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三菱ふそう、新法規に適合する観光バスの安全設計を解説

2015年7月28日 発表

 三菱ふそうトラック・バスは、2015年8月に施行される「LDWS」(Lane Departure Warning System、車線逸脱警報装置)の新法規適合など、予防安全性能を向上させた観光バスの提供を開始した。バス事業者向けに開催されたワークショップにおいて、各技術の説明が行なわれたので、その内容を紹介する。

 三菱ふそうの観光バス「エアロエース」「エアロクィーン」には、衝突事故発生前の予防安全機能として、車線逸脱を警告するLDWSや車間距離警報装置を含む「MDAS-III」(Mitsubishi Drivers Attention monitoring System、運転注意力モニター)や、「AMB」(Active Mitigation Brake、衝突被害軽減ブレーキ)という機能が搭載されている。

 このうち、衝突事故が避けられない状況、つまり事故発生の直前に作動するのがAMBとなる。三菱ふそうの観光バスに搭載されたAMBは、15km/h以上で走行中に作動するようになっており、車間距離警報装置の「ディタンスウォーニング」とシームレスに連携する。

 具体的には、まず、ディスタンスウォーニングによる車間距離の警報が2段階で発せられる。さらに縮まるとAMBが作動し、衝突の2秒程度前に1次警報を発する。このAMBの1次警報は、この警報にドライバーが気がついてブレーキを踏めば、衝突を避けられるタイミングとなる。

 続いて、衝突の1.2秒前に2次警報を発し、ドライバーが衝突回避操作をしない場合には2段階の減速によって10km/h程度の減速を行なう。なお、ディスタニングウォーニングとAMBは警報を発するスピーカーが分かれている。

 ちなみに、現在、AMBが10km/h程度の減速となっている理由は、導入当初に自動的にクルマが止まるという機能が普及しておらず、バス乗客のシートベルトの必要性に対する認識も低かった社会背景があるという。急減速を予想しておらず、シートベルトもしていない乗客がいる観光バスで急制動をかけるのは、かえって危険であるとの判断だ。そのため、10km/h程度の減速によって、死亡事故を傷害事故に抑えることができるといったデータも取れたことから、“衝突回避”よりも“被害軽減”を重視した制御にしたという。

 しかし、人間は運転手と助手席の人程度しか乗っていないトラックでは、荷物への衝撃は大きくなるものの、もっと強い制動をかけており、技術的なハードルはないとする。また、乗用車でも衝突を回避する自動ブレーキが普及し、バスにおいても高速走行時の乗客のシートベルト着用が義務化されたこともあり、2017年モデルを出す際には、新たな緊急ブレーキ性能/警報要件に適合させた、もっと強い制動をかける予定としている。

 続いて説明があったのは、三菱ふそう独自の安全予防システムである「MDAS-III」である。「MDAS-III」は、“Mitsubishi Drivers Attention monitoring System”の略で、日本語では「運転注意力モニター」と表現される。車速や白線認識カメラ、ハンドル角センサーなど、車両にある各種センサーの情報をモニタリングし、データを総合的に処理してドライバーの注意力を15段階で評価。その情報を車内のディスプレイに表示する。

 ディスプレイ上の表示は、注意力“10”以上の場合は緑色のグラフ、“10”を下回るとオレンジ色。さらに“5”以下になるとディスプレイの表示とともに警報を鳴らして警告する。

 ちなみに、ドライバーの顔をカメラで認識して検知する方式では、目を閉じるなどの危険動作が一定時間以上続いた場合に初めて警報を出す仕組みとなるため、事前の予防がしにくいという。一方、三菱ふそうの場合はセンサーの情報を活用するので注意力を想定して、危険動作を事前に防ぐことができる一方、全面雪に覆われた雪道での車線認識などセンサーの認識限界が発生するなど、その作動条件には得手不得手があるようだ。

 MDAS-IIIの機能の一部には、「LDWS」(車線逸脱警報装置)も含まれる。LDWSについては、2015年8月1日より、LDWSを装備する場合は同装置を無効化した場合に警報を発する必要があるなどの法規改定が行なわれる。その基準に適合するため、7月生産車より、機能が更新されたLDWSへ切り替えを行なっている。

 新法規に合わせたLDWSの機能改定としては、ハードウェア面では、これまで分離していたカメラとECUを一体化。制御面では、60km/h以上での走行時に作動する条件は変わらないものの、MDAS-IIIの注意力想定で注意力レベルが低い場合のみ警報を発していたものを、注意力レベルに関わらず警報を発するよう変更している。

体感試乗に使われたエアロエース

 続いて、三菱ふそう喜連川研究所の汎用路および高速周回路を用いて、AMBやMDAS-IIIの動作を体感する試乗会が開かれた。

 AMBの動作体感は汎用路で行なわれ、AMBのミリ波レーダーに対して障害物であると意図的に誤認識させる器具を用いたテスト走行が行なわれた。写真では作動の様子は伝わりにくいかも知れないが、ブレーキは2段階で、1段階目はゆっくり、2段階目で急激に減速する。

 下記の写真からも分かるように、車体が前のめりになってブレーキが利いていることが分かるが、障害物となる器具は車両の下に入り込んでおり、手前では停止しない。先述のとおり、現在の同社のAMBは被害軽減を目的としたもので、衝突回避ではないためである。

AMBによってブレーキが作動した状態

 高速周回路では、MDAS-III、ディスタンスワーニング、LDWSのデモが行なわれた。ちなみに、喜連川研究所の高速周回路は、一言で表わせば試験用のオーバルコースで、トラック・バス用として世界最大規模であるという。車線別にグルーブなどに違いがあり、異なる路面状態のテストが行なえるほか、外周部を140km/hで走行した場合にはハンドルから手を放しても走行し続けられるよう設計されているという。

ディスタンスワーニングのデモ。車間が短くなるとオレンジのバーが増えて警告を発する
危険なほどに近付くと「!」マークによる警告表示に変わる。ちなみに危険水準と判断する車間距離は「L」「M」「S」の3段階で設定できる
LDWSのテスト。車線が広いため片側の白線しか認識していない
車線を逸脱するとディスプレイに目立つ警告が出るとともに、音でも警告が鳴る
エアロエース
エアロエースの運転席

そのほか

東日本大震災の際に復興支援に用いられた「ウニモグ」(左)と「ゼトロス」(右)
路線バス「エアロスター」に安全機能をフル装備した安全推奨仕様車
サイドビューカメラ
乗降口のライトはLED。足元を照らすライトも内蔵する
昼間に点灯するマーカーランプ
前向きの優先座席
折りたたみ式のスロープ
車いすの固定の手間を軽減するリトラクター式の固定ベルト
運転席
前方ソナーに反応があった場合の警告灯
乗降口のアナウンス用スピーカー
リアバンパーに4個埋め込まれたソナーにより、後方に人がいるなどの障害物を検知。車両のどのあたりで反応しているかも確認できる。リアビューカメラの映像と比べてみると反応の違いが分かりやすい
(編集部:多和田新也)