(スタジアムグルメ)を食べ歩いた筆者が、現地に足を運んでみた。唯一の弱点とは、何だ?

テレビを見る距離で選手がプレイ。選手と観客が近い!

バスケス・バイロン選手、早い!

 栃木シティのホームスタジアム「CITY FOOTBALL STATION」最大の特徴は、「観客席と選手の距離が近い」ことに尽きる。

 なにぶん、ピッチとスタンドの距離が5m程度、「八畳間の対角線同士」くらいしかない。ちょっと広いお茶の間でテレビを見るような感覚で、選手が汗を流してボールを奪い合い、選手が「ふぅん!」と唸り声を挙げてコーナーキックを蹴る! これを「迫力」と言わずして、何と言おう。

 さらに指定席側(クラブハウスに近いほう)では、クッション生地の背もたれつきシートに座りながら、選手に矢継ぎ早に指示を出す、栃木シティ・今矢直城監督の声を余すことなく聞けるという。たまに、相手チーム監督が切羽詰まって発する「おい何やってん○×△×……」といった罵声まで聞けるほどの近さ。数回通えば、もはや監督かスタッフのような目線でサッカーを見る楽しみを覚える。ただし、アウェイ側や自由席は明らかに席の質に格差があるので、広い心で観戦を楽しみたい。

 スタンドの裏側・出口から数歩の場所には、スタグルがずらりと並ぶ。小ぢんまりしたスタジアムだけあってどこに行くにも近く、1分と経たずにうどん・佐野ラーメン・タコス・フルーツタルトなどを頼み放題! J3で観客数もさほど多くないのに、約60店も営業しているのはありがたい。

粘りの逆転多発。とにかく試合がおもしろい!

 栃木シティはゲームも見ごたえがある。

 2025年のゴール数を見ると、田中パウロ淳一選手・平岡将豪選手の9本を筆頭に、ピーター・ウタカ選手が8本、バスケス・バイロン選手が6本、マテイ・ヨニッチ選手が5本、森俊貴選手・土佐陸翼選手が4本など。どこからでも点を獲りに来るため、リードされていたゲームが、後半にコロッとひっくり返ることもしばしばだ。

 例えば第35節のカマタマーレ讃岐戦だと、J3からの降格圏脱出を狙ったカマタマーレが猛烈に攻めまくり、総力で先制点をもぎとった。が、カマタマーレに疲れが見え始めたタイミングで、7~8分ごとにポンポンとゴールを決めた栃木シティが逆転。気が付けば1対3で栃木シティの逆転勝利に終わった。

 相手が上位相手の勝利と「勝ち点3」を夢に見始めたところで、カマタマーレの応援に来ていた筆者含む“カマサポ”に、わざわざ精神的ダメージを与える逆転劇(3月のゲームも後半で決勝点が入って0対1)。……うどんでも何でも奢るので、栃木シティのゲームだけ、次から前半打ち切りにしてもらえないだろうか?

大ベテランFWから「イロモノJリーガー」まで選手層が豊富!

田中パウロ淳一選手のコーナーキック

 そして栃木シティは、選手層も豊富。その実力は、ピッチ上・サッカーの実力だけにとどまらない。

 例えば、2023年から所属する田中パウロ淳一選手は「Xのフォロワー5万人、インスタのフォロワー11.8万人」という、サッカー界屈指のインフルエンサー(ご本人いわく「イロモノJリーガー」)だ。

 SNS上では女装でひとりコントを繰り広げたり、ほかの選手やスタッフと一緒にボケ倒したり。しかし要所では栃木シティグッズをしっかり着こなし、「スタジアムの看板空いてます」と呟いただけで12社のスポンサーを集めた。栃木シティはパウロ効果を十二分に受けており、その働きはもはや「広報数人分」といっても、過言ではないだろう。

 なお現在、TikTokerの人気投票「TikTok Awards Japan 2025」でも、並み居るクリエイターを抑え、スポーツ部門の最終5人に残っている。ここまで来ると本業は何?と思いがちだが、今年はJリーガーとしても「36試合出場・9ゴール・月間MVP獲得」と、活躍ぶりは文句なし。ご本人は自ら「イロモノ」とご謙遜されているが、そんなことはない。「超・実力派のイロモノJリーガー」と言って間違いないだろう。

 また、サッカーファンにとって懐かしい選手も。清水→広島→FC東京→徳島→甲府→京都→栃木シティと、日本中を渡り歩いたピーター・ウタカ選手の活躍も見逃せない。各地でプレイを重ねて41歳になった今も健在で、よく見ると古巣サポーターが観客席で「ウタさーん!」と声援を送っていたりする。

 ほか、空中戦が強いマテイ・ヨニッチ選手や、岡庭裕貴選手など。しかも日によっては、ゲーム終了後に選手がスタグル屋台に飲みに来ることもあるようだ(事前告知あり)。実力とナイスキャラを兼ね備えた選手を集めたからこそ、栃木シティのゲームは、ここまで盛り上がるのだろう。

無敵のチーム&スタジアム、唯一の弱点は「アクセス」

スタジアムへの唯一の公共交通「ふれあいバス」
JR岩舟駅

 もはや無敵レベルで勝ち上がった栃木シティだが、サポーターにとっては困った難点がある。とにかく「公共交通でのスタジアムアクセス問題」なのだ。

 まず、鉄道の最寄り駅は両毛線 岩舟駅。スタジアムへのシャトルバスは走っているものの、駅から1.5kmほど離れた石材会社の敷地からか、「いわふねフルーツパーク」駐車場からしか出ていない。

 岩舟駅から移動となると……駅前商店も閉店して自販機しかない近辺で時間をつぶし、2路線合わせて6~7本しかない栃木市コミュニティバス「ふれあいバス」を待つしかない(小野寺線・岩舟線ぶどう団地経由、バス停「遊楽々館」下車)。

 駅からスタジアムへの2.6kmの距離は微妙なアップダウンがあり、歩くのは辛い。かつナイターの場合は、帰りのバスがすでになく、街灯のない真っ暗な夜道を歩く必要がある。そうなるとタクシー頼みだが、利用者が1日600人少々の岩舟駅周辺で営業するエリアでタクシーが多いわけもなく……。

 さらに困るのは、岩舟駅が「どの方面からも到達しづらい場所」にあること。

 岩舟駅があるJR両毛線の栃木県側は、特急・快速などの優等列車が乗り入れていない。栃木県側からのアクセスだと小山駅から20分で到着できるものの、そもそも両毛線自体が日中1時間しかない。

 6kmほど西側には東武佐野線・東側には東武伊勢崎線が走っているが、スタジアム行きのコミュニティバスは東武の駅をほぼ通らず、佐野駅を経由する路線は1日2本のみ。JRも東武も、岩舟駅やスタジアムへのアクセスが遠いだけでなく、というより「Jリーグ屈指にややこしい」のだ。

 なおコミュニティバスは、時間によっては佐野新都心への乗り入れ便があり、高速バスに乗り継げる。ただ現時点では栃木シティの試合にはとても使えない便ばかりだ。

 ここまで公共交通がダメだと、どうアクセスするのか? 正解は自家用車だ。だからこそシャトルバスは「五十畑石材工業」「いわふねフルーツパーク」駐車場発であり、“公共交通で来る人々への対策は、ほぼなかった”状態。

 栃木県南部は昭和末期までに乗客が8割減少、東武バスが丸ごと撤退したという「年季の入った路線バス空白地帯」「人口十数万人の館林市ですら根こそぎバス撤退」という事態さえ起った地域であり、もとよりバスへの信頼度は低い。

 なお2025年4月には、コミュニティバスを運行する「関東自動車」と栃木シティが業務提携を結び、選手のセカンドキャリアを見据えた運転手としての雇用を行っている。もし、都心から1時間少々で到着できる小山駅・栃木駅からの「選手が運転するシャトルバス」運行が実現すれば……首都圏に数多とあるJ1チームのサポーターの「2番手推し」チームとして、多くの潜在ファンを獲得できるかもしれない。

驚異の5年連続昇格なるか? 「越えられない壁」アリ

 前代未聞の勢いでJ2に駆け上がった栃木シティだが、来期のJ2には4年ぶりにJ1から降格した横浜FC、湘南ベルマーレ、アルビレックス新潟の3チームを筆頭に、史上まれに見る僅差で昇格争いを繰り広げた各チームが待ち構える。はたして栃木シティFC、5年連続の昇格なるか!! ……残念ながら、これはあり得ない。

 なぜなら、これまで「2月開幕、12月閉幕」であったJリーグの日程が「秋春制」導入によって、2026年から「8月開幕、5月閉幕」に。J2・J3を4グループに分けて昇格・降格のない「百年構想リーグ」が2月~6月まで開催されたのち、2026/2027年の昇格・降格が決まるのは、2027年5月のこと。どう足掻いても、2026年に昇格が決定することはない。

 かなりイレギュラーな話ではあるが、栃木シティにとっては「1年半はJ2にいられる」という絶好のチャンス。だからこそ、今のうちに安定したスタジアムの輸送と、推しを持たない首都圏のサッカーファン、「たまにほかチームも見てみたい」サポーターを取り込む策も、今のうちに考えた方がよいだろう。

 チーム強化だけでなく、いまのスタジアム拡張による収益力強化、地域の連携強化がしっかり噛み合えば……今の栃木シティなら、まさかの「飛び石5年連続昇格」でのJ1行きも、あり得なくはない。