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機内インターネットサービス「JAL SKY Wi-Fi」の衛星通信アンテナ設置作業を見学してきた
国内線用のボーイング737-800を改修
2015年3月13日 10:00
JAL(日本航空)が国内線および国際線で提供している、無線LANを用いた航空機内インターネットサービス「JAL SKY Wi-Fi」。2012年7月に国際線でサービスが開始され、少し遅れて2014年7月から国内線でも提供が開始された。今回、国内線で用いられている航空機に機内インターネットサービス用衛星通信アンテナを取り付ける工事を見学する機会を得たので、その模様をお届けする。
国内線は30機強のサービス対応機が就航済み
過去、僚誌Car Wtachにおいて国際線、国内線それぞれのJAL SKY Wi-Fiについてレポートしている。国際線はパナソニック アビオニクスのサービスを利用しているのに対し、国内線は米gogoのサービスを利用している。両社ともに静止衛星を介してインターネットを行なう点は同じだが、細かいサービス内容が異なる。今回取材した国内線のJAL SKY Wi-Fiの場合は、搭乗客自身の端末を用いてビデオプログラムや観光情報の参照、JALからのお知らせを無料で参照できるほか、有料でインターネット接続サービスが提供される。
インターネット接続サービスの料金プランは、30分400円の「時間制プラン」と、1フライト単位で料金を支払う「フライトプラン」の2種類。フライトプランは距離や利用デバイスで価格が変わり、スマートフォンの場合は650マイルまでは500円、651マイル以上は700円。タブレットまたはノートPCの場合は、450マイル以下が500円、451~650マイルが700円、651マイル以上が1200円となる。
本稿を執筆している3月10日時点で国内線に就航しているJAL SKY Wi-Fi対応機材は、ボーイング777-200、ボーイング777-300、ボーイング767-300、ボーイング767-300ER、ボーイング737-800それぞれの改修済み機材計31機。
今回取材したのは、登録記号「JA324J」のボーイング737-800へ機内インターネットサービス用アンテナを取り付ける様子だ。同型機として8機目、全体では32機目の対応機材となる。国内線用のボーイング737-800は、本革の新シートを用いた「JAL SKY NEXT」(JALスカイネクスト)を採用する「V32」設定の機材が、JAL SKY Wi-Fiに対応する(シートマップはJAL Webサイトの航空機紹介ページを参照、http://www.jal.co.jp/aircraft/conf/737.html)。
このJA324Jは、コックピットの窓や機内の天井、エンジンのカウルやファンブレードなど、さまざまなパネルを取り外して徹底した整備を行なう「C整備」に入っており、これと併せてJAL SKY NEXTへの改修作業を行なっている。C整備だけなら早ければ4~5日程度のドック入りで済むそうだが、今回はJAL SKY NEXTへの改修と並行作業になっており、2月21日から3月12日まで10日強という長期のドック入りが予定されている。
ちなみに、国際線で使われている「JAL SKY SUITE」への改修の場合は、ギャレーの位置なども変更されるため、内部構造にまで手を入れる必要があり、さらに手間を要するそうだ。
アンテナと機体のクリアランスも厳密に
前述の通り、国内線用のJAL SKY Wi-Fiは米gogoのサービスを利用する。このgogoのインターネット接続サービスでは、Astronics AeroSat(http://www.aerosat.com/)製のKuバンド(12~18GHz帯)に対応する衛星通信アンテナが使われている。
アンテナユニットは白い円柱形のアンテナと制御部から成っている。制御部は衛星の位置に合わせて追跡できるよう、上下の角度(チルト)と水平方向の角度(スイベル)を調整するためのモーターが内蔵されている。
ちなみに、gogoのサービスで用いているアンテナは、最終的にはカバー(レドームと呼ばれる)を被せた状態で使われる。しかしながら、500飛行時間ごとにレドームを開けて検査する必要があるという。国際線のパナソニック アビオニクスのアンテナも一定飛行時間ごとに検査を行なう必要があるが、gogoの方がより短い間隔で検査を行なう必要があるという。
取材時、機体上部のアンテナ取り付け位置には、ギターのピックのような形状の枠が作られ、整備済みだった。この部分には機内との接続用に3点のケーブル取り付けコネクタが設けられている。コネクタ部は言ってみれば機体に穴を空けて電気信号路を確保するわけだが、コネクタの周囲は目に見えてしっかり補強されていた。
当然、こうした改修には当局による承認が必要となる。しかし、ボーイング737-800として最初に取り付け作業を行なう段階で図面を提出し、FAA(米連邦航空局)の認可が下りている。2機目以降は、この承認済みの図面に沿って作業を行なうルールとなっている。
取り付け箇所には右舷側に足場、左舷側に高所作業車を配置。両サイドからアンテナを保持して所定の位置へ設置する。取り付け時にはJAL社内における特別な資格を持つ検査員がチェックを実施。検査員は機体とアンテナの間の隙間が仕様通りかどうか丹念にチェックしていた。
この機体とアンテナの隙間については、一定以上が確保されていることが求められるという。というのも、空気の薄い上空を飛行する場合、旅客機は客室内を与圧して一定の空気圧を確保することで、乗客は酸素マスクなどを利用することなく過ごせるようになっている。このとき、飛行機内外の気圧差により機体が若干ながら膨張するため、その状態でも機体とアンテナが干渉しないだけの隙間が必要になるのだ。
一方の機内では、乗客の端末を接続するための無線LANアクセスポイントが設置される。ボーイング737-800の場合は3カ所に設置する。位置は特定の部分に集中することもなく、均等な間隔で設置されている。取材時は2カ所への固定が完了していた。
gogoのサービスで利用している無線LANアクセスポイントは、IEEE 802.11a/b/g/nに対応する「NWAP」という製品。このNWAPから3つの無指向性アンテナを接続している。なお、各無線LANアクセスポイントへの接続可能クライアント台数は公表していないとのことだった。
やや余談になるが、gogoのシステムはオン/オフの切り替えスイッチのみで、オンの状態で一定高度に達したら稼働する、というシンプルな仕組みになっている。一方、国際線で使われるパナソニック アビオニクスのシステムにはWi-Fi機能の制御を行なうコントロールパネルが客室前方または後方に設置されるという。ここにも両システムの違いが見られる。
レドームの固定は約60個のネジを使用
さて、この取材は2日に分けて実施している。先の無線LANアンテナ取り付けから中5日を置いて訪れてみると、機体の周りに張り巡らされていた足場は外され、機内はJAL SKY NEXT仕様のシートが設置済み。C整備の終了が近付いことを感じさせる様子へと変貌していた。
2日目の取材対象はレドームである。衛星通信アンテナを取り付ける部分に被せるカバーのことで、訪れた際にはすでにレドームが取り付けられ、ネジ止めされた状態になっていた。このネジは約60個が使われているという。
そして、この状態で検査員がネジ止めの状況などをつぶさにチェック。問題なしと判断されたら、密閉(シール)作業が行なわれる。
密閉作業は、機体側構造物とレドームの接合部にシーラント剤と呼ばれる樹脂を埋め込む作業となる。まず接合部付近をタオルで拭き上げ、接合部の上下それぞれにマスキングテープを貼り付け。主剤と硬化剤を混ぜ合わせて作られるシーラント剤を、隙間に埋めていく作業となる。このシーラント剤は黒っぽい素材のため、その上から機体の色に近い白色のペイントも行なう。
機体上で作業する整備士は、通常の腰に巻く安全ベルトではなく、いわゆるフルハーネスタイプの安全帯を着用。もう1名のサポートを受け、手際よく作業を進めていた。
以上、取材はここまでとなったが、このあと、ネジの部分にもシーラント剤を埋め込むなどして最後の仕上げが行なわれ、3月12日の羽田(東京)発~松山着(08時30分-10時05分)のJL1461便から旅客運航に復帰した。
また、3月29日の航空ダイヤ改正では、羽田~高知、羽田~帯広、羽田~青森、羽田~釧路といった、ボーイング737-800を利用する便の一部でJAL SKY Wi-Fiサービスの提供が開始される。そうしたサービス開始の裏側には、整備士や検査員による入念な作業がある。